第67話 厳しい訓練
ハンターギルドに登録に来た俺とミイナさんは、ゴンダンさんと話した後に訓練場へ移動した。
教官は俺も知っている人で金級のファルドさん。冒険者のパーティーからは外れて、バリシアのお隣のレンスローの町である団体の護衛として雇われてた。それがタトゥーを入れる彫り師を束ねる団体だった訳。
こうしてハンターギルドで働いているってことは、悪いことには関与していないってお墨付きが貰えている証明になるから安心して任せられる。
そのファルドさんがミイナさんの動きを確かめ終えると、
「そっちの4人はローテーションしながら暫く軽く模擬戦をやってろ。
特にセルバンは真面目にやれよ、お前はすぐ手を抜くからな。
ミーナ嬢は木剣を持つ前に柔軟体操だな。練習着が用意してあるから着替えて来い」
と、ギルドとは反対側にあるドアを指差す。
「じゃあ俺も」
「セルバンはその服で構わんだろ。それとも着替えを覗きに行きたいのか?」
「そんなことしないよ!」
「そうか? ゲーシルからセルバンはエロガキだって聞いてるぞ」
ミイナさんが俺を見る……その視線が少し不安げだな。
「それ、名誉毀損で訴える案件だよ。俺は普通だし、覗きなんてしないし」
「そうか? なら仕方ない、お前も着替えてこい。ロッカールームに洗濯してある服が畳んであるから」
これも冒険者ギルドでは無かったサービスだね。
剣の訓練をすると大きく動くし、それに転ぶからどうしても服が傷むんだよね。
ロッカールームはちゃんと男女で別れていて、中は運動部の部室みたいな感じだった。ファルドさんが言うように、木箱に綺麗な練習着が畳んで何セットか入っているので、身長に合いそうなのを選ぶ。
上着は少し厚目の生地の長袖、ズボンは膝丈のハーフパンツ。生地が化繊で紐じゃなくてゴムを使ってたら学校で着てるのとそう変わらない。女子もハーフパンツかな? ひと昔前に使用されていたブルマだと賛否両論ありそうなんだが。転生者か転移者かが好き者だったら作ってるかも。
先に着替えてミイナさんを待つ。少し遅れて出てきたミイナさんは俺と同じハーフパンツ姿だった。ちょうちんブルマじゃなくて逆に良かったかも。
しかし陸上の女子アスリートがよく履いてるへそ出しセパレートユニフォームの方がブルマより際どい気がするのだが。アスリートって良く分からないね。
「ひょっとして何か期待してた?」
とミイナさんが軽くジャブを撃ってくるが、
「練習着に男女の区別は無いと思ってたから」
と無難に回避。ギルドだってそれぐらい考えてるよね?
「さっ、訓練するわよ」
「うん、強くなろうね」
ミイナさんは超初心者なのでファルドさんがつきっきりになり、先客の三人と俺は相手を変えながら実践形式で打ち合った。
途中からはもう一人の教官のベルガさんって人が出てきて俺達の方をちゃんと見てくれた。冒険者ギルドの訓練は素振りしてから適当に打ち合って終わりだったから、ここでなら強くなれそうな気がしてきた。気のせいかも知れないけど。
一緒に訓練している三人だが、村から出てきたばかりの16、7歳ぐらいの初心者なので、多少は訓練の経験値がある俺より弱かった。
俺よりミイナさんの方が気になって集中出来てなかっただけかも知れないけど。そのせいで俺はベルガさんの相手をすることになり、いいようにボコボコにされてしまった……。
「ちょ、立てよ」
「いてててて……ちょ、待ってよ!」
「待たねえよ、次にゴブリジェネラルに会った時、お前なら倒せるように鍛えてやるから安心して死ね」
そのセリフ、教官としてどうなんだ……?
◇
「今日から剣の訓練を始めるのか。
確かアーチャーだと短剣術はジョブ関連スキルから外れているんだよな?」
「あ、そうです。ファルドとベルガに教えてもらうなら、早い段階でスキルが生えるかも知れませんね。
森でゲーシルに教えてもらったことを毎日真面目に続けていればもうスキルが生えてたかも知れないですけど」
「セルバンはそう言うキャラじゃないからな。戦闘には興味があるが自分が戦うことは避けたい典型的な日本人タイプだ、タチが悪い」
「それは次長が真面目にキャラメイクしなかったからですよ。楽しむならきちんと作り込んで送らないとダメです」
「そう言うお前のキャラは何人目だ?」
「えーと……今のが六人目ですね。ハンターギルドに所属しているので、セルバンと絡むことがあるかも知れませんよ」
「ソイツのアルゴリズムはどんな感じだ?
「今回はまともなキャラですよ。英雄を夢見る熱血少年ですね、今も依頼を受けてオーク狩りに出てますよ。
オークを相手にするにはまだ早いんですけど、幼馴染みパーティー組んでるので何とかなるでしょ」
それだと全滅する未来しか見えんな、と言うか言わないかと迷うジロー神であった。
◇ (55話の続き)
「こんな簡単に見つかるとは、私らもまだまだ未熟だったわね」
「ブラハム親衛隊長、ようこそ!」
王都警備隊を訪れたブラハムは、セルバンの警護のために警備隊から借りることとなったメンバーを探しだし……文字通り探し出した。
警備隊には警備対象に応じて男性女性、年齢もまだ十代前半から五十代までの特種隊員が在籍しており、ブラハムに貸し出される隊員は十代前半の女性隊員五名である。
ブラハムが訪れた時、彼女達はギリースーツを着用したガチかくれんぼの最中だったが、親衛隊長は隠れている者を探す魔法を使用してあっさり五人を見つけ出したのだ。
実のところ彼女達を指導しているオールウェン小隊長も本気で隠れた五名を探すのは一苦労であり、さすが親衛隊長は一味違うと驚いていたのだが顔には出さない。何故なら王都警備隊総隊長からの指令書に目を移したからだ。
目的の五名が見付かったので、ブラハムをここまで案内してきたタヒーナ秘書は軽く挨拶をして場を去っていく。
「この五名をバリシアに派遣ですか……」
突然このような命令を受けたオールウェンは、折角ここまで育てた生徒達を手放して新しい訓練生を探す必要があるのかとガッカリしたが、王命にも総隊長にも背く訳にはいかないので即座に諦める。
ブラハムの前に総隊長から指名された五名が並ぶ。何事かと緊張していたが、何かやらかした訳ではなく命令を受けるだけだと分かると、あからさまにホッとした表情を浮かべる。
「それでは要人警護任務命令を拝命いたしました。
特殊作戦班第四小隊『ラッシュメイデン』、エイビィ・ドーリア及び隊員四名、計五名を本日から訓練を中止し護衛任務に移行いたします」
「うむ、急に押し掛けてすまなかったな。
ドーリア君、詳細は総隊長から直接聞いてくれくれたまえ。私には君達への命令権がないのでな」
「はっ! ではそのように」
ブラハムは右手を斜めにしてこめかみに手を当てる敬礼をして足早に去っていく五名を見送ると、
「本当に子供だな」
と呟いた。
「えぇ、護衛対象がお子様の場合、大人がずっと側に居るのを嫌がることがありますから」
「なるほど。それは育てるのが大変そうだ」
「はい、まだ幼いうちから育てるので若年組を引き抜かれるのが一番困るんで……あっ……」
うっかり本音を漏らしてオールウェンは大いに焦るが、そう言う苦労に年齢は関係ないと考えているブラハムには一番困るの意味が分からない。
子育ては基本的に妻・メイド・乳母に任せているのだから、子供の相手がどれ程苦労するのか理解出来ていないのだから仕方がない。それに貴族の子供達は父親の前では良い子で居ようと本性を隠すのだから、彼は父親の苦労などしたことはない。
「隊長殿、今回の警備対象について伺っても?」
「構わんが対象は少々特種でな。儂も直接会ったことは無いので詳しいことは知らぬが――」
短期の警護であれば何とかやりくり出来るのだが、数年に渡る護衛任務となると戻って来ない可能性もある。要人警護は決して生易しい業務ではないのだ。
それを考えると若い命を差し出すことに少しばかり逡巡するオールウェンだが、生き残るために厳しい訓練を受けさせてきたのだからきっと戻って来てくれるだろうと信じることにしたのだった。




