第74話 叩いて確認
イザベラ様達がお土産に持ってきてくれた食材を使って、その日はいつもより豪華な晩御飯となった。
「これからも時々倒れてね」
とハートマーク付きでミイナさんがおねだりするのは如何なものか?
倒れるのはイヤなので、月一回は焼き肉パーティーが開けるぐらいに稼いでくれ、と言っているのだととりあえず解釈しておこう。
その翌日、ハンターギルドを訪ねると商業ギルドに行ってくれと指示があり、昨日の続きの話があるのかなと思いながら行ってみると何故か城壁の確認作業の依頼を押し付けられた。
今までも目視による確認は行っていたのだが、今回は実際に触って叩いて異常がないかを確かめるとのことだ。
城壁の全体を一人で行うのは時間が掛かりすぎて無理だと思ったら、まずは近くに一般市民が居ないような地域を重点的に行うとのことだった。つまり掘っ建て小屋村のある南東地区、スラム街のある南西地区が最初の調査対象地域となる。
さすがに俺達の住む地域を俺が調査しても信憑性に掛けると思ったら、そこは商業ギルドが他の人を雇っていたみたい。
俺の補佐として領主軍から一人若い人が派遣されている。調査中の安全確保と、登ることが出来そうかをどうかを確かめるためらしい。
こんな仕事より短剣術スキルが上達するように訓練して狩りにも行きたいのだけど、岩をコンコン叩いて動かして確認するだけで一日大銀貨一枚が貰えると聞いて飛び付いたのだ。
初日、二日目と特に異常を見つけることはなく。
三日目、今日も大丈夫だよな?と少し作業がお座なりになり掛けた時、地面に不自然に擦った跡を見付けた。その先にある岩を押したり引いたりしてみると、ズズッと壁から取り除くことが出来てしまった。
「あっ……動いちゃった」
「……やられていたか」
意外にも兵士が冷静に呟く。
「予想してたの?」
「まあ、そうだな。夜番が向こうの林の方で灯りが動いていたのを見たと言う報告があってな。城壁の何処かに侵入口があるかも知れないと考えていた訳だ。
隊長を呼んでくるから、お前はここで待っていてくれ」
俺を残して兵士が町の中へと戻っていく。俺の身の安全って守られてないけど大丈夫?
仕方なくシェルド爺さんに貰った短剣で素振りをしながら待つことにした。無心で振るのって何か知らないけど楽しくなってくるもんだ。実は俺も戦闘民族だったのかも。
それから暫くして兵士が連れてきたのはロイガー隊長だ。顔見知りで良かったよ。
隊長が引っ張り出された岩をペチペチ叩いて、城壁に空いた穴を見る。
「使った後にバレないように元通りに戻して置いていたのか」
本来なら動く筈のない一番下にある岩をどうやって動かせるようにしたのかは分からないが、動かせる重さになるよう薄く削って誤魔化してある。
城壁側は石壁だと言っても中身にぎっしりと隙間無く石を詰め込んで出来ている訳ではない。表面は岩で中は砂を詰めて衝撃を吸収するような構造になっている。
ここに秘密の通路を作るには、長い時間を掛けて崩れないよう補強しながら少しずつ穴を開けていったのだろう。
出入りした後に元々使われていた外側の石で穴を塞げば、そこに穴があるとは簡単には発覚しない。
なかなかの手間暇を掛けて工事をしたに違いない。
それともまさか、この城壁を作る段階からこの穴が作られていた……なんてことは無いよね?
「これでスラム街が城壁を通らず出入りするルートの隠れ蓑だと確定した」
「冒険者ギルドの中にも闇ギルドの手の者が潜んで居る可能性が出てきましたね」
「ほぉ?」
俺、何かマズイこと言った? ……あ、闇ギルドのことはクチに出すなって言われてたっけ。
「ちょっと君、詰所まで来てもらおうか」
「隊長はどこの所轄の官憲ですか!」
「バリシア衛兵隊隊長であり、特務に於いては自由に捜査する権限を領主様から頂いておるただの役人だ」
そんなのただの役人な訳がないって!
そのうち任務遂行中には容疑者を殺しても構わないと許しを頂いているって言いそうだし!
「知っているなら今後クチには出さぬことだ。
本来あってはならぬ、空想上の組織だからな。もし関係者の耳に入ればお前は死ぬぞ」
そこまで知ってて潰せていないって、相当闇が深いのか、それともお偉いさんと関わりがあるのか。
本物の主人公ならそんな悪の組織とも対決することになるだろうけど、俺は戦闘になったら後ろから弓しか撃てないポンコツだから後ろから応援するしかない。
下手すりゃ足手まといだし。
これがまだ銃器でもあればもう少し活躍出来そうなんだけど……逆に銃器があると自分の危険度も跳ね上がるのか。
うん、そんな物は無い方が絶対良い!
でも、もっと魔法が使えるようになったら良いのにね。
けど、これでネフとジスがデボラの護衛を途中で投げ出した後に、バリシアに戻ったと言う可能性が出てきたかもな高くな。
「しかし、ロイガー隊長。
俺がこの穴を見付けたってこと、名を出せない組織の人達にバレますよね?」
「バレても別に構わんではないか」
「えっ? 隊長は俺を殺したいの?」
過去に路上生活をしていたからって、町の衛兵さんからそんな白い目で見られてたなんてショックなんだけど。
「詳細はまだ決めていないが、どっち道あの場所は一度は燃やすつもりだからな。
君は他にも穴が無いか、引き続き確認を頼む」
「はいはい、何かあったら守ってくださいよ」
「そこはもう動いているから安心してくれ」
安心しろってことはゲーシルさん達が見回りしてるってことを言ってるんだろう。それならルピナス村の前に派出所みたいに分かるように詰所があっても良いのにね。
「グレトンは工兵に至急修繕要請を出し、この穴を埋めてくれ」
「はっ! 直ちに連絡に行って参ります!」
一緒に来ていた衛兵さんが敬礼をして走って行く。
こう言う遣り取りって、軍隊ぽくて冒険者には無い文化だ。
キチッと出来る人が軍隊に入って、キチッと出来ない人が冒険者になるんだなって改めて思う。
俺はどうかって?
決まってるだろ、極力働かずに生活したいんだよ!
◇
その日の作業が終わり、作業報告の為に商業ギルドに戻るとゴンダンさんと鉢合わせし、そのままズルズルと応接室へ。定年間近のオッサンより美人受付嬢に応接室に連れて行ってもらいたい。
良く分からないけど二人で待っていると、サティアさんがヨボヨボのお爺さんを連れて入ってきた。市場の方に行くと時々見掛かる人だけど名前は知らない。
「こんばんわ? 初めまして」
「おぅ、こんばんわ。顔は合わせたことがあるが挨拶するのは初めてじゃな」
頭にハテナマークを並べていると、
「こちらは商業ギルドのギルドマスターのイモンさんよ」
とサティアさんが教えてくれた。
「セルバン君、お手柄じゃったな」
とイモンさんがニコニコ笑顔で言ってくれるけど、真面目に仕事をしたら誰でも見つけただろうよ。
「俺じゃなくても、夜番の人が灯りを見付けた方がお手柄です」
「お前がそんな殊勝な態度を取るとはな、気持ち悪い」
ゴンダンさんがが茶々いれしてくるので、
「特別なことはしていないし、これで偉そうにしてたら痛い子だよ」
と答えておく。
ホントにやったことは石を一個ずつ押したり引いたりしただけだからね。
「ロイガー衛兵隊長から話があったと思うが、お前に護衛を付けようと――」
「あの、それもうゲーシルさん達かやってくれてるんでしょ」
「それとは別にだ。
村の中で一緒に暮らしながらの護衛を付けようと――」
「それはお断りしますよ」
「思う……はぁっ!? 何故だ? と言うか、以前にも同じような流れがなかったか?」
ゴンダンさんへの対応は基本適当で。
村長とか呼ばれていても、平民未満の子供に護衛を付けてどうするんだよ?
そりゃ村全体を守ってくれるのなら有り難いけどさ。
同じ流れはミイナさんを紹介された時だったかな? まぁそれはどうでもいいゃ。
「俺より護衛されるべき人って、まだたくさんいるでしょ?
貴重な戦力を俺に割くより、ちゃんとした人を守ってあげてよ」
そりゃ護衛を付けてやるって気持ちは嬉しいけど、どう考えても貴族でもない貧乏な子供の護衛っておかしいし。
ある意味、証人保護プログラムを受けるようなものだし。でも闇ギルドから狙われているとしたら、その保護対象になるのは当たり前……か?
いやいや、あれって組織とかの情報を持っている人が裁判まで殺されない為に守るのであって、何も闇ギルドの情報を持っていない俺は単に逆恨みで殺させるだけだよ。
簡単に殺されるつもりはないけどさ。
「だが、お前を守る為の者が既に来ておるのだ。受けてくれんと困るのだ」
「そっちの都合を押し付けんなって!」
「そう言わずに。損はせんから顔見せだけでも……って、ここも前回の展開と同じだろ!」
「なんでゴンタが切れるんだよっ!
腹減ってんのか? それとも低血糖? 飴ちゃん食べる?」
「いらんわっ!」
「知ってるし! 言ってみただけ!」
ゴンダンさんが辛党で甘い物が苦手なことぐらいはリサーチ済みだ。そんな情報は不要なんだけどチビッ子達が仕入れてきたからなぁ。




