第41話 魔道具講座
マキナさんは名簿を見て俺に名字が無いことを不審に思ったに違いない。
魔道具を購入出来るのは、裕福な貴族か商売に成功した商会関係者ぐらいだからね。
「俺はただのストリートチルドレンですよ」
直球で返事をしてみた。もしこれでマキナさんが態度を変えるなら、残念だけど今回の件は無かったことにするしかない。
「領主様にシェルド家がただのストリートチルドレンに声を掛けたり支援を表明したりはしないだろ。それに君には並々ならぬ知性を感じる。
もし本当にただのストリートチルドレンだと言うのなら、君はガチャポンプや印刷機をもたらした特殊な人種と同類だろう」
領主様のことは分からないけど、特殊な人種ってところは大正解。でも素直に「ハイ、そうだよ」と言って良いのか分からない。
ドルチェの三人やローズさん達みたいにマキナさんが俺の事を納得してくれたら良いんだけど。
「言っておくが、俺は生まれで人を区別するつもりはない。魔道具に理解があるか無いかが俺には重要な判断基準だ」
「ある意味オタクなんですね」
「その判断で間違いはない。
過去に特種な人種が何人もこの世界に来ていると言われていることは知っているだろ?」
「えぇ、嘘か本当かは議論されてるって話ですけどね」
「本当のことだよ。君も気が付いているだろうが、俺もその特殊な一人なんだよ」
ここでバラしますか。マキナさんも俺がそうだと確信してるだろうし。シェルド爺さんはそう言うことには拘らないって顔をしている。
「そうなんですか。もっと違う何かの特徴があると思ってましたけど、結構普通なんですね。
俺には凄い知識や能力や武力は無くて、日干しレンガで家を建てて魚を育てて野菜を作って子供達と暮らすことぐらいしか出来ません。俺が特殊な人種なら、かなりの落ちこぼれの部類ですね」
否定も肯定もしない対応が一番すんなり受け入れられるかな? 確か人付き合いの上で大切なのは受容って聞いたことがある……コミュ障だった俺には縁遠い言葉だよ。
シェルド爺さんは恐らくローズさんから俺の話を聞いているに違いない。クチを挟まないのは俺の対応を見て楽しんでいるだけだと思う。
「俺はたまたま魔道具との相性が良くて、回転魔石や温度調整魔石を開発して稼いだ資金で研究所を開くことが出来たが、それ以外には脳が無い落ちこぼれだ」
そうだね、なんか見た目で納得出来るよ。ケンタローを見たせいか、俺も魔道具のスキルがあったら良かったのにとつくづく思う。
回転魔石は多分モーターで、温度調整魔石は温めたり冷やしたり出来る素子か熱源なんだろうね。今のところモーターは欲しいとは思わない……いや、電動工具にモーターが使われてるから欲しいかも。
それよりもだ。
「温度調整魔石、今持ってます?」
これを貰えるのなら是非とも貰いたい。貰えないとしても、作り方を教えてもらって自分で作るのもアリだよね。
「いや、そっちの現物は研究所に置いてきたが、魔石があればここでも作れるよ」
「そんなに簡単に作れるものなんだ」
これは意外だね。どう言う原理か分からないけど、魔物を倒して魔石を手に入れれば自分でも温度調整魔石が作れる、つまり冷蔵庫が自分で作れる訳だよ。
「魔石だけあっても魔道具にはならないよ。
指令装置となる魔石は『回れ/止まれ』、『冷えろ/熱くなれ』みたいな単純な命令を魔力に与える機能しか持たないからね。
実際の魔道具にはグルグル回る回転機構や加熱、冷却を行う媒体が必要になる」
「じゃあ、道具屋にあった魔道具のコンロは温度調整魔石と燃料にする魔石で出来てるわけ?」
「ああ、魔道コンロね。
あれは実際に火を燃やすのでなく、熱くなりやすい特殊な媒体、加熱指令魔石、燃料魔石の三つで動かしているんだ。
薪やガスなどの物を燃やすと消耗するけど、これなら何も消耗しないから燃料魔石さえ補給すればメンテ要らずになるからね」
魔道コンロはカセットボンベ式の卓上コンロを想像していたけど、電熱コンロのイメージだったのか。
「じゃあ、着火する魔道具は?」
「『熱くなれ』と言う命令を『燃えろ』に変えて、燃料魔石から出てきた魔力を直接燃やすんだよ。普通に物を燃やすには空気と着火元が必要だけど、このやり方だと簡単に水中でも火が火を起こせるんだ。もっともそんな用途は無いだろうけどね」
そりゃそうだけど、雨の中でも火起こし出来ると考えたらそれはそれで有効だね。
「火起こしの道具は火打ち石とマッチ、ライターがあって、ライターの形を真似して作った『魔道ライター』がこれだよ」
マキナさんがポケットから銀色のライターを取り出して見せた。良く見るジッポーのオイルライターみたいなシンプルなやつだけど、少し大きいかな。
カチャリとカバーを外し、赤い魔石をポケットから取り出してセットしてから実演してくれた。
ぶっちゃけるとライターだから火が着くのは当たり前なので、俺にはへぇ~って感想しか湧かなかったんだけど、シェルド爺さんは物凄く欲しそうな顔をしてる。
使った魔石は俺の小指より少し小さいぐらいの大きさかな。まさに赤い石って感じで乾電池みたいな綺麗な形はしていない。
「この魔道ライターをデモの後に披露したのは初めてですよ。用意はしてたんですけど、他の皆さんはケンタローの方にしか興味を示さなかったものでして」
「ケンタローのデモを見に来たんだから当たり前でしょ。今日のデモって確か十人ぐらい参加するんじゃなかったっけ?」
「午前中に五名ばかり参加してますよ。ビップが来るから午前と午後に分けたんで」
……そのこと先に言ってよ。誰からも聞いてなかったし。だから俺を変な目で見てたんだね。名字が無い子供が来たら確かに不審に思うだろう。
「この魔道ライターを一つ購入出来んかの?」
「使います? 試作品で良ければ差し上げます」
「良いのか! 遠慮はせぬぞ」
あっ、シェルド爺さんがチャッカリマンになってるよ。俺も欲しいっ! チビッ子達が火を起こすの苦労してるんだよね。
「セルバン君にはこれをあげよう」
物欲しそうにしていたのがバレたのか、マキナさんが渡してくれたのは黒くて硬い棒とナイフみたいな形の物だ。
「何これ?」
「メタルマッチと言う使いやすい火打ち石だよ。魔道具だと魔石が必要になるからね」
俺の懐具合を考慮の上での対応の差か。それじゃ仕方ない。
「そう言えばセルバン君は町から出られるようになったんじゃろ? 無理はいかんがゴブリなら倒せるんじゃないかい?
ゴブリの魔石でもこの魔道ライターは使えるじゃろ」
「確かに自分で魔石が調達出来るならそれに越したことはないですね。魔石はグレードやサイズがピンキリですから一概には言えませんけど、ゴブリの魔石でも何でもこのケースに収まるサイズならライターは使えます。魔石の質で火が着く回数が変わりますよ」
魔石の調達ね。バウンサー候補から外れたら積極的に狙ってみるのも悪くないけど、俺って強くないから微妙かも。
出来れば鳥や小動物系の相手で済ませたい。強くて大きな獲物は運ぶのも穴を掘って埋めるのも大変だからね。
「余り戦闘には自信が無いから、魔石の調達は難しいですね。
あ、コンロや着火の魔道具は理解できたけど、音波センサーはどんな仕組みなんです? 指令装置に音波を出せって書くんです?」
「今の技術ではそんな指令は不可能だね。魔力を流すと音波を出す機構、跳ね返った音波を受け取る機構なんかが必要だし、どちらの機構も製作が大変だからかなり高度な魔道具になるんだよ」
「あー、そんな高度な魔道具の用途がカカシじゃ、確かにマキナさんの腹が立ちますよね。センサーにプラスで腕を動かす機構付きだもんね」
蝙蝠って実はかなり優秀な生物なのかも。虫を捕えたり武器で鳥を撃退したりとまでは言わないけど、マジで自動で動くカカシが欲しいよ。
「マキナ殿よ、セルバン君を魔道具職人に弟子入りさせることは出来んのかの?」
「弟子入りは……能力以外の面でも難しいと思います。
最先端技術と言っても良い分野ですし資金も必要ですから、周りに居るのはゴリゴリの貴族ばかりです。
そこに平民が入ってくると、確実に陰湿な嫌がらせを受けますよ」
「儂の後ろ楯があってもか?」
「えぇ、王都の貴族の質なんてそんなものです。
彼らは妬み嫉みに欺瞞で傲慢な超選民主義達ですから、埃一つ見付けただけで鬼の首でも取ったように怒鳴り付けてきます」
その埃って物理的な埃ではなく、今の俺の身分の事を言ってるんだろうね。王都の貴族ってかなりヤバイ。何があっても近寄らないでおこう。
「俺が弟子入りするのは無しでお願いしますよ。
でも、カカシは欲しいから魔力センサーの開発はお願いします。手から矢を放つ機能は危ないからいりません。投網を発射するのはアリで……いや、発射した後にまた戻すのが手間だな」
理想は目からビームで害鳥退治をして欲しいんだけど、畑に入ったチビッ子が餌食になるだろう。ビームの発射口の位置を2メートルぐらいの高さにしたら大丈夫か?
「カカシより先に鳥が入れない目の網を張れば良いんじゃないかな?」
「網? ふむふむ、うちの畑は広くないから張れないこともないか」
カーマンさんが働いているお店には農業用資材は無かったから、後で農業関連の専門店に行ってみるか。
無ければチビッ子に網を作らせよう。でも網って簡単に作れるのかな? 漁師さんが居るなら漁業用の網がある筈だから、後でギルドに聞いてみるか。
「また厄介なことに首を突っ込まんようにな」
シェルド爺さんがやれやれと言った顔でセルバンを見たのだった。




