第66話 訓練開始
「俺、やっぱり……」
「事務職よね?」
俺の心配してくれるのは嬉しいんだよね。でも、良くしてくれた人達も居るからさ。
「ううん、冒険者しながら商業ギルドにも登録するよ」
「はい?」
「お前なぁ……」
ミイナさんもゴンダンさんも呆れたような顔をする。当然だろうね。
「別に一つのギルドにしか登録出来ない訳じゃないでしょ。それなら両方やれば済む話だよ。シフトは考えなきゃいけないけど」
「シフト……ね」
「お前、優柔不断で自分勝手過ぎるじゃねえか。誰がお前の勤務を考えると思ってんだ?」
「そう言われりゃそうだけどさ、俺、まだ正式な職員に採用される年齢じゃない13歳」
ゴンダンさんとミイナさんがハッと思い出したような顔をした。
「あっ……そうだった……わね」
「くそっ! 妙に大人ぶってるから忘れとった……正式採用が出来んとは……不覚」
あの、何もそこまで落ち込む必要は無いでしょ?
俺なんてハンターとしての戦力は大したことないんだからさ。それともゴンダンさんは俺をギルド職員に考えてたのか? それはハンターとしての活動を終えてから考えたい。
ゴンダンさんが俺を誘うのは、多分俺の名前を借りたい何か理由があるんだろうね。そんな大人の事情に付き合う義理は無いって。暫くはやりたいようにやらせてもらう。とりあえず、簡単な狩りや仕事から始めて行こう。
「商業ギルドと冒険者ギルドで短期バイトを受けながら訓練するから、その方向でヨロシク!
ミイナさんも暫くは戦闘訓練メインにした方が安心だし。確かギルドカードを持ってれば訓練は無料で受けられるし」
見習い相手の訓練の真似事ではなく、ちゃんとした指導を冒険者ギルドのカードを持たない者が受けるとレッスン料が必要だ。
だが、今の俺にはハンターギルドのギルドカードがある。生き残る確率を上げるための訓練だから、冒険者ギルドもハンターギルドも訓練は無料。
実は冒険者ギルドではバウンサーの仕事内容に指導も含まれているのだが、真面目に受けている人を見たことが無いので完全に忘れてたのだ。
「ハンターギルドは戦力向上の為に訓練もきちんとやってくれるそうだし、良かった良かった」
「つうかょ、お前ら弓しか使わねぇだろ?」
「短剣はそこそこ使えるようになっておきたいし。その方が安全でしょ」
「確かに。私も短剣かナイフを覚えるつもりだし。セルバンは弓じゃなくてクロスボウメインだったよね」
「分かった、好きにしろ。
講師にはキッチリと教え込むように言っといてやる。セルバンには遠慮も手加減もしないように念入りに教えるようにな」
「……望むところだぉ……俺、訓練で死ぬかも」
そうと決まれば、訓練と仕事の予定を早く決めないとギルドの職員さん達に迷惑が掛かる。商業ギルドが距離でもすぐ近くで良かったよ。
「セルバンは大体分かっているが、ミイナはどれだけ動けるか確かめる必要があるな。
この建物の裏に訓練場があるから、そこで見てもらえ。一階の左奥の通路を出たところでカードを見せたら、教官の方で上手くやって貰える」
冒険者ギルドにはまともな教官は居なかったけど、ハンターギルドは誰か雇ったのかな。それともお休みのハンターの誰かが持ち回りでやるのかな?
「分かりました。セルバンも行くよね?」
「行くけど……あ、その前にゴンタさん、刺青は?」
「お手はしねぇって!
……あぁ、それは保留だ。暫くカードだけでの運用だ」
なるほど、まだそっちの解決は付いてない状態なんだ。
「あっ、そんなのがあったわね。私も入れたくなかったんだ。出来れば入れたくないもんね」
「それについては儂に文句を言わんでくれ。儂も反対はしたんだぞ」
「それで背中に堂々と……ね?」
まぁ、偽造の刺青が見つかった時点で無意味なことが確定したんだから、今後は入れない方向になると思う。まだ公になっていないから、ここでミイナさんに教えるわけにはいかないんだよね。
でも、代案なんてあるんだろうか? 無いと思うんだけどね。
「それじゃ、他には無いよな?」
「はい」
ゴンダンさんの確認にミイナさんと答えがハモる。無いことは無いんだろうけど、今はまぁ聞く必要ないか。
ゴンダンさんが立ち上がる前に残ったクッキーを取ろうとしたので、ミイナさんがサッと皿を寄せてガードした。確かにゴンダンさんに出された物ではないからね。
残りのクッキーをミイナさんに奪われ悲しそうな顔をする彼を残し、応接室を出て訓練場に向かう。
言われた通り通路を進むと中庭が訓練場になっているようで、若いハンターが三人並んで武器の訓練に励んでいる最中だった。顔を知っている人は居ないから、ハンターギルドが出来たから登録した新人だと思う。
教官は……あ、顔見知りだ。
「新入り……とセルバンか」
「ファルドさん、お久しぶり。ここに雇ってもらえたんですね」
「当たり前だろ。お前もハンターになるのか? 商業ギルドに行くと思ってたぞ」
「半分半分でね。あっ!」
新人の振った木剣がこっちを向いていたファルドさんに当たりそうになったが、彼は振り下ろされた剣を持つ手をパッと掴んで剣を落とさせ回避した。
さすが金級冒険者だ。
「三人は少し休んでろ。
セルバンは……後にして、そっちの嬢ちゃんから先に見てやる」
「エロいことしないようにね~」
「するかっ。セルバン、しっかり鍛えてやるからな!」
顔見知りだからと気が緩んだせいで、余計なことを言ってしまった……このファルドさん、強いしドルチェの三人と同様に真面目な人なんだよね。
「嬢ちゃんは……あぁっ、チン・ドンヤーのミーナだ」
「ファルドさん、知ってたの?」
「その髪の色は珍しいしな。最近はミーナの真似して染めてる奴も居るらしい。
それに俺はお前らのチン・ドンヤーが襲われないように隠れて護衛してたからな」
何人かの馬鹿が襲撃しようとして捕まったのは知ってるけど、衛兵さんだけじゃなくて実力のあるハンターも見回りしてたんだ。
「そうだったんだ、ありがとうございます。
でも、確かファルドさんは隣町に移動してたんじゃなかったっけ?」
「俺の雇い主がちょいとやらかしてな。契約解除になったから戻ってきたんだよ」
「そうなんだ」
確かファルドさんは冒険者ギルド傘下の団体に雇われてた筈だけど、最近やらかした団体と言えば……あぁ、それで刺青も保留になったのか。黙ってよっと。
「それでミーナ嬢も訓練を受けるんだな?」
「あっ、はい。メインは弓ですが、短剣かナイフの訓練も受けようと思います」
「ナイフはやめとけ。簡単そうに見えるかも知れんが、ナイフで戦えるようになるのはかなり難しい。
体系的に短剣だな」
「ファルドさん、訓練中でもセクハラ禁止ですよ」
「お前な……少し黙ってろ」
「はーい。じゃぁ、俺は見学してます」
「アホか。少し走って体を暖めてから木剣で素振りしてろ。手抜きしたら拳骨落とすからな」
しまった、ここは体罰は認められてる世界だったわ。
殴られるのはイヤだから、中庭と言うかグラウンドと言うか知らないけど、三周ぐらい走ってみるか。
ミイナさんは武器を持っての訓練の前に体の可動域を見るらしい。体の固い人は訓練中に怪我をしやすいからね。
ファルドさんがお触りしないよう気を付けながらグルリと三周してから柔軟体操を始める。
ミイナさんは……事務職の方が向いてそう。でも本人がハンターとして活動したいって希望してるから、やりたいようにやらせてあげようと思う。誰だって最初は初心者だもんね。




