第50話 襲撃の結末
落とし穴に落ちた襲撃者二名を衛兵隊に引き上げてもらう。賊を穴に落としたのは良かったが、その後のことを考えていなかったのである。
子供の俺達だけで二人の襲撃者を引き上げるのは少々大変だ。
でもこれでフィルターガールズの作った網の強度が実用に耐えると証明出来たから後で褒めてやろう。
トラップに使う網ならトリモチのような魔物の分泌液を塗るって案があったけど、いざ賊を網から外す段階になったらベタベタして更に苦労するだろうから廃案にして正解だったな。
身動き出来ない人間をクロスボウの的にしたのはやり過ぎたかなと少しだけ思うが、俗に言う命の軽い世界で甘いことを言ってはいけない。
こっちの命が掛かっているのだから、非道だと避難されようが心を無にして出来ることがあればやらないとね。
網を作った時にトリモチではなく油を染み込ませて燃やす、なんて過激な発想を披露した子供が居て少々引いたのだが、実際にこうして殺意を持った人間を目の前にするとそれも少し納得出来る。あの子は過去にそれだけ強い危険を感じたことがあったのだろう。
今更だけど、増えた子供達の過去なんて全く気にしていなかった。大人だとスパイが混じっている可能性があるけど、最年長でも十二歳の子供だったからそこまでシビアに考えていなかったんだよね。
今後も子供が増えたら少し面接してみるか。
隊長さんの指揮で侵入者の二人が穴から床に引き上げられた。ボルトを射たれて出来た傷口にはスライムがへばり付いていて、これが血止めになるのでとても便利。
おかげで床を血で汚さず済んで良かった……あっ、庭には二人の遺体があったっけ。しかもあっちは槍がグサッて……処理するの嫌だなぁ……衛兵さんが身元確認の為に持ち帰ってくれるよね?
後で庭の血の跡も掃除しなきゃ。まぁ、スライムを投げておけば勝手に掃除してくれるから手間ではない。
ここでは現場の保存や遺体のあった場所を白いチョークで囲うチョーク・アウトラインなんてやらない。でも我が家の敷地で人が亡くなったと思うと複雑な気持ちになるかも。
何人かの子供が様子が気になったのか見に来たが、時間は深夜と言うこともあって眠気に負けてすぐに家に帰った。
ミイナさんもアクビを噛み殺しながら賊が確保される様子を俺の後ろから窺っていたのだが、小柄な侵入者が付けていたマスクを外され、その顔を見ると驚いたように、
「ソナートっ!?」
と名前を叫んだ。
一度聞いた記憶のある名前だが、全然顔が思い出せない。誰だっけ?
「どうしてあなたがセルバンを殺しに来たのよ!
嘘だと言ってよ!」
激しく動揺しながらもソナートと言う女性に掴み掛かろうとしたところを隊長さんが取り押さえる。
「君の知り合いか?」
「はい……隣のアンフォリン王国で知り合ってから一緒に旅をしてプライゾンに来ました」
「なるほど……そうなると……君はプライゾンの生まれとは違うのだね?」
「ずっと東のスモルシュ王国から来ました。
運良くダンジョンで宝を手に入れたと思ったら、悪い奴らに追われるようになって必死で逃げてきたんです」
ミイナさんの過去なんて初めて聞いたよ。
「スモルシュではギルドに登録してもタトゥーは入れないのか?」
「プライゾンだけです、タトゥーなんて馬鹿なことをしているのは」
なるほど、それで色々と合点がいったよ。
ソナートって元々俺とパーティーを組む予定だったけど、ドタキャンして顔を見せなかった女性だ。
「まぁ……解釈は人それぞれだからな……」
隊長さんはまだ何か思うところはある様子だが、それ以上ミイナさんには何も言わなかった。
部下に彼女を家に連れて行くように指示し、賊の二人にロープを噛ませて喋れないようにする。
キノコの成分が精神にも作用を始めたのか、頭の残念な人状態でおかしなことを言っているので黙らせておく方が皆のためだ。
「子供なのに……いや子供だからか? つくづくやることがえげつない。毒じゃなくて薬を使うとはな」
「使ったのは下水の鼠退治用の毒ですよ。材料が村に生えてたから使ってみたんです。
使えるものを出し惜しみしてたら、俺みたいなザコはすぐ殺されちゃいますから」
「君がザコ……一度図書館に行って辞書を引いてみると良い」
褒められているのか、貶されているのか。気持ち良く前者と受け取っておこう。
「しかし……うむ、今のところ運良く生け捕りではあるが、毒を使われたのならこの先どうなるか分からない。
はぁ、困ったものだ」
おいおい、隊長さんよ、何をわざとらしくお芝居しているのやら。この後に二人が死んだら俺のせいにしたいのか? それとも死んでくれていた方が都合が良かったとでも思ってる?
確かに初めて人に使った薬だからどんな作用があるか分からないけど、薬の量って体重に左右されるんだっけ? あれは子供の時だけか?
経口投与じゃないから死ぬことはないと思うけど、もし衛兵隊長が真実をねじ曲げようとするなら、その時は全力でシェルド爺さんに泣きつくからね!
折角のコネを使わないでどうするよっ!
「隊長、帰投準備が整いました!」
と、二人の遺体を専用のバッグに入れ終わった隊員がそう報告してきた。
「分かった。
生き残りの侵入者二名は毒に犯されており容態の急変もあり得る。十二分に観察を怠らぬよう努めること。よし、では速やかに移動せよ!
セルバン君、使用した毒の原料など調査があると思うが協力してくれ。他にも連絡があるかも知れんが、今は良く休むように」
「了解! 衛兵の皆さん、ありがとうございました! また何かあったらお願い致します」
何かなんてもう無いことを祈るばかりだけどね。
隊長も同じ考えなのか、苦笑しつつ手を挙げて応えると部下達の前を歩きだした。
二人の遺体も無償で引き取って貰えたし、生き残りも連れて帰ってくれたし。良かった良かった。
さて、俺の体感ではまだ日の出まで二時間ぐらいあるから寝直そう。その前にバタンと倒れた窓下の壁の仕掛けは元に戻しておこう。だって開いたままだと泥棒に入られるからね……ウチには持って行かれるような物は置いていないけど。
ごそごそと仕掛けを戻していると、家に戻った筈のミイナさんがやって来た。
「セルバン、大丈夫?」
「大丈夫だけど、どうした?」
ミイナさんが心配そうな顔をする。次は自分が襲われると思っているのだろうか?
知り合いが暗殺者だったと知って大きなショックを受けている筈なのに、その事より俺の心配をしてくれるとは気丈なことだ。
でも無理はしないで欲しい。
「いつか来るのは分かってたし、実際に来てくれたんだからこれからは大人達の対応も変わってくる。大丈夫だよ」
「そうね……」
俺の小屋は二階が居住スペースだから、下で事が起きても特に問題は無い。
路上生活していた人間のメンタルを甘く見てもらっては困るのだよ。
「俺もアレフ達チビッ子三人組も、何度も寝てる時に蹴られたり殺されそうになったりしてるから、襲われたぐらいじゃ何とも無いよ。エッフェとエンメは全然起きてないし。
寝不足になるからミイナさんも寝てね」
「うん……おやすみ」
本当はソナートのことで頭が一杯になっているのだと思うけど、彼女に対して俺が出来ることは無い。
敢えてスルーしておくことで気にするなって意思表示になると思う……ならないかな?
ミイナさんは渋々と言った様子で家に戻る。
彼女を見送ってから戸締まりをして布団に入るが、目が冴えて寝付けない。
一緒に旅をしていたと言う事実がある以上、衛兵達はミイナさんもソナートの仲間だと疑いを持っていることだろう。
敢えて仲間を売ることで、自分に疑いの目を向けないようにするって遣り方だってあるからね。
でも、転移してきたミイナさんならその可能性は限りなく低いと思う。自分に都合の良い推測に過ぎないけど。
シリアス展開や実は誰々が何々で……みたいな陰謀めいた話は得意じゃない。出来れば何でも殴って燃やして解決したい派だから、この先の展開なんて全然思い付かない。
だから俺の投稿作品は大して評価されてこなかったんだろう……って、なんでここで精神に被弾するようなことを思い出すんだよ……別のことを考えよう。
ゲーシルさん達を雇うなら一人につき大銀貨三十枚……何か良い手は無いかな……本格的にこの村を守るなら、ドルチェのように信頼が出来て戦える人に頼んで常駐してもらうしかない。
実際問題、自分の住むこの家だけなら好きに仕掛けを作って何とでもなるけど、もし今回狙われたのがミイナさんの家だったらアウトだった。干乾しレンガの家は改造が難しいからな。
そうか、さっきミイナさんが言いたかったのは俺の心配だけじゃなかったんだな。今頃気が付くなんて俺の馬鹿。
綜合警備会社も無いし、仮にあっても出せるお金が無い。実はこの村、詰んでないか?
誰が刺客を差し向けたのか分からないし、こう言うのって結構上の地位に居る人が絡んでくるのがお約束だし。
くそっ! ほんとに面倒くさい!
鑑定スキルがあれば犯罪者なんてすぐ分かるのに俺にはそんな特別な能力は無いし、この世界には科学捜査も魔力捜査も無い。
これでどうやって村を守りつつ運営しろって言うんだ?
どこかのダンジョンに行ったら、都合良く古代何とかの何とかが出てきてアレコレ良い感じに何とかなるのがファンタジー世界のお約束だろ?
それとも助けた何とかが実は何とかで何とかしてくれない?
今更そんな甘いご都合主義に期待しても無理か。
知識を活かしてシェルド爺さんや商業ギルド関係で人脈を作ったことで、ハードモードな世界ではなくなったがイージーモードでもない。
こんな面倒なことになるのなら、いっそのこと村を解散するべきか?
ステータスもレベルも無い世界で、ただ転生しただけで特殊な力の無い人間に掘っ建て小屋村の運営なんて無理ゲーだろ。
そもそも何で今更こんなに悩むんだよ。この国を脱出するために、駒として子供を集めて村を作って……チビッ子連れて高跳びなんて不可能だ。
でも俺はチビッ子達を残して一人だけで逃げ出す程の人でなし……そんな人でなしであるべきだ。
せめて何かスキルがあれば、もっと打てる手が増えるのに。
そう言えば、おれのジョブや能力ってゲーム的に見たらどうなんだろう?
冒険者ギルドでいくら剣や槍を教わったところで、弓の才能しか持っていないのなら意味が無いだろ?
ほぼ世間体の為にギルドは剣の指導をしているだけだ。各人の素質なんてそっちのけ、形式だけの訓練だ。
そう言うところから見直さないと、時間の浪費にしかならないだろう。
これは困った……困った時の神頼み、やってみるか?
でもどう頼めば良いのか。
前にやった時は三択で二つ頭が吹っ飛んだよな。
きっとイエス or ノーや簡単な選択なら文句は言われないだろう。
積極的に指示を出したり指針を示してくれたりしたら、俺も助かるのに。
そうだ、おねだりする時ぐらいは少し豪華なお供えにしてみるか。
俺が病気や怪我をせずにここまで育ったのは、あの神のお蔭かも知れないし。
そう考えているうちに眠りに堕ちた。
◇
「このゲーム、私ら神でも俯瞰的に見れないからプレーしにくいですよね」
「そうだな、下僕の視点からしか見れない仕様だが、VRだと思えばこんなもんだろ」
「そうなんですけど、基本的に放置ゲーでこの仕様は変ですよ。
しかもインベントリもマジックバッグもアイテムボックスも無課金じゃ持てないですし。ホント人間って不便な生き物ですよね。
わざわざゲームで不便な思いをするのって罰ゲーム仕様ですよね?」
「リアルさが売りのゲームだからな、課金しないのなら不便を受け入れろ。別にトイレを催す訳でもないんだから」
「うーん、確かに下僕がトイレのたびにこっちまでトイレに行かなきゃならないのなら大変ですね。
不便を我慢しますか。さて、次の空き缶用意してきますね」
ケント神のニューゲームが何度目だったかと記憶を探り、知っているだけで次が四人目なのは早すぎないかと少し心配になるジロー神であった。




