第72話 スキルの力
「この世界には何人もの転生者が来ているそうだし、貴方も私もマキナさんもそうよね」
「うん、最初から分かってたと思うけどね」
「子供なんだし、普通ならもっと隠すと思うけど。だから村なんか任されるのよ。中学生に村作りなんて出来るの?」
まさか俺が中学生レベルの知性とディスってる? 感情が体の方に引っ張られて幼い態度になるから、そう思われても仕方ないけどショックだよ。
「私は中二の時にこっちに来たの。しかもダンジョンからのスタートよ」
「それで良く助かったね。エルフのお姉さんとかが助けに来たくれたの?」
「残念、ソロでダンジョン制覇しちゃったの。
着てた銀のダンス衣装に対魔法効果があったみたいで、ダンジョンボスのリッチの魔法攻撃が効かなかったのはラッキーだったわ。
それで拾った杖で頭をボコンと殴って一撃KOしたのよ」
「やっぱり俺より主人公してるよ」
「そうかしら? セルバンだってスローライフを送りたいと言いながら、アレコレやらかす主人公と同じじゃないかしら」
あれ、そうだっけ?
「そう言う無自覚系なところもね。
全く同じ世界から来たのかは知らないけど、元日本人でしょ?
初対面の時に髪の色に感動してたもんね」
しっかりバレテーラですね。
「この世界の人より価値観は近いし、少しは頼りになるところもあるから婚約してあげたけど、二十歳になっても子供っぽかったら婚約覇気するからね」
「……厳しいけど努力します……と言うか、年下は対象外なんでしょ?」
「精神年齢がね。ちゃんとした文化的生活をさせてくれるなら、実質年齢が年下でも妥協するわよ。
洋風の顔が好みじゃないとか言わないから」
俺の方がミイナさんより精神年齢が下? 前世の俺の人生って何なの? 確かに自慢して言えるような生き方はしてこなかったけど。
「運良くルピナス村が領主様の公認になったから良かったけど、違う領主だったら目立つことすると潰されてたかも知れないからね」
「そこは運が良かったとホントに思うね。
あぁ、それとそのうち町の外にも村を作るようになるから」
「えっ? それ、正気なの?」
真顔で驚かれたってことは、イザベラ様はまだミイナさんに教えてなかったんだ。俺がダメになったら、ミイナさんに俺の後を継いでもらうって話にならないのかな?
取り敢えず昨日言われたことを彼女に伝えておく。やっぱりほうれん草はいつでも大事。
「マキナさん絡みでの大工事なのね。
セルバンが村長って領主様も随分思いきったことを考えるけど、反対勢力を炙り出す為の餌にするつもりかもね」
「多分そう。村の護衛をつけてくれると思うけど」
「いつから着工するのかな? 資材やお金、人も必要だからすぐには無理ね」
「意外とテント一つだけ持たされて、すぐ行けって言われるかも」
「そうならないように交渉を頼むわ。
それで、頭はホントに大丈夫? 無理なら無理って言ってよ」
急に優しくするのは反則じゃない?
「多分、ここに送った神様が何かやったんだよ。急にステータスが見れるようになったから」
「ステータス? ゲームみたいなヤツよね? 攻撃力とか守備力とかの」
「俺が見える中にはそれは無いけどジョブとスキルが書いてある。俺はアーチャーで弓術と短剣術がある」
「出し方は?」
「心の中でステータスって念じるだけ」
「そうなんだ、簡単なのね」
ミイナさんが眼を閉じてムムムと唸っているけど、困ったような顔になる。どうやら表示されないみたい。
「ダメね、出てこないわ
そうか、セルバンは神様にお伺いを立てることが出来るから、それで違いが出てきたのかも
「それも有るかも知れないけど、俺は神様の悪口言ったら頭を絞められるからそっちの可能性が高い」
「頭を絞められる? バージョンアップしたら脳に影響が出たパターンね。私じゃなくて良かった」
今日のミイナさんは、昨日までと違って遠慮が無い感じで言ってくる。こっちが素なの?
それとも単に芝居を辞めたと受け取っておくのが正解なのかな?
「神様の影響なら私がどうこう出来ることはないわね。結局昨日は狩りにいけなかったから、今日は狩りに行くわよ。
何かのお肉を食べさせてあげるから」
「無理しないでね。それと他のハンターと冒険者には気を付けて」
「分かってる。私、ソロの方が実は強いから大丈夫」
「ん? 何かスキルが有るの?」
「それはナイショ。セルバンにも教えてあげないわよ。女に秘密は付き物でしょ」
ウィンクを一つ残してミイナさんが家を出ていく。女一人で遠くから旅をしてきたんだから、何か身を守る手段を持っていると思っても良いのかな。ダンジョン制覇した報酬かな?
一人になってから本を読むのに没頭し、読み終わると次は何をしようかと悩んでしまう。
そこにコンコンとドアがノックされてサティアさんが入ってきた。
「意外と元気そうだね」
「うん、心配掛けました」
「イザベラ様が心配してたわね。お見舞い持ってきたけど、元気なら必要ないわね」
「それとこれとは違うって。それで昨日来るように言われてたのは?」
「マキナさんからアイロン関係の振り込みがあったのと、新しい魔道具が出来たから試して欲しいって送って来たの。詳細は知らないわ」
昨日聞いた話からしてきっと魔紋の魔道具だろうね。登録と認証の試験をしないと使えるかどうか分からないし。
「それと、ミイナさんと婚約したんだってね。理由は聞いてるからおめでとうとは言わないけど」
「あはは、なんか変だけど仕方ないよ。二十歳過ぎて俺が子供っぽくなかったら結婚してくれるって」
「それは……なかなか厳しい条件を出して来たわね。私が10歳若かったら結婚してあげるのにね、残念よ」
「縁が無かったと諦めてね」
「えーっ! そこは愛に年の差は関係ないって言うところでしょ」
「俺にそう言う機能は搭載されてないからゴメンね」
「なんかムカつくんですけど」
それから琵琶の葉茶を飲んでサティアさんが帰ると、入れ替わりになるようにハンターギルドからお使いが来たりして午前が過ぎる。
お昼ご飯の支度をしようと共同調理場に行くと、先に今日のお昼当番の子供が包丁で野菜を切っていた。村の食事では野菜の皮は剥かないことにしているし、生野菜のサラダは出さない。野菜の栄養は捨てないようにスープやシチューで丸ごといただくのだ。
「痛っ!」
目の前を飛んだ虫に気を取られて手元が狂ったようだ。
包丁で切った指を咥えているが、唾液には殺菌作用のある菌とばい菌が同居しているらしいので本当は良くない行為だ。
「魔法で治すから指を出して」
「うん」
軽く水ですすいだ指に手を当てて、いつも訓練しているように手に魔力を集めようと腹式呼吸で深く息を吸い込む。ここから五分程集中しなきゃ発動しないのだが、絆創膏が無いのだからこれで我慢してもらうしかない。
と、思ったら一回の呼吸で『応急措置』が発動した。
「あれ?」
「わぁっ! 凄い早い! もう治ったの、ありがとー。これでまたケガ出来るっ!」
「そうじゃなくて、もうケガしないように気を付けようね」
ほぼ一瞬で切り傷が治ってしまったことに違和感を持つ。これじゃまるでゲームじゃないか。
昨日起きた異常って、俺の体がゲームキャラに化けたんじゃない? それでステータス画面で確認出来るスキルは自由に使えるようになったのかも。それならお昼ご飯の後に弓術を試してみようか。
そう言うことで、いつもの水路での水鳥を狩ってみることにした。今日は鴨が浮かんでいるからちょうど良い。弓を構えて狙いを付ける。心なしか普段よりスムーズな気がするが、これで外せば気のせいってことになる。
ゆっくりと進む鴨が水の中に頭を突っ込んだ瞬間を狙って放った矢は見事に首に突き刺さった。
次は飛び立つところを狙ってみよう。わざと声をあげて驚かせ、慌てて飛び立つ鴨に向けて放った矢は首から逸れて羽に命中、二の矢で仕留めた。
以前より明らかにグルーピングが良くなっているので、スキルがちゃんと仕事をしていると考えて良いだろう。
でもどうせなら必殺技的な物があると嬉しい。単に矢を射てますってだけだから猟師と同じだよ。
それなら猟師らしく鴨を売る為に血抜きして解体する。転生する前の俺なら絶体こんな作業はしたくないと思っただろうけど今は贅沢言っていられないからね。
解体したら冷却の指令魔石付きの箱に入れる。鮮度が保たれるから買取価格が一割上昇するんだ。
冷蔵庫はマキナさんが販売しているけど、とても俺が買える値段じゃないから、クーラーボックスみたいな物を作ってみた。魔力供給用の魔石が魔力切れになるまで結構冷やしてくれる。
温度計が無いので何度か分からないけど、直接指令を弄ることで冷却能力を調整出来る。
水を氷らせるまでは冷えないが、これは木箱が断熱仕様でないからだと思う。
キャリーカートに木箱を移し替えて顔馴染みのお肉屋さんに売りに行く。
「おっ? 昨日倒れたって聞いたが嘘だったのか?」
「いや、今朝まで商業ギルドで寝てて、朝御飯前に村に戻った。それでお昼を食べてからも調子が良かったから鴨を射ってきたんだ」
「そうなのか。大したことがなくて良かったな。
おっ、この肉はお前が解体したのか? いつもより上手いじゃないか。今日の獲物でこれだけ出来てるなら銀貨一枚オマケして、一羽につき銀貨六枚半で買い取ってやるぞ」
「やったね! 解体包丁を鍛冶見習いの子が作ってくれたから上手に捌けたのかも」
よしよし、解体のスキルもちゃんと仕事をしてくれたみたいだな。これで後はスキルを使えば自動で解体出来るようになったら一番助かるけど、それだと人間辞めてるってことになるから無理なんだろうね。




