第43話 帰り際にサティアさんと
ケンタウロス型魔道具のお披露目だけで終わる筈だったけど、思わぬ収穫に繋がりホクホク顔で会議室を後にする。
マキナさんはケンタローを解体してから帰るそうなので、ここでお別れだ。そのマキナさんのお手伝いはカリーさんと言う美味しそうな名前の僕っ娘で、なんと十二歳も年下の婚約者だと言うから二人を爆破しようと少しだけ思った。
魔道具関連の商売をしている商会の娘さんなんだとか。さすがに詳しくは聞けなかったけど、狭い業界内での結び付きを強める為の政略結婚だろう。いや、そうであって欲しい。
商業ギルドを出る前に服の返却と魔道具のリストを貰う為にサティアさんの居る部屋を訪ねてみた。魔道具のリストは午前中のデモの時にも話があったらしく事前に用意されていたので受け取る。
パラパラと眺めた感想は、かなりショボい家電だなぁってところだ。マイコンも半導体も存在しないのだから当然と言えば当然だ。
それでも俺が作ろうと思えば色々な材料を買い揃える必要がある。
しかも困ったことに、地球には無かった魔力絶縁体なんて物が使われているのだから素材の手配が大変だ。
こっちの素材の物性とか全然分からないので、それを知るために素材のリストを見せて貰おうとしたら、
「規則で素材リストは製造業ギルドに所属していないセルバンには見せられないんだよ」
と無慈悲な答えがサティアさんから返ってきた。
「なんじゃと!」
「なんでっ?」
「規則だから諦めて。
ついでに言うと、商業ギルドで取り扱っている素材を購入出来ないどころか、どんな素材が流通しているのか調べることさえ出来ないのよ。
シェルド様もご存知無いようで驚かれていますが、同業他社が取引している材料を調べて真似したり妨害したりするのを防止する為なんです」
「言われてみればそうじゃが、逆に言えばギルドに登録していれば見れる訳じゃ。その者が悪用せんとも限らぬぞ」
「そこはしっかり閲覧記録を取りますから。公正公平な取引や事業から逸脱した者には相応の処罰を下しますので。それはもうネチネチとやりますよ」
何だか力を入れる場所が間違っている気がするけど、取り敢えず黙っていよう。恐らく買い占めの防止や流通量、生産量の規制による価格の安定が本当の目的なんだと思う。
「それとですね、過去に野良の錬金術師が色々な素材を使って実験を繰り返した際に、とんでもない火災事故を起こしたことがあるんです。
なのでセルバン君みたいに興味本位で何かやらかしかねない危険人物には要注意ってなってるんですよ」
「うそっ! 俺ってそんな風に思われてるの?」
「そうよ、無自覚って怖いわね」
少々納得しかねるのだけど、サティアさんだけでなくシェルド爺さんも頷いている。多数決で負けてるので反論するのはやめておこう。更に傷口に塩を塗られかねないから。
「でも私の所に来て正解ね。直接原材料部門に行ってたら『規則なので見せられません』と定型文でしか答えてくれないわよ」
「それはすまんかったのぉ」
「いえいえ、お気になさらないでください」
その錬金術師、火薬を作って爆発したんじゃないだろうな? 他にも水銀や鉛、カドミウムやクロムなんかを排水で流して川を汚染させてそう。
世の中には燃やしたり混ぜたりしたら有害なガスを発生させたり燃えたりする物質があるから、素人には下手に素材を渡さないように規制がされているって話は理解出来るよ。
でも折角ファンタジー世界に来ているんだから、普通じゃ出来ない怪しげな実験を堪能してみようと思うのが元現代人の業ってやつでしょ!
「ヤバイ魔女みたいな格好をして大鍋で紫色のシチューを作るのは大目に見てあげるわよ。でもね、城壁内で認可されていない薬品の使用は厳禁なの。
燐や亜鉛なんてセルバンがなんで知ってるのか知らないけど、腐った卵みたいな臭いのする素材とか、触ると火傷する素材もあるらしいから」
硫黄や硫酸みたいな物も流通しているのか。使う事は無いだろうけどちょっと興味が沸いてきた。
それにしても、以外に環境にうるさいと言うか配慮していると言うか。公害が原因で城壁内に住めなくなるなんてことは絶体避けないとね。
それはそれとして、製造業ギルドに入ればリストが見れるってことは、未登録者には誰が何を購入しているかトレースさせないために規制してるって線は無さそうだな。
けど、リストを見ただけでそこまで辿り着くのは難しいとは思うから、ひょっとしたらそのリスト自体が機密書類扱いなのかも。
産地や単価だけじゃなくて、もし性質・用途・生産方法まで書いてあればリストの価値はかなり高くなるもんね。
この国の技術力がそれ程低くはないのは、透明度の高い板ガラスが販売されていることからも分かる。
精度の高い工作機械はまだ存在していないけど、水力を利用した工作機械は稼働しているとドノバンさんの工房で遊んでいた時に聞いている。
この工作機械に魔道具の要素をプラスすれば面白い発展を遂げるかも知れないけど、俺には専門的な知識が無いので進化させるのは本職に任せれば良い。
俺は自分の力で手に入れられるものだけで自動カカシを作るか、他の魔道具を作るかだ。そう考えると、魔物と戦うことを避けずに積極的に外に出て素材を探しに行くべきか。
「商業ギルドを通さず手に入れた物を使うのは自由だけど、もしトラブルが起きた場合はどうなっても全部自己責任だからね。
知らない素材を扱う時は製造業ギルドに連絡することをお勧めするわ」
俺の考えることなんてサティアさんにはお見通しってことか。それなら製造業ギルドに登録するのもありじゃないか?
別に商業ギルドに固執する必要もないんだし……でも食料や衣料を融通してもらっている恩があるから縁を切る訳にもいかないか。
確か冒険者ギルド以外のギルドは登録するのに色々な制限があるんだっけ。
「あのさ、何も今すぐ魔道具を作れる訳じゃないんでしょ。マキナさんの資料が届いてから考えれば良いのよ。
それに鳥用の網を作るんでしょ? それなら先にそっちのことを考えなさい。生産現場には連絡しといてあげるから。
網の材料の手配もうちがやってるから先方に話をするのは簡単よ。ただし、村で使う網の材料はうちから買うこと、もし作り方を教えて貰っても販売用の網を作らないことね。分かった?」
「了解です。ちなみに網の材料って蜘蛛の糸とかシルク?」
「蚕を飼っている村もあるけど、さすがに網にシルクは使わないわ。蜘蛛の糸はネバネバするし材質も均一でないから使えないそうよ。ギルドが知っている範囲では網には普通に植物の繊維が使われているわね」
と言うことは、女性の体に蜘蛛の胴体を持つアラクネが編み物をしている可能性は低いけどゼロではないか。
そう言えば、この世界に来てから神話に出てくるようなビックリ魔物の話は聞いたことがないな。
「アラクネって居ないの?」
「荒くれ? ならその辺にゴロゴロしてるわよ」
「それは大変だね。気を付けなきゃ」
「そうね……?」
うむ、サティアさんはアラクネを知らないってことだな。後で冒険者ギルドに行って魔物図鑑を見てみるか。こっちは機密書類扱いされていないからね。
「気にしないで。あっ、この服は返却するね」
誤魔化すように借り物の服が入った革袋をサティアさんに押し付ける。
「それはセルバン君にあげるやつだから持って帰ってね。今後もそれなりの身分の人に会うかも知れないから、ちゃんとした服は必要でしょ」
「そう言う機会は欲しくないんだけど……けど、やっぱり必要なのか」
「洗濯はキチンとしなさいよ」
「了解」
外見だけで他人を判断する人も残念なことに居るのだから、確かにそれなりの服装は必要だよな。
そうなると小屋に鏡も必要になるなぁ……鏡を置くと女の子達が美容に興味を持つから困るんだけど仕方ないか。
貰う服は子供向けの上下のスーツとそれ用のシャツ、ネクタイとハンカチは無いけど靴のセットで、買ったら幾らになるんだろ? 五万円だとしたら大銀貨五枚程。俺の普段の稼ぎの五倍近い金額だ。
ありがたく頂くけど、体が成長したら着られなくなるからその時に返却しようか。いや、他のチビッ子に譲るべきだな……ん?
この服、洗濯したらアイロン掛けなきゃ皺になるじゃん。スーツハンガーも箪笥も無いし。我が家で保管してたら虫食いになるリスクしか見えてこない。やっぱり服はギルドに預けておこう。
「悪いけど、うちでは保管出来ないから預かってて」
「……そう? あ、分かった、預かるわ」
さすがに我が家の状況を知っているだけに理解が早い。シェルド爺さんはどうして?と疑問に思ったみたい。
「あ、それとうちのギルドマスターから連絡があってね」
「悪い話?」
「ううん、今後マキナさんと遣り取りする時は私を通すことになったの。シェルド様の息子であるジェルダさんの方が良かったんだけど、セルバンが絡む話には私を緩衝材として使うのがうちの方針なの」
「そうなんだ……緩衝材て」
「何か文句ある?」
「無いです、宜しくお願いします」
取り敢えず手を振って否定するけど、出来れば若くて綺麗なお姉さんの方が……ゲフン、何でもないです。
サティアさんは俺の村にも馴染んでいるから問題無いと上が判断したんだろう、よし諦めた。
さてと、最初に作る魔道具はアイロンにしよう。
魔道具リストに載っていないし、加熱の指令魔石があれば何とかなりそうだもん。
◇
「おい、マジチュアにはアラクネは居ないのか?」
「そう言う神話が元ネタ系の魔物はまだ実装されていないだけですね。
ダンジョンが解放されていくので、それに合わせて魔物が増えていくって噂です。ケンタウロスが実装されたのもサ開一周年記念のイベントダンジョンでしたから」
「二周年記念はどんな魔物が増えたんだ?」
「ハーピーです……あ、次回のイベントで増えるキャラのシルエットもフライングで出てますね……蜘蛛の胴体ぽいのでアラクネでしょ」
「そうか……つまらん」
先にセルバンにオヤジギャグを使われたことに腹を立てているジロー神であった。




