第55話 信用第一だからこそ
「お前が俺をどう思っていようが、こちらからは子供達の為にもまだ冒険者ギルドで働いて欲しい。
お前には指名依頼も多いが、そこはお前とそれを引き継ぐ子供と一緒に行って対応して貰いたい」
「お客様を困らせるってのは確かに俺の本意じゃないから、そこだけは了解します」
「良かった、それなら」
「でも俺がやってる依頼って、ぶっちゃけ冒険者のやる仕事じゃないですからね。
今の俺には見習いって付いてるけど、それでもおかしいですよ」
「それはどう言う意味だ?」
この人、少しは考えようとしないの?
今の冒険者ギルドに疑問を持たない人じゃ、また同じことの繰り返しになりそうだ。
「戦力が低い冒険者って、他の冒険者から馬鹿にされてますよね。
冒険者になりたいチビッ子は見習いとして、早くから先輩冒険者の指導のもと戦えるように鍛えながら、外での経験も積ませた方がよっぽど将来の役に立ちますよ。
それなのに、見習いが取れて冒険者にならないと外へ薬草摘みにも出られないなんて、非効率で全く意味不明ですよ」
「う、うむ……」
少しは冒険者ギルドの考えがおかしい事に気が付いたか?
町から一歩外に出れば危険がいっぱいだから町に住む子供は外には出さない、と冒険者ギルドは言っているが、このバリシアの周りには村がたくさんあって、村の子供は普通に畑仕事を手伝っているんだよ。たまに何かに襲われることもあるかも知れないけど。
「戦う必要がない仕事を、何で冒険者ギルドが斡旋するんです?
町の人との繋がりって冒険者じゃなくて商人の方にこそ大事な要素なんだから、それこそ町の中の軽作業とか荷物運びの斡旋は商業ギルドの管轄にするべきなんですよ。冒険者と商人の繋がりなんかは客と店のドライな関係で充分なんだし」
「うぅ……とは言っても」
反論出来る?
今の制度だと子供は冒険者ギルドに登録しないと仕事をさせて貰えないから、大半は仕方なく冒険者見習いになっているだけである。
冒険者ギルドではなく商業ギルドが冒険者見習いを管理して、仕事の斡旋をしても問題が無いと思う。マンパワーの関係で今のような制度になったと言うのなら仕方ないけど。
ただ、現状では身元不明な人物の身分を保証することを商業ギルドが嫌がっているのだと予想できる。
今なら冒険者が悪いことをやっても冒険者だから仕方ないなぁ、で済んでいる。それが商業ギルド登録の身元不明の人物が盗みでも働けば、商業ギルドは信用ならんと言われる可能性が出てくる。
これは冒険者や冒険者見習いが信用されていないってことが問題の根底にあるんだろうね。言葉遣いも態度も悪いからね。
なので、冒険者見習いのやっている仕事を商業ギルドに移管するなら、最低でも言葉遣いとマナーと法令遵守をマスターさせてから冒険者見習いに該当する身分を商業ギルド側に用意してやる必要がある。
「とは言っても、身元確認がねぇ……タトゥーも信用が出来ないんじゃどうしようもない」
「なに? タトゥーの話は誰から聞いた?」
あっ、これは言ったらダメなやつか。まだ公には発表されていないから当然か。
「ゴンダンさんに話した人は衛兵隊長さんでしょ? あの人ぐらいしかこう言う話は出さないと思う」
「そうだな。決して口外しないようにしろ」
「分かってる。知れたらタトゥー入れるのに反発が出て廃止に動くだろうね。
それは別問題だけど、本気でチビッ子達の将来を考える商業ギルドに移管することも視野に入れるべきだよ」
「うーむ……」
あっ、ギルドマスターが腕を組んだまま固まってるよ、難しい話で頭をオーバーヒートさせたか?
まぁ、いいや。脳ミソの成分は水と脂と蛋白質だから筋肉と同じなんだし。
それにしても、そもそも論で何故ギルドが身分保証しているのか不思議だよ。外国人在留資格と同じように行政機関がやるべき範疇ですよね?
全くその町に馴染みの無い外国人に、
『働いてくれるなら身元保証人になってやるから悪さをするなよ! ギルドの為にしっかりやりなっ! ハッハッハッ!』
って言ってるのと同じことだよ。うん、非常に外国人にオープンで良い心掛けですね。
で、後日にその外国人が実は殺人鬼で捕まっちゃったら、
『あれ、アイツってそんな悪党だったのか。外国から来てて身元が分からんかったから仕方ないな。アハハっ』
と言って済ませるようなもんだし。
さてさて、これでギルドに問題が無いと言えるのか?
すぐには回答出せないよね。
こう言う事態を避けたいが為に、商業ギルドが冒険者ギルドに身元保証を丸投げしているのだと考えると、お主も中々の悪よの~って思えてくるからあら不思議。
上のは極端な例だけど、被害者遺族への保証は誰がどうするの? 犯人一人じゃ出せない金額になるよね。
身元保証って結局そう言うことだからね。
判子を押すのと同じで、
「お仕事くださいっ」
って言って冒険者ギルドに登録しに来たのならまだしも、単に身分証明が欲しくて冒険者ギルドに登録に来た人全員、審査無しで登録して良いもんじゃないんだよ。
「年寄りを虐めて遊ぶのはこれぐらいにしておくか」
「そもそも遊ぶなっ!」
「ハイハイ、血圧に注意しようね。
で、真面目な話。今のやり方は合理的じゃないと思うから、真剣に商業ギルドや他のギルド、領主様と考えてみてね。
ついでにどこが身元保証するのかも含めてね」
「ん? 身元保証をどこが? それはどう言うことだ?」
ちっ、やっぱり分かってないね。
「もしね、ゴンタさんが悪い冒険者に殺されて今後受け取る筈の給料が入らなくなったと仮定するよ」
「儂を勝手に殺すなっ」
「仮定だから気にしない。
じゃぁ、可哀想だから犯人はゴンタさんと相討ちってことで。
で、そうなるとゴンタさんの奥さんはそのお金を当てにして宝石を後払いで買っていたとしますよ。
そうなると奥さんは宝石の代金を払えなくなる」
「お前なぁ……酷い例えだな……」
うん、奥さんが結構な浪費家なのは知ってるからね。
「当然犯人からはゴンタさんが貰う筈のお金を貰えない。
奥さんはお店に払うお金が無い。
なら、犯人の身元保証人となっている冒険者ギルドにお金払えって奥さんは言い出すよ」
「あっ! そうか、そう言うことだな……アイツならそう言いかねん」
「理解してくれたのは奥さんのお陰だね……良い奥さん貰ったじゃないですか」
勿論イ・ヤ・ミ!
「てな訳だね。犯人に親族が居るならそちらが責任を持つことになるだろうけど、親族が居ないんじゃ被害者遺族は泣き寝入り? それは困るよね。
だから問題なんだよ」
考えれば考えるほど、商業ギルドは偉いと思う。誰でも登録できるって訳じゃなくて、誰かの紹介が必要だからね。
「まぁ、あくまでも今のは仮の話だから。
うちのチビッ子達は大丈夫だと思うけど、俺の見ていないチビッ子達には要注意だよ」
「だからお前に面倒を見させたいのだ」
「無理だよ。本人達が拒否してるの知らないの?
俺ら路地生活者は馬鹿にされてるから。好きでこんな生活やってる訳でもないのにさ」
何処かの海溝より深い溝が、家ありの子供と家なしの子供の間にあるんだよ。
「あの三人共もお前のことは人間扱いしていなかったしな……問題は思ったより根深いのか。
しかし……何度も言うが、お前、本気で年齢詐称してないか?」
「おー、遂にバレちゃいました?
実はプラス三十歳なんですよ、参ったなー」
「そんな訳あるかっ!」
本気なんだけど、精神年齢だけね。
「と言うか! 俺はゴンダンだ! 犬みたいな名前じゃねえ!」
「お手っ!」
「だからしねぇって!」
ゴンダンさんを苛めて気が済んだけど、結局俺に冒険者ギルドを見捨てないでねってお願いに来ただけか。
なら直接聞いてみるか。
「俺のバウンサー候補ってどうなるの?」
「それが切っ掛けで領主様とバトルになったからな。お前はバウンサーになるのは嫌なのか?」
「当たり前でしょ、蜥蜴の尻尾扱いされる役職なんて誰でも嫌ですって」
「体制を変えるのも……まぁ、こっちにも話せんことが色々あるからアレだが、候補から外せば冒険者を辞めるとは言わないんだな?」
「それとは別な話。将来的なことで絶対バウンサーはイヤなんだ。だから外せって言ってんの」
「それなら本部に申請を出しておく。候補になれば依頼達成料に二割の上乗せがあるから付けてやってたんだが」
「二割の上乗せ? マジか……知らなかった。
くそー、悩む。取り敢えず保留でっ!」
「知らなかったのか? まさかデボラのやつめ、それを知らせずに……戻って調べる」
「もしかして俺への支払い、ずっと二割ピンはねされてた?」
給与明細と言うか、依頼受注履歴がギルドに残ってたら良いけど、残ってなかったらあの糞ババアを復活させて、もう一回ジェネラルに差し出してやるからな。
◇
「詫びに来たのかと思えば、手土産の一つも渡さんとはケチなギルマスだな」
「詫びの時に菓子折り渡す文化ってはあまり無いですからね。だって物で買収して、これで勘弁って頼んでるみたいで賄賂と同じじゃないですか。現金も出すんでしょうけど」
「買収上等、長いものには素直に巻かれておけば万事うまく行くだろ」
「……そう言う経験は無いですね。次長ももっと上手くやってれば、こんな辺境勤務じゃなかったんですよ」
「……やらかした本人からそんな言葉が出てくるとはな。まぁ、たかが百年の我慢だ」
「そうですね。おっと、次のキャラは剣士が来ましたよ! これはラッキー。さてさて、どこの団に所属させましょうかね」
「どこの団? 王都には傭兵団が幾つもあるのか?」
「傭兵は知りませんけど、盗賊団は幾つも本拠地がありますね。有名どころでは灰色ナマコ団、暴風螺旋団とか」
「ナマコ団? 盗賊でか?」
「ナマコは高級食材ですよ! ただし私には理解出来ませんけどね!」
ケント神が何に切れているのか意味が分からないジロー神であった。




