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第62話 雑魚には雑魚の生き方があるのか

「ほいよっ! トライホーンビートルの雄2匹、ちゃんと捕まえたきたぞ。これで今月のノルマ達成だ」

「……少し小振りでこっちは傷物だが……まぁ初めての狩りだ、サービスで受け取っておく」


 狭く薄暗い湿った部屋で虫籠の受け渡しをする男達、二人は元冒険者ギルド所属のネフとジスで、もう一人はシェイドと名乗るある密輸組織の幹部である。

 ネフとジスは以前デボラに同行してギルアノ大森林に入り、ゴブリンジェネラルを前にして逃亡した経緯を持つ。

 ゴブリンウォリアーの奇襲から助けられた二人は、そのまま密輸組織のメンバーとなることを選択し、主に夜間に活動する希少な昆虫を捕獲する任務に当たっていた。

 たかが虫と言えど、金貨数枚に化けるような物もいるのだから馬鹿には出来ない。


「しかしよぉ、俺らの仕事はこんな虫を取って来るだけで本当に良いのか?

 下手すりゃ子供でも出来やしねぇか? 俺ら子供扱いじゃねえか?」

とネフが疑問を発露する。


「夜の森を子供だけで歩かせる程我らは阿呆ではない。常に魔物に襲われるリスクがあるのだ。襲われるのは別に構わんが、納品が遅れる事態は避けたいからな。

 その点、お前らは二人は銀級冒険者だ、安心して任せられる」

「そう言うことならかまいやしねぇ」


 まだ完全に疑問が払拭出来た訳ではないが、ネフは下手に食らいついてシェイドの機嫌を損ねるような馬鹿ではない。闇ギルドと呼ばれる組織の一つなのだ、後ろ暗くて自分達には言えない事情があるだろうと納得することにした。


「二人ともバリシアには暫く出入りしないでくれよ。

 冒険者ギルドがお前らの捜索を行っていると情報が入ったからな」

「デボラを置いて逃げたぐらいで捕まる訳にゃいかねえよ」

「マジそれな。あんな糞豚がギルド幹部とか訳分からん。死んでくれてありがとうって思ってるくせしてよ」


 ネフもジスもデボラの言動に迷惑を被った被害者ではあるが、それでも幹部の危機を前にしての逃亡はギルド規定に違反する行為である。それが分かっていての逃亡である。

 デボラが幹部ではなく冒険者であれば、見捨ててもジォネラル出現の情報を持ち帰ることを優先したと言えば罪にはならない。だから幹部が危険地帯に入ることは忌避され、安全な場所で指揮を執るのが普通なのだ。 


 まだ二人にデボラ死亡のニュースは届いていないが、それは隠れ家に潜んでいるからと言う理由ではなく大々的に発表されない案件だからである。中級貴族家の当主、または次期当主候補の死亡なら国内に広く知らされるのだが、デボラはただの穀潰しである。能力も知識も無い、親の七光りを振りかざして冒険者ギルドで威張っていただけの屑であった。


 それでも二人は闇ギルドから差し出された手を取ってしまった以上、引き返せないことを悟っている。今は昆虫採取と言う簡単なお仕事を任せられているが、いずれは人殺しなど危険な任務に着かされるだろう。

 だが、闇ギルドに助けられなければ既に無くした命である。それなら半ば押し付けられたような恩であっても多少は返しておこうと考える律儀な二人であった。


 それから月日だけは万人に平等に過ぎて行く。


「バリシア領主が冒険者ギルドに喧嘩を売り、冒険者ギルドから大量の冒険者が流出したそうだ」


 闇ギルドの中でもその話が聞こえるようになったのだ。


「冒険者ギルドはバリシアギルドへの登録を拒否された奴らだけが残ったのか」

「そうじゃない、王都と何か縁のあった連中が残ったんだよ。領主も馬鹿ではない。自分に従わない戦闘職を分散させるために、傭兵ギルドや海軍などに転職を斡旋したそうだ。

 今のバリシア冒険者ギルドは口先だけのポンコツしか残っちゃいないって噂だな」

「冒険者ギルドに依頼はあるのか?

 ゴブリ退治だって報酬は領主から出てただろ。喧嘩売ったってことは冒険者ギルドにゃ領主から報酬は渡されていないんだろ?」

「食肉になる魔物を狩って卸しているだけだ。もうバリシアには旧冒険者ギルドの居場所なんて残ってはいない。潰れるのは時間の問題だ」


 それを聞いて、ネフとジスは早めに闇ギルドに転職できて正解だったと思うようになっていた。

 シェイドとしてみれば冒険者ギルドがバリシアからなくなったことで客先の一つが無くなった訳だが、それで懐がとんでもないダメージを受ける程ではない。

 領主の治世を良く思わぬ者はまだバリシアに多く残っている。清濁併せ呑むような領主でなければ満足の出来ない者はいつの世にも存在するのだから。


「けどよ、領主のギルドってまともに戦える奴は居るのか?」

「冒険者ギルドで強そうな奴は、あまりまともな連中じゃなさそうだったし、公営ギルドには動かんだろうな」

「二人の言う通りだ。だが、他の領からの銀級以上の移籍者が多くてな。冒険者ギルドは冒険者からとことん嫌われていたようだな」


 シェイドに言われて思い出すのは、冒険者ギルド本部からの出向者の横柄な態度や理不尽な要求の数々だ。

 バリシアではゴンダンが目を光らせていたので見られなかったが、隣のレンスロー市では露骨な賄賂要求が普通に行われていたのだ。セルバンの渡す水鳥賄賂などは端金なので見逃されていたに過ぎない。


「お前らはレンスローとバリシアでは面が割れている。暫くはアフールで目立たないようノンビリ活動していてくれ」

「それで良いならそうさせて貰おう」

「花街に行くのは構わんよな?」

「組織の名前を出さん限りはな。今でもバリシアの冒険者ギルド所属だと言うことを忘れるな」


 闇ギルドと呼ばれる組織だが、暗殺、強盗など凶悪犯材には手を出さず、禁輸品の売買を行っているとシェイドは二人に説明していたし、実際彼らには希少なカブトムシやクワガタムシなどの採取しかさせていない。

 冒険者の階級では銀級下位の二人に任せる仕事として少々物足りないが、これでレンスローで活動していた頃より生活が安定しているのだから二人に否はない。

 すっかりシェイドに飼われる従順な犬として第二の人生を送ることになった二人である。



「バリシアめ、余計な真似を!」

「どうしたんすか?」

「あの野郎、遂に冒険者ギルドを潰しに掛かったのだ!

 冒険者ギルドに対抗する魔物退治専門のハンターギルドを立ち上げた。我らのギルドへの補助金は廃止だぞ!

 これが怒らずいられるかっ!」


 獣脂蝋燭が三本刺さった燭台を乗せたテーブルに怒鳴った人物の大きな拳がドンッ!と叩き付けられ、弾みで燭台が浮き上がった。


「いてて……ゴホン」

「ヤツを日和見主義だと思って舐めていたようですな」


 手を擦り顔をしかめる男に対して、コイツ全く学習しないなと呆れた表情を見せると、少し気取って言ってみせた連絡係だ。


「それはともかく、今日は何の用だ?」

「あ、それですけど。ただの連絡係りに過ぎない俺には関係ないんですけどね、実は上の人がお宅との取引は今日で最後にするってことになったから伝えてこいと言われまして」

「今日で最後に? どう言うことだ?」

「どう言うことと言われましてもね……俺は言われた通りに動くだけなんで。じゃあ、そう言うことで。

 あ、それと分かってると思いますけど、こっちのことを喋ったらどうなるか分かってますよね?

 そろそろ時間なんで俺は失礼しますぜ」

「あっ待て!」


 連絡係は椅子に座る男に振り向くことはせず、静かに去って行く。

 それから数分後、組織から切り捨てられたことに理解が追い付かない男が座ったまま考えごとをしていると、突然乱暴にドアが開けられた。


「タトゥーイスト・ベルトラット、偽の刺青(ギルドマーカー)の指示について話を聞かせて貰おう」

と衛兵が剣を突き付け迫ってきたのだ。

 連絡係りが時間だと言った意味がこれで分かったのだが、ベルトラットがそれでほっと出来たかは語られることがない。

 冒険者ギルドから来る偽タトゥーを彫師に彫らせたのは彼で間違いない。だが、それは背後に控える大きな闇の歯車の一つに過ぎない。


 ベルトラットの逮捕を部下に任せたロイガー衛兵隊長は、先程このアジトからまんまと逃げおおせた不振な人物こそ、セルバン襲撃指示役に近い存在であると考えなが、物証が残っていないか捜索を行うのだった。

 

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