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第47話 封が開く

「領主様って手紙を出すのにこんな大きな箱を使うんだね……大人が一人入れそうな大きさだし」


 家の玄関口まで運んでもらった大きな木箱は、蓋を釘で打っていたので開封には釘抜きが必要な程頑丈に止められていた。


「確かにこれなら誰かがこっそり覗き読みしないだろうけど。箱は返さなくてもいいよね?

 こう言う物は幾つあっても足りないし」


 木で棚を作るにも木材が必要であり、安い板でも気軽に買えるような余裕はない。使える物は何でもリサイクルするのがこの村のルールである。


「そう考えたら鉛筆って贅沢だったな。削りカスは捨ててたし。今なら焚き付けに使って灰は肥料にするよ」


 所変われば品変わると言うが、俺の場合は場所だけでなく立場も大きく変わったことがリサイクル生活を強いられる大きな要因だな。

 箱を開けていると、畑担当の男の子が走ってきた。名前は何だっけ? 子供がたくさん居るから覚えきれてないんだよ。名前を付けるのも一苦労だし。

 確かこの子の家族にはヒンディー語の数字で名前を付けたような……エーク、ドゥー、ティール、チャール……これだな。


 よし、それなら次は胸に付ける名札でも作ろうかな……いや、ダメだ、安全ピンやクリップは鉄が必要だから村では作れないや。穴を空けずにゼッケンを止めるプラスチックの器具はプラスチックが無いから問題外。

 待てよ、クリップの材料ならカミィさんに頼んだら格安で分けてもらえるかも。それとも竹を火で焙ってバネを作ってみようかな。竹があれば玩具も作れるし竹で試してみるか。


「村長、今日ラトおじさんって人が食べ物をたくさん持ってきてくれたよ! 村長と今日会ったって言ってた」

「今日会ったラト? だれだっけ? ラト、ラトル、ラトレ、ラトロウ……どんな人だった?」

「優しそうな人で、少し恐そうなお友達を四人連れてた。凄く偉い人だって」


 それだけの情報では誰か分からないが、今日会ったのはシェルド爺さんとサティアさんを除くとマキナさんと領主様だけ……ってことは領主様だよね。

 時間があまり取れないって言ってデモを途中で抜けたのは、俺が居ない時に村を見て回るつもりだったからか。まぁね、こんな村には見られて困る物なんて無いから大丈夫……だよね?

 特別な装置や魔道具や食べ物なんて無いし。同情は買ってもひんしゅくを買うことは無い!


「で、ラトおじさん達は何か言ってた?」

「えーとね、お風呂見てビックリモンキーして、おトイレ見てマジカル!って叫んで、穴蔵の滑り台で何度も遊んでた、あとハネツルベーをどこかに作るとか」

「良い歳こいたオッサンが何やってんだか……それで俺の家には入った?」

「うん、何も無いってすぐ出ていって、僕のウチに入って教科書見て感激してたよ」


 確かシェルド爺さんが商家だと八歳ぐらいで勉強を始めるって言ってたから、チャールも勉強をしているんだよ。俺が八歳の頃って夏休みに朝顔の観察日記をつけてたかな。


「あっ、それで帰る時に今度ここでご飯を食べたいって」

「まさか、いつでも来ていいよとか言わなかったよね?」

「ううん、いいよって言ったよ。でもね、難しい仕事が無事に終わったら連絡する、みたいな感じのこと言ってた」

「そうか。留守番ありがとな」


 八歳児でこれだけ覚えているとは利口だなとチャールの頭を撫でてやると、年相応に嬉しそうな顔をする。これがあと何年続くかと考えるのは、俺の心が汚れてるから?


 箱の蓋を開けるのは一時中断して穴蔵へ行って、自称ラトおじさんの置いていった袋の中を(あらた)める。

 主食の小麦粉とトウモロコシ、果物が色々、それと木箱に入った焼き菓子だった。これが少し昔だったら内緒で果物を一つずつ取ったと思うが、今は皆で分けあうのが当たり前なのでそんなことはしない。

 チャールもぐずることがないので、コイツ本当に八歳児かと疑ってしまったのは内緒だ。


 気を取り直して手紙が入っている筈の無駄に厳重な箱を開けにかかる。

 全ての釘を釘抜きで丁寧に抜いて、蓋をずらしてみると梱包材代わりの乾燥した草がびっしり。

 シロツメグサ、つまりクローバーだ。きっとノーフォーク農法で畑を休ませる時にクローバーを育ててるんだろうね。

 たかが手紙一つに何を考えているんだろう?と領主様の正気を疑いつつ手を突っ込んでみると、すぐに硬い感触にぶつかった。

 クローバーをどけてみると、今日見た魔道具のパーツじゃないか。そりゃ重たい筈だ。


「領主様からの預かり物って御者のおじさん言ってたけど、これを俺に渡す意味が分からないな。

 あ、中身はすかすかで軽いかも知れないって、魔道具の中身が無いって意味か。つまりこれは模型だな」


 さらにクローバーを出していくと手紙も入っていて、要約するとマキナさんが寄贈した物だが要らないからお前にやると書いてあった。

 組立要領も入っていたのでペラペラとめくってみると、制御装置になる指令魔石と動力源となる魔石をセットすれば動かせるらしい。

 フレームや外格が硬いのに、大きさのわりに軽いのはただの金属ではないってことかな? 異世界固有の素敵素材を使っているんだろう。

 やる、と言われたら受けて立とうじゃないか。完璧に組んでやるぜ!


 それから二週間、工具の都合で思わぬ程時間が掛かったが何とかケンタローを完成させることが出来た。

 だが我が家には置き場が無いのでマキナさんには悪いが畑の隣にカカシとして置いてある。動かないので面白く無い。着せ替えを楽しむ為の捨てる服もない。

 たまに小さな子供が馬の背中に乗って遊ぶだけのオブジェに成り果てた。

 鳥は? 慣れたら寄ってくるみたい。動かぬケンタウロスなんてこんなもんだよ。


 一部の男のロマンを理解出来ない一部の女子に冷たい視線を浴びせられたが、それでも作っている最中は楽しかった……こうなれば是非とも動かしたいっ!

 そんな欲求が高まっていったある日のこと。

 商業ギルドに立ち寄ると、受付嬢からサティアさんの部屋に行くようにと指示があった。


 ノックをして返事を確認してからドアを開ける。俺のビジネスマナーは多分完璧だな。


「いらっしゃい。マキナさんからセルバンに荷物が届いたよ。アイロンを作る材料一式と魔道具作成のテキストね」

「ありがとう。お礼の手紙を出したいけど」

「こっそりうちの定期便に載せてあげるからタダでオッケーだよ。その代わり晩御飯をご馳走になるから」


 サティアさんの一番の目当ては露天風呂だと知っているけど、子供達が懐いているからお風呂ぐらいは使わせてあげよう。

 燃料は薪や畑で出たゴミやら色々かき集めるので大変だけど、食材を持ってきてくれるのでそれでチャラだね。それに風呂を沸かす時の火でついでに晩御飯も作るし。

 村には肉屋で解体している子が一人居て、廃棄する部位を村で引き取るようにしてくれたから少し燃料事情は良くなっている。

 ただし臭いの問題があるので、高い煙突を作ろうかどうしようかと悩んでいる最中だ。今でも2メートル程のレンガの煙突を付けてるけど、もう少し高くした方が煙の拡散効果が高くなって環境にも良いと思う。


 町の中でも大きな食堂や鍛冶屋なんかは色々な物を燃やしているから、うちだけが文句を言われることは無いと思うけど、皮や骨は燃やすと独特な臭いが出るからね。

 以前は焼却ではなくスライムに食べさせていたので町の中でも無臭処理が出来ていたけど、スライムはたまに増えて脱走してたから焼却に変えたそうだ。

 我が村のトイレはスライムが脱走出来ないように汚物の通路にグレーチングを張ってある。

 実はうちの公衆トイレの中で一番高価な品がグレーチングだと言うのが解せぬ。確かに鋼に錆止め処理してあるから高いのは分かるけど、それでも陶器の便座一式が二セットも買える値段なのはボッタクリだよ。


「ご飯と言えば、マキナさんのデモの日に領主様が村に来て、何か片付いたらご飯を食べに来るって言付けがあったんだけど、何か知らないよね?」

「冒険者ギルドとやりあったそうよ。あなた知らないの?」

「なんか知らないけど、暫くの間ギルドに来るなってゴンダンさんに言われてて。まさか俺絡みで?」


 そう言えばバウンサー候補から外してもらえるよう冒険者ギルドにお願いしてよって領主様に頼んだけど、それが原因で冒険者ギルドと(こじ)れたのかな?

 元々あまり良い関係ではなかったのは知ってる、と言うか、冒険者ギルドだけが異質でどことも仲は良くないんだよ。

 身元不明の怪しい人物でも平気な顔で雇う組織って冒険者ギルドしかないよ。いくら魔物を倒して貢献してると言われても、市民の中には冒険者ギルドを半グレ集団みたいな目で見る人も居るぐらいだし。


「セルバンが理由かどうかは知らないよ。でも冒険者ギルドと縁を切るとか、そんな大事になりそうなの」


 俺のお願い一つでそんな大事になる筈はないって。

 きっと協会が領主様に無理難題を突き付けて断られた腹いせに嫌がらせしているってとこなんだろう。触らぬ神に祟りなし、君主危うきに近寄らずだよ。

 チビッ子達の仕事を冒険者ギルドメインから他のギルドメインに移行して正解だったな。

 副村長のミイナさんは倉庫の事務仕事に掛かりっきりで殆ど正規職員扱いらしい。計算の早さが人の何倍かって話だし。

 それと何かのプロジェクトに浸かってるそうだけど、それの中身は教えてくれないんだよね。

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