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第39話 デモンストレーション

音波式センサーは本当は超音波式センサーです。現地人に超音波は理解出来ないので、マキナは敢えて音波式と称しています。

 キリー姉妹が掘っ立て小屋村を訪ねて来てから二日後、今日は王都から来た職人のデモンストレーションがある日だ。

 使用済みの油を濾過するフィルターを生み出したフィルターガールズの二人とミイナさんも一緒にお昼ご飯をお呼ばれした。普段食べているご飯より美味しくて泣けてくる。ミイナさんも笑顔でパクパク。しかし、彼女はデモには参加しないで、商業ギルドで何かのプロジェクトに掛かりっきりらしい。

 俺にも何をやっているのか内緒だってさ。


 デモの行われる部屋に美人の職員さんに案内してもらい、機嫌宜しく中会議室のドアを開けた。


「いらっしゃいませっ!」


 その途端、どこからか無機質な声が聞こえたがぱっと見える範囲に人の姿は見えない。キョロキョロとしていても仕方がないので部屋に入りドアを閉じる。

 職員さんはここでサヨナラなので残念。好みのタイプではなくても、美人さんが目の保養になるのが男なのですよ。


 正面の壁には細長い羊皮紙が貼られていて、そこには『世界初! ケンタウロス型魔道人形披露会 by DXマキナ魔道具研究所』とデカデカと書かれていた。

 そのケンタウロス型魔道人形とやらは会議室には置いていないので、後からマキナさんと一緒に部屋に入るのだと思う。


 小上がりになったステージには講壇があり、受講者用の細長い机との間にはそこそこのスペースが取られている。恐らくここに魔道人形を置くのだろう。

 しかし机は一つ、椅子は三つしか置いていない。

もっと受講者が居る筈なのだが、皆キャンセルしたのかな? でも、デモを見に来る人は貴族の人達ばかりだろうから、人数が少ない方が良いに決まってるけどね。


 机にはレジュメが置かれていて、表紙をめくるとこれから披露されるケンタウロス型魔道人形のイラストと各部の名称などが書かれていた。

 リアルさはあまり感じない。造形美にこだわるのでなく、内面、性能重視って思想なのか?

 そもそもケンタウロスって何?って言うのがギルドの人達の感想なのだから、相当レアな存在なのだろう。


 レジュメを見て気になったのは印刷の技法だ。

 文字は活字で、イラスト部分は木版画ではなく銅版画のような気がする。と言っても芸術や印刷分野なんて詳しくないので気がする程度だけど。


 それにしても溜め息が出てしまう。マキナさんとやらは恐らく転生者か転移者だろう。魔道具を開発するスキルが貰えたなんて羨ましいよ。

 それに引き換え俺なんて何もチートスキルが貰えなかったからね。不平等と言うか転生格差と言うか、転生神の気分一つで大きな違いだよ。


 そんなことを心の中で愚痴っていると、ステージ側にあるドアが開いてスーツのような服装の中年男性が入ってきた。こちらには『いらっしゃいませ』は設置していないようだ。

 明るい茶色の髪の毛はボサボサ、スーツもよく見ると皺が入ってる。この人がマキナさん?


「あや、まだ一人だけか……しかも子供じゃないか」


 机に座る俺を見てあからさまにガッカリする中年男性に同情するが、参加者ゼロより百倍マシだと思うよ。ゼロに1を掛けてもゼロだぞ、とか言わないようにね。


 怪しいものでも見るようにジロジロと眺められるが、お昼ご飯の後にギルドからお古の衣装を着せられ髪も整えているので、パッと見てストリートチルドレンとは思われない筈。


「えーと、参加者名簿で……セルバン君だね」


 参加者名簿があるなら事前に参加人数が分かってたよね? それにはどんなことが書いてあるか分からないけど、お堅いデモだと所属・役職・年齢などが掛かれた名簿があって、入口で名刺を渡してチェックしてくんだよね。


「後二人、来るみたいだけどまだかな?」

と言って壁にある掛け時計をチラリと見る。

 俺は遅刻しないようにと先に入って待ってただけで、この世界の人はわりと時間にルーズで平気で遅れて来る。時計はあるけど時針しかないから大雑把なんだよね。日時計と同じ感覚だ。


 その時計が一時半時を示す頃にドアが開いて、先程のいらっしゃいませの声がまた聞こえた。

 ドアと連動して音が出る魔道具を仕掛けてあるのに驚いたような声を出していたので、この装置も新発売なのかも。


「少々待たせたか?」


 そう言うってことはマキナさんより上の立場の人かな?

 振り返ってみると、よく知っているシェルド爺さんと初老の域に来ていそうな男性が歩いてきた。初めて見る顔だけど、見るからに高価そうな服を着ている。

 その男性が俺の隣に座り、反対側にシェルド爺さんが座った。逆の方が良かったんだけど。


「いえ、時間ピッタリです。

 セルバン君、ラトリーシェ・ション・バリシア様、ジョブソン・ション・シェルド様の三名が揃ったところで早速デモンストレーションを始めたいと思います……え?」


 名簿に年齢も書いていたのか、シェルド爺さんとラトリーシェさんを間違えなかったマキナさん。

 だが、驚いた様子で名簿とラト……さんを何度か見比べた。どうしたんだ?


「あの……ひょっとしてバリシアの御領主様で?」


 はい? なに食わぬ顔で俺の隣に座ったけど、このおじさんってまさかこの町で一番偉い人?


「そうだが、この場では肩書きは気にせんでよい。

 新しい玩具を見に来た十把一絡げの道楽者とでも思って対応してくれたまえ」

「あ……いぇ……その……」


 焦るマキナさんだが、俺も内心焦っている。だって俺は町の中に勝手に村っぽい集まりを作って住み着いてるストリートチルドレンなんだから。この人の気分一つで追い出されるかも知れないんだよ。


「セルバン君もそのように頼むな」


 俺の焦りを察したのか、ナイスミドルな笑顔を見せて握手を求める。

「えっ! あ、はぃ! 承知しましたっ!」

と返事をして反射的にその手を取った。


 やべっ! つい了承してしまったけど、後で何か言われたらどうしよう?

 シェルド爺さんは何も言わずにニコニコしてるし。知らない仲じゃないんだから、少しぐらい助け船を出してくれても良くないか?

 まさか領主様と同席するなんて予想外で、心臓がドキドキしてる。

 

「では、悪いがデモの方を進めてくれ」

「はっ! そのように」


 少し落ち着きを取り戻したマキナさんがペコリと頭を下げると話を始める。


「本日はお忙しい中、ケンタウロス型魔道人形披露会にお越し頂き誠にありがとうございます。私は王都に拠点を置くDXマキナ魔道具研究所の所長を勤めるマギー・マキナです。

 この会議室にその魔道人形が無いとお思いのことでしょうが、安心してください、入って来ますよ」


 ……ふるっ! 何がって? 分からなくていいです。

 これでマキナさんがあの頃は日本に居たことが確定だな。しかし、ミイナさんもだけど、この世界の人間じゃないってことをもう少し真面目に隠せよな。


「その入り口のドアを開くと、自動的に歩いて来るようになっております。

 カリー君、ドアを開けてくれたまえ」


 マキナさんがドアに向かって声を掛けるとドアが開いた。助手がドアの向こうでスタンバイしていたのだろう。カツカツカツカツとリズミカルな音が廊下に鳴り響き始め、その音が徐々に大きく聞こえてくる。

 そして足踏みするような音が入り口辺りで聞こえるのは、上手い具合に方向を変えている最中なんだろう。


 少し時間が掛かったが、入り口をくぐって体高(馬の背中までの高さ)80センチぐらい、ミニチュアホースサイズのケンタウロス型の人形がゆっくりと会議室に入って来くる。

 足運びはほぼ馬だな。開発段階の犬型軍用ロボよりスムーズかも。

 三人が揃って感心していると、誰も操作することなく講壇と机の間の中間辺りでピタリと停止した。

 なるほどね、人型ではなくケンタウロスにしたのは自走式を実現するためか。ただの馬や犬だと愛玩ロボットと変わらないもんね。


「ほぉ、勝手にここまで歩いてこれるのか」

「はい、とお答えしたいところですが、デモを始める前に移動ルートを設定しております。

 自分勝手に移動されては困りますからね」

「なるほど」


 領主様が感心したように顎に手をやる。シェルド爺さんも興味深そう。


「その馬と人の合体した姿にした理由は何かあるのか?」

と領主様が質問した。どうやら知られていない魔物の姿を敢えて採用した理由が気になるらしい。


「そうですね、その辺りも含めてこのケンタウロス型魔道人形を開発することとなった経緯からご説明をしていきます。お手元の資料をご覧ください。表紙をめくって一枚ですね」


 ここから先の進め方は良くある展示会とそうかわり無かったね。

 人形呼ばわりはしているけど、元々は警備用ロボットとして開発を進めていて、荷物の運搬や子供の移動の足として利用促進していきたいってことで売り出したのだと説明されていく。ケンタウロスは一年半程前に古代遺跡で壁画が発見されたんだとか。


「動力源として魔石が必要だと思うがの、運用時間辺りの魔石の消費量は?」

とシェルド爺さんが質問をする。

 商売していたのだから、ランニングコストが気になるのは当然だね。


「魔石にはグレードとサイズがあって綺麗には纏まっていませんが、こちらで推奨するグレードの魔石に限っては纏めてあります。資料の8ページをご覧ください」


 へぇ、魔石にはグレードがあったのか。やっぱり強い魔物から取った魔石ほどグレードが上がるんだろうね。

 ケンタウロスの背中のカバーを外すと魔石のタンクになっていて、幾つかの魔石がゴロゴロしてる。乾電池みたいにサイズが決まっていないから使い勝手が悪そうだ。


「このサイズで重量が50キロか。意外と重たいな」

と領主様。ランニングコストの次の仕様のページを見ているようだ。


「大半はフレームと駆動装置の重さです。人の体を無くせば軽くなるのですが、腕があった方が何かと汎用性があるもので」

「両手で5キロの荷物が保持して走行可能か。

 うむ、別に人や馬の体の形に拘らず、単に四本足で走るテーブルに腕を付ければ製作コスト、ランニングコストとも低減となるのではないか?」


 あ、それ言っちゃいます? それは言ったらダメなヤツですよ!


「……だめですっ! そんなものはロボットではなく、ただの道具です! 造型とはロマンがあってこそ輝くものなのですっ!」

とマキナさんが叫んだ。典型的なオタク気質?


「ロボットと言う物は知らぬが、我々はお主のロマンの為に税金から得た金貨を出す訳にはいかぬからな。

 いかに先端の技術であろうと、無駄遣いをしてはならぬ。導入に際しては費用対効果を説明する義務があるのでな」


 どうやら領主様にはケンタウロスの形でコストアップしていることが受け入れられないのか。確かに税金でケンタウロス……間違いなく叩かれるよな。


「そうですな。そのケンタウロス型人形は懐に余裕のある一部の貴族向けとお見受けいたす。

 もし警備に使用するなら、まずは不審者を発見する方向で技術開発をしてもらいたいのぉ。あらかじめ決まったルートを巡回するだけなら、賊はルートを承知しておる可能性が出てくるもんじゃよ」


 シェルド爺さんもこの魔道人形に意義を見いだせなかったみたい。確かに発見、通報、追跡までしてくれないと警備ロボットとしては使えないよね。


 マキナさんが黙っている俺に意見を求めるように視線を向けてきた。さて、なんて答えようかな。


「さっき、ドアを開けたらいらっしゃいませって声がしたのも魔道具ですよね?」

「あれはセンサーでドアの動きを感知して、自動で応答するようになっているんだよ」

「じゃあ、そのセンサーに反応があったらその人形の腕が動くようにも出来る?」

「音波式のセンサーを使えば可能だな。そこのドアには光学式を使っているが」

「なるほどね……うん、難しそうだけど分かった」


 領主様とシェルド爺さんはマキナさんが言った意味が分からず頭の上にハテナマークを並べているようか顔になっているが、センサーを知らないならそれも当然だろうね。


「ならさ、畑に立てたカカシにその音波式センサーを付けたら、鳥が来たら腕を動かして追い払えるね」

「えーーーっ! カカシにセンサーっ?」


 マジ?!って顔でマキナさんが俺を見てるよ。俺の天才的発想にドン引きしたかな?

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