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第36話 矢と鴨

 安全帯はともかく、俺自身が治癒魔法の技術をどこまで磨くかが問題だ。

 騎士クラスになると応急手当ての魔法は必須科目で、それ以外は各自の適正に応じて四つぐらいの魔法の修得に励むそうだ。


 一人の人間が修得出来る魔法は、各自が持つポイントをどの魔法に割り当てるか選択していくような仕組みである。


 仮に魔法習得ポイントが三十の人なら、レベル十の魔法を三個覚えると他の魔法は覚えられなくなるし、レベル五の魔法なら六個覚えられる。

 文字にするとゲーム的な感覚だけど、魔法の熟練度を上げるのはそう簡単ではない。

 上矢印をタタタッとクリックしてポイント消費してレベルに振り分けられるシステムは無いし、レベルアップしてスキルポイントを得るシステムでもない。


 そう、この世界はゲームとは違うのだ。


 神様からすれば、地球なんて人間を配置して放置して結果を楽しむシミュレーションゲームの盤かも知れないけど、生身の俺は自らの意思と肉体を動かしているのだから、これでゲームだなんて言われたらドジョウ料理のお供えを辞めてやるからな!


 ドジョウはともかく、人が覚えられる魔法は有限である。

 しかも各自の上限も不明。ステータスの確認ぐらいさせろと思う。


 この治癒魔法だが、国内でも骨折を治せるだけの腕前を持つ人は片手の指ぐらいしか居ない。

 しかも王都で糞高い金額で治療しているとか。

 そんな人でもデボラの砕かれた関節は治療不可能らしいのだ。実は腕利きの術者を王族が匿っているんじゃないかな?


「応急手当てが上手く出来るようになったとして、他にどんな魔法を覚えたいの?」

「そうね、攻撃を防ぐ盾とかロマンよね」


 ロマンを求めて冒険者になると大変な目に遭うからね。


「それに怪我ももっと治せるようになりたいし、病気も治療出来るようになりたい」


 彼女にやる気があるなら止めはすまい。

 ヒーラーが居てくれれば俺も安心して町の外に出て狩場に行ける。


「それならこの国一番の治癒魔法使い目指して頑張ろう」

「ナンバーツーじゃダメなんですか?

 それに競うものじゃなくて、この村のオンリーワンで良いと思うわ」


 なんか古いネタが混ざっている気がするが。気にしたら負けだな。


「応急手当ては使っていれば、熟練度が上がってもっと治せるようになると思う。

 簡単には上がらないと思うから、私の為にセルバンも怪我してね?」

「無茶言わないでよ、とんだサディストだ」

「勿論冗談よ」


 フフッと笑うけど、ホントに冗談だよね?

 こりゃ本気で俺も治癒魔法を鍛えるほうが良いかもね。

 それ以外の覚える魔法の選択も問題だけど、何分も精神統一しないと魔法が使えないってのはどうにかしないと実用性が無さすぎる。


 広域殲滅魔法に長い詠唱ってのはまだしも、ただのファイヤーボールで五分間も足を止めてどうするの?

 ラノベに出るモブと同じようなレベルでしょ。

 シェルド爺さんに良いアイテムが無いか聞いてみようかな。



 翌日はクロスボウを使ったハンティングに出てみた。

 ゴブリンジェネラルのせいで森には行けないので、町に流れているメイベル川の本流のエルラード川を目指したのだ。


 徒歩で半時間、三キロ弱の距離に大きな土手と水門がある。

 他にも櫓があったり船が係留されていたり。漁師がサケやマスでも捕るのかな?

 ついでに、と言うか一番多いのは荷物を運ぶ船だろう。


 元々プライゾン王国はこのエルラード川を利用して木材を運ぶことで栄えているのだとか。

 川から離れた位置に町があるのは水害対策だし。それが今は鉄鉱石が一番の稼ぎ頭になっているが、下流の町に運ぶなら陸路より水路の方が早いらしい。

 

 その川幅は狭い場所でもニ百メートルを越えていそうだ。

 今の技術で多段式のアーチ橋を掛けることも出来るらしいが、それを作るお金もメリットも無いと櫓の前に居たおじさんが鼻くそほじりながら教えてくれた。


 川の向こうは何があるのか聞いてみると、暫くは平地が続いてその向こうは密林の未開地域だとか。

 面白そうな生き物が居るかも知れないから川を渡ってみたいな。

 俺に錬金術とか土を操る魔法が使えるなら、パッと橋を作って向こう岸を散策するのにな。


 妄想はさておくとして。

 今日の目的はクロスボウの試し撃ちと食肉確保だ。

 ミイナさんも弓の指導を受けているそうで、胸、腕、手に借り物?の防具をしっかり装着しているし、構えは確かに凛々しく見える……のだが、矢が思い通りには飛ばないらしい。


 彼女が弓の本格的な指導を受けているのは延べ十日程。

 それで思い通りに矢が飛んで行くなら、この世の中は猟師だらけになってしまう……その前に獲物が足りなくなるかも。


 サイズ的にショートボウと呼ばれるサイズの弓で、彼女の腕力にあった物を選んだ結果、俺が今使っている弓が良いと言われた。

 身長はまだ少しミイナさんの方が高いが、腕力は同じくらいだね! ムフフ……


 冗談はさておき、弓のサイズが変われば弦の長さも変わるのだから同じサイズの弓を持つってのは補修部品のストックって意味では合理的だ。

 ところで弦が切れたらミイナさんが張り替えてくれるのかな?


 そんな考え事をしている間に浅瀬に鳥が着水し、餌を求めて水面を見つめている。


 これはチャンス!


 目測で距離およそ三十ニメートル、ほぼ無風、目標はカモ。

 クロスボウの方が発射までに要する時間が掛かるのは仕方ない。二人同時に発射した方が逃しにくいだろうと言うことで、三、ニ、一と二人揃ってカウントダウン。


 矢を離すタイミングではミイナさんは声を出せなかったようで、

「ゼロ!」

と俺一人だけ。

 照準器の向こうに見えるカモの背中に合わせてトリガーを引く。土手が水面より少し盛り上がっているから、少し弾道が垂れると思ったわけだ。


 だが俺の矢はカモの足元に着弾し、川の中にチャプンと飛び込んだ。

 慌てたカモが羽ばたき、離水したところにミイナさんの矢が時間差で飛んで行く。

 そして彼女の矢の飛ぶ速さがクロスボウの矢より遅かったお陰で、見事に羽を撃ち抜くことが出来たのだった。


「やった!」


 喜ぶミイナさんには悪いがまだ矢ガモ状態だからね。可哀想だが暴れるカモを掴んで首を捻る。心臓にナイフを突き刺すのは的が小さくて無理だからね。

 これには慣れるまではかなり抵抗があったけど、今では自分が生きる為に必要な行為だと割りきっている。

 食料にするからと言って、苦痛を与える時間は少ない方が良いに決まってるし。


「今日はカモ鍋ね」

「まだ一羽だけだよ。ウチにはチビッ子が多いんだから、もっと捕らないと欠片しか食べれないから」

「……はぁい」


 指折りチビッ子の数を数え、テンションを下げているミイナさんを放置して矢を回収する。先端が潰れているので研がないと使えないな。

 次はもう少し上に狙いを定めて撃とうと、獲物を探して回るのだった。

 それにしても、ミイナさんは首を捻って締めることに抵抗が無かったんだな。



「ムムムっ! ミイナはやはりPCだな。

 今の矢の軌道、明らかに技が使われていたぞ」

「セルバンが外したからって、おかしなイチャモン付けないで下さいよ。

 クロスボウにアーチャーのスキル補正は入らないから外しても仕方ないんです」

「それは分かっているが。クロスボウでもスキル補正のあるクラスは何があるのだ?」

「えーとですね……攻略ウッキッキで見てみます……あった、スナイパーですね。

 あらま、残念ながらスコープ付きの長射程クロスボウが必要ですよ。これ、王都でしか売っていないレアアイテムぽいですけど」

「そいつを邪波熱徒か天存で取り寄せ出来ないのか? 送料無料だろ」

「荷馬車業界も働き方改革の影響受けてますからね。

 それと、セルバンは天存プライム会員じゃないので送料は掛かりますよ」

「ちっ! ……スナイパーへの転職はどうすれば良い?」

「弓を使うのをやめて暫くクロスボウの訓練に励むことですね。」


 自分がクロスボウで無双したいが為に、何とかしてセルバンをスナイパーにクラスチェンジさせたいと考えるジロー神であった。

ケント神の言う長射程クロスボウは、普通の人間の筋力では引けない設置式の武器になります。

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