第40話 ケンタウロスよりセンサー
「カカシとはなんだ?」
おっと、領主様はカカシを知らないのか。仕方ない、教えてしんぜようか。
「畑に鳥が寄って来ないようにする目的で、人の姿の人形を畑に立てるんですよ。それをこのガキが」
「そのガキの発想の実現可能性は?」
「えっ?」
俺が答えようとしたらマキナさんが答えたけど、答えの途中で領主様がクチを挟んだ。
「セルバン君はまだ幼く見えても三十人近い子供達を保護する立派なリーダーだ。そこら辺に居る何も考えのない役人どもより余程役に立つ。
君が中級爵位の身であるとしても、軽々しくガキなどと呼ばぬように気を配ってくれたまえ」
「はっ! 承知いたしました、申し訳ありません」
いやいや、そんな立派なもんじゃないから気軽に対応してくれよ。畏まられたら逆に俺が困る。別にガキ呼ばわりされても腹立たないし。
マキナさんはケンタロボを自走しないカカシに転用するのが腹立ったみたい。かなりのグレードダウンだからし、動かないんじゃケンタウロスの最大の売りを無視してるから仕方ないよね。
「うむ、頼むな。それで動くカカシとやらは可能かな?」
「腕だけを動かすのは可能であります。
ただし、センサーが感知出来る距離はそう長くありません。最大で半径10メートル程度かと」
それだとうちの畑を全てカバーするには三つか四つは必要だから、結構お金が掛かりそう。仕方ない、動くカカシは諦めるか。
「ケンタウロス型の人形の導入は見送るが、畑のカカシに関しては予算を付けても良いだろう」
「良いんですか?」
予想外の返事に思わず領主様に口答えしてしまう。
「あぁ、君の畑を実験場として使えば役人もわざわざ城壁外の村まで出向く必要も無いだろう。
センサーとやらの有効距離が10メートルでは足りぬだろうから、マキナ殿にはセンサーの改良を進めてもらいたいものだな」
えーと……地球にある超音波式センサーって、そんなに遠くまで検知出来るシステムじゃなかったと思う。だって空気の振動を利用するんだから、風の影響をもろに受けるもんね。
「鳥害対策はどのみち必要なことだ。こう言う新技術は先に着目して開発させた者が名を残すことになる。
開発支援に掛かった費用も特許料名目で少しずつ回収させてもらうが、2%程度だろう」
「優れた商品開発のパトロンとなると、それだけ先見の明があるとして注目されるからのぉ。
それに鳥害はどの農村でも対策に頭を悩ましておる。有効な対策になると分かれば他の領地でも導入が進むわぃ。それを売る権利を買ったと開発費など思えば安いもんじゃろ」
魔道具は農民が購入出来る値段ではない。他の領地を治める領主に超音波式センサー搭載カカシをバリシア領主が開発元として売り付けようって魂胆だね。
でも開発費が安いと言いきるなんて、さすが鉄鋼石を牛耳る遣り手はスケールが違うね。
「それに畑のカカシとして使えなくとも、それこそ人の目の届かない場所に置く害獣避けや夜間の防犯対策としても利用可能ではなかろうか」
「ほぉ、それは良いアイデアですな!
各部屋の窓辺にセンサーを置いておけば安心して眠れそうじゃわい。この妙ちくりんな人馬人形はどうかと思っておったが、セルバンのお陰で良い収穫に繋がったわい」
俺とマキナさんを無視して、領主様とシェルド爺さんが何故か超音波式センサーの用途で盛り上がってしまった。
仕方ない、二人が落ち着くまでケンタウロスでも見ていよう。
「マキナさん、コレの操作はどうやるんです?」
「このリモコンを使って動かすんだよ」
シャキーンと効果音を出すような勢いで取り出されたリモコンは、一本のスティックとボタンが三個付いている格闘ゲーム用のコントローラーみたいな形をしていた。
「操作する時は落とさないように机の真ん中に置いてくれたまえ」
「次は首から提げるストラップを付けようね」
「戻ったらそうしよう。
で、起動はAボタンの長押しで、前進はレバーを上に倒す。コンコンと素早く上に二回動かすと二歩だけダッシュする。なお、移動する方向は操縦する君が基準ではなくケンタウロスが基準だから、方向を間違えないように」
そう言って机の上にリモコンを置いてくれた。動かしたことはないけど、ラジコンカーと同じような動作かな。
試しに少し動かしてみたけど、ケンタウロスが前を見ている方向が俺と逆になっている状態だと、レバーを動かす方向を反対にしないといけないのでかなり難しかった。残念ながら俺にはこう言う才能も無さそうだ。
「あっ、魔石が切れた」
俺が遊んだせいでケンタウロス人形に入れてあった魔石がエネルギー切れになったらしく、突然動かなくなった。
出来ればバッテリー残量のメーターみたいなのをリモコンに付けて欲しいかな。
「替わりの魔石を隣の部屋から取って来る」
と言ってマキナさんが部屋を出ていく。領主様、シェルド爺さんがまだ遊んでいないので確かに魔石交換は必要だね。
「けど、何でセンサーに音波を使うんだろ?
魔力を使えば良いのに」
「ん? セルバン君、魔力は飛ばせるのかい?」
「えっ? 飛ばないの?」
良く出てくる探知魔法は魔力を薄く伸ばして全方向に飛ばしてるでしょ。ここでもそれが出来ると思うんだけど、俺はそんな高度なテクニックは持っていないから。
「攻撃魔法が飛ぶことを考えれば、魔力が飛ぶと考えるのは間違いではないのかもな。残念ながら私は魔法は使えんから分からんが」
「そう言われてみれば、確かに魔力を飛ばすことは可能そうじゃの。儂も魔法は使えぬから確かめられん」
三人してうーんと唸っているところにマキナさんが戻ってくるなり、
「あれ、どうしたんです?」
と質問してきた。
「なに、セルバン君が何故センサーに音波を使うのか、魔力を飛ばせば良いのではないかと疑問を持ったようでな。
魔力は飛ばせられるのか、我々では分からんのだよ」
「この辺に居る鳥には小さな魔石があるからね、魔力を飛ばせば反応するんじゃないかと思ったんだ。魔力って飛ぶの?」
領主様の言葉に続けてマキナさんに説明してみた。マキナさんが地球出身の男の子だったら、有名どころのコミックは読んでるでしょ。
「さぁ……飛ぶのか?」
あれ? 真顔で考えだしたじゃないか。
この人、ひょっとして漫画とか読まないタイプの人だったのかも。それとも漫画の無いパラレルワールドから来た日本人擬きなのか?
これじゃ折角のセンサーの有効距離改善計画がいきなり不発弾になっちまう。
「魔道具で扱う魔力は基本的に有価銀でメッキした魔銀ケーブルに流しているので、飛ばすと言う発想はありませんでしたね。
音波式センサーを改造して魔力が飛ばせるなら良いのですが」
「セルバン君は何か魔法を使えるのかい?
魔力を飛ばすと言う発想が出たってことは、魔力を感じることは出来たんだろ?」
おっと、何も考えずに思い付いたことを言ったらまさかの藪蛇かも。領主様、頼むから気が付いてもスルーして欲しかったよ。
「感じることは出来ます。でもそれだけ、ですよ」
「ほぉ、それは凄い。鍛えれば魔法師に成れるかも知れんな。
しかし現在の我が軍には魔法師が在籍していないので、魔力を飛ばす実験は出来ないか。マキナ殿はどうだ?」
「魔道具を製作するには魔力を感じ取る能力と手から魔力を放出する能力が必須です。ただ今まで魔力を飛ばすと言う必要性が無かったので、飛ばしたことはないですね」
「儂も魔法は使えんからの、使える者が羨ましいわい。儂が知っておるのは治療院に詰めておる二人ぐらいかのぉ」
そう言われると、実は治癒魔法が使える俺もミイナさんも優秀なグループに入れるのかな?
でも、これを正直に言うのは躊躇う。発動するのに五分も時間を掛けて擦り傷しか治せない治癒魔法なんてゴミみたいなもんだからね。
更に修行をすれば凄い治癒魔法が使えるようになるかも、と密かに毎日訓練しているのは自分が怪我をした時の為だ。
「魔力を飛ばせるかどうかは王都に戻ってから確かめてみましょう。音波は意外と制限がきつくて長距離の感知には向いていませんから、もし魔力を利用したセンサーが出来れば凄い技術革新になります」
「是非そうなってもらいたいものだ。では私は領主館に戻るとしようか。何分時間が中々取れなくてな」
何だかんだで一時間近くこの会議室に居たけど、領主様ってやっぱり忙しいんだよね。俺も食事と御駄賃が出なけりゃ、このデモには参加せずにどこかのギルドの仕事を受けてた筈だし。
「セルバン君、やはり君は面白い発想が出来る子供だな。もし何か私に手伝って欲しいことがあれば、商業ギルドを通して言ってくれたまえ。内容によっては検討してみよう。経費の掛かることだと難しいがな」
と、領主様が俺の顔を真っ直ぐに見てそう言った。
まさかただの子供相手に本気でそんな事を言うとは思えないが、冗談半分だとしても気持ちは受け取っておこう。
下手に遠慮して、もし領主様が本気だったら臍曲げるかも知れないし。
「分かりました、手に負えない事態になったらお願いいたします……あっ」
そうだよ、折角そう言ってくれてるんだから甘えてみるか。
「自分は現在冒険者見習いでバウンサー候補なんですけど、その候補から外してもらえるよう冒険者ギルドに伝えて貰えませんか?」
これぐらいなら手紙一枚書けば済むからお金もそう掛かるまい。領主様の月収を百二十万円、労働時間を月に二百時間と仮定したら丁度時給が六千円だから、手紙を書くのに十分程かかったとしても1千円だな。
「伝えるのは構わないが……よし、手紙を出すとしよう」
「ありがとうございます。それだけで充分です」
「分かった。では、機会があればまた会おう。
マキナ殿も本日は面白い話を聞かせて貰ったな。感謝する」
「こちらこそお忙しいところわざわざ御足労頂きありがとうございました」
マキナさんの髪の毛はボサボだけど、領主様相手だからか深く頭を下げる。
シェルド爺さんとは軽く一言交わしただけで領主様が会議室から出ていった。
「まさか御領主様に来て頂けるとは思ってもいませんでしたよ、緊張したぁ」
思わず本音をポロリとしたマキナさんだが、それには俺も同意する。しかもお洒落さんなのか、男性なのに良い匂いがしたんだよね。タンスに入れる樟脳の防虫剤の匂いじゃなかった筈だ。
「さてと、マキナ殿。センサーとやらは持ち帰り研究していただくとしてな、そのケンタウロス人形自体の形状は今後どうされるのかの?」
「あっ、馬とか人の形をとる必要はないって話だよね。確かに凝った形はコストアップだから、普及させるのなら軽くてシンプルな形状にするべきだよね」
個人的にはケンタウロス型も悪くないと思うし、その代替案を出せと言われると思い付かない。
しかし魔石と言う安くない動力源を使う以上、少しでも重量軽減を図って燃費の向上を狙うべきだ。
お店の配膳ロボットみたいな形だと段差で躓くから、四足タイプを採用するのは良いとしてもだ。
「ケンタウロス型は中級上位爵以上の方々にのみセールスしましょうか。
確かに実験段階で造形に拘るのはマニアック過ぎましたかね、アハハ」
「気持ちは分かるよ。テーブルが四本足で歩いたら怖いもんね。車輪を付けたら段差で転ぶし」
「そうなんですよ! 実は最初にテーブルに脚を付けて動かして、気持ち悪ってなったんです!」
「セルバン君とマキナ殿は気が合いそうじゃな。儂には魔道具のことは難しくて理解できんが」
あのリモコンの操作は間違いなく格闘ゲームやラジコンカーを意識してるだろうから、マキナさんも異世界から来てるのは間違いない。
生粋のこの世界の住人に、オタク気質のマキナさんの考えを理解しろと言うのが無理なんだよ。
「セルバン君、このケンタローを改造してみるかい? 君なら面白いアイデアを出してくれそうだ」
「面白そうですけど、我が家には置き場が無いんだよね」
「それならこのギルドの空き室を使うが良い。年間契約出来る部屋がある筈じゃぞ」
部屋を借りたらお金が掛かるんじゃないかな?
この際だから危機管理部に所属して間借りするのも有りかもな。バウンサー候補から外れたら冒険者になるのを辞めても構わないだろうしさ。
「ところでセルバン君は何処かの商会か何かの息子なのかい?」
ふと参加名簿に目をやったマキナさんがそう質問してきた。




