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第5話 試しに門へ

説明回になってしまった。

 国外へ逃亡するには、俺自身の戦闘力も必要だろう。

 しかし、人より優れた何かがあるかと問われれば、ジロー神にニートにチートはやらないと言われた通り、優れた肉体的特徴は無いし、便利なスキルも備わっていない。

 体の中の魔力っポイものは感じることが出来たので、試してみたが火も水も出せないどころか動かすことも出来そうにない。

 飲料水を出せる魔法でも使えれば話は変わってくるのだろうが、子供の一人旅など無謀だと止められるに違いない。

 色々と試してみたがお約束のステータス画面さえ出てこないのだから、能力やスキルなどの現状把握が不可能なのだ。


 試しに目に入った道具屋に寄ってマジックバッグのことを聞いてみると、マジックバッグって何だ?と真顔で返された。

 『そいつは金持ちにしか持てない代物だな』と諦めたように教えてくれるのを期待していたのに。


 それならば空間魔法は無いのかと魔法に関するグッズを扱うお店に入って聞いてみたが、こちらも道具屋と同じ結果に。そもそも魔法を使える人の多くな王都に出稼ぎに出るので魔法に関する情報はこの町ではあまり流れていないのだとか。

 転生者にはアイテムボックスぐらいはオプションじゃなくて標準装備にしても良いと思いますっ!

 物の運搬に苦労するってだけでも、国外逃亡と言う今後の目標の難易度がハード過ぎないかと自然に溜め息が出てしまう。


 しかも目先の問題として、実は見習い冒険者の身分では一人だけで城門を通って町から外に出るのも難しいのだからナンセンスだろ。

 町から出してもらえない表向きの理由は外には危険な魔物が多く生息するからだが、本当の理由は生け贄候補のバウンサーを逃がしてたまるか、であると思う。

 だってバリシアの町の近隣には採れ立ての農作物を毎朝売りに来る農村が幾つかあるんだから、農民が生活道路として利用できるぐらいに街道沿いは安全ってことだ。


 だけどね、出れないってのは身分証を提示して城門から正々堂々と出ていく場合であって、それ以外のルートなら出られると思うのだが、まだその為の具体案は何も思い付いていない。

 荷馬車の中に潜伏するのは現実的ではない。

 この町の番人さん達は揃いも揃って真面目で、城門を出入りする荷馬車の中も車体の下までもチェックしている。俺にペタッと貼り付くような不思議な能力は無いので、車体の下にってのはそもそも不可能だ。


 幸いと言えるのか分からないが、ギルドが発行するギルドカードは魔道具的な機能の無いただの金属板ってことだな。

 タガネとポンチで文字を刻印するか、塗料で書くだけの原始的なものだ。

 このカードはギルドでの評価が上がると材質が変わるが、その説明はいずれするだろう。

 こんな板切れではマイナカードみたいな機能も無ければチャリーンの機能など有るわけがなく、現金の運搬がかなり大変なのだと商人達がぼやいていた。

 現金を殆ど持っていない今の俺に関係ないことだけどね。


 金持ちになると商業ギルドにお金を預けて預金通帳に残高を記帳する方法も取れるらしいが、その通帳を紛失すると残高を失くすことになる。

 その防止策として正と副の二冊を用意し、現金を出し入れする度に二冊ともに残高を記載する方法が採用されている。

 ただ、不正防止の観点から他の町の商業ギルドではその通帳を利用することが出来ないと言う、信じられないような欠陥システムである。

 ホストコンピューターでオンライン管理が出来ないのだから、超原始的な方法でやるしかないのは理解出来るが。

 支店がなくて本店のみの銀行みたいなものだから、自宅に強盗が入っても現金を奪われることがないってレベルの安心しかなさそうだ。


 他の町に行く前にはそれなりの現金を用意しておかなければならないのだから、町から町への移動が危険だと言うのは想像に難くないだろうし、子供の一人旅など論外であると分かって貰えただろう。

 ただ、盗賊だって明らかに貧乏そうな人を狙っても割に合わないと、見てみぬ振りをしているとか、していないとか。

 盗賊に知り合いは居ないから、本当のところは分からない。


 それはどこかに置いとくとして、ともかく開き直って無一文で町を出て、次の町でお金を稼ぐと言うのも勿論方法の一つとしてはありだ。

 実際、初めて冒険者となる若年層の者はこのケースが大半だそうだし。

 この時の身分確認だが、よほどの有名人かたまたま顔見知りに出くわすか、または手配書でも出回っていない限りは嘘をついてもほぼバレることはない。

 信用第一の商人ではこんな行動は無意味なことだが、ギルドカードを失くしたと嘘を言って新たなカードを別の名前で作ることが可能である。

 そんなので身分証明と言えるのか甚だ疑問であるが、政治的未成熟さと技術的問題のため、個人の特定をするのが不可能なのだから仕方がない……そう、つい数年前まではね。


 さすがにそれじゃイカンだろうと、編み出されたのがカードを作る際にタトゥーを入れる、又は焼き印を押す方法である。

 各ギルドには紋章とそれを簡略化したロゴマークがあるので、ロゴマークと名前と登録番号を体に刻むのだ。


 逆らうと罰金刑や奴隷堕ちまであると言うことで、導入当初は物凄い反発もあったらしい。

 だけど、技術的に個人を判別できないのだからやるしかないと仕方なく受け入れられた。

 それが数年が経った今では背中一面にタトゥーを入れた冒険者ギルドのイカれたギルドマスターを皮切りに、タトゥーいいじゃん!と、喜ぶ馬鹿者達も達も湧いてきた……。


 城門を通る際に見せやすいようにと手首辺りに入れるのが普通だが、ギルドマスターだけは桜吹雪も彫っていないのに、どこかの金さんみたいに背中を見せなきゃならないのだから馬鹿丸出しだ……いや、背中丸出しか。

 そう言うのは定年退職間近のオッサンではなく、美人さんにやって貰いたいと個人的には思うのだが、こんなセクハラ紛いの欲望は人には見せない方が身のためだ。


 ギルドマスターの個人的な趣味はともかくとして、このタトゥーは成長途中の体に入れる訳にも行かないので、大体十六歳前後を目安に入れることになる。

 まだその年齢に達していない成長期の俺は勿論入れていない。

 これが有ると無いとでは国外逃亡のハードルが段違いになりそうなので、この事に関してだけは子供のうちに行動を起こせるのが有難い。

 ただこのタトゥー……大きく体型が変わると悲惨な目に遭うので、導入を決めた張本人達の中には失敗だと後悔している人が居るのは秘密らしい。

 いや、見たら分かるから気遣って誰も口には出さないだけなんだろう。


 俺が持っているのは鉄製のギルドカードが一枚だけだ。見習いなのでお洒落要素は一つも入っていない。

 試しに一人で城門から外に出ようとすると、衛兵に止められカードの提示を求められた。


「カード? それならポケットに……あっ! しまった、入れ忘れてたっ!

 えっと、冒険者見習いもカード見せないと出られないの?

 ちょっと兎を捕まえて食べようと思ったんだけど」


 白々しく尋ねてみると、

「当たり前だ! 見習いの子供を一人で外に出す訳にはいかん。

 大人と一緒で無ければ外出の許可は出来ん」

と知っている通りに答えられた。


「その大人がケチだから、こっそり捕まえたいのに」

と言い、同情を買うようにお腹減ったと仕草でアピールするが駄目だった。

 それでもギルドの上役がケチだと言うのは衛兵も知っているらしく、深く追及してこないので助かった。


「どうしても出たかったら、ギルドから許可を貰って引率の者を連れて来なさい」

「分かった……でもそれじゃあ多分無理かぁ……お兄さん、ありがとぅっ」


 この衛兵が特別頭が固いと言う訳ではない。

 自分が許可して外に出した子供が魔物に襲われるとギルドから文句を言われるので、衛兵はこのように対応するよう決められているそうだ。


 猫救出依頼達成の報告の後にこんな試みをしていた為、ギルドへ帰るのが遅くなったしまった。

 なので見習いの教育担当であるデボラ女史から少々のお小言と拳骨を頂いた。

 バチッと目から火花が散った気がするよ。いつか泣かすリストにこのオバサンの名前を刻んでおこう。

 それでもカミキリ虫のお陰で木の伐採依頼を受注したきたので、目茶苦茶に怒鳴られるのは回避出来たからラッキーだ。

 叱ると怒るの区別も付かないダメ人間が教育とか言うな、と陰で文句を言っても何も解決には繋がらない。

 藁人形に『デボラ』と書いて、夜中にどこかに打ち付けてやろう……うん、これで解決するわけないか。


 その後、ギルド直営の酒場で出した料理の食べ残しをワンプレートにしたぐちゃぐちゃをお昼ご飯だと言って渡された。

 人間扱いされていないことに腹が立ったのだが、育ち盛りな体が空腹を訴えるのだから仕方なく食べる。

 何でも良いから食うものさえ与えておけば、ストリートチルドレンならギルドを裏切ることはないとでも思っているのだろう。

 いつかデボラ女史の飲み物に虫でも入れてやろうと心に決め、その日は更に押し付けられた二つの依頼を終わらせた。


 記憶を取り戻したお陰で要領よく仕事が出来るようになった俺は、この日から依頼人を怒らせることも無くなり、時には指名されるようにもなった。

 どうやらカミキリ虫のおばさんが、冒険者見習いに頼むなら俺を指名すると良いと井戸端会議のメンバーに宣伝してくれていたらしい。

 実年齢よりプラス三十近い精神年齢なのだから、他の冒険者見習いより要領が良いのは当然だ。

 そうでなければ俺の前世の約三十年ってなんだったんだって話になる。決して誇れるような人生ではなかったけど。



「セルバンは町から出ることも出来んのか。道理で二年間放置しても全然レベルアップしていない訳だ……おい、お前の下僕からセルバンに許可を出してやれ」

「えーっ、無理ですよ。

 私のキャラ、さっき中抜きしてたのがバレて謹慎を食らったばっかりなんで……やっぱりバッカースなんて頭悪そうな名前にしたのが悪かったんですね」


 ディスプレイを表示させてバッカースが自宅待機している様子をジロー神に見せるケント神。

 どう考えてもリセマラ対象のキャラだが、ケント神はこのキャラでどれだけギルド内で悪事を働けるか試して遊んでいたのだった。


「プレイスタイルは神それぞれだが……お前も難儀な奴だな」

「いやぁ、次長程じゃないですよ。

 結構バレるかどうかのスリルを味わうのが楽しいんです、リアルじゃこんなのやったら即バレしますから」


 神の世界で不正経理や業務上横領など出来る筈がない。経理など事務処理は全てAI任せであり、転生に関わる業務等の娯楽的な要素のある業務のみ神がやっているのだ。


 『マジカルミニチュアガーデン』は地味なゲームではあるが、下僕に意思を投影(ダイブ)してプレーヤーが下僕を操り様々な行動を取ることが可能な為に大変な人気を博している。ダイブするにはダイブチケットが必要であるが。


「お前、まさか課金してダイブチケットを入手したのか?」

「実は今のキャラランクだと一年毎に確定ガチャでダイブチケットが貰えるんですよ。ストリートチルドレンのガチャじゃ、良くて白ウナギですよ」

「まさか……そんな違いがあったとは」

「次長もキャラを何かの職に着かせる方が良いですよ。ペディア見たら小集団の纏め役になればガチャのランクが上がるそうです」

「纏め役だと? そうか……よし、セルバンをそっち方向に誘導してみるか」


 何やら楽しげにディスプレイ越しに下僕を見つめるちょい悪ジロー神であった。

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