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第33話 道具なんてそう思い付かないし

 商業ギルドで危機管理部への勧誘を受けたけど、取り敢えずは保留ってことにした。ギルドを出てから考え事をしつつ通りを歩く。


 既に地震があったことをすっかり忘れていたのだが、通りには地震に耐性が無い為にまだ怯えている者も居た。

 建物が倒壊したとか、そんな大きな被害が出ていないなら騒ぐ程でもないだろうとスルー出来るのは俺が日本人だったからか。


「掘っ立て小屋、大丈夫だよな?」


 先程の地震で被害が出た可能性があるとすれば、恐らくバリシアの中でボロさランキング上位の俺の家か、スラム地区にある建物ぐらいだろう。

 よし、今なら匠も居るし、もう少ししっかりした家を建てよう。

 建築資材をどうするか、商業ギルドに相談するか。


「そう言や、昔は歩いてるだけでも石を投げられたこともあったっけ」


 薄汚い格好の子供を見て、可哀想とは思わず厄介者と思う者も少なくはない。

 店先に並べた商品を盗まれないかと警戒を強める店主も多い。

 実に住みにくい町だった。


 それが今では気軽に挨拶してくれる人達も増えてきて、食べ物をお裾分けして貰えることもある。

 出来れば現金収入を手っ取り早く一桁二桁増やしたいところだが、安全を考えるとそれは難しいか。


「セルバン君、こっちおいで」


 そんな声が聞こえたのでそちらを向くと、掌を上に向けてカモンカモンと手招きしていたのは、雑貨店を営むカミィさんの妹のカマーンさんだ。

 姉のカミィさんがクリップでボロ儲けしているからと、何か商売のネタは無いかと顔を合わせる度に聞いてくる。と言っても、カミィさんにクリップを教えて以降では三度か四度ぐらいしかカマーンさんに会っていないけど。


 俺だって出して良い知識とダメな知識ぐらいは選別している。

 何でもホイホイと教える訳にはいかないので、今まではネタが思い付かないからと断っていたのだ。


「何か思い付いたネタは無いかい?」


 現金収入を増やしたい俺は少しだけ考えてみる。

 何でもかんでも教える訳ではなく、彼女の商売に絡むことに絞り込んでみればアイデアが浮かんでくるかも。


「カマーンさんって何かのお店してるの?」

「亭主が大工だからね。工具を扱うお店で働いているんだよ」

「工具か……」


 俺は村を持っているから欲しい工具はたくさんある。チビッ子達は本来なら廃棄されるような道具でも直しながら使っているが、それも限界に近い。

 特にシャベルやツルハシが必要である。

 木工用の各種工具も新調しておきたいし、養殖池の拡張では石を加工する機会もある。

 是非ともそのお店とは良い関係を築いておきたい。私利私欲感の丸出しで何が悪い?


「お店を見せてもらっても?」

「おや、今日はやる気モードだね。是非とも見てやって」


 カマーンさんに連れられてやって来たのは、いかにも職人の集う街って感じの場所だ。

 鍛冶場が多いのか、暑くてうるさくてとても敵わない。

 分かっていたが、工具店には店構えにも店内にもお洒落っ気は一切無い。職人相手にお洒落など必要無いと言わんばかりの潔さだ。


 壁には棚が備え付けてあり、各種手待ち工具がアレコレと陳列してある。

 勿論全て職人によるオールハンドメイド。こう言うのが好きな人には刺さるのかも知れないが、生憎俺には工作の趣味は無い。

 

 だが、一番棚の上にある何かの値段が大銀貨百枚と桁が違っていたのに驚いた。


「あぁ、あれは魔道具さ。

 魔石は知ってるだろ? 魔石を入れたら火が出て鍋で湯が沸かせるって寸法さ」

「おー、すごいです」


 とりあえず棒読みで感動を現しておこう。

 初めて魔道具を見たと言う感動より、あまりの値段に驚愕して魔道具の凄さが全然心に伝わって来ないのだ。


「もっともね、安くならないと誰も買いやしないからさ、あれは宣伝用のガワだけなんだよ。

 だから火は着かないよ」

「……そう……本気で感動してなくて良かったよ」

「いやいや、普通の子供ならもっと驚くと思うんだけどね」

「火が着くだけで、あのお値段にドン引きしたからね」

「火が着くだけって……あんたねぇ……」


 どうもそれだけの機能でもこの世界の住人には感動を与える逸品らしい。

 家に居ながらにして、卓上コンロで一人鍋経験のある俺とは違うのだよ……言ってて虚しい。

 魔道具はどうでも良くて、取り敢えず木工用の道具でも見てみるか。


「ハンマー、ノコギリ……」

「もぅこっち無視してアンタ自由かい」

「……え?

 あー、うん。何か閃いたら教えるから」


 火が着かないモックアップなんて興味がないから無視に限る。

 しかし、そうとは言ったものの工具なんてそうそう思い付く訳が無い。

 切る、打つ、回す、掴む、延ばす、持ち上げる……結局工具ってそんな物だから、必要な物はとっくに作られているでしょ。


 店に無くて思い付くのは色々な機能を持たせた十徳ナイフや万能鋏だけど、あれって使い勝手は良くないし、欲しい工具を出すのも地味に手間だからね。


 電動工具が魔道具で再現出来るならもっと案があるけど、コンロが大銀貨百枚もするようじゃ誰も買えない値段になるだろうね。 


 プロ用の工具が駄目なら目先を変えて顧客層を広げる方向にシフトすべきか。

 例えば同じスコップでも、ガーデニング用品はお洒落な形や色使いにするとか、子供向けの可愛い商品を用意するとか。


 子供向けと言えば、落ちた木の実は拾えるけど、枝に生っている実を取るのが大変なんだよね。

 収穫作業がラクになるように高枝切り鋏と籠の付いた棒みたいなのを作ってもらおうかな……これはバカ売れする訳がないけどね。


 後はそうだな、子供達が怪我をしないように安全靴とかヘルメットに肘と膝と手首のプロテクター。

 いつ誰かに斬られてもいいように鉄板入りのベストとかも……おっと、高所作業用に安全帯もか。これには親綱の必要性も伝えなきゃ。

 他には……トントン……肩を指で叩かれた。


「はい? 何か?」

「どうしてそんなにポンポン出てくるのよ?

 鳩だってそんなに卵は産まないわよ」


 いっけねぇ、思い付いたこと全部口から出してたわ。


「何か良さそうなの有った?」

「最初の方のは知らない物ばかりだし、ガーデニングのは需要があるか分からないし、収穫用のは確かに便利そうだけど、どれも保留だね。

 高枝切り鋏と安全靴ってのは気になったね。

 工房と道具は貸して貰えるように頼んでやるから、作りたいものがあるなら自分でやってみな」


 自分でか……それも悪くないな。やってるうちに何か思い付くかも知れないし。


「それは助かるよ。あと、材料も出来れば」

「廃材で良ければね。

 でも鉄はダメだよ、溶かして使うんだから」

「それは勿論ですよ……鉄はリサイクル出来るからダメだよね……はぁ」


 くそっ、ほんとは鉄が一番欲しかったのに。鉄と言うか鋼だけどね。


「それと、さっきアンタが言ったもの、取り敢えず全部書き出しておくれ。形の分からないのも幾つかあるから、絵も頼むわよ」

「絵は苦手なんだよね」


 俺の芸術的センスは画伯と呼ばれて笑われるぐらい壊滅的なレベルだぞ!

 それに何を言ったか覚えてないし。困ったなぁ。



「次長、遂に下僕の発明品が登場ですね!」

「どうだかな。油のフィルターは大して儲けにならんからな。しかし、大ヒットしそうな品物を思い付かんとは、とことん使えんヤツだな。

 お前も次はもっとまともなヤツに缶を当てろ」

「ハイハイ、頑張ってポイ捨てしますっ!」


 空き缶のポイ捨てで当たった人間が異世界行きなんてシステムをどうにかしろよ、と思わないのが神の神たる所以である。

 マジチュアのガチャ演出は空き缶のポイ捨てシーンが使われているが、それはあくまで演出である。それならまだ自動販売機での演出の方がマシであろう。

 しかし、ケント神が空き缶をポイ捨てしたことが原因でセルバンが転生することになり、プロモーションを見ていたジロー神がノリでマジチュアの世界にセルバンを送りこんだのだからタチが悪い。


「しかし、確かに良い道具で作られた祭壇の方がお供えポイントが多く貰えるなら、村に与えるべきだな。

 それに家も建て直させないとそろそろヤバイか」

「建て直すなら、さっと燃やしちゃいましょう。その方が片付けもラクですし」

「それは禁則行為に該当するから出来ん」

「PKはOKなのに、建物燃やすのはNGってイミフです!」


 PKとは他のプレーヤーの下僕を殺すことを意味し、これはマジカルミニチュアガーデンのシステムでも確かに可能である。

 神の下僕であっても、基本的には転生者の魂を宿しているのだから普通の人間と同じなのである。


 つまり悪人は悪人として転生し、悪人として振る舞う様子を楽しむこともマジカルミニチュアガーデンでは可能なのだ。何せ神の善悪の基準は人間とは違うのだから。

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