第69話 村の名前
「セルバンは婚約の話、どう思う?」
突然イザベラ様から俺とも婚約(擬装婚約?)の話を聞かされ、ミイナさんが少し混乱しているみたい。
「下手に誰かに付きまとわれるのを防止するって意味ではアリだと思うよ。領主様が認めた何とか地区の代表に手を出す馬鹿はそうそう居ないかもだけど」
「孤児の為の自立支援地区じゃ。呼ぶのが面倒なので先に名前を決めてもらえんかの」
「名前って、前に掘っ立て小屋村って呼んでたみたいな感じ?の それともバリシアとかレンスローみたいな地区の名前?」
「掘っ立て小屋村はさすがになかろうて。
案が無いのならセルバン村でも構わぬ」
「それは恥ずかしすぎる。他にこう言う特殊な地区はあるの?」
「あったのは開拓したばかりの地域を発展特区として数年間無税にしたことぐらいじゃろうな」
税金ね……はははっ、全然払ってないし。そう言う意味だと確かにうちは特区だね。特区って経済、教育、医療、産業、地域活性化などを振興させてる地域が指定されるイメージだし。でも村の名前ね……俺にネーミングセンスを求めるなって。
何とか支援センターって、太陽とかひまわりとか笑顔に関する単語を使うイメージ。やれば出来るって意味合いで良い言葉は思い付かないな。
「タンポポとかマーガレットとか村にも咲いてる花にしてみる?」
と、取り敢えず無難な花シリーズでお伺いを立ててみる。
「花なら花言葉も考えた方が良いよね、それなら……エレムレス、ブローディア、ルピナスとかどう?」
「花に言葉があるのは初耳じゃな。セルバンのは全然イケておらんが、ミイナのはどれも良いのぉ。
最後のルピナスが呼びやすくて良いと思うぞ」
「私もそれが良いと思います!
今日から掘っ立て小屋村改め、ルピナス村にしますっ!」
ミイナさんとイザベラ様が手を取り合って喜んでるけど、ルピナスって何? そんな花、村に生えてるの?
エレ何とかとブロ何とかも知らないけど。どうせ俺なんか密が採れるか食べられる実の出来る植物しか覚えてねぇし。
「よしよし、ルピナス村で領主様に連絡しとくぞ。
その勢いでついでに婚約もしとくかの?」
「えっ? それは……」
「取り敢えずしたことにして、三年後ぐらいに良く考えてみると良いんじゃよ。その頃にはルピナス村も正式に町の一部に認められておるか、町の外に新たな村を作っておるかも知れんよのぉ」
正式に町の一部になるってことは、戸籍がある町の住民と同じ一般市民扱いになるってことだ。そうなれば差別されることもなくなり、安心して暮らせるようになる。その分税金を納める必要があるけど、それは領主様に守ってもらうのだから仕方がない必要経費だ。
でも新たに孤児になった子供はどうする? 孤児院行きか? その頃には孤児院も改善されているかも知れないか。
新たな村を作るって言うのは、ルピナス村から俺達が出ていって言葉通り村を作るってことだ。そこでずっとスローライフを送るってのも悪くない。
村を作るのは大変そうだけど、大して戦闘力の無い俺には魔物を相手に戦うよりそっちの方が良いかも知れない。
それに町の中にルピナス村が残るなら、それからも孤児の受け入れ先として機能するから村を作ることを目標にしようか。
もしミイナさんと袂を分かつことになっても、ミイナさんにルピナス村の代表になってもらえば良い話だ。
「納得は仕切れていないけど分かりました、セルバンと擬装婚約します」
少しブスッとした感じでミイナさんがそう言うと、
「まだ13歳の子供に男の魅力が無いのは当たり前じゃ。
私の目が黒いうちに良い男になったと思えるよう、これからも励むが良いぞ」
とイザベラ様が腕を伸ばして俺の頭を撫でる。これって子供扱いされてねぇ?
「私に愛想を尽かされんように頑張ってよね、旦那様。こんなにキュートな彼女が婚約者なんだから」
「うん、ミイナさんは俺の中で一発合格だったしね」
「あぁ……初対面でいきなり採用って言われたわね」
「カミキリ虫が怖くて逃げてたんだよね、あの時は本当にショックだったんだから」
冒険者ギルドで初めてミイナさんと会った時のことを思い出した。思わず涙が出て恥ずかしかったよ。
「なんじゃい、イチャイチャするなら余所でやっておくれ」
「あ、すみません」
精神年齢アラサーの俺が本気で高校生の年代の女の子に恋愛感情を持つのは少々問題だけど、高校生が中学生に恋愛感情を持つことも多分問題だよね?
それを考えれば俺も二十歳を過ぎないと本気で結婚を考えることはないと思う。二十歳を過ぎると行き送れと言われる世界だけど、それはこっちの世界の人間基準だから俺達には適用されない筈!
「他に何か言っておくことは無いかの?」
「ここに来る前に俺とミイナさんはハンターギルドに登録しました。
ミイナさんは基本的に暫くハンターに専念して、俺は商業ギルドにも登録するつもりです」
「そうかい、セルバンは予想通りじゃな。カードも用意が出来ておるぞ、ほれ、これじゃ」
イザベラ様が腰のポケットから取り出した鉄のカードをテーブルにそっと乗せる。
「今までの実績を考慮すると銀級でも良さそうじゃが、見習い登録で銀のカードを渡す訳にもいかんからの。
それにお主ならすぐ昇給するのが分かっておる。シェルド家と同じ白金級を目指して精進せよ。
もっともお主は自分が欲しいと思ったものを作れば自然とそうなるかも知れんがの」
その言い様は、イザベラ様も俺が純粋なこの世界生まれの人間じゃないと確信してるみたいだね。まぁ、今更否定するのもおかしな話だから敢えてそこには触れないでおこう。
「あぁ、それとミイナ、バリシアでもチン・ドンヤーのメンバーを増やす予定なので指導の依頼が出る。
楽器も曲も振り付けもレパートリーを増やすので、トータルプロポーズを頼むからの」
「プロポーズじゃなくてプロデュースね」
「既にやりたいと言う者が何人も出てきておるから、帰りにサティアに確認してくれんか」
「そうなんですか?
やるなら村の子供達と一緒にと思ってたんですけど」
「ハンターとチン・ドンヤー、二足のブーツを履くのかい?
ハンターは危険な仕事じゃろうが。何時も五体満足で戻ってこれるとは思っておらん。後進を育てるのは先達の役目じゃよ、今はお主しか居らぬからの」
「分かりました」
なるほど、責任感の強いミイナさんだから仕事を押し付けておけば狩りに出ても無理はしないだろうって計算してるんだ。だてに歳を食ってないってか。
「さてと、セルバンとはもう少し話がある。ミイナはすまんがサティアの所に行ってくれんか」
「はい、そうします。では失礼します」
ペコリとお辞儀をしてミイナさんが部屋を出ていく。
それを見送ってからも暫く黙っていたイザベラ様が、
「刺青の件じゃが。お主、どこまで聞かさせれおる?」
と真剣な表情で聞いてくる。
ロイガー衛兵隊長が教えてくれたこと、後はレンスローからファルドさんが戻ってきたことからの推察をイザベラ様に話す。
「偽の刺青があることが判明した以上、今後はギルド登録の際に刺青をいれることはしなくなる。
運が良いことに、王都の魔道具研究所で人によって異なる魔紋と言うのが見つかったらしくての」
「魔紋ですか? まさか魔力って指紋みたいな感じなのか」
「指紋とな? コイツは歳を取ったら薄くなるからいかんわい……誰が年寄りじゃっ!」
ナイス、セルフツッコミです。
「でな、一応魔紋を利用した個人識別の魔道具も作られたそうなんじゃが、事前に魔道具に氏名や魔紋を登録しておかねばならんそうじゃ、それも魔道具の一台一台にのぉ」
「えーとぉ、個人識別するのに一台一台って、今の技術だと当然そうなるでしょ。魔紋データを納めた専用機がある訳じゃないんだから」
「意味は良く分からんが、お主は良く勉強しておるの」
「わざわざマキナさんがテキストを送ってくれたもんね。ちゃんと読み込んだよ。
魔紋での個人識別、今だと限られた少人数しか出入りしない場所にしか使えないね」
「その通りじゃな。それで王都とバリシアの地下に魔導銀製の通信ケーブルを敷く計画があるそうなんじゃ」
田舎に光ケーブルを引く工事みたいなものか。王宮も随分と思い切った決断に出たな。道路工事も必要だし、とんでもない費用が掛かると思うよ。
「バリシアで登録して、王都でちゃんと識別出来るか実験するんだね。でもケーブルの維持管理が大変そう。宿場町が無い場所なんかはどうするんだろ?」
「ほぉ、お主はさすがじゃな。まさにそこよ。
それがさっき言った町の外の新たな村と言うことよ」
「施設の管理を請け負う村を俺に任せるって?
それはちょっと責任が大きくない?」
「管理と言うても登り線、下り線とも半日ぐらいの距離を異常が無いか見て歩くだけじゃろ? 魔導銀のケーブルなぞ壊れるもんでもあるまい」
「切って盗む奴が居るかもよ。結構な高級品だし」
「高級品ゆえ転売は難しかろう? しかも必要とする者は限られる。不自然な流れがあれば調べれば分かるじゃろうて」
そんなものなのかな? 良く分からないけど話を合わせておくか。
「管理はそう難しくないとしても、俺より村長に、適した人は居るでしょ?
俺みたいなストリートチルドレンが本物の村の長になったら、反感持つ人がまた沸いてくるよ」
「そんな奴は叩き潰すが良い。対人戦の実地訓練に丁度良い、とバリシア領主殿が言うておるそうじゃ」
「俺って釣り餌扱いだよね?」
「生き餌なら逆に敵に噛みつくことも出来るじゃろ。飲み込まれてからの内部破壊も面白いのぉ」
「小説じゃないんだから、そんなのやらないし」
イザベラ様が冗談を言うとは思わなかったけど、俺が本当の村長になるかも知れないのか。期待値大き過ぎて潰れそうな予感がするよ。




