第2話 設定完了
「ゴホッ、しかしだな。空き缶をポイ捨てしたのは仕方ないが、結果的にコイツが死んだのはまずかったな」
あ、オチじゃなくてまだ続きがあったんだ。
そりゃ、あんな変な勘違いで終わられても甚だ困るしね。
ん? てか次長さんよぉ、アンタは手下のポイ捨ては許すんだ……な。
俺の頭の中で考えていることは丸分かりなので、癇に障ったのか次長のジロー神(仮称)がジロリと俺を冷たい目で見る。
「俺のことを勝手にジロー神と呼ぶな。ソイツをケント神と呼ぶのは一向に構わんが」
半分空気と化していた部下のケント神……が、自分を指差して慌てる。
「私、ケント神です? 出来ればスーパーウルトラバスター神でお願いしたいんですが」
「そんなものは却下だ。神は信仰あっての存在なのだ。まだ名前の無いお前に名前を付けてやったことを喜べ」
へぇ、神様の名前ってそう言うシステムなんだ。良く分からないけど、納得しておこう。
きっと神様的には名前なんて大した意味が無いんだろうから。そうだよ、同じ太陽の神様でも宗教によって呼び名が違う、みたいな感じだし。
「ふん、名前のことはともかく、誰にでも投げ捨てたい物の百や二百はある。
たまたま今回コイツのそれが空き缶だったに過ぎん。それぐらい気にするな」
そう言うとヨイショ下手の部下ケント神(仮称)を指差すが、いくらなんでもそれはさすがに甘過ぎだよ。
部下にパワハラしても指導だと言い張る上司や、偽の証書を見せるようなオバサンよりまともかも知れないけど。
それに百も二百もって、多すぎると思うけど。
「俺の裁きにケチ付けるたぁ、良い度胸だな」
「まぁまぁ、お二人とも私の為に喧嘩はやめて」
「お前は(あんたは)あんたは黙ってろ(黙ってて)」
ケント神が俺と次長の間に割って入るが、俺とジロー神が同じタイミングで押し返す。
「そこの人間、俺とハモるとは思ったよりやるじゃないか。
よし、気に入った、転生の許可を出してやろう」
はい?
俺ってポイ捨ての空き缶のせいで寿命を全う出来なかった場合に当て嵌まる筈だから、そっちが許可を出すとか出さないとか関係なくて、漏れなく転生対象だと思うのだが反論あるかな?
イラッとしたような表情のジロー神が、おもむろに青と白のツートンカラーの薄いプラスチックケースをどこかから取り出す。
そして手の上にトントンと二回当てて何かをコロコロと二、三粒落として彼の口の中に一気に放り込む。
カリッとした咀嚼音のした後、ミントの香りが漂い始めたのできっとミント成分を含むタブレットなんだろう。
「よし、気が変わった、お前の転生は却下だ。
そもそも手放し運転しておいて、事故れば神のせいにするなど言い掛かりだな」
「うわっ! この人、横暴だよ! 暴君だっ! 掌返しがマジ神技レベルのプロの技っ!」
「俺は神だから当然だな」
何も悪びれる様子もなく、カリカリとミントタブレットを数回噛んでゴックン。
くそっ、空き缶無視したのはここへの伏線かよ!
こうなったら仕方ない! 最後の手段っ!
「お願いします! 転生したいですっ!
なんなら祭壇作って気が向いたらお供えしますから、異世界に転送してください!
とにかく、やらみそルートだけは回避したいんですっ!」
あ……土下座するつもりが、ちょい悪神様の両肩を掴んで何恥ずかしいことを喚いてんだか。
「…………お前のキモさが切実だな、おい、さすがにこれは引くレベルだぞ」
「妹に馬鹿にされたので、魔法使いへのジョブチェンジ前に経験だけはしておきたいんですよ、はい、切実に」
陰キャコミュ障気味な俺だったけど、生まれ変わって陽キャ社交的な人生を送ってみたい。
思えば始めはただの口下手なだけだった。
それが職場でOA委員と言う時代遅れの役職を押し付けられ、メールソフトのトラブル対応の際に俺の悪口がしこたま遣り取りされていたのを見付けて女性不信に陥った。
それからドンドン病んでいき、鬱を患ってからおかしな対応を取るようになったのだ。
「調査結果を見ればお前に言われなくても分かるが、なかなかハードな職場生活だったな。
少しは同情の余地があるか。今夜はドジョウ鍋にするか」
「分かってもらえれば同情でも同情でも道場でもドジョウで何でもいいんですっ!
高望みしません、今よりましなレベルってだけでもオッケーですからっ、どうじょ宜しく!」
ここで肩を掴んでいた手を離し、ガバッと土下座する。
そして頭を下げてから、間違えて殺された側が下手な駄洒落に付き合いながら、土下座っておかしくないかと今更ながら少しだけ思った。
「そうか………………………………そこまで卑屈になられると、さすがに俺でも断るのは心が痛む、下手と言われたせいではないが」
その沈黙っ! 本気で同情しなくていいから!
そんなに気にしてたことに逆に泣けてくる!
「そうだな……俺の下僕と言う設定を入れても良いのなら、ついさっきオープンしたばかりの世界に捩じ込んでやらんでもない」
下僕だろうが何だろうが、今の俺でなくなるのなら何でも受け入れてやるさ。
オープンしたばかりなら、スタートダッシュかませばきっと何かが有利に進められるに違いない。
「ありがとうございます! では条件を」
「善は急げだ。ほれ、とっとと行ってこい!」
えっ? 普通なら、ここからチートを貰う交渉のスタートじゃ?
「極端に急過ぎるっ! 条件とか選ばせてくれよ」
「ふんっ、ニートにチートはやらん」
上手いこと言ったぜ、と言う様子でドヤ顔を決めるジロー神に、
「おにーーっ! ドケチーーっ!」
と思わず叫んだのだが、神様が軽く手を振ったのと同時に体が落下を始めたのだ。
手駒のように扱われる転生ライフの予感が何かのメーターを振り切りながら、今世の俺の生涯に幕を閉じる……。
◇
「次長。さっきの人、何処に送ったんです?」
「今日の10神時にサ開した『マジカルミニチュアガーデン』だ」
そう言って次長が目の前にヒュンと透明なディスプレイを表示させると、ゲームのド派手なオープニングがスタートした。神の世界のゲームなので完全な3Dモデルは当たり前だ。
だが、それを見るなり溜め息を吐く部下。
「運営の『神世界共同開発公社』って課金圧の高いクソゲーメーカーじゃないですか」
「ふん、俺はゲームには課金しない派だ。
それにお前が空き缶をポイ捨てしたのがアイツの死因だ。課金したらお前の給料から天引きしてやる。天に居る神だけに天引きは得意だ」
上手いことを言ったとドヤ顔を見せる上司を横目にアンタのギャグはセンス無さ過ぎるとこっそり溜め息を吐きつつも、ヨイショの精神は忘れないケント神だ。
「はい、限られたリソースでプレイする無課金ユーザーって最高ですねっ!
さすが次長! 課金は負けです!」
上司も上司だが、部下も部下である。
「ちなみにそのゲームは、どんなゲームです?」
「異世界に送り込んだ下僕に市民生活を送らせ、町を発展させたり英雄に育てたり。
基本的には下僕の好きなように生かせるスローライフ系箱庭ゲームだ。
スタート地点、生まれ、何から何までランダムで……」
次長の開いた画面に表示されているキャラクターは、ボロい服を纏った子供であった。
「ちっ、ストリートチルドレンスタートか……まぁ、ゴブリンにならなかっただけマシか。
よし、名前は……セルバンにするか」
「えっ? リセマラしないんすか?」
「それは出来ん。リセットしたキャラはPCからNPCに払い下げになるからな」
「あぁ、ゲーム世界に転移したらNPCが普通に生きた人間なのは、元々PCだったからなんですね」
得意気に解説する部下に、お前が事故死させた人間だと言うことを忘れるなと釘を刺さなければと思う次長であった。
「あっ、次長!」
「どうした?」
「今が19神時ですから、9神時遅れだともうそこそこ差は出てますね。そのゲームは鯖の選べない仕様みたいですから。
攻略情報も幾つか上がって来てますね。課金でタイムチケットを購入すると、ゲーム世界内の時間を遡って下僕を送り込むことが出来るそうです」
「そんなことをして何のメリットがある?」
「ランダムで重要な地位に就くことが出来まして……つまりですね、国王やお偉いさんが誰かのPCって可能性もあるわけです……カッキーン恐るべしです」
自分の給料一年分近くを金額を課金して、国王やってます!と、言う書き込みを見付けたケント神が顔を青くしたのだった。




