閑話 銀色の少女の話
ミイナの過去が明らかに。
フライソン王国からかなり離れた大陸の端に、ダンジョンからの発掘で生計を立てる小国があった。
王国最大の王都でも人口僅か二万弱で、ダンジョン以外に特に目立つ産業もないが、ダンジョン密集率では大陸随一であり、ダンジョンがあるからこそ存続が許されているようなものだ。
王都を出て程近くに、かなり古くから探索が行われているダンジョンがある。
内部はかなり複雑に入り組んだ立体形状になっており、巨大な蟻の巣がダンジョンの原型ではないかと言われている。
奥に進む程に強力な魔物が生息しているのだが、ショートカット通路も多数あって運が良ければ敵と遭遇することなく奥地へ到達することも可能であり、適した能力を持つ冒険者達が過去に幾つもの秘宝と呼べる品物を持ち帰った実例がある。
ただし、それには己れの命を賭ける度胸が必要であるし、トラップもあればうっかり道を間違えれば望まぬうちに奥へと進んでしまうこともある。
それでも安くはないが、先達の残した情報を纏めた地図が販売されているので、実力さえあればそこそこの労力でガッポリ儲けることも出来ると評判であった。
そのダンジョンに限らず、理由は分からないのだがダンジョンと呼ばれる場所には宝が時々湧くことがある。
剣などの武器や防具、便利な魔具や用途不明の魔具などそこには無かった筈なのに、突然湧いて出るのだ。
この世界の何処かで命を落とした者の装備品、所持品が流れて来るのだと言う説、全く別の世界から来るのだと言う説の二つが有力視されているが、人間にはこの現象が起こる理由を知ることも再現することも不可能である。
ただ使える物なら有り難く使わせて貰うだけだ、と割り切るのが良いだろう。
ローズ・マリー夫妻の持つ一対の炎の剣もこのようなダンジョンの一つで発見された物であり、二人はこの剣がダンジョンに湧いて出た理由など全く気にせず振り回している。
ダンジョンに関して言えば、考えるのは負けと同じだ。
そのダンジョンにある日おかしなものが湧いたのである。
「ここはどこーーーっ!?」
人の言葉を喋るそれ……見た目も人間である。
「洞窟のくせに中が明るいとか、意味不明だけど有り難いわよ。
でもねっ! 人の許可も取らずに神にも会わずにダンジョンからスタートなんて反則だよっ!」
上下はメタリック調のジャケットとパンツで、インナーは黒のスポーツブラとショーツのセット。スニーカー は銀色だ。
良く言えば鎧のように見えなくもないのだが、浮いている存在であることに違いない。
「まずは出口を探さなきゃ。
出口と思って奥に向かうのはゴメンだし。良い具合に傾斜が付いてるからまだ親切な作りかな」
深く考えずに緩やかなか傾斜を登って行く。
途中に冒険者達の遺体なのか、数名分の白骨やアイテムが幾つか転がっていたのを見付けてナムアーメンと手を合わせる。
白骨化してかなりの年月が経っているのだろう。
見た目はアレだが匂いは全くない。自分は全くの手ぶらであり、何か魔物が出れば一方的に殺されるだけだと思えば、ここに散らばっている品々を勝手に持ち出しても罪にならないよね? と彼女は思った。
白骨化した遺体を前に自分がこんなに図太い性格だったのか、などと考えることも無い。遠くに聞こえる何かの声がとても人間のものとは思えないのだから、自衛のための何かを得るのは当然だと割り切った。
「杖に指輪にブレスレット?
服はバッチいし穴も明いてる……これはポイね。鉄は錆びててダメだと思うから、残っているのは貴金属と木と革?
木と革の方が先に朽ちると思うんだけど……使えるんだから文句は無しよね。
バッグは汚れているけど中は……う~ん?」
革のフラップをそっと開けてみると中は黒く、底が見えなかった。不気味である。
「何も無い? 底も無い……ちょっとごめんね」
足元の小石を拾い、バッグの中に投入すると音もなく消えていった。彼女はその結果を見て、ここに来てから初めて喜色を表した。
「猫型ロボのアレよねっ! これで私も勝ち組確定よねっ?」
見た目はかなり古臭い……レトロ感が漂う学生カバンのように見え、銀色の上下の女性が持つには甚だ取り合わせが悪い。
いや、むしろその銀色一色の服装に合うアイテムをダンジョンで探す方が難しいだろう。
だが、見た目を気にしていてはダンジョンから生きて出ることは難しい、そう思って諦める。
それよりバッグの中身が肝心だ。
びくびくしながら手を入れてみると、先程入れた小石の感触が伝わる。
だが、それだけだ。
「ひょっとして、ここじゃマジックバッグって普通に売ってて珍しくないのかな?
何も入っていないってことは、中身だけ誰かが持って逃げたってことよね?」
そう推察するが不正解。
このバッグは入れた品物と入れた人物が紐付き、他の者は他人が入れた物を出せない仕組みである。しかもその人物が亡くなっても出てくることはない。ボロボロになって漸くマジックバッグとしての役目を終わらせることが出来るのだ。
「まぁいいわ、どれだけ入るか試してみよう。
杖、指輪、ブレスレット、石、石、ちょっと大きい石、石……もう打ち止め? 少なっ!」
既に容量の殆んどが前の持ち主によって使用されているのだが、そのことが分かる訳もない。
それでもバッグより長い杖が入るのだから、剣士ならきっと欲しがるだろうとルンルン気分でバッグを斜に掛ける。
そしてひたすら出口を目指して緩やかな傾斜を進み続け、両開きの扉に出くわした。
扉は石を削ったもので、表面には見たこともない不思議な文字がびっしりと刻まれている。
「この扉でダンジョンの外に魔物を出さないように塞いでいるのね。魔法的な何かが書いてあるんだろうけど読めないもんね」
見るからに重たそうな扉であるが、以外にも手を当てるだけでゴゴゴゴッと奥に向かって開いていく。
扉の向こう側からは通路より眩しい光りが漏れ出て、彼女はやっと外に出れたのだと喜んだ。
扉が開けきり、薄暗さに適応していた両目が明るい光に慣れるのに暫く掛かったらしい。
周囲を見渡すと、そこは期待していた洞窟の外ではなく、何故か四方も上下も石で出来た壁に囲まれており、奥には椅子がある。
その椅子には眼下に炎を燃やす骸骨が座っていた。
「うそっ! なんでいきなり? ボスでしょ!」
出口に向かって登った筈なのに、何故かボス戦である。
不気味な骸骨が何か喋っているが、全く意味が分からない。だが敵意が剥き出しなことだけは態度で分かる。
骸骨が手から炎の球を発射したのだから。
反射的に両腕で顔を隠すが、それぐらいで熱を遮断することは出来る筈もない。
丸焦げになった自分の姿を想像した彼女だが、予想に反して僅かな熱も感じなかった。
「まさか痛みのないフルダイブのRPG?
HPもアイコンも無いからゲームじゃないと思うけど……てか、そんなの買ってないしっ!」
その後、何度か骸骨が一方的に放つ魔法を受けたのだが、一切ダメージを受けることは無い。
「……そうよね、最初に出てくる敵が強い訳ないじゃない。びっくりして損した!
でもダメージがゼロって、ゲームにしたら調整が下手すぎでしょ!」
椅子は無闇に豪華そうだし、着ているローブや装飾品だってかなりゴテゴテしていて悪趣味だ。
だがそれなりに結構な価値がありそうだと思ったのだが、こんな序盤の雑魚キャラの持つ品なら大したことはない。
さっき拾った杖を両手に握ると、全力で頭蓋骨に向けてフルスイングっ!
骸骨がカクカク口を上下させて何か喋っていたが、意味が分からないのだから完全に無視だ!
確かな手応えが腕に伝わり、首から離れて壁にぶつかると四散した。
「私に勝とうなんて百万年早いのよ。それにアンタ、カルシウム足りてないんじゃない?」
頭を失った骸骨に杖を向けてそう宣言。一度こんなセリフを言ってみたいと思っていたので、少しスッキリした彼女だった。




