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第58話 新商売

 バリシアハンターギルドは発足の初日こそ片手で数える程の数の依頼しか来なかったものの、日を追うごとに活況を呈していく。


 元冒険者ギルドのギルドマスター、サブマスターが街頭に立ち宣伝を始めたことも要因となったかも知れないが、ミイナが率いるチビッ子達のなんちゃってチンドン屋が注目を浴びたのがやはり決め手になったのだろう。


 新しいギルドの運営スタートに当たり、必要なのは知名度を上げることである。しかも極力冒険者ギルドに知られないように準備をするのである。

 商業ギルドの事務員と化しつつあったミイナが紙の製法を知っていたことはサティアがセルバンから聞いていた。

 しかし、一般的にはバリシアの周囲には製紙に適した木材が自生していないとされている。ただこれは原料化する方法の多くが人力によるものだからであり、魔道具化されれば問題は解決される。

 ただし、それは環境保全と言う問題から目を背ければ、と言う但し書きが付くことを提言者は報告している。


「ミイナちゃん、適当な木材でも紙を作ることは出来るの?」

「えっとですね、手漉きで作るなら品質は二の次にすれば繊維質のものなら何でも良いですよ。笹とか藁とかでも。漂白しないので素材の色が残るし、ザラザラしますけど、それも味わいになると言うか。いかに細かな繊維にするかが決め手だと思います」


 社会科見学で手漉きを体験したことがあるので、その時の様子を思い出す。紅葉の葉を間に挟んだ手紙を作って友達に出そうって企画だった……友達って何? と言わずに済んだのでツラい思い出ではない。

 製紙に関する報告書を熟知しているサティアは、ミイナの知識が本物であることをこれで確認出来たのである。そして品質は落とすが印刷可能なレベルを狙っての製紙に頭の中でゴーサインを出す。ミイナは単にサティアの役に立てたと喜ぶ。


「でも水に溶かす糊の材料とかあるんです?」

「それならエルラード川に大量に生えてる藻とスライムで作れるから問題ないわ。以前に実験用に建てた施設があるから作ってみましょう」


 藻から糊って、昆布のフコイダンみたいなものが出来るの? 異世界ならありなのかしら。

 その藻が食べられるならラッキーかも。でもスライムよね? やっぱりあれよね、スライムの中の液が酸で溶かす感じよね。


「その製造現場は見たくないですね」

「別にグロくないわよ。藻を腹一杯食べさせて緑色に変わったスライムの中の液をサクッと取り出して、半時間程煮て水分を飛ばしたら出来るから」


 やっぱりスライムは殺しちゃうんだ。て言うことは、ひょっとして、

「その作業をやったら強くなれます?」

僅かな希望ね。私だってもっと強くなりたいもの。


「え? 私も前にスライムを百以上捌いたけど、全然変わらなかったわ」

「百……そうなんだ」


 全然筋肉のついていない彼女の二の腕が物語っているのよね、スライムをたくさん倒しても経験値が入らずレベルアップもしないってことに……薄々そうじゃないかって分かってましたよ。


「紙を作っても売る訳じゃないんですよね?

 あっ、何かイベント用です?」

「イベントと言っても面白くないわ。世の中には子供が知らない方が良いイベントもあるからたいへんなのよね」


 大人の世界って難しいから、セルバンと違って下手に口出ししない方がお利口さんなの。

 それから数日が経ち。


「何か宣伝するのに良い方法はないかしら?」

と、最近サティアさんが私をドラ何とか扱いするノビ何とか君に変わってきている。

 テレビラジオも電車の中吊り広告もないし。昭和より前の時代ってどうやって宣伝してたのかな?

 ファンタジー世界で出来る広告って、主に口コミ? 辻売りの新聞は違うし。アドバルーンは無理だけど、百貨店とかは縦に長い懸垂幕を使うけど、縦書きの文字じゃないからダメだよね。幟も縦書きだったわね。


「旗を立てるか、ビラを配るか、横断幕かな。

 人目を引くなら太鼓でも鍋の蓋でも鳴らして音で気を引いて口上を述べる……吟遊詩人の太鼓版、それだとチンドン屋か」


 サンドウィッチマンは恥ずかしいから教えないでおこう。


「旗を持って音を鳴らして口上を述べてビラを配るチン・ドンヤー? ……を可愛い子がやると完璧よねっ!」

「そうかも知れないけど……」


 よく分かっているのか分かっていないのか定かではないサティアさんにガシッと手を掴まれ、やらせる気満々の彼女がズイッと顔を近付ける。


「今日からミイナちゃんを宣伝部長に任命するわっ!」

「やめてーーっ!」

「大丈夫、大丈夫! 恥ずかしいのは最初だけだから!」

「大丈夫じゃないし、それエロいやつの言い方」

「いいの、いいの。私に任せなさいっ!」

「不安しかないから!」


 抵抗も虚しく、こうしてバリシア発のガールズチンドン屋をやることが決まってしまったのよね。サティアさんには普段からお世話になりっぱなしだから助けてあげたいとは思うけど。

 こうなったら洋風の格好いい制服みたいなのを着た鼓笛隊を目指そう。私は先頭でバトンをフリフリしてようかしら……はぁ、大変なことになっちゃった。

 

 テイバードラムと呼ぶのかよく知らないけど、小太鼓みたいなものやタンバリンはあるし、小型のフルートみたいな物もあるから歩きながら楽器を演奏することは可能かな。でも練習すると音が出るから練習は出来ないんじゃ?

 そうなると当日やりながら覚えられるぐらいの短い曲……ソラシーラソソラシラソラー♪かな? 太鼓はアドリブで打ってもらおう。

 口上はサティアさんに任せるわ。それぐらいは泥を被ってもらわないと!


 商業ギルドで働いているチビッ子女子二人とお揃いの赤と白をベースにした可愛い衣裳を作ってもらうことにしたわ。でもスカートを膝丈にしたら短すぎると怒られたのは意外だわね。

 衣裳が出来てからは取り敢えず三人で歩く練習。私が前でバトン係、すぐ後ろに小太鼓のライネちゃん、最後にフルートのシフレちゃん。


 知らなかったけど商業ギルドには音楽を教える教室もあったので、そこで二人にチャルメラを教えようと思ったら、

「プライゾン王国には伝統的な行進曲があります。

そんなまの抜けた音楽は許されません」

と、サティアさんが頼んだのか、理想的な教育眼鏡を掛けた銀髪モリモリのマダムが登場したの。

 しかも彼女、

「ウー ウー ウー ウー ロッキュー♪」

と真面目な顔で口ずさむものだから、思わず笑ってしまいそうになって誤魔化すのに大変だったんだから!

 しかもフルートで某ボクシング映画のなんちゃらタイガーとか、戦闘機が出てくる映画の何とかゾーンの出だしの部分だけを繰り返して吹くのよ。

 私より先にこの国に来て、その曲を教えた人、責任取って下さい! お陰で頭にたんこぶが出来たんですから!

 

 それから何日も練習して、あの日の夜にセルバンの小屋が襲われたの。セルバンは無傷だったけど、セルバンの姿のカカシにナイフが突き刺さってたわ。まさかこうなることを予測してカカシを作ってたのかな? 偶然だと思うことにするわ。

 襲撃犯を雇ったのは何と天下り三人衆で、やはり協会はヤバい組織と繋がっていたんだと殆どの冒険者が確信したと思うわ。


 そして冒険者ギルドに対抗すべく領主様が設立したバリシアハンターギルドの前で私は鼓笛隊の衣裳を纏ってバトンを手に待機しているわ。

 後ろにはチビッ子女子二人。サティアさんは口上を述べてビラを配る係になったわ。

 それとセルバンもプラカードを持って列の後ろに着いて歩くことになったみたいで、髪をオールバックにして普段は着ないスーツを着ているわ。どこかの貴族の坊っちゃんと言われても信じそうね。


 ハンターギルドのギルドマスターのゴンダンさんが出発式を宣言し、私は笑みを振り撒きながらバトンをフリフリ歩きだす。最初に演奏する曲はロッキュー、次がタイガー、最後がゾーン。これを繰り返しながら町中をサティアさんの指示で歩く訳。

 とにかく今は無心よ、無心!

 これが終わったらお昼に商業ギルド系列店のレストランでパーティーなの! スモルシュを出てから初めての豪華な御馳走なんだから!

 

 途中でライネちゃんとシフレちゃんの演奏が止まった時はどうしようかと思ったら、セルバンが太鼓を担いで タッタターンタッタターン タッタタッタターン♪ タッタターンタッタターン タッタタッタタン♪って警戒に何とかマーチを叩いたり、三三七拍子を叩いたり、どこかのお祭りで担ぐダンジリの太鼓の音を叩いて誤魔化してたわ。

 シフレちゃんのフルートを咥えなかったことは褒めてあげるわ。


 そうやってハンターギルドの宣伝をしながら町の中を一時間少し歩いたかしら。一度だけ冒険者ギルドの人がいちゃもんを付けてきたけど、ゲーシルさんとか言う人が抑えてくれて事なきを得たわ。きっと他にも隠れながら護衛をしてくれてた人が居るんだと思う。

 協会と冒険者ギルドに真っ正面から喧嘩を売ったようなものだから、私達を目障りに思う人が居ても不思議ではないわよね。でも私達は今は領主様が運営する組織に所属しているのだから、私達に手を出すってことは領主様に手を出すのと同じことよね?

 だったら虎の威を借る猫の気分になっても構わないわね!

 反抗勢力の人達、ドンドン掛かって来なさいよ!

 途中からは調子に乗ってバトンをクルクル回したり投げたりして遊ぶ余裕も出てきたかしら。

 それでも無事にハンターギルドに戻って来た時には正直ホッとしたわ。


 それから貸衣装のドレスに着替えをさせられ、商業ギルドに戻って指定された食堂に入ったらビックリ。綺麗な服を着た淑女の皆さんに囲まれちゃったわ。

 どうやらさっきにチン・ドンヤーを見て私のことを気に入ったとか。

 一体誰よ? 鼓笛隊のことをそんなおかしな名前で呼んだ人は?

 まさかと思うけど、サティアさんの聞き間違えがホントに定着しちゃった?


「次は私の娘の結婚式の時に貴女のパレードを使いたいの!」


 そんなことを言うおば様まで出てくる始末なの。

 一体これってどうしたら良いの?


「そういう話なら、このぐらいの金額で…」

「あら、お手頃だわね、それで契約させてもらうわ」


 あの……そこのサティアさんっ! 私を売り物にしないでください!


 セルバンもメモ用紙を覗き込んでないで何か言ってよ!

 えっ? どうしてそこで親指立てて私にウィンクしてるのよ? 幾らで私を売ったの? 早く教えなさいっ!


 バリシア名物のチン・ドンヤーはこうして一人の少女の献身から生まれ、プライゾン王国各地に広がりを見せたのだった……。


「ふぅ……親方も随分と派手な撒き餌を使うものだな。お陰でしょっぴく相手が入れ食いだったぜ」


 何もミイナの鼓笛隊チン・ドンヤーが宣伝の為だけに歩かされた訳ではない。バリシアハンターギルドに敵対する者を炙り出す撒き餌でもあったのだ。

 もっともこれで釣られるような馬鹿は小物であるが、逮捕をして魔紋を登録することが目的の一つであったのだ。まだ運用方法が決まっていない魔力認証システムの実地試験がこうして始まったのは偶然が重なっただけである。

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