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第49話 慈悲は無い

暴力シーンがあります

「遅いっ! まだ帰って来ぬとはどう言うことだ?」

「まさか、あのガキを逃がしてしまって探しているのでは?」

「さすがにそれはあるまい。しかし、たかが子供の始末にいつまで掛かっておる? 報酬を減らす口実を作ってくれたと喜ぶべきかは」


 獣脂蝋燭が三本刺さった燭台が照らす一室で、三人の男がセルバン殺害を依頼した四人の帰りを待ちわびていた。

 だが、セルバンをただの掘っ建て小屋に住むただの少年だと甘く見ていた襲撃犯が戻って来ることはない。


 この三人もセルバンに武の才が大して無いことは良く知っている。

 セルバンと共に暮らすミイナや多くのチビッ子達は戦闘訓練さえまともに受けていないのだから、殺しのプロの四人がセルバンに返り討ちにされる確率など無いに等しいと考えて当然だ。

 それが鉄条網替わりのトゲ付き植物、防犯砂利、そして小屋の仕掛けによって全滅したのである。この事実を知れば、三人はどんな反応を示すだろうか。



 何処かで誰かが来ない報せを待っていることなど知る訳の無いセルバンは、くっつきそうになる瞼に抗いながら罠に掛けた二人を監視していた。

 深夜に響いた板の倒れる音にミイナが起きてやってきたのでお使いを頼み、帰りをまっているのだ。そうでなければ、とっとと床板を元に戻して二階で眠りに就く予定だった。

 

「うーん、まだ効かないのか。人間用にはもっと濃度を上げないと駄目か。鼠にはめっちゃ効いたのにな」

「……何をした?」

「何って、勿論楽しい楽しいお薬の人体実験だよ。良い具合に被験者が来てくれて助かるよ。

 でも報酬は出さないから。だってウチは貧乏してるから……こりゃ言ってて悲しくなる」


 手足を撃ち抜かれた侵入者二人はまだ意識があった。

 セルバンが撃った矢には、見た目は可愛らしいが毒のあるキノコから抽出した液体を塗ってある。

 食べると体が痺れたり幻覚を見る毒を持つキノコであるが、上手く使えば麻酔薬の原料となる。

 一週間程前にカミィさんとカマーンさんが村を訪れた際、切り株に生えていたキノコに気が付き商業ギルドで調べてくれたのだ。

 路上生活をしていたチビッ子達も、キノコだけは手を出すなとセンパイから口を酸っぱくして言われていたので食べることは無く、ずっと放置してあった。

 もし食用キノコであればラッキーだと考えていたのだが、結果を聞いてガッカリした。以前のカエンタケもどきと同じように、どこかの誰かが良い感じに調査してくれたのだろう。調査手段については気にしてはいけない。


 折角生えているのだから、商業ギルドには内緒で有効利用させてもらった訳だ。

 正しい成分の抽出方法も用量も知らないけど、切って煮て濃縮すれば何とかなるだろう、と考えて実験台として内緒で下水道の鼠に与えてみた。

 するとラリった鼠が巣穴から出てくる出てくる。

 毒餌だと巣穴の中で死んでしまうので屍体の回収がかなり手間なのだが、自発的に姿を現してくれるのだから拾うだけの簡単なお仕事だった。下水管の中は臭いけどね。

 そんな役に立つ毒キノコだが、この効果がどこかにバレたら間違いなくマジックマッシュルームに指定されてしまうだろう。


 改めて調査報告書を見ると、『食することは可能であるが食べても美味ではない』と小さな字で書いてあったので、死刑囚とか犯罪者の食事に混ぜたのかも。

 エキスを抽出して混ぜた毒餌は鼠には抜群の効果があったのだが、どうやら毒矢として使っても効果が無いのか、それとも効くまでに時間が掛かるのか。


「ちっ! ころへ……ん?」


 クロスボウで撃ち抜かれた痛みをものともせず、反抗的な態度を見せていた二人だが効果が現れ始めようだ。

 奥歯に仕込んだ毒か、舌を噛み切って自害するシーンも時おり見られるが、この世界にはそう言う発想はないとゲーシルさんから聞いている。

 実際に奥歯に毒を仕込んでたら、うっかり噛み砕いてしまいそうだから実用性は無い。

 舌には血管が通っていないから切れても失血死は起こさない。その代わりに窒息のリスクがあるそうだが、意図してやっても失敗して痛いだけだろう。


「さっさほ……ころへぇ」


 手足は動かないようだが口の動きは少し鈍くなってきているぐらいか。何にせよ二人とも生きているのは好都合。


「殺すわけないよ、君らは一日三ショック薬漬けの好条件の被検体だから。

 肌を溶かす薬品のモニターなんて知り合いには頼めないから君達が来てくれて感謝だよ」

「くるた……かがくひゃきろり……めぇ」

「何とでも言ってくれ。科学の進歩のためには多少の生け贄は必要なんだよ。人殺ししか脳の無いお前らでも、人の役に立つことが出来るんだから感謝しろや」


 肌を溶かす……これは嘘。やったとしても植物のアレルギーテストぐらいだよ。でも闇ギルドなら、こんなヤバい依頼を出しても受理してくれるのかな?


「……ほんなおろひ……じひょぉふる……をもぅか?」

「自供って、悪いことをやった自覚があるんだ。

 俺は夜中に訪ねて来たぐらいじゃ怒らないよ。だってね、ずっとお前らみたいな馬鹿が来るのを待ってたからさ」


 冒険者ギルドでずっと感じていた刺すような視線は、恐らく俺に敵意を持った者が放ったものだろう。

 賄賂によって懇意にしている職員からも、それなりに警告が発せられていたし。


「幻覚を見る薬で楽しい夢を見させてやるから安心しろ。それと……」


 二人の体の上にトとポイポイっとスライム達を投げ込む。

 

「おトイレ処理用のスライムを貸してやるから用が足したくなったら遠慮いらないよ。

 早いとこでっかい方をしないと君ら自身が溶かされるから気を付けてね」


 スライムは雑魚魔物だが、屍体を処理する能力がある。手足をクロスボウで撃たれ、薬でまともに動けない体が餌になるのは時間の問題だと二人は思うだろう。

 このスライム達は水鳥の廃棄部を食べてお腹一杯のはずだから、いつ食事を始めるかは分からないのが問題だけど。


 こんな脅しを楽しくやっているうちに、残念ながらミイナさんを先頭にして隊長マーク付きのヘルメットを被った衛兵さんと部下数名がやってきた。

 ミイナさんに我が村の幹部アルフをお供に付けて、夜道の中でも衛兵を呼びに行かせておいたのだ。

 冒険者ギルドに行く必要はないのか、だって? そんなのは知らんよ。


「真夜中なのに使い走りをさせてすまなかった」

と先に二人に謝っておく。


「無事で良かった」


 ここでハグの一つでもしてくれたら嬉しいのだが、ミイナさんにそう言うサービス精神は非搭載のようで残念。


「後はこっちに任せて寝てくれ。ミイナさんも家に戻ってて」


 我が家には時計が無いので時間は分からない。だがまだ外は真っ暗なのでさっさと寝てもらおう。

 アレフは何も言わずに二階に上がり、ミイナさんは衛兵さんに外に出るように促されてたが、まだここにいるつもりらしい。顔は青ざめているから無理しなくて良いのに。


「さてと、ここからが本番ですかね」

と隊長に話し掛ける。


「夜盗に襲われたとのことだが、賊は四人か?」

「はい、二人は家の外で撃退して、二人は捕獲してます。捕獲した二人は足の下に居るよ」


 回転床のロックを解除して網に掛かった二人を隊長に御披露目する。スライムにたかられ、ゆっくりと溶かされ始めて平気で居られる人間なんて多くは居ないだろう。服だけ溶かすような器用な真似が出来ない我が家のスライムは、血の匂いに反応して傷口に集まっているようだ。

 スライムに溶かされる恐怖で良い具合に気を失ってくれていればと期待したけど、二人ともうっすらと意識があるみたいだ。


 二人に撃った矢は糸を繋いで回収出来るようにしておいた物を使ったので回収済み。

 先端は硬い素材にしてあまり尖らせずにいたので、撃っては回収してまた撃ってと耐久テストをした訳だ。


「しかし、この家は要塞か?

 壁にはトゲ付き植物、音のなる小石、槍が降る仕掛けに床が落とし穴とは」


 隊長マーク付きが呆れた顔をする。


「俺みたいな路上生活をしていた者が稼ぐようになると、面白く思わないヤツが出てくるのは分かってましたから、いつ襲われても良いように備えておいたんです」

「なるほど……そうかも知れんが……」


 腕を組んで考えごとをしているようだ。


「植物と小石はまだ分かるが、槍が降る仕掛けに落とし穴はやり過ぎでは? どの活劇を参考に?」

「全部空想ですよ。劇を見るお金なんて無いし、日乾しレンガの材料を採る為に掘ったから穴があって当然だし。

 仕掛けはチビッ子達のスキルアップの為に、面白いアイデアがあったら作って良いよって言っておいらた、いつの間にかこんな大掛かりなのが出来てたんですよ。

 言っとくけど俺のアイデアじゃないですからね」


 俺が工房でクロスボウを作っている頃から構想を持っていたらしく、ケンタローを作って居る間に匠達がやっていたのだから俺は悪くないだろ?


「穴の中に居る二人の傷は?」

「俺専用の武器で撃ちましたよ。かなり癖があって軍は採用しない代物です」


 壁に立て掛けておいたクロスボウを指で示す。


「王都にある対巨大生物兵器の小さいやつか。クロスボウと言う名前だったか。確かに王都で販売していたな」


 はい? そんな素敵な兵器があるんですか?

 是非一度見たいです。勿論発射シーンもね。


「確かにその武器は軍では採用していないな。

 初期費用、維持費、消耗品、どれも弓より高い上に飛距離が足りん。近距離なら弓より威力はあるが連射性能に劣る中途半端な武器だったな。

 私ならそんな物に頼らず、体を鍛えて弓を持つことを薦めるな」

「詳しいんですね。親方達は初めて見たと言って喜んでましたけど」

「私は弓が苦手でな、王都に行った際に武器店で試し撃ちをしたのだよ。

 王都の物と多少の差はあるが、台座に金属製の短い矢を乗せているので基本は同じだ」


 隊長さん、実は武器マニアなのかも。


「撃ってみます?」

「良いのか?」


 普通に喜んだ隊長さんが生け捕りにした二人のうち大柄な方の左右の足に更に穴を一つずつ増やしたが、それだけでは物足らなかったのか、捕虜以外の的が欲しいと言ってきた。

 それならさっき囮に使った俺のカカシを出そうとしたけどやめた。だって俺じゃなくても俺だもんね。



「村の匠の腕は大したものだな。槍が連動して落ちてくるのが面白い」

「私としては王都の対巨大生物兵器を見てみたいです。アレを荷馬車に載せてヒャッハーしたら楽しそうですよ」

「まさしく気違いに刃物野菜だな」

「やだなぁ、その例えは古いです。最近はそんな暴力的な言葉は使わず、馬の耳にワイヤレスイヤホンで念仏って言うんです」

「臆病者の馬にイヤホンは確かに暴走しそうだな」

「でしょ、夕べ寝ずに考えたネタなんですよ。だから今朝遅刻したんです」

「いつもお前の力の入れる場所がずれている気がするが。ところでお前の今の下僕は何をしている?」

「あー、聞いてしまいましたね。さっき肩に槍を受けて自害しちゃいました。結構真面目に育てたキャラなのに残念デス。このゲーム、デスペナ食らってもリスタートが無いから困ります」


 これはまたずいぶん身近に敵が居たものだと呆れるジロー神であった。

セルバンが闇過ぎての没にしたシーン。でも半分やってる。


 セルバンは落とし穴に落ちた二人の左右の手首や腕などに貫通能力の低い矢を撃ち込んでいた。体に生えた矢が網に引っ掛かるようにして自由を奪う為だった。

 コイツらは蜘蛛の糸に掛かった毒蛾だ、と無理矢理自分を納得させることで淡々と行ったのだ。

 なお、このクロスボウの発射口には痺れ薬を入れたポットと、矢に薬を塗る刷毛をオプションで装着してある。

 セルバンは手袋を填めて矢に触れている。

 その理由は薬に触れるのがイヤと言うより、人を射た矢を回収して何度も発射する鬼畜行為を取る為、血に触れるのがイヤだったからだ。


 折角生かして捕らえた二人に自殺されては堪らないと、最初は奥歯を抜いたり歯をヤスリで削ったりと鬼の所業と思われても仕方ないことまでやろうとしたのだが、二人を引き揚げることが出来なかったのでそれは断念した。実際には歯の中に毒を仕込んでいなかったのだから、無駄な苦労をせずに済んだのだ。

 二人が捕まった場合にはどのように供述するかを予め打ち合わせていると思われるが、尋問の段階で酒なり薬なりで精神的なガードを崩すぐらいはやってくれるだろうと勝手に決め付けていたセルバンであり、それは正しかった。

 麻薬の一種を使用し、正常な判断能力を奪う手法が確立されており、スライムに手足を溶かされ恐怖を植え付けられていた捕虜二人が薬に屈するのは早かったのである。

 セルバンが情報源に簡単に死なれては困ると、殺さないレベルで残酷な仕打ちをしたことは後処理を引き継いだ者にちゃんと役に立ったのだ。

 その行為を楽しんでいなかったと、彼の人間性についてはその事だけ評価しよう。


 もし捕らえたのが一人なら嘘を言っても確かめようが無かったが、二人なら証言に齟齬があった場合にはどちらかが嘘を言ったのが分かる。

 ここに二人を捕らえた大きな意味があり、却ってそのことがセルバンに余計な心理的負担を追わせたことは間違いない。

 だが意外にも彼が心に深い傷を負うまでには至らなかったのは、彼の中では今の光景がどこか現実離れしたように思えていたのかも知れない。若しくは誰かに操られたいたのかも。

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