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第26話 嫁ではない

 そんな訳でミイナさんを連れて村に案内することにした。

 ギルドマスターの応接室にはソナートと言う名前の女の子が居たのだが、結局俺とは顔を合わさず。

 ミイナさんが言うにはかなりの美少女らしいが、俺のストライクゾーンからは外れているみたいだからどうでも良い。


「へー、バリシア城壁の中なのにホントに村があるみたい。ここが村長の掘っ建て小屋村ね」

「肉を持たせて悪かったね。重たかったでしょ?」

「これぐらいなら平気よ。それに私のお腹にも入るんだし」


 今晩宿泊する宿をとっていないとのことで、早速ミイナさんが俺の後ろを歩いて村にやって来たのだが。


「あ! 村長が女を連れてきた!」

「結婚だ!」

「村長の年だと、まだ結婚は出来ないんだってカミィおばちゃんが言ってたよぉ」


 そう騒いでいるのは、外にある共同の炊事場で夕食を作っている子供達だ。

 ここには井戸を中心にして少し広めに雨除けの屋根を張ってあるフリースペースで、いつもここで女の子達が集まって楽しそうにしているらしい。


 調理器具を村の各家に揃えるだけの余裕が無いので、ここで村人の食事を一括して作ることにしたのは内緒である。

 子供だけとは言え人数が多く、大きな鍋になるのでなかなかの重労働だが、今のところ特に文句は出ていない。


「今日はたくさん肉を貰ってきたぞ」

「やったー! 焼くよっ!」

「焼き鳥するの! わたしは串打ち三年のテクニックを見せてあげるの!」

「お前まだここに来て半年だろ、大げさ言うなって」


 子供達もミイナさんが来たからテンション上がってるみたいだな。


「この家は……日干しレンガで?

 なかなか趣があるのね」

「石は集めるのも加工も大変だけど、日干しレンガなら自分達でも作れるからね。

 家の形にするにはコツが必要だけど、器用な子が居るから棟梁に任命して任せてるんだ」


 レンガを積んで家を作るときには屋根を作るのが一番大変で、強度も必要だからこの村のレンガの家の屋根はアーチ形にしてある。

 木でアーチの形に枠を作って、その上に乗せていく工法だ。これだとその枠を使いまわしが出来るので同じ形の屋根が幾つでも作れる。


 その結果、この村はサイズが同じかまぼこ形の屋根を乗せたレンガ作りの家が並んでいる。

 まぁ、良く言えば規格化だな。

 どの家も幅は同じだけど、家によって長さが違うだけ……農業用ハウスと考え方は同じかも。


 レンガを作る型も壁用の長方形と屋根用の傾斜付きの二種類を作っているので、レンガを削る手間もいらない。

 外見さえ諦めれば理想的な家作りである。出来ればカマクラやパオみたいな形を作りたいけど、どうやって作れば良いのか分からないので保留中。

 丸いドーム形の屋根にするならレンガを削らないといけないだろうから作る予定は無い。


 ちなみに本来であれば日干しレンガは年間降雨量の少ない乾燥地域で使用するものだ。焼かずに作るので水には強くないと言う欠点があるからね。

 なのでいずれは三和土(たたき)か漆喰を作って外面を補強したいと思っているが、材料が手に入るかな? 主原料の消石灰は貝殻を燃やして作れるとしても、糊になる材料が分からないので困った。

 オクラのネバネバで試してみるか。オクラって結構育つのが早くて収穫時期を一日逃しただけで固くて食えなくなるから厄介なんだよね。でもたくさん収穫出来るから家庭菜園にもお勧めだよ。

 俺は好きな食材だけど、苦手にしているチビッ子も何人か居るのが残念だよ。


 トイレ、風呂、キッチンは村で共用だ。トイレは込み合う時もあるが、水洗用の工事は簡単には出来ないから其々の家には作れないので仕方ない。

 なので、高速道路のサービスエリアにある公衆トイレのような物を作っている。水で流せるし、汚水タンクには屎尿処理用のスライムを投入してあるのでそれ程臭くはない。


 トイレットペーパーが葉っぱなのは慣れたらそれほど気にならない。

 粗悪なチリカミ程度の物なら村で作れるかも知れないが、それ用の材料が豊富にあるかってこと、あっても金銭的に困難なこと、それにその知識を披露した後の影響が未知数なので自粛している。


「おトイレの紙はやっぱり葉っぱよね……死んだお婆ちゃんが植物から紙を作る方法を教えてくれたのよ。

 売り物に出来るほどのじゃないけど、材料になる植物があれば作ってみるわよ」


 この国の植物繊維の紙は国外から輸入しているから貴重品だ。それを作ろうとミイナさんが提案してくれた。

 道具とやる気さえあれば、繊維を取る植物と糊になる植物から手漉きの紙擬きを作ることが出来る。

 この町の近辺に材料の植物があるかないか不明だけど、と俺と同じレベルの知識を披露してくれた。勿論詳細はカットする。


「もし紙を作るなら、商業ギルドに相談した方が良いよ。

 製法を教えたら情報料が貰えるし、材料の確保もやってくれる。人員はうちの村から出せばいいし」


 もしゴーサインが出たなら、まだ稼げるような仕事が出来ないチビッ子を工員に仕立てよう。

 重たい物は運べないから、チェーンブロックを装備した作業小屋をわが村の匠に作らせるつもりだ。

 百キロぐらい吊り上げるだけなら、チェーンじゃなくてロープでも良い。

 無理なら定滑車+動滑車で誤魔化そう……あっ、ブレーキとかの込み入った部品が必要だから、村の匠でもチェーンブロックは作れないかも。

 チェーンブロックは諦める替わりに、その滑車は横方向にも移動出来るようにレールを付けよう。運搬が楽になるからチビッ子達でも安心だな。


 ミイナさんを連れて村の中を案内しながら紙作り……から逸れて滑車作りのことを考える。

 そして今来ているのは水路脇に作った養殖池だ。

 以前は水路の中に石で囲った中を養殖池と呼んでいたけど、今は水路から引き込んだ水を溜めて池を作っている。


 これなら水路の水が濁っても塞き止めておけば被害は出ない。

 糞などを含む排水は下流側にスライム池を作ってそこに流れるようにしてある。養殖池にスライムを入れると、川海老や沢蟹を食べられてしまうからね。


 その養殖池に水路から水を引き込む取水口と、水路へ流す排水路の出口との間が、チビッ子達の水浴び場と露天風呂ゾーンだ。

 以前は焼いた石を運ぶのが結構手間なので、客が来た時しか風呂を使わないよう自粛していた。

 だがそれには満足が出来ず、川の上流を少し塞き止めて水嵩を増やし、そこから竹で水路を作って石と鉄鍋で作ったタンク兼ボイラに水を引くようにしたのだ。


 料理に使う竈とは別なので風呂用に湯を沸かす手間が必要であるが、焼けて熱い石を運ばなくてもお風呂に入ることが可能となったのだ。

 我が掘っ建て小屋村の誇る最先端技術を用いた露天風呂を見て、

「……これは……とんでもなく気合い入れて作ったのね」

とミイナさんが呆れていた。

 力を入れる場所が風呂っておかしいかな?


 黒っぽい髪の人だから元日本人かと思ったんだけど、わーっ!お風呂だっ!ってテンション上げてくれなかったから残念。

 単に見た目は和風の外国人……と言うか現地人だったのかな?

 それとも単に喜びたいのを我慢しているのかな?

 女の子の顔をジロジロ見るのはNGだから観察するのはやめておこう。


 その日の夜は、軽くミイナさんの歓迎会を催す。お肉が貰えたから少しだけいつもより肉の量が多い程度だけどね。


 残念ながら予定通りにミイナさんは女の子だけ暮らしている家で寝ることになった。

 寝る場所には干し草を厚めに敷いてあるから板の間で寝るよりマシな筈。

 ベッドを要求されなくて良かったよ。それを言えばサティアさんもか。



「今夜のお供えはいつもより豪勢だな」

「焼き鳥の串盛り合わせですか。ハツ、セセリ、ボンジリ、ヤゲン、セギモ、オタフク、サエズリ……肉がほとんど無いですけど、ひょっとして下僕が嫌いな部位が供えられたんじゃないです?」

「それでも構わん。俺は鳥ならどこでも喜んで食うぞ。

 ほぉ、モミジは煮込んでスープを作るつもりらしいな」

「あんなに気味が悪い足を食べるんですか?

 うわー、引くわ」


 解体されてまな板の上に放置されていた鳥の残骸を見たケント神がそっと目を逸らした。


「見た目は良くないかも知れんが、残さず利用するのは良い心掛けだ。それが食べるために殺した生き物への良い供養なのだ。

 うっ、皮串はお前にやる」


 そう言って無理矢理に皮串をケント神に押し付けるジロー神であった。


「言ってることとやってる事が違いません?」

「美味しく食べれん物を無理に食べても供養にはならん」

「あぁ言えばこぅ言う神って嫌われますよ」


 皮串を食べ終えたケント神はポイっと串を投げ捨て……また新たな被害者が産まれたのだった。

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