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第32話 分岐点

 ドリチェがバリシアの冒険者ギルドに報酬を受け取りに来た際、デボラの死亡が報告された。

 表向きにはゴブリンジェネラルとの戦闘によって出来た傷が原因とされているが、アレがそれぐらいでくたばる玉かよ?と言うのが三人の意見である。

 だが、死者を冒涜するような言葉を発するような子供ではなかったようだ。


「ゴンダンさん、俺達は今日で冒険者を引退することにした」

「……そうか。やはり軍に行くのか?」

「まだ決めていない。

 幸い家も金もある。急いで決める必要は無い」

「折角バリシアに戻ってきたくれたのに残念だな。

 彫師の都合があるので、明日にでもまた来てくれ。カードは用意しておく」

「了解」


 金貨の入った革袋を背嚢に仕舞うと、軽く手を上げて三人がギルドを後にする。

 優秀な冒険者をみすみす逃してしまったゴンダンは大きな溜め息を吐く。

 彼らが引退を決意したのは、間違いなくデボラをギルアノ大森林に派遣したこのギルドに嫌気が差したからであろう。

 それだけデボラの振る舞いは酷かったのだから。


 だが、実力は無い癖に家の地位を笠に着て好き勝手をやって来たデボラも居なくなり、このギルドも少しはましになるだろうと、良い方向に考える。

 実際には役にも立たない口先だけの天下り連中がまだのさばっているので、デボラ一人が消えたところでそう変わらないのだが。


 余談であるが、引退した冒険者はギルドカードをギルドに返却しなければならない。

 その際には腕に入れたタトゥーにも取消し線が入り、無職で身分保証が出来るものが無くなる。

 それでは不便なので冒険者を引退した者はギルドの引退証明カードを発行してもらう。

 運転免許証を返納したら貰う運転経歴証明書と考え方は全く同じである。


 カード発行時の申請書類には聞き取った情報だけでなく外見的特徴なども追記してギルドに保管する。

 誰かのタトゥーをコピーしてからギルドカードを紛失したと偽り、再発行しようとする輩に対する防衛策である。

 特に冒険者になったばかりで顔が全然売れていない若者が狙われやすいので要注意。

 


「あのー、次長、ちょっといいですか?」

「どうした? プラン変更ならショップへ行ってこい。フレックスで早退しても構わん」

「それならそうします……そうじゃなくて。

 マジチュアの世界の様子がおかしくないですか?

 まだジェネラル祭りになるような設定にはなっていない筈ですよ」


 ケント神が表示させたのはギルアノ大森林の衛星写真だ。

 本来ここは二日続けてゴブリンジェネラルが出るような地域ではなく、地震も起きる要素が無い地域なのだ。


「街作りゲームにはお約束のランダムイベントが起きるのかも知れんな」

「そんなのがあるんですね」

「俺が以前やっていたのは、映画に出てくるモンスターによる災害が起きたな。とにかくお約束の面倒なやつだ。

 今回の予告イベントはたまたま先触れであるジェネラルの処置が早く出来たのでキングの出現は免れ大事には至らなかったんだろうな。

「あれ? ……ランダムイベントは発生時期も不明、運が悪ければ地表の半分が水没したり、一斉に火山が噴火して太陽光を遮り生物が死滅することもある……ちょ、公式さん、そんな追加情報出さないでくださいよ」

「そう言ってやるな。

 神の大半は、そのイベント後にどんな生物が発生するのかを楽しみにしているんじゃないか?

 特に人間に固執することのない神だとそんなものだろ」


 とは言え、一方で下僕を配置して時に憑依して狩りに出るようなプレーヤーは極力そんなイベントは起きてほしくないのである。

 このイベントが発生すると、折角手に入れた下僕を失うリスクが高いからだ。

 課金すれば救済アイテムや別の下僕がランダムで入手出来るのだが、このジロー神は今も無課金勢を続けている。


 セルバンを失うことなくイベントを乗り切るには、どんな手を打てば良いのかと考えるのも楽しいものだとジロー神は思う。


「まあ、人間が滅んだら自動リセットされるみたいですから、それからニューゲームを始めればいいだけですね。

 確か下僕はゲーム毎に一人配置出来るんでしょ?」

「その下僕候補がお前の投げた空き缶やらゴミやらで決まるってのが気に食わないんだよ……どこの世界に空き缶のポイ捨てをガチャ引き演出に使う運営が居ると言うのだ?

 実に腹立たしい。

 しかもお前の飲むのはやっすい缶コーヒーばかりだ。

 たまにはUR確定缶詰を買ってこい」

「給料が上がったら考えまーす!」


 タイムカードをガチャンと押して、そそくさと退出するケント神であった。



 デボラを見捨てて森を脱出しようとしたネフとジスは、逃亡直後に剣を持ったゴブリン三匹に遭遇し、苦戦を強いられていた。


 銀級でも中の下程度の実力の二人では、体格はそれ程でもないとは言えゴブリンウォリアーを相手にするには明らかに力不足であった。


 辛うじて何合か撃ち合うことは出来たが、剣を飛ばされたネフが死を悟ったその時に何者かの矢がゴブリンウォリアーに向けて放たれたのだ。


 奇襲を受けたゴブリン達は退却ではなく殲滅を選択し、尚もネフとジスに攻撃を繰り出そうとしたが次々と放たれた矢によって絶命した。


「誰か知らねぇが助かった」

「マジありがてぇ。大した礼はできねぇけどよ」


 弓を背にした三人が二人の前に姿を表す。

 バリシアに来てからは冒険者ギルドの酒場で入り浸っていた二人だが、三人の顔に心当たりは無い。


「礼はいらない。欲しいのは忠誠心?」

「どう言う意味だ?」


 真ん中の小柄な人物に意味の分からないことを言われ、ネフは戸惑いを隠せない。


「命は助けた。その代償を支払う義務がお前達にはある」

「冒険者が助け合うのは当たり前だろっ!」

「我々は仲良しゴッコをしている冒険者ではない」


 とても人の声とは思えぬ冷たい声に、ネフとジスが顔を見合わせる。


「冒険者じゃなく、軍でもないなら……」

「まさか、闇ギ……」

「おっと、命が惜しいならこの先は喋らない方が良い」


 二人は生まれて初めて命を掛けた重大な分岐点に立った……。

「俺らモブコンビがまさかのトリっ!

 セルバンがモタモタしているうちに大出世のチャンスっ!」

「そっちじゃないっ!

 闇何とかが遂に姿を現したってのがメインだろ!」

「あ、うちら宣伝活動してないんで、そう言うの大丈夫っすょ。

 名刺渡すんで、興味あったら来てね。いい娘いるから」

「キャバクラかっ!」

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