第53話 う~な~ぎ美~味し♪
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「こっちのは黒くて太くてぬるぬるしてる……やんっ! あ! そこは入ったらだめなの!
きゃー! 出してーっ!」
「こっちにもぬるぬる……いやん! そんなに動かないで!」
「あっ! 出るっ! てか、出てるっ!」
「うわー! これ気持ちいーっ!」
「あの子変態だぁっ!」
「こっちは白くてヌルヌルなのが出てきた!」
「こっちのは……ちぇっ、ドジョウか。お前の箱にはウナギが入ってたのに」
「あのな、お前らなぁ……ウナギを捕まえるだけでそんな変な騒ぎ方をするなって」
「変な? どこが?」
すまん、俺が馬鹿だった。
深夜の襲撃事件からの役員の逮捕劇のあった次の日、気分転換も兼ねて数日前に設置していた長細い箱の形をしたウナギを獲る仕掛け(コロバシや地獄漁と呼ばれる)を引き上げようと子供達と支流に入ったらこの騒ぎだ。
確かに黒くて太くてヌルヌルで……天然物の食べ頃サイズの黒いウナギが六匹、それに超レアな白いウナギが一匹と上々の成果である。
肉食で下手に手を出すと噛みつくこともあるのがこの世界のウナギであるが、ぬるぬるしていてなかなか掴めないのが楽しいので子供達に遊ばせてみたのだが、次回は一人でやろうと思う。
バケツに移したばかりの時はかなり暴れたウナギだが、炊事場に運ばれた今は大人しくなっている。あとは捌いて料理にするだけだが、しかし困った。
ウナギが獲れたことはとても嬉しいのだが、タレの材料が無い。醤油、みりん、酒、砂糖があればそれっぽい物が作れると思うけど、ここでは砂糖しか入手出来ないのだ。
一年を通して程よく乾燥しているこの地域には麹菌が存在しない。だから俺が知っている製法では醤油も酒も作りたくても作れない。俺が知らないだけで何処かの地域では作られているかも知れないから、お金に余裕が出来れば探してみよう……お金ね……遥か先のことだろう。
アミノ酸液なら自力で作れるかも知れないからいずれチャレンジしてみるか。大豆から脂を絞って何かを混ぜてゴニョゴニョしたら美味しい液体になってくれる。
その何かとゴニョゴニョが問題なんだが、またチビッ子の誰かに丸投げすれば大丈夫。俺のチビッ子達に不可能の文字は無い。だってまだその単語を教えていないからね。
と言う訳で、今出来ること、作れる物だけで諦める。
村には回収して濾過した油が大量にあるから、とりあえず揚げてみることにする。
確かフライドイールと呼ばれる料理があるから揚げたウナギも食べられる。うん、大丈夫、大丈夫。
味は? 知らんよ、そんなもん。
骨も一緒に揚げたらオヤツとして食べられるだろうから、無駄は少ないからフライで我慢しよう。
マキナさんが送ってくれたテキストで熱を奪う指令魔石が作れたから、骨壺形の陶器がポータブル冷蔵庫として利用可能となっている。冷蔵庫を台車に載せた俺は天才だよ。アイロンより先にそっちを作った俺を誰か褒めて!
ミイナさんはソナートのこと等で事情聴取されてから落ち込んだままだ。やはり衛兵さんにソナートの仲間としてマークされているみたいで家から出てこないので、まだ冷蔵庫を見せていないんだよ。
冷えた水に入れただけだとまだウナギの体が冷えきっていないので暴れるけど、冷蔵庫に入れて半時間も寝かせれば大人しくなってまな板に乗せた時に暴れない。
ウナギを捌くのは初めてなので最初はかなり苦労した。目打ちして豪快に腹からカッ捌くけど、最初の一匹目はかなり残念な結果になったが、獲れたウナギは全部で七匹。一番小さな個体で試したし、一匹ぐらいの損失は目を瞑ろう。
先に黒いウナギで練度を上げていき、最後に白いウナギを捌く。これはかなりレアなので神にお供えするつもりだ。
商業ギルドで分けてもらった原材料も製法も不明の見た目は黒い泥のようなソースを用意する。
これを掛けた熱々のフライイールを試食した女の子が昇天した……エフェクト的にね。
よほど美味しかったらしく、二つ目を左手に確保してまだ、物欲しそうな顔をする。普段ならお姉さんぶって年下の子達に分けてあげているのに。
俺が貧乏なばっかりに苦労かけてスマン!
白いウナギもカラッと揚げて、バナナのような植物の葉っぱで作った舟形の皿に盛る。
お供えはあくまでついでであり、目的はステータス、スキル、ジョブなど今後の成長をどうやれば良いのか教えて貰うことだ。
ゲームだってポイントの割り振りを間違えると痛い目をみる。
それがリアルで反映されるのだから、無駄な育成は早急にやめるべきだ。
問題はそれをどうやって質問すれば良いのか、と言うことだ。供物台は一つしか作っていないので、質問は一回しか出来ないと思っておこう。
「何を悩んでいるの? と言うか何かの儀式?」
子供達がいつの間にかミイナさんを引っ張り出してきたみたいで、コッペパン擬きにソースたっぷりのフライドイールを挟んだフライサンドをパクつきながら俺を探してやって来た。どうやら美味しいは正義だったらしい。
「困った時の神頼みだよ」
「ふぅん、何か交信する方法があるんだね?
興味はあるけど邪魔しない方が良いかな?」
俺が転生者だとしても、一人の子供が村を作って運営しているのだから人知を越えた何かの力を得ていて不思議ではない、とでも思っているのだろう。
ミイナさんの気配が消えたところで地面に供物台を置くと、その前に以前と同じようにキンコジ付きの俺の絵を描く。
神に聞くのはストレートに弓、剣、槍のどれを使うのが良いかに決めた。ステータスとスキルを絵で表現出来なかったからだ。しかし絵を描く時は毎回地面だな。木の板に書いても良い訳だから、次回からそうしよう。ここには神棚が無いからお供えって感じがしないからね。
「見ていたなら分かるだ」
突然剣と槍の俺のイラストがバンと破裂し、お供えも無くなった。
神も早くフライドイールを食べたかったらしい……と言うか、お供え物が消えたのは初めてだ。本当に神の元に届いたのだろうか。
「ろぅ……せめて質問ぐらい最後まで聞けよ。
俺は射手として訓練しろってことね」
方針が一つハッキリしたので、とりあえずヨシとするか。
出来れば魔法のことも聞きたいのだが、どんなイラストを描けば良いのか分からない。
雷やファイヤーボールみたいな物を書いて、どの属性魔法に秀でているのかって質問してみるか?
それより先に魔法を教えてくれる先生が欲しい。
そこでふと何で絵に固執しているのか、と気が付いておかしく思った。
文字で書いても、あのケチ神は上から見ているのだから読んでくれるだろうって。
余談だが、ウナギを調理して出た廃棄物は養殖池で餌にしたところ、いつもよりサイズの大きなドジョウなどが獲れたそうだ。
そんなイベントから数日後。時々衛兵さんが来て話を聞かれることもあって、我が家で魔道具の勉強に励んでいた成果が出たのか、中級編までマスター出来た。
テキストはマキナさんが送ってくれたのを商業ギルドで書き写したものだ。コピーはダメとも、コピーした分は家で見たらダメとも言われていないからセーフだよね。
白ウナギをお供えした効果があったのか、今まで引っ掛かることが多かった中級編のテキストがスラスラと解読出来るようになったのだ。
まるで脳内にあった何かの制限が解除されたかのような感じがする。
指令魔石を自力で作り、マキナさんのくれた素材を加工して作ったアイロンにセットする。指令魔石に起動魔力を流し、発熱装置のスイッチをオンにして暫く待つ。ジワジワと熱くなっていき、遂に触ると火傷するほど熱くなった。
問題はそれ以上に発熱装置の温度が上がらないように温度を一定に維持出来るかだ。
一定以上の温度にならないように温度を感知してフィードバックを掛ける制御回路を組み込んでいるので、理論上は指定した温度を保つのだが。
五分程様子を見て温度に変化が無かったので成功と考えて良いだろう。
発熱装置が冷えたら商業ギルドに持って行こう。作った魔道具はマキナさんに送るって約束だからね。
次に欲しいのは自動鳥追いケンタローだが、魔力センサーはまだ開発されていないので暫くは音波式センサーで代用だ。指令魔石の構成はマキナさんがメモをくれていたのでそれを参考にして作った。
背中のカバーをパカッと開いて動力源となる魔石を入れるのだが、俺には使っていないジェネラルの魔石があるの思い出してそれを使うことにした。
アイロンは我が家に置いてあっても使わないので燃料魔石はテスト用のあり合わせの物で良かったけど、ケンタローはずっとこの村で使う予定なので良い魔石を入れてやろうと思ったのだ。
「スイッチ、オーン!」
コントローラーで前後左右に動かし、自力で畑の脇まで歩かせる。マキナさんのデモで動かしたケンタローと違ってコイツは腕もレバーで操作可能な進化型だ。
予定位置に駐機して歩行モードからカカシモードに移行する。これで音波式センサーに反応があれば手を大きく動かす予定だが、今は良い感じに鳥が飛んでいないか。
まぁ、こんなこともあろうかと竹竿に糸で吊るした石を畑の上でブラブラとさせてみた。
「ヨッシャーッ!」
石に反応して腕を動かすケンタロー改に、俺は今までで一番の興奮を隠せなかった。
◇
「遂に白ウナギのフライをゲットした……」
ジロー神の手には湯気が立つ料理があったのだ。
本来下僕であるセルバンがお供えをしたとしても、現物がここに届く訳ではない。
だが、先程貯まったばかりの10連ガチャチケットを使った結果、お供え物取り寄せチケットを入手出来たのだ。
「凄いですっ! 支流で一番のレア食材ですよ!
あっ! しかもセルバンが最初に白ウナギを捕まえたってことでリワード出てますよっ!
ボーナスポイントがヤバいです!」
「……そうか……」
「あれ? 喜ばないんです?」
「感激で言葉にならん……旨すぎるっ!」
「そっち? 確かに美味しそうですけど、食べ過ぎたら胃もたれしますから」
「これでセルバンが欲するスキルが一つ手に入るぞ」
「こっちの言うこと聞いてないな、この神……」
◇
四人の暗殺者を送り込んだ人物は大いに慌てていた。
本来であれば襲撃が失敗に終わった際には自害用に体に埋め込んだ薬を服用するのだが、二人はそれを使わなかったと推察されるのだ。何故ならあの毒入りカプセルを飲めば、ほぼ確実に即死することが確認されているからである。
若葉が食用となる白く可憐な花に酷似した毒草の根を擦り潰し、煮て残った白い粉がひと舐めするだけで人が死ぬ猛毒となるなど誰が想像しようか?
その製造過程においては湯気を大量に吸い込んでしまえば重篤な状態となるほど厄介な物であり、簡単に製造出来ない為に気軽に作れないのが非常に惜しい。
奥歯に仕込む服毒用のアイテムの開発は失敗だった。暗殺者は走り、跳び、戦う最中に奥歯を強く噛みしめることがある。
アスリートの歯がボロボロになるのは知られた話だが、暗殺者も似たようなものなのだ。
現在は仕方なく左右の腕の皮膚を一部裂いてそこに非水溶性のカプセルを仕込んで縫っている。暗殺者には手の爪が一つでも残っていれば糸を切り、カプセルを取り出すことが可能なように訓練してある。
だが、その時間が与えられなかったとしたら?
一体どのようにして?
不意に落とし穴に落とされようと、うまく受け身が取れるように訓練した一流の殺し屋達なのだ。
直接四人にコンタクトを取ったのは、協会から派遣されてきた品も知性の欠片も無い三人組であるので、我らに捜査の手が届くことはないだろう。
だが一つだけ重大な問題が発生した。
それはタトゥーの偽造が発覚することだ。この線を辿れば我らに到達する可能性が僅かばかり出てくるかも知れぬのだ。
情報屋と連絡係が上手く逃げおおせてくれればその心配も無くなるのだが。それとも先に口封じに出るべきか?
いや、それでは別の犯人の存在を報せるような悪手となるな。
既にこちらがマークされている可能性も考慮し、身を潜めてほとぼりが冷めるまで耐えるのがベストだろう。我に戦う力があれば、さっさと口封じに出るのだが、あの二人は弱そうに見せかけているが、かなりの使い手だからな。
章タイトルは畑の護衛のケンタローのことでした




