第59話 新たな来客
領主様が新しく公営のギルドを設立したことで、俺は冒険者ギルドを辞めることとなった。
自動的にバウンサー候補から外れることとなったので、もう国外脱出を考える必要は無くなった訳だ。
俺が軽い気持ちで領主様にお願いしたことが、結果的に領主様にとんでもない決断をさせることになってしまったと知ったあの時は冷や汗がなかなか止まらなかった。
それに王都の貴族の何とか主義ってやつがあまりにも酷すぎて、良くマキナさんが上手く立ち回れているもんだと感心したよ。
王都貴族の皆が皆、あの三人衆みたいなどうしようもないクズとは思わないけど、聞こえてきた話では冒険者統一協会は完全なクズの集まり。
王都の冒険者ギルド本部はその太鼓持ちに徹しないと上には上がれないらしいが、そんな連中はまともにはギルド運営に参加していない。胡麻を擦って生きた方が賢いのは分かるけど、そう言う人は信用出来ないからなぁ。
部下に丸投げ、お前の成果は俺の成果主義にに嫌気を差して、バリシアハンターギルドに鞍替えするギルド職員が急増しているなんてニュースまで流れる始末だ。
それは職員に限ったことではない。有力冒険者が王都から撤退してバリシアに拠点を移したなんてケースまで出てきている。それはドルチェが裏工作でもしたんだろうと想像が付くが、敢えてクチに出す必要は無い。
多分この世界の冒険者を取り巻く環境だけがこんな歪になっているんだと思うけど、ここだけ見ればハズレの異世界に飛ばされたもんだと悲しくなる。
協会だって創設当初は高い志を持った者達で溢れていたとしても、少し代替わりしただけでそんなゴミ箱に変わり果てるとは悲しすぎるよ。
児孫のために美田は買わず、と言う言葉を残したあの方の爪の垢でもお取り寄せして飲ませてやりたいよ。
生で与えるより、煎じた方が効果があるって?
冗談はともかく、バリシアハンターギルドは戦闘系の依頼を扱うギルドである。
そして俺は戦闘をするより安全に暮らしたいからここに所属するつもりは無い。以前から誘われていた商業ギルドに移動するつもりだ。俺のせいでとんでもない苦労を背負いこんだ領主様には悪いけど、俺は命大事にがモットーなビビリマンだから。
でも、一度襲撃を受けたことが後からジワジワと効き始めたのか、もっと戦える男にならないといけなきゃ、と考えるようになってきている。神様には剣も槍もバツで弓って言われてるけど、護身の為の最低限の剣術ってやっぱり必要だよね?
でも自分より格上の人に襲われたら、才能の無い俺が幾ら鍛えたところで結果は同じになりそうだし。
そう言えば偉い人が剣術を教わるのは護衛が来るまで耐え凌ぐ為の訓練だっけ?
その護衛が村のチビッ子達になるのか。俺が弱っちいままだとチビッ子達に余分な苦労を掛けることになる……のなら、やっぱり俺も剣術は鍛えるべきなのか。でも才能が……と堂々巡りでなかなか結論が出せないのだ。
それはミイナさんも同じみたいで、今の商業ギルドにどっぷりの生活で良いのか悩んでいるみたい。
そのミイナさんは獲れ立ての川魚を開いて干物作りに励んでいた。ズラリとロープに掛けられた川魚……うん、中々ヘビーな香りだな。どこかの魚市場にでも来たみたいだ。
渋柿を見付けたミイナさんが乾し柿を作ったついでにと、魚の干物も始めたんだよ。旨いか不味いかは食べてからのお楽しみ。
実は塩水の濃度をどうやって決めるか一苦労してたけど。計量スプーンが無いから、村じゃ何%の食塩水ってのが出来ないんだよね。
まぁ、そんな小さなことはどうでも良い。計量問題はミイナさんに解決するように宿題を出しておいたから、ひょっとしたら発明品が出せるかも。
この世界にも棹秤とかがあるだろうから、大儲けは出来ないか。
そっちは無理でも、襲撃犯のお陰で冒険者ギルド本部から迷惑料としてそこそこの現金が貰えたからね……え?……そう考えてみたら、俺ってむしろ襲われる方が儲かるってことになるっ!
いや、今回の襲撃は初回限定サービスであって、二回目はさすがにないよね?
それとも不定期に発生する◯◯襲撃イベントみたいなヤツか?
うーん、それなら是非また来て欲しいもんだな。
あ、でもイベントってクリアすると敵のレベルも上がって行くから、備えを強化しなきゃいけないのか。
誰か拐われて◯時間以内に救出せよ、助けが来るまで◯時間持ち堪えよ、みたいなイベントはリアルでやられるとかなり精神的にキツイだろう。
もし二回目のイベントがあるなら、今回みたいに俺をターゲットにした襲撃犯の撃退でお願いしますっ!って、これ、誰に言ってるの?
そんな馬鹿な考えはポイって捨ててと。
ゴンダンさんの次に来たのはサティアさん、シェルド親子、それと知らないおばさん。
更にローズ夫妻とドルチェの三人も護衛なのか付いて来ている。総勢九人の大所帯だ。
「あっ! 飴のおばちゃんだ!」
チビッ子達は、サティアさんだけでなくシェルド親子と俺の知らないおばさんも顔を知っていたようだ。
「こんにちわっ!
ようこそお越しくださいましたっ!」
俺より先に来客を迎えに出ると、六人のチビッ子達が綺麗に並んでご挨拶。仕込んだ甲斐があったってもんだ。
「村長とミイナ姉ちゃんもご挨拶するのっ!」
あはは、子供に注意されてしまったょ。次は空気を読む技術を教えなきゃ駄目だね。
チビッ子達から少し離れた場所からお互い挨拶を交わすと、おばさんに蟻のように群がるチビッ子達。やはり子供に飴は最強兵器だな。
棒付きキャンディーを貰うと、ありがとうございました!と御礼を言ってから包みを開ける。渦巻きこそ無いものの現代風の丸いペロペロキャンディーだな。
ここに居ない子達の分はミイナさんが預かり、自分もと一本。俺は精神年齢的に断った。
強面のドルチェの三人は最初だけは子供達にビビられていたけど、肩車したり腕に捕まらせて持ち上げたりして御機嫌を取ると、一気に人気者になった。
くそっ、パワーこそ魅力かよっ!
と言うわけで、三人は子供達の案内で村を見て回ることになった。単に肩車に乗りたいだけだろう。汗臭くても知らないぞ。いや、加齢臭か?
これで三人減っても来客は六人だ。
我が家にこれだけの大人は入れないので、小屋前の空き地に村の匠が手作りした折り畳み椅子を並べる。
座面にはドーナツのように穴を明けたクッション、背凭れには普通のふかふかクッションを取り付けてある。
痔の人にも優しくしようとした訳ではないが、材料を節約する為に円座クッションとなっただけである。
「ファっ? なんだい、このクッションは?!」
「お気に召さなかったなら申し訳ありま――」
「その逆だよ! 君は天才かっ!」
「せん……て?」
最初に座った飴のおばちゃんが円座クッションに驚いたようだ。
以前サティアさんが泊まった時には普通のクッションを出したのだが、円座クッションはフィルターガールズの二人が針子の手習いを始めてから作り出したのだ。
クッションの中は色々な魔物素材が層を作って入っているそうで、順番を入れ換えることで好みに合わせて固さを調整出来るのが売りである。
まだ売り物に出来る程の腕ではないので、村でのみ使っていたのだ。
「なるほどなるほど、確かにこの村は儲かりの秘密がまだまだありそうに思えるよ」
「サブマスター、先に自己紹介を」
クッションに感動していたおばさんに、サティアさんが苦笑する。
「私としたことがつい。
商業ギルドのサブマスターをしておるイザベラ・ション・ギラートと申す。飴おばちゃんと呼んで構わぬよ」
「呼べませんって!」
「ほぉ、さすが村長さんだね、反応が早いわ。
シェルド爺も褒める訳だよ」
どう言うこと?
「大抵の者は我々貴族に冗談を言われてもな、何か考えてから返事をするからどうしても間が空くんだよ。
変なことを言ったらまずいとか、余計な気遣いでもしておるんじゃないかな」
普通の人だと貴族相手にはそうなるのか。その前に平民未満の俺に冗談を言うのはやめて欲しいけど。この町の貴族階級の人、もう少し貴族らしく対応をしてくれませんかね。
「セルバンは儂と初対面の時でも、儂の才能を羨ましいと思うか妬めば良いか判断できんと冗談を言いおったしな」
「まずかったです?」
「相手によるかの。
それに、もし儂が三人娘にぞんざいな扱いをすれば、乗り込んでくると脅してきたしな」
ワハハと笑うシェルド爺さんだが、イザベラさん意外の他のメンバーは顔を青くした。
「おー……セルバンって命知らずだよね」
「シェルド様でなければ首が物理的に飛んだぞ」
ローズさんが額を押さえ、旦那のゾルトさんが頚の前で右手を横に引いた。
「そこは一応、シェルド様の人柄を見てから言ってますよ」
「普通、そんな冗談を言う余裕は無いものじゃ。
お主は儂の立場を知った上でも、自分の爺さんと同じ感覚で儂と話しておるじゃろ?」
「えぇ、冒険者ギルドの捕まった天下り三人と違って、話しやすい雰囲気がありますから。
ジェルダさんも親しみやすいですし、イザベラ様も普通のおばさんって感じですよ」
と言うより周りが外国人の顔ばっかりで、それに慣れたせいか感覚が麻痺しているんだろう。
威圧するような視線でなければ何も思わないんだよね。そうでないと、ゴンダンさんをおもちゃ扱い出来ないでしょ。
「普通のおばさん……ハハハ、こりゃ傑作だわ!
うんうん、最高の褒め言葉だわ!」
「この子、多分そのうち誰かに刺されるわよ」
ローズさんが抜き手で自分の心臓辺りを突き刺す仕草を取る。少しエロいかも……なんて考えたら旦那さんに刺されるから見ないでおこう。




