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第51話 黒幕?

 掘っ立て小屋村から衛兵達が引き上げてから一時間程過ぎた頃、とある一室に怒号が響いた。


「子供だけの村に押し入って全滅しただとっ?」


 情報を入手した男が急ぎ報告に来ていたのだ。

 男はただの連絡係であり、村に押し入った四人の内二人は袋に入れられて出てきたことを目視していた。

 他の二人も自力歩行が出来ない様子で会話から毒を受け重体であることを確認していたのだ。


「いえ、二人はギリギリギッチョン生け捕りなので全滅では……」

「それだともっと都合が悪いわっ!」

「ヒイッ!」

「ですが、その二人も毒で死にかけていたのですよ。

 ネズミに鼠駆除剤から作った毒を与えたとは洒落の効いたことをしますね」


 彼らは濃い灰色装束を着用した襲撃実行役をネズミと呼んでおり、衛兵が漏らした毒により重体と言う言葉に受けていたのだ。

 彼らの言う毒は暗殺者が任務失敗時に自殺を図る為に持たせている物のことで、殺鼠剤を煮詰めて作ることを連絡係は茶化しただけである。


「笑っとる場合かっ!」

「ヒィッ! スミマセン!」


 獣脂蝋燭が三本刺さった燭台を乗せたテーブルに怒鳴った人物の大きな拳がドンッ!と叩き付けられ、弾みで燭台が浮き上がった。


「いてて……ゴホン」

「ガキだと思って舐めていたようですな」


 手を擦り顔をしかめる男に対して、何をやっているのかと呆れた表情を見せると少し気取って言ってみせた連絡係だ。


「たかがガキ一人、奴らじゃなくても楽勝ですよ、と言ったのはどのクチだ?」

「いえ……奴じゃなければ楽勝ですよ、と俺は言ったと記憶していますが。そこのとこ、聞き間違えでは?」


 『派遣したのがあの四人以外でも楽勝だ』と言う意味の言葉を、瞬時に『殺害対象がセルバンでなければ楽勝だ』と言ったことにすり替えて惚けるとは、俺ってなんと天才的頭脳の持ち主だ! と自画自賛するヒイ連絡係である。


「なるほど、つまり儂はガキ相手に楽勝出来ないポンコツを奴らに掴まされていた、と言う訳だな」

「とんでもない! 奴らは裏の全国組織なんですから人材豊富なんです、きっとセルバンに奇跡が起きたに違いないですよ!」


 しかし彼の頭脳は天才的ではなかったらしい。

 どんな都合の良い奇跡が起これば、手練れの四人の暗殺者がたった一人のガキに負けることが出来るのか、想像が付かず適当なことを言って誤魔化そうと必死である。


「恐らく、我々の襲撃を予想していた誰かが裏で糸を引いているに違いない。あのガキはシェルドと懇意にしているからな」

「そうですよね、羨ましいですね~」

「実に羨ま……アホかっ!

 シェルドをどうにかせねば、セルバンの首を取れんと言うことだろうがっ!」


 激昂して再度テーブルに拳を叩き付けようとしたが、今度は直前で思い止まったらしい。その様子に連絡係が内心舌打ちした。


「そりゃ無理ですわ。あそこには超ヤバイのが二人居るんですから敵に回したら死にますって」

「それを何とかするのがキサマの仕事だ! 出来なければクビだっ!」

「そりゃ無いっすよ~っ! 自分は連絡係で荒事は専門外なんすよ!」


 泣き言を言いながら退出していく部下に睨み殺すような視線を送ると、怒りがまた湧いて来たのか手にしたワイングラスを思わず握り潰す。


「いてぇっ!」


 ワインと血で手を赤く染めた謎の男である。



「二人は即死かね。一人は頭に槍が直撃。もう一人は肩に槍を受けて、首を切り自害か。プロ根性丸出しだな、哀れなもんだよ」


 衛兵隊の中にも死因を特定する検視官は複数名在籍している。

 そのような者は人体に詳しく、優れた治癒魔法の使い手である場合が多い。


「それと……生き残りの二人の傷だが、この矢を射られて出来たものか」


 セルバンが衛兵隊長の求めに応じ、凶器となったクロスボウと矢を提出していたのである。


「クロスボウとはこれまた随分とマニアックな武器を使うものだ。

 非力をカバーするためにレバーで力を増幅して弦を引く。王都で販売しているクロスボウを改良してバリシアで作ったとは、ドノバンめ余計なことをしてくれたものだ。

 それでも一挺しか作っていないことだけは評価してやろう」


 衛兵隊員からのレポートを見る限り、状況的にどう考えてもセルバンは被害者であり、今回の襲撃事件に関しては何の落ち度も無い。

 町の中に怪しい村を無断で作り上げたものの、ここ一年で商業ギルドだけでなく町の多くの住民や領主までもを味方に付けている。

 しかし、読めば読むほどあまりにも見事な人心掌握を成したのがまだ十三歳の子供だと言うのだから、この先を考えると今のうちに芽を摘んでおきたいと考える者や反感を抱く者が現れても不思議ではない。

 しかし、それと武力強襲及び反撃とは別の問題だ。


「コイツは一種の天才児だよ。お前らは敵を見誤ったせいで死んで当然だったのさ。

 どうせガキだと思って下調べもろくにせずに突っ込んだんだろ……いや……大人が入れば逆に怪しまれるのが子供だけの村だな……そこまで考えて……セルバンか、恐ろしい奴だがこの先が楽しみだ」


 残念なことに完全に裏を読み過ぎである。

 遺体を前にして、このような妄想が出来る者だけが一流の検視官と成れるのだが、その職務遂行能力には推理力は無くても大丈夫である。


 検死を終えて無事に書類を纏め上げ、一仕事終えた彼はこの後無茶苦茶発射した!

 何をって? そりゃもうハイになってクロスボウを撃ちまくってましたよ! ガチャンとレバーを回転させて弦を張り、矢を載せてから自由に動き回れるのだ。

 彼には弓の才能は欠片もない、なのに狙いを付けてトリガーを引けば簡単に矢が発射出来るのだ。


「何これっ! めっちゃ楽しいんですけど! 隊長が欲しそうにしてた気分がめっちゃ分かるぅ!」


 こうしてセルバンの仲間が人知れず増えたのである……こんな人で大丈夫か?


 なお、二人の遺体はタトゥーの入った左腕を切り落とし、腕だけは保存液にポチャン。

 顔をスケッチしてからスライムの餌となる。

 ここでもスライムは大活躍であるが、その真実を知る者は数える程しか居ない。



「つまり、冒険者ギルドのタトゥーは入っているが、ギルドの記録には該当者は存在しないと言うことか?」

「はい、この四人には確かにバリシア冒険者ギルドのタトゥーが入っておりましたが、贋の登録番号です」


 冒険者ギルドのギルドマスターであるゴンダンのもとに、衛兵詰所に襲撃犯を連行したばかりのロイガー衛兵隊長自らが確認したいことがあると言って訪れたのである。

 セルバンの村で確保した捕虜二人を牢屋にぶちこみ、休む間もなく動いたのは事の緊急性を考慮したからだ。

 初動が遅くなれば犯人が逃亡する恐れがある。

 生け捕りした二人は受けていた毒により尋問中に情報を漏らすことなく死亡し、結局何も真犯人に繋がる情報を得られなかった……と言う情報を彼らは流しているが、上手くいくかどうかは運次第。


 タトゥーには登録番号が彫られているので、ギルドが保管する台帳と照らし合わせれば名前と顔が分かるようになっている……筈であり、隊長は身元確認の為に番号の照合を求めたのだ。

 だが結果は該当無しと言う予想外のものであった。


「では、何処かの誰かが冒険者ギルドの彫師を使い、四人に偽のタトゥーを入れたことになる」

「そんなことは無い筈だっ! 彫師は冒険者ギルドの正規の依頼が無い限りタトゥーは彫りません!」

「ならば考えられるとすれば、ギルドからの依頼がどこかで偽物とすり替えられたか、もしくは……考えたくはないが最初から擬装した依頼が彫師に行ったか、ですかね?」

「それは……彫師の偽物の可能性もあるのでは?」

「ふむ、闇の彫師か。それもあり得るか」


 いずれにせよ、タトゥーに偽物があると判明した以上は全幅の信用が置けないと言うことである。


「ギルドカードの偽物は前々からの懸念事項であり、タトゥーも信頼出来なくなった。

 この件が世間に漏れれば、今後タトゥー廃絶に向けて世間が動くであろう」


 それはそうだ。

 唯一無二、確実な個人認証の為にギルドカードとタトゥーの二重チェックを行っているのだから、体に不要な傷を残すタトゥーを嫌う者は多い。

 しかも所属するギルドを変えればまた入れられ、ギルドを引退してもまた入れられる……そんな馬鹿みたいな制度である。


 別に衛兵隊長ロイガーはゴンダンが悪いと責めている訳ではない。

 ずっと以前から闇ギルドの存在が噂されており、冒険者ギルドと裏ギルドが癒着しているとかツーツーであるとか、出所不詳の噂も以前からある。

 更に言えば、冒険者ギルドで仕事もせずに役員報酬だけ貰う天下りも闇ギルドと関係があるのではないかと悪い噂が絶えないのだ。

 こちらに関しては、単にギルドの体制批判の枠を越えないのだが。


 話を終えて冒険者ギルドを出たロイガー隊長は登り始めた朝日を暫く見つめてから帰路についた。

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