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第68話 イザベラ様からのお話

 久し振りに体を思いっきり動かした爽快感を感じながら、井戸から汲んだ水でバシャッと汗を流す。勿論ミイナさんはここには居なくて、隣に居るのは一緒に訓練した三人だよ。女性用にもう一つ井戸があるなんてサービス凄いな。読者へのサービス精神は無いんだろうけど。 


「セルバンってチビなのに強いな」

「チビ言うな。訓練期間はお前らより長いんだから強くて当然だろ」


 確かに4人の中じゃ一番背は低いよ。それでも人はそれを伸び代って言うのだょ。


「ミイナちゃん、可愛いよな」

「嫁にはやらん! それに脈絡無く言うな」

「セルバンの嫁でもないんだし、言うぐらい良いだろ」

「将来的には俺の嫁になるかも知れないし。

 つか、お前ら宿暮らしなんだから、さっさと仕事行けよ。モタモタしてると宿代も稼げないぞ」


 一応聞いた三人の名前はジーム、ガイン、カフ。多分すぐ忘れると思うけどね。

 ジームがミイナさんを気に入ってるようだけど、モブみたいなコイツらに大事なミイナさんを渡す訳にはいかないって。ミイナさんが居なくなったら誰が川魚の干物を作ってくれるんだよ? それは冗談だけど、他にもミイナさんには色々村のことを任せてるからね。

 でもチン・ドンヤーで目立ったから付き合いたいって人は多いと思う。


「そうだな、ガイン、カフ、行くぞ」

「しゃあねぇ、行くか」

「明日は俺が勝つからな、逃げずに来いよ」

「へいへい、筋肉痛になってなかったらね」


 ズボンだけ履いて上着を肩に掛けた三人がギルドへ向かう。四人でこの場所を使うのは狭かったんだよね。

 体を拭いて着てきた服に着替えて水浴び場を出る。

ミイナさんが出てくるのを待っていると、2分程遅れて出てきた。


「お待たせ」

「あ、ジームがミイナさんを可愛いって。気を付けてね」

「……そうなるのね、困ったわ」


 元々男性冒険者とは距離を置いて活動しようとした結果、俺とパーティーを組むことになったんだけどそのことを知ってるのはごく一部の人間だけだからね。

 下手なチョッカイを出されないようにする為に貴族だと婚約者を作るのだけど、俺もミイナさんも平民だし婚約者なんて……ねぇ。

 誰か強くて信頼出来る人がミイナさんの護衛についてくれてたら良いけど、強くなりたくてここに来たのに、誰か強い人に守ってもらおうと考えるのは何かおかしい気がする。折角異世界に来たのに全然強くない俺達って一体何なんだろう。実は異世界に来ても強くなれる人の方が圧倒的に少なくて、俺達みたいな方が普通だったりするのかな?


 ミイナはミイナで自分が所有しているマジックバッグのことはセルバンにも明かすつもりは無い。

 ダンジョン産アイテムが豊富なスモルシュ王国ではマジックバッグの存在が知られているのだが、他国の者への販売は禁止されている。

 そのバッグはギルド職員のペストラが裏から手を回して入手したことは知らされておらず、店で販売されていた品では当時のミイナの資産でも購入不可能な金額だと言うことも当然知らない。金額は知らなくとも、マジックバッグを所有していることは絶体に人には知られてはいけない秘密だからと念を押されたので忠実に守っている。


 そのバッグの中には敵対者を知らせるレーダーがあり、これは人にも魔物にも対応している。一人で行動するならこのレーダーが使えるので逆に安全なのだが、こちらも存在を教える訳にはいかないのだから困ったものだ。

 しかし、一番世話になっているシェルド爺さんにこれを渡して、護衛を勤めるマリーさんを自分に付けてもらえないか交渉してみるのも一つの手かも知れないと次第に考えるようになっていた。

 強盗や盗賊に襲われて殺されてしまうのならともかく、この世界では好きでもない男性に無理矢理犯されてしまう可能性が日本より高い。

 だが、このレーダーもマジックバッグ同様存在を誰かに喋ることはしない方が良いに決まっている。そんな秘密があるミイナは、セルバンには申し訳ないと思いつつこれからどうしようかと本気で悩んでいるのだ。


「ミイナ、今日はこの後どうする?」

「そうね……最近あまり働いてなかったから害獣駆除でもして稼ごうかと思うわ。セルバンは?」

「俺は商業ギルドに行って登録しようと思う。ハンターギルドに登録したことも伝えとかなきゃだし」

「あっ、それもそうね。私もついてくわ」

「うん、じゃあ行こか」


 ギルドのロビーに戻るとゴンダンさんがこれから依頼を受けないかと声を掛けてきたので、予定を教えて丁寧にお断り。


「お前ら二人は向こうでも役に立つらしいからな」

「そうですね、うちのギルドマスターより有能ですから」


 受付嬢のスヒィーロさんがすかさずチクリ。さすがにこれはゴンタさんが可哀想に思えるよ。

 可哀想そうなギルドマスターは放置してさっとハンターギルドを後にする。

 魔物を狩りに行くなら、弓だけでなくミイナさんの短剣と防具を買わなきゃいけない。それぐらいのお金はチン・ドンヤーをやった後で貰っているから、身支度を整えてから商業ギルドに行っても良い、と思ったのだがハンターギルドの二軒隣がにさ商業ギルドなので後から買いに行くことにした。


「こんにちわ~」

と商業ギルドに入ってすぐの受付に居る受付嬢に挨拶をする。冒険者ギルドみたいに銀行みたいな作りでは無く、この総合受付で用向きを伝えて行き先を確認するのがここのやり方だ。

 受付嬢は二人座っていて、何人かでローテーションしているのは知っているけど名前は覚えていない。皆が美人なんだけど好みと違うからね。


 でも向こうは俺のことを覚えているので、

「セルバン君、サティアさんとイザベラ様から部屋に来るようにと指示が出ております」

とすっと教えてくれる。


 サティアさんはともかく、サブマスターであるイザベラ様が呼んでいるとなると悪いことはしていないとしてもドキッとする。


「先にイザベラ様の方に行った方が良いかな」

「確認するので暫くお待ちください」


 電話も無線も無いので、直接部屋に行って確認しなきゃいけないのが少々不便だね。ケンタローのリモコンがあるから無線の技術はあるけど通話機能はまだ実現出来ていないのだろう。

 それなら偉い人の部屋用に、少々見た目がアレだけど船や潜水艦にある伝声管でも付けとけば良いのにね。


 それから暫くして戻って来た受付嬢に二人ともサブマスターの部屋に案内すると言われ、とことこと後ろを着いていく。さすが商業ギルドの最上階、廊下には派手さはないがブラウンのフカフカのカーペットが敷かれている。


 さりげなく飾ってある風絵画はどこかの丘から町を見下ろした景色で、絵には詳しくない俺でも素直に上手だと称賛出来る逸品だ。作者を見るとイザベラ・パシェットと読めたが、今から会うイザベラ様が描かれたものかな?

 もし絵の話を振られても困るので、気が付かなかったことにしよう。


「サブマスター、お二人を案内しました」

「入ってちょうだい」


 村に来てくれた時のように気さくな感じで返事が来る。俺が何かやらかした訳じゃなさそうだ。

 受付嬢が恭しくドアを開けてくれたのでドキドキしながら部屋に入る。


「来てもらったのはな、ミイナのことでじゃな」

「私ですか? 何かやったかしら?」

「何もやっておらんよ。まぁ座れ」


 言われるままに豪華なソファに腰を掛ける。ミイナさんが不安そうに俺を見るけど、彼女は悪いことなんてやってないのだから大丈夫だよと声を掛ける。


「ハンターギルドの宣伝でやったチン・ドンヤーのオファーが来ておって、それで相談しようと思ってな」

「あぁ、娘の結婚式のパレードで使いたいって言われたの、ホントにやるんだね」

「来月に一件、再来月にも一件予約が来ておるよ。

 こんなのはすぐに真似されてもっと派手になってくもんだ、この二回でミイナの出番は終わりになるじゃろ」

「場所は何処です?」

「隣のレンスロー領と少し遠いがデバレス領。王都からも来ておったが、問い合わせをしたら王宮から却下を食らってしもうたわ」

「町レベルならともかく、王のお膝元で王族以外のパレードはダメでしょ」

「それが分からん馬鹿がおると言うことじゃ」


 王都には行きたくなかったから二件で済んで良かったかも。でも結構美味しい稼ぎになるから、もう少しやって貰いたい気もする。


「でも私は冒険者一本で行くつもりですが」

「意地では食っていけん。それにたったの実働二時間で金貨三枚払うというのじゃぞ」

「やらせていただきます!」


 ミイナさんも手のひら返すの早っ!


「それと、行った先でギルドにノウハウを指導すればそっちでも儲けられるしの。これに関してはそう悪い話じゃなかろう」

「指導ですか……楽器を演奏しながら愛想を振り撒くだけですけど」

「ミイナがここでやったことをそのまま伝えてやるだけでも価値はある。それに思いついてもやらなかった案もあるじゃろ? そう言うのもやらせてみる機会になる」


 なるほど、サンドウィッチマンを連れて歩くのも宣伝になるし。着ぐるみも出来れば最高だね。


「で、これに関しては、と言うことは他にも何かあります?」

「まぁの、チン・ドンヤーのせいとは言わぬが、養子にしたいとか嫁に迎えたいとか騒いどる男がおってな」

「あぁ、やっぱりそっちね。困るわねぇ」

「さっきハンターギルドでも言われたばっかりだしね。モテるとは思ってたけど」

「そうじゃろ。見た目も良いし知恵もある。セルバンと違ってまだ後ろ楯もないからのぉ」


 出来ればミイナさんにはまだ村で暮らしていて欲しいんだけど、もうすぐ17歳だから結婚適齢期に入るんだよね。


「でもまだ結婚とか考えてないし、養子にと言われても知らない家に行くのもイヤです」

「そうじゃろな。

 そこでな、嘘でも良いからセルバンと婚約しておくことを勧める訳じゃ。それなら断る理由にもなろう」

「えっ? 年下はちょっと……」

「本当にイヤなら後で破棄すれば良かろうて。それにセルバンなら何年かしたら大物になっとるじゃろう」


 虫除けの為に擬装婚約ですか……この世界の平民は結婚とか婚約がキッチリしたものではないから、効果があるかどうかは微妙かも。貴族だと婚約にも大きな意味があるから虫除けに最適かも知れない。


「それでな、セルバンの村は本来法的には認められていないところを、バリシア領主が孤児の為の自立支援地区として保護をすることに決定したので、呼称を決めるようにと頼まれておる。

 そこを何年かセルバンとミイナの二人が代表として管理してもらう訳じゃが、男女ペアじゃと夫婦か恋人に見られるのでな、そう言う面でも婚約してもらった方が何かと面倒が無いんじゃよ」


 それで代表から抜ける時に婚約を破棄しろ、結婚するならそれでも構わないってスタンスか。

 領主様が村の存続を保証してくれるのはとてもありがたいんだけど。

 

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