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第48話 望まぬ客

残酷な描写あり。

 領主様が冒険者ギルドとトラブっていると知り、バブル期の華金でもないのに心がざわつく。


「そう言えばミイナちゃんが折角パーティー組んだのにセルバンが遊んでくれないってボヤいてたわよ」


 それはケンタローを組むのに忙しかったから仕方ないのですよ。文句は領主様に頼む。

 ちなみにケンタローの人間部分を取り替え式にしようと、匠を筆頭に技術系のチビッ子達と毎日勉強会を開いているので女子に構っている暇は無い。


「男だけ集まって玩具で遊んでるんでしょ。そりゃ怒るって。釣った魚に餌やらない派?」

「釣ったって人聞き悪い。元々はゴンダンさんに押し付けられて……そう言や、誰かの代わりにミイナさんが来たんだけど、誰だっけ?」

「そんなの聞かれても知らないわよ」


 名前しか聞いてないし、忘れて当然か。


「確かミイナさんと同じぐらいの年齢で、ミイナさんがかなり美人だって話してたけど」

「美人さんね……ミイナちゃんしかウチには来てないわよ。他のギルドに所属するにしても、誰かに紹介されなきゃ無理だからね。セルバンにフラレて風俗に行ったのかもよ」

「フラレたのは俺の方だし。その人、ジェネラルが出たって聞いて怖くなって冒険者辞めたんだよね」

「そうなの? 町中のお使い依頼だけじゃ満足出来なかったのね。それにしては変ね」

「そう?」


 急と言うか突然過ぎたし、あの時はカミキリ虫のせいでミイナさんにフラレたと勘違いしたから特にその人のことは考えなかったな。


「美人さんのことはどうでも良いや。領主様のことは御愁傷様ってことで置いといて。

 あ、それと皮の処理方法を教えてもらうように申請してたの返事まだかな? あれから結構時間経ってる」


 ゲーシルさんの案で狩った獲物の皮を村で加工する仕事を始めたくて、業者さんに連絡をしてもらったんだけど反応が無いから困ってる。


「ギルドの中でも閉鎖的なところはあるからね。でも皮の加工って人気が無い仕事だから人手は欲しい筈なんだけど」


 ここじゃ革製品の需要は高くて加工職人は高給取りって聞いた。でも剥ぎ取った皮を革に仕立てるまでの作業は、前世では絶対にやりたくない作業なんだよね。脂を削いで薬品に浸けて煮るんだっけ。


「あそこは訳ありの人も出入りしてると噂が立ったこともあるしね。駄目ならさっさと諦めて違うことに取り組みなさい。網も作り始めたんだから、そっちで頑張りなさい」

「そうなんだ。皮の処理は村では無理か。なら網で耐えるか」


 畑に張る網を作る為にフィルターガールズを任命したんだ。根気よく作業を続けてくれる子達なので、しっかり技術を習得して戻ってきた。

 中古品の糸紡ぎの道具を修理して糸を内製化し、編針を使って黙々とやってくれてるんだよね。

 糸が作れるのだから機織り機が欲しいとこだけど、さすがにお値段が高いし置く場所も無いので諦めた。新たに機織り小屋を作って、鳥の着ぐるみ被って覗いたらダメよってやりたかったのに残念だ。


 村で出来ることが増えていって、収入は微増だけど充実感はある。次は鍛冶に手を出したいけど、燃料代の問題があるから難しいね。



「行くぞ」


 月の無い星明かりだけの夜のことである。黒い服で身を固めた四人が掘っ建て小屋村を訪れた。

 同じ形の日乾しレンガの家がずらりと並ぶエリアを通り抜け、共有施設の炊事場や公衆トイレを興味深そうに眺めつつ奥へ進む。目指したのは日乾しレンガの壁に四方を囲われた木製の建物だ。


 商業ギルドが何やら実験の為に建てたと言う二階建ての小屋……小屋と呼ぶにはいささか大き過ぎる建物には、男子四人、女子二人が寝泊まりしていることは把握済みだ。


 二人がレンガ造りの壁の前に並ぶ。レンガの壁の高さは二メートルを少し超えており、三人の中で一番小柄な者では手を伸ばしても乗り越えるのは難しいだろう。

 だが大柄な二人がしゃがむと小柄な一人がその手に乗る。そして二人は勢いよく小柄を壁の上へと押し上げた。過去に何度も練習した動作だけに淀みない。

 小柄が楽々と壁の上に両手を付いた途端、キャッと悲鳴を上げた。


「どうした?」

「トゲが手に刺さった。

 この壁の上と恐らく裏側にはトゲのあるツタがぎっしり伸びている」

「面倒な真似を! 通る場所を確保しろ」


 壁にある門には内側から閂が掛けてあった為に壁を乗り越えるルートを選んだ四人組だが、思わぬ無駄な時間を使わされたものだと舌打ちする。

 軽装の彼らにとって、このトゲは気を付けないと軽くケガをする凶器である。


 トゲのあるその植物はサルトリイバラの変種であり、食用の実が生るのを知っていた子供が大した考えもなく壁に這わし、セルバンもそれを見てトゲが鉄条網の替わりになりそうだ、と壁に這わしたまま放置していたのだ。


 剪定鋏を持って来なかったことを後悔しながら、ナイフでツタを切って四人がやっとの思いで壁の上に立つ。

 身軽さに自信がある彼らは僅かな時間差をもって軽やかに壁から飛び降りた。


 ジャリッ! と足元から思った以上に大きな音が響いた。防犯砂利擬きが壁の内側にばら撒かれていたのだ。


 気が付かれたか?

 焦る気持ちはあるが、ターゲットはろくに剣も振れない子供達である。音に気が付き起きたとしても、殺してさっさと逃げれば良いだろう。残る三人も壁を飛び越え小屋に走り寄る。


 小屋の入り口にも内側からしっかり閂が掛けられていた。

 元々は路上生活をしていたガキがどうしてここまで守りを固めているのか理解に苦しむ。


 力付くで押せば倒れるような雑な作りの小屋を想像していたのだが、これは立派な一軒家である。小屋を建て替える前に計画を実行しておけば良かったと後悔したがもう遅い。

 ドアからの侵入を諦め窓からの侵入へシフトする。しっかりした作りの鎧戸が設置されていることに驚きつつ、隙間から細い工具を差し込んで器用に掛け金を解除し左右の窓を開放する。


 鎧戸の向こうにはガラスの付いた窓など無いので侵入を阻む物は無い。

 先程トゲで手をケガした一人が窓枠の下に手を掛け、その上に飛び乗ろうとヒョイっと軽くジャンプし身を踊らせた。


「キャッ!」


 手に全体重を預け、勢いを付けた足が窓枠に着地する筈であったが、窓枠に足が付く直前に抵抗もなく壁が外れて外側に向かって一気に倒れたのだ。

 どうやら見た目と違って窓の下の壁は人一人分の重さにも耐えられない程に貧弱な作りだったらしい。

 外見はそれなりに整った小屋であるが、商業ギルドが支援したと言っても所詮は路上生活をしていた者向けに有り合わせの材料で建てたものだったようだ。

 見た目に騙され警戒を怠った己の浅はかさを後悔したことだろう。


 だが実際には大工の腕が未熟だった訳でも、材料がボロかった訳でもない。

 外からの侵入を警戒したセルバンは、窓の下の壁を外からの一定以上の荷重が掛かると外れるように細工を施しておいたのだ……いや、本当は匠の仕業である。


 この窓と倒れる壁のある部分は元々はドアだった。そこに窓と壁を後から追加することで、こんなトラップが出来たのだ。

 昼間に見れば怪しげな雰囲気で気が付いたかも知れないが、月の出ていない夜を選んだ彼らがその違和感に気が付かなかったのは仕方がない。


 それでも小柄な侵入者は体術に優れた者であったので、とっさに背中から上手に落ちて重傷を負うことは回避した。

 ただ度重なる嫌がらせを受けたことで、セルバンに対する怒りを覚えられずにはいられなかったが。


 後ろの三人が支えてやれば良かったのだろうが、何が起きたのか理解出来ずに思わず左右に飛び退いたのもまずかった。

 地面を叩いた壁は板一枚のちゃちな物だったが、深夜に板がバタンと倒れれば盛大に音を立てる。子供しか住んでいない村でもわらわらと集まってこられれば厄介だ。

 結果的に軽い打撲傷を負った程度の被害であり、セルバンの処分には支障は生じていない……と思った彼らだが、最大の不幸がこの直後に降り注ぐ。


 倒れた板に注目していた為に、壁が倒れることでロックが外れ、屋根に仕込んであった槍のような武器が何本も頭上から落ちてくるのに気が付かなかったのだ。

 板を避けようと左右に飛び退いた二人の頭上から落ちた凶器をまともに頭に受けた一人はその場に倒れ、もう一人が肩に槍を受けて瀕死の重傷を負う。


 それでも残った二人の侵入者には、ここで作戦を中止する選択肢は無かった。

 小賢しい細工で仲間を殺られた怒りをセルバンにぶつけなければ気が済まないし、目標未達成ではおめおめと帰還出来ないのだ。


 犠牲を出したが小屋への入り口は出来ている。そこから無断で入ると、

「それね、また仕掛けをセットするのが面倒なんだが」

と、侵入者を待っていたかのように二階から降りてくる足音を立てながら、セルバンが二人に声を掛けた。


 部屋に人影がニュッと見えた瞬間、馬鹿がノコノコと姿を現しやがったとばかりに二人は反射的にナイフを投げつけた。


 暗い室内では投擲のモーションすらろくに見えない上、普通の人間に易々と避けられるようなスピードではない。

 ナイフは狙いを違えずダッダッと音を立ててセルバンに突き刺さった、はずであった。


「バーカ! バーカ!

 引っ掛かりやがった! クククッ」


 だがセルバンも馬鹿ではない。深夜の侵入者の前に無防備な姿を曝す訳はなく、次に畑に設置する予定の案山子を身代わりとして差し出していたのである。

 チビッ子達の悪のりと器用さが、セルバンと見間違えるような逸品を作りあげたのだ。


 ビビリのセルバンは部屋に入らず、通路に隠れて案山子を操り、挑発するような笑い声を立てていた。

 ここまで上手く仕掛けに填まってくれたのだから、笑いも出るだろう。


 こけにされて怒りを覚えた二人の侵入者は、新たにナイフを取り出す。

 セルバンが壁に隠れて案山子を操っていい気になっている内に、一気に駆け寄り斬り伏せようと決意したのだ。接近戦に持ち込めば、ろくに剣の使えないセルバンに遅れを取る恐れはない。


 そして二人は躊躇なく狭い部屋を一直線に突っ切ろうと駆け出した。


 バタンッ!


 しかし、部屋の中央付近の床板を踏んだ瞬間、突然床板がクルリと回転して落とし穴を作ったのだ。

 さすがにこれを回避するのは不可能であり、二人はなす術もなく板の隙間から落とされてしまった。


 床の下は日乾しレンガを作る粘土を採集するため掘った穴だ。

 床板の裏側には丸い棒が取り付けてあり、両端部分をU字形に削った穴の壁に棒を嵌め込んでくるくると回るようにしてある。


 それでは生活に支障が出るので普段はロックを掛けて回らないようにしてあるが、レバー操作で軸の拘束が外れる仕掛けだ。

 この仕掛けはセルバンが匠の称号を与えたチビッ子の会心の作である。

 彼にタクミの名前を与えなかっただけマシだろうと思っているのはセルバンだけだ。


 ちなみにその匠にはドイツ語のマイスター meister をもじってメイザーと名を付けたのだが、かっこ良すぎたか?と後悔しているのもセルバンだけである。


「血で汚したくはないんだが、逃がせばまた来るんだろ?

 なら。ここでバイバイだ」


 床の穴にはネットが張ってあり、落ちた二人はそのネットの目に両手両足を嵌め込み、逃げ出そうともがいているがなかなか上手くいかないようだ。

 セルバンは無防備な背中を曝している二人にクロスボウを向け、笑みを浮かべることなく何発も発射した。


 屋根から落ちてきた槍を肩に受けた侵入者は作戦失敗を悟り既に自害しており、今回襲撃に参加した四人は全てセルバンに倒されたのだ。



「真夜中の襲撃か。本丸は誰か知らんが敵も焦れてきたようだな」


 モニターを眺めつつ、ピーチ果汁入りの缶チューハイを傾ける神。

 デイリーガチャで運良く『見守り君』と『報せる君』を引き当てたことで、セルバンの小屋に襲撃犯が迫ったことを知ったのだ。

 見守り君を使えば一時間だけ下僕の周囲にドローンを飛ばすことが出来て、報せる君は下僕にピンチが迫った時にプレーヤーに自動的にアラームを出す。


 デイリーガチャで出てくるのは、殆どが下僕に与える食料や多少の賃金上乗せか、幸運ポイントぐらいであるが、1万分の1の確率で見守り君、報せる君等の直接下僕を監視するアイテムや、下僕の仲間に知恵を授ける貴重なアイテムが出てくるのだ。

 匠が作った回転床のトラップも実はガチャアイテムを使ったからである。

 幸運ポイントが貯まると下僕にランダムでラッキーなイベントが発生する。なお、マジチュアでは課金しなければラッキースケベは発生しない。


 侵入者達は防犯砂利によって侵入がばれたと思っているだろう。

 だが壁を這わせたイバラの中にワイヤーを仕込んであり、そのワイヤーが引かれると小屋の中にある鈴を小さく鳴らす仕掛けになっていたのだ。

 侵入者が一人であれば二階からクロスボウを発射して撃退するのだが、四人居たので落とし穴に誘い込む方が早いとセルバンは判断していた。

 匠が施した掘っ建て小屋の回転床はジロー神も知らなかったのでハラハラしていたのは内緒である。

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