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第46話 ギルドの戦場

 村の視察を終えた領主一向は次に冒険者ギルドへと足を運ぶ。

 この冒険者ギルドは商業ギルドや他のギルドとは少々性格が違う。

 冒険者統一協会が冒険者ギルドを統括しており、対魔物に関しては全冒険者を集めれば国軍を凌駕する戦力となりうるのだから、国としてもこの組織を下に見ることが難しいのだ。


 軍は基本的に他国への進攻及び防衛が主任務だ。

 その為、国内に棲息する多くの魔物を冒険者が退治することで国内の安全が保たれているのが現状であり、ここ十年以上戦争が起きていない現在では国軍は国民からは張り子の虎呼ばわりされている。

 そんな背景もあって、バリシア冒険者ギルドに協会から派遣されている三名は日頃から領主に対しても横柄な態度を取っていた。


 バリシアの町だけでなく、冒険者ギルドがある町はそのギルドに対して毎年巨額の報酬を支払っている。平たく言えば魔物を倒した冒険者が受け取る依頼料の原資となる金である。

 この金があるからこそ、ゴブリンなどの常時討伐依頼でもギルドから冒険者に支払いが可能となっているのだ。

 冒険者ギルドはある意味領主と年契約を結んだ下請け企業であり、毎年報酬額の折衝が行われているのだが、とにかくその場での態度が悪い。


 言ってはなんだが、この三人は背後にマフィアが控えていることをちらつかせるチンピラ集団と同レベルだと領主は思っていた。

 このように冒険者ギルドの背後に控える協会に対して不信感、不快感を抱く領主は少なくないのだが、実のところ兵士の雇用、増員が容易ではない。

 何故なら兵士は規律に従うことが求められ、厳しい訓練にも耐える体力と忍耐力が必要だからだ。訓練の中で一定の水準を満たさない者は従軍させても味方の足を引っ張る存在である。


 勿論兵士には一等兵、二等兵のようなランクを付けるのだが、二等兵に到達する前に退役する割合は四割近い。

 その四割の中には武芸に秀でているが協調性を持たないような人物も珍しくなく、大抵が冒険者へと流れていく。つまり質を求める軍と数を求める冒険者と言う構図が出来てしまったのだ。

 住民の安全を確保するためには冒険者に近隣の魔物を駆除してもらう必要があり、領主と言えども冒険者ギルドには頭を下げるしかないのが現状である。


 四人の護衛と共に冒険者ギルドのドアをくぐると、途端にフロアに居た冒険者や受付嬢達の視線が領主に注がれる。衣装は掘っ立て小屋村に寄った時のままであるが、それでも顔を見て領主だと気が付いた者は半数を超えていた。

 突然の領主の来訪に軽いパニックが起きたが、受付嬢の一人が何とかギルドマスターのゴンダンを呼びに行った。親切心からではなく、厄介者を押し付けようと言う魂胆が見え隠れしていたが、対応としては間違っていない。


 依頼票を貼ってある掲示板を眺めながらゴンダンが来るのを待ち、慌てて二階から降りてきたゴンダンが挨拶しようとするのを手で止めた。


「急で悪いが話がしたい」

「畏まりました、応接室へ案内します」


 ギルドマスターが普段は見せない丁寧な対応をすると言うレアな現場を目撃した者は、後で面白おかしく真似をしてやろうと思ったことだろう。それぐらい協会から来ている三名は出勤しても姿を見せないのだ。

 それでいて給料は役員並に貰うと言うのだから快く思う職員は殆ど居ない。職員は協会の三名が領主から報酬をせしめる交渉以外は何も仕事をしていないことを知っているのだから当然だろう。


 確かに協会が出資して冒険者ギルドを設立し、初期段階では様々な講習や支援を行った実績がある。

 だが設立した代の役員達が去ってからは冒険者ギルドを下部組織と見下すようになり、上前を跳ねるだけの存在に形骸化していった。

 それだけでなく協会は非合法組織を傘下に持つと噂されており、王都では何度か王城からの査察が入ったこともある。その事が領主や職員達に黒に近いグレーな組織だと認識させたのだ。


 若い女性職員に案内されて応接室に入ると、後からゴンダンと協会からの天下り三名がやって来るなり、

「来年の報酬額のお話でしょうかね?」

と、下品な笑みを張り付かせた一人がそう切り出すとドスンとソファーに座る。


「今日来たのは冒険者の金の話ではないのだが」

「ならば……まさか冒険者の働きが悪いとか言うのではなかろうな?」

「こちらには冒険者一人一人の能力や成果までは知らされておらぬ。何をもって働きが悪いと評価すべきか分からぬ故、それに関してはクチは出さぬよ」


 ローズ・マリー夫妻のように特別な武器を所有し人外の活躍を見せる冒険者は数える程だが、彼らはその戦力の大きさゆえに通常の冒険者の活動は殆ど行わない。

 普通レベルの冒険者が束になっても敵わないような強大な魔物に対する専用兵器的な立ち位置であり、日頃の鍛練以外に魔物を狩ることはない。

 その事をろくに知らずにケチを付けた者が過去に居たことがあって、協会側と領主側との間に溝が刻まれた経緯がある。


 しかし、残念なことに今の世代になるとその経緯を知らずに領主側を一方的に敵視する協会職員が少なくない。過去にどんな話があったか具体的に聞かされず、先輩の代が領主は悪い奴だと言っていたうわべだけを聞いて育ったのだ。

 バリシアに送り込まれた三人の役員がまさにそう言う類いの不良債権である。


「まずここに並んだ方々に、冒険者や冒険者見習いが他のギルドに登録することについてどのようにお考えかをお聞かせ願いたい」


 敢えて引退と言う言葉は使わない。冒険者が減ることは冒険者ギルドの収入が減ることだと安易に考える天下り三人衆だからだ。


「何度もトラブルを起こすような馬鹿ならリボンを付けて、何処かのギルドに届けてやる」

「そうでなければ、弱いやつでもお使いぐらいは出来るから他所にはやらんな」

「そうだな、魔物の大量発生に備えて一人でも多く抱えておきたいからな。それぐらいは言わずとも分かるだろ」


 つまり冒険者を引退して他のギルドに移籍するのはコイツらにとっては許されない行為と言うことか、と領主もゴンダンも呆れたのだが顔には出さない。


「ギルドマスター、今の三人の返答について規定を元にした判断は?」

「冒険者登録及び登録解除は本人の意思によって可能である、とギルド規定に定められております。これは協会がギルドを設立した当初から引き継がれている原則の一つでありまして、それから判断するに……」

「つまり、我らの言うことは誤りだと?」

「規定の趣旨から逸れていると言うことです」


 お前らの言うことは間違っていると、怒鳴り付けてやりたいところだが我慢の出来る良い子のゴンダンである。しかし三人からの圧力が増したことで、今にも胃に穴が空きそうだと冷や汗を流す。


「冒険者はギルドの為に働いて働いて働いて働いていけばよいのだ。それが冒険者の収入となり住民が満足して暮らして行ける生活を支え、町の平和に繋がるのだ」


 冒険者が働いて稼いだ収入の一割がギルドの懐に入るのだから、と敢えてクチに出す者は居ない。


「住民のサービスの為に冒険者があると言うことは理解しておりますよ。その為に税金からちゃんと働いている冒険者への報酬の原資となる資金を毎年納めているのです」


 ここでバリシア領主がすっと目を細める。


「あくまで税金ですから無駄に使われては却って住民のサービス向上に反するものとなりますので、それが発覚した際には過去に遡り相当額を返金していただきます。

 あくまでも住民の為の資金であり、協会関係者への資金ではありませんからね。そのことは私と結んだ契約書にも明記されております。その為の精査を行う権限を私は有しておりますので、権限に基づいて実施させて頂きます。

 もし妨害されるようであれば、法律に則った相応の対処をいたしますので痛い目を見たくなければ酒場の方でゆっくり休憩なさってください。

 そして万が一にも不正な証拠が見つかった際には、然るべき処置を断行しますがね、そのようなことは有り得ないと思っておりますよ……と言いたいところですが、生憎と少々時間が足りていませんので、今日のところは別件で手を打ってもらいましょうか」


 まさに冒険者ギルドでそんな攻防が開始したのと同じ時間、村に戻ったセルバンが受け取った箱を開こうとしていたのだ。

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