第37話 測れないし作れないから仕方ない
クロスボウの試射から数日後。俺は新しい家に引っ越した。
どこかの取り壊した家の木材一式を貰って村に建てたんだ。粘土を採取する為に明けた穴の上に屋根を張って壁で囲うついでにってことでね。
こじんまりとした二階建てで、足場を組んで試作品の安全帯を実地検証するのに丁度良いからって、商業ギルドが紹介してくれた大工さん達と工房の親方のドノバンさん達も来てくれたので思ったより早く建てることが出来たんだ。
我が村の匠も大工さん達に技を教えてもらいながら何か工作をしていたし、村の子供達が家の回りに新しい壁を作って何か蔦植物を這わしたりして、楽しんでいた。
家一軒の建築費用は恐らく大銀貨千枚ぐらいは必要だと思うけど、安全帯のテストが上手く行ったので特許権を譲る代わりに商業ギルドが全額補助してくれた。
発明者として俺の名前を残すのはマズイと判断した商業ギルドが、ドノバンさんを身代わりに発明者として登録したと言う裏事情もある。
過去にはガチャポンプや万年筆も同じように処理されたのだとか。間違いなく転生者が絡んでいるよね。
家を建てている間も、俺はドルチェの三人が危惧していたゴブリンキングの発生が怖くてずっとビクビクしていたんだけど、あれから一ヶ月程が過ぎても何も起こっていない。
冒険者ギルドで聞いた話じゃ、ゴブリンジェネラルが何体か見つかったのでかなりヤバイ状況だったみたいだけど、軍の活躍で事なきを得たとか何とからしい。
それにドルチェの三人は冒険者を辞めて軍籍に入ったと聞いて驚いた。傭兵上がりで軍に入る人は少なくないけど、傭兵→冒険者→軍ってパターンはかなり異例だ。
だって冒険者になる人って、基本的には規律を重んじるのが無理で、権力や集団行動に対するアレルギー持ちだもんね。
ギルド幹部で患部だったデボラはゴブリンジェネラルとの戦闘で重傷を負い、自宅で治療の甲斐もなく死亡したそうだ。
軍人だったら二階級特進したかどうかは知らないけど、冒険者ギルドにはそう言う制度は無い。素直にザマァ見ろってヤツだね。
お陰で少し冒険者ギルドでの居心地が良くなった気がするが、それはそれ、これはこれ。
相変わらず一部の冒険者と職員には注意が必要だろう。
家も無事に建ってから数日後の俺の休みの日のことだ。
ちなみにこの世界のカレンダーには日曜日に相当する日は無いのだが、この村はブラック企業から脱却すべく、週に一日はチビッ子達も休みを取るようにした……そうでないと、俺だけ休むことになるから申し訳ないってのが本音だった。
皆が一斉に休むとギルドの仕事上の不都合があるので、ローテーションを組むのに苦労したよ。
それで分かったのが、この村の今の住民の数が俺とミイナさんを除いて二十八名だってこと。そしてミイナさんが副村長になってることだね。
で、俺が仕事を休んでいる日にカミィさんとカーマンさんが掘っ建て小屋村にやってきた。
冒険者ギルドに行って仕事を受けているチビッ子達は二人のことを良く知っている。ちゃんと仕事をすればオヤツをくれる良いオバチャンの位置付けだ。
特許担当兼この村担当のサティアさんから二人が来ることは聞いていたので、後でお昼を一緒に食べる準備も出来ている。
今日二人が来たのは新築祝いの為であるが、最大の目的はミイナさん発の二重骨壺……もとい二重ポット式冷蔵庫の視察である。
あれからポットの形を色々と試してみて、三時間ぐらい放置するとほんとに少しだけ冷えることは確認出来たのだが、ポットの材質と形と冷え方の関係はよく分からなかった。だって正確に計れる温度計が無いんだからさ。
温度を測る為にアルコール温度計を作ることを考えたよ。でもね、アルコール度数が測れないから使用するアルコールによって膨張率が変わるのでやめた。
バイメタル式温度計も考えたけど、そんなものを俺が教えるのはどう考えてもダメだろ。おっと、考えてみたら俺がアルコールが膨張することを知っているのもおかしいな。
なので作りやすく扱いやすい骨壺形でいいやってことになった。
そしてキリー姉妹二人の判定だが、気温、湿度、設置場所等諸々の条件で冷え具合が違うので、今のままでは商品としては不合格。そもそも、冷えたと言っても劇的な効果が無いのだから問題外だと言われた。
それでも理論的には間違っていないのだから材料を変えたり何か工夫をすることで、冷却効率が向上するかも知れない。
なので王都にある研究施設に報告してみることになった。こう言う新しい物を実験する部門があるのだとか。
よく考えたみたら理論的にも湿度が低いほど効率が上がる仕組みなので、無茶苦茶乾燥しているとは言えないこの地域じゃ圧倒的な成果は期待出来ないか。
それなら乾燥地域に輸出するか……いや、簡単に作れる壺なんて売り物にならないから、技術を教えてあげるだけで終わる可能性が高い気がしてきた。
ただね、水が蒸発する際の気化熱を利用するってことは水を継ぎ足す必要があるので、もし販売するなら一定速度で給水する装置も付けないと不便で売れないだろうとカマーンさんに指摘された。
それならガーデニング用品にある自動水やり器を流用すればいいだろう。
その開発には物作りの好きなチビッ子に丸投げするか。じわじわと水が染み出る素焼きみたいなものがあれば出来そうだし。
あ、むしろこっちを売った方が儲かるんじゃない? うん、そうしよう。ミイナさんには悪いけど、二重式ポットからは撤退決定だ。
まぁね、このポットのネタを出してきたことでミイナさんが転生か転移していることは確定した。
元々ミイナさんも俺が転生していると思って近付いて来てた節はある。この年齢で村を運営出来る能力がある子供が居ると知ったら、真っ先に転生してると思って当然だし。
ボコポン湯、石鹸で確信し、クロスボウでダメ押しだろう。
たださぁ、折角異世界人が二人居るのにチート無し同士が集まってどうするのよ?
言ったらなんだけど、俺達って生粋のこの世界クオリティの人達よりロースペックだよ。
辛うじて応急手当ての魔法が使えるのがセールスポイントだけど、俺でもまだ擦り傷を治すのに五分間も待たせなきゃならないし。
ミイナさんが離れた場所でキリー姉妹の話し相手になってくれて、今凄く盛り上がっているんだけど、セルバンと結婚しろとか押し付けられてる。
ミイナさんは日本人の顔だから転生ではなく転移してきたのだろう。バタ臭い俺の顔はどう思っているんだろうね?
あ……年下はちょっとムリって聞こえてきたよ……顔を否定されなくて良かったのか?
落ち込んで良いのか悪いのか悩んでいると、
「村ちょー! 畑にハトが寄って来るのどうにかしてよ!」
と畑担当のチビがやって来た。
このタイミングで来たってことは、キリー姉妹に働いてますアピールしたくてだと思う。
ハトが来るのは種蒔きの後や豆が出来た頃だな。
でも作物に付いた虫を食べてくれるから、完全な悪者ってことじゃないんだよね。でも確かにいちいち追い払うのは面倒だな。
試しにカカシでも作ってみるか。理想は何かが近寄って来ると自動で動く仕掛け付きのカカシだけど、電気が無いから無理か。
でも魔道具のコンロがあるのだから、自動で動かせる仕組みもあるんじゃないかな?
剣術の指導で使う巻き藁を作っている子が村に居るので、それを使って人の形にしてもらおうか。
自動で動く仕掛けは諦めるしかない。
あのケチ神にもう一度会えるなら、今なら魔道具作成スキルを貰いたいな。直接戦うのは俺には向いてないかも知れないからね。




