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第25話 秒でふられたけど

 話の途中でギルドマスターが急に真面目な顔になった。


「今日ゴブリンに襲われた三人は冒険者を辞めるそうだ」

「はぁ、それで? そんなのあいつらの勝手でしょうが」


 冒険者の出処進退は本人の意思だしね。怖い目に遭って辞めていく冒険者は星の数ほど……は居ないかもだけど、辞めるのは仕方ないでしょ。それにモブのことなんて俺には全然関係無いし。


「そこで、実績を立てたお前を特例で正式に鋼級冒険者に迎えようと思う」

「ほぇっ!? マジか?」


 そう来たか。見習いから冒険者になるメリットは、見習いより儲かる依頼が受けられるようになること、自由に町の外に出られることだ。

 逆にデメリットは何があるかな? 特例なんて貰ったら、他の冒険者からやっかみを受けるだろうけど、それは今もだし。でも下手に目立つと直接的な虐めを受けるようになるかも。


 それより俺のバウンサー候補って、これで完全に諦めてくれるのかな?

 それともバウンサー就任を早める為に冒険者にするのか?


「ただ、お前一人だと」

「あの、それ、お断りしまーす」


 どう考えても、厄介なトラブルが起きる未来しか見えないから、こんな訳ありげなおかしな沙汰は断固潰すに限る。


「はぁっ!? 何故だ? 本物の冒険者だぞ。パーティーメンバーもこちらから付けてやるぞ」

「どう考えても俺じゃ実力不足。体も成長途中だからタトゥーも入れられないし。

 ちゃんとした武具を買うだけのお金も無いから、町から出て魔物を狩る仕事はまだ無理だって。

 泊まりになる依頼も子供達の面倒見なきゃならないから出来ないし、その役目を俺に押し付けたのはそっちなんだからね」

「うぬぬ……それを言われると反論出来んな。ロヒッカにも釘を刺されたしな」


 何を言われたのか知らんけどロヒッカさん、グッジョブ!

 恐らくギルドマスターは俺に安全のためにパーティーを組ませるとか言って監視を付けるつもりなのだろう。そんなことをされたら俺の好きなように動けなくなるからやなこった。


「だが、お前をパートナーにしたいと言う希望者がゴブリン騒ぎの前から既に来ておったのだ。

 この話、受けてくれんと儂が困る」

「だから、そっちの都合を押し付けんなって!」

「そう言わずに。損はせんから顔見せだけでも。ソナート、出てこい」


 執務室には左側の壁に応接室のドアがあって、それが開いて一人の女性が出てきた。そして俯き加減で申し訳なさそうに、 

「あの……」

と呟くが、

「採用っ!」

と俺は迷わず頭の上で両腕で丸を作る。


「えっ? 話を聞いてよ」


 年齢は冒険者登録してあるのだから最低でも十五、六歳、俺より年上だがこの町で初めて見る黒っぽい髪の女性でかなりの和風美少女。

 健全な男の子なら、お近づきになりたくない訳がない。例え訳ありだろうと、海外風の顔ばっかりなこの近辺でこの子を逃す手はないに決まってる。


「いや、その子は違うぞ」

と、手を振るギルドマスターに思わず手が出そうになるが、女の子の手前それはやめとこう。取り敢えずクチで抗議だな。


「はぁっ!? 嘗めとんかっ!」


 困ったような顔で俺を見るギルドマスターに美少女が左右に手を振った。


「そうではなくて、やっぱりお子様の相手はしたくないから断ってくれとソナートさんに言われまして」

「何を今更っ! 契約違反じゃ!」


 彼女の言葉にギルマスが瞬間湯沸かし器の如く顔を赤くして怒鳴った。

 でも、そこの彼女はソナートやらの付き添いで、メッセンジャーガールにされただけみたいだから怒鳴るのは筋違いだろう。


 ビクッと身を竦ませながらも、

「いえ、替わりに私が……」

とおどおどした口調で彼女が言った。


「ウェルカ~ムッ! 神様ありがとーっ!」


 俺がほぼ脊髄反射で歓迎の意を表すと、

「……あっ! きゃっ! ごめんなさいっ!」

と……………………はい? 


 彼女が俺の方を見たのはほんの数秒。

 なのに会って数秒でフラレたの?


 彼女は慌てて出てきた部屋に戻ったのだから、もう完全にアウトだろう。

 悔しいっ! 超悔しいっす!

 折角の和風美少女が労せず入れ食いだと思ったら、なんでそーなるのっ!? 精神がこの体に釣られてか、涙がじわりと滲んできてるよ。


「セルバン、泣くのはやめろ」

「泣いてないし! 目から汗が出てるだけだ!」


 あの美少女冒険者に秒でフラレた精神的ダメージの大きさに、俺はもう再起不能だよ……燃えたよ、もう真っ白な灰に……なってはないか。


「どうせ俺なんかゴミムシと同じだよ!」

「メンタルの弱さが半端ないな、おい」

「チクショー! こうなったら世界の半分貰ってやるから誰か世界征服してくれや!」

「とんでもない他力本願だな、おい。

 それに今のお前に世界の半分をやりたい奴が居て堪るか。スケールのでかい何と言うか……負け犬の遠吠え……だな」


 遠吠え上等! 今なら悪魔の誘いにでもホホイのホイで乗ってやらぁ!

 あ、神の下僕じゃそれは無理かな?


「なぁ、知ってるか? 人口の半分は女なんだ、きっとこの先お前にも理想の彼女が現れる。だから今は気持ちを強く持て!

 お前の価値を理解出来ないあんなやつは見返してやれ!」


 はぁ……なんて情けない。こっそり鼻水をギルドマスターの服に擦り付けておこう。

 涙と鼻水を流したお陰で、少しは気持ちも落ち着いた。


「それより、黒っポイ髪の人って初めて見た」

「あれは黒じゃなくて濃い紺色でな、かなり東の方にある国にはあの色が多いぞ。あの子もそこから出てきたらしい。

 両親も他界し、頼る人も居なくて仕方なく冒険者になって各地を放浪していたそうだ」


 おいおい、どこのラノベのヒロインだよっ!

 俺より主人公体質じゃないか! 俺が主人公じゃないのは分かってるけどさ。


 ここで隣の部屋に隠れていた美少女が恥ずかしそうな顔をして出てきた。


「さっきはごめんなさい」


 俯き加減で謝る仕草もなかなか可愛い。背丈は俺の方が少し低いぐらいか。


「えっと……これ、どう言うこと?」

「儂にも分からん」


 ギルドマスターに一応確認してみたが、どうやらこれは予定外な彼女の行動らしい。


「ごめんなさい、君の肩にひげの長い虫が止まってて」


 あ、黒いボディに白い斑点のゴマダラカミキリね。それなら鼻水をすり付けた時に、俺の肩からギルマスの顔に飛んでったわ。

 それでギルマスが叩き落として踏んずけて、ゴミ箱にポイってしたからもう大丈夫。でも、またどこかのイチジクの木が犠牲になったに違いない。


「なんだ、俺が嫌われたのかと思って……恥ずかしいところ見せちゃいました」

「クスッ、世界の半分貰ってやるとか面白かったわよ」


 良かった、カミキリ虫にびびってただけなんだ……けど、めっちゃ恥ずかしくて顔が赤くなっていく。

 それでも涙の痕をゴシゴシしてから、

「それで、本当に俺とパーティーを?」

と質問モードに。


「ええ、私も冒険者登録したけど実力も実績も大して無くて。

 ソロだと危ないからパーティー組みたくても、変な男の人と組むのはもっと危なくて。それなら村長さんと組んだ方が安心だとゴンダンさんに誘われて」

「ゴンダンさん?」


 初めて聞く名前なので、知った顔を検索するが該当しそうな人が出てこない。


「お前、ギルマスの儂の名前を知らんのか!」

と本気で怒るギルドマスターだが、知らないのは当然だよ。


「そりゃ、ギルマスで通じるから他の人も皆ギルマスって呼んでるし。それに定年前のオッサンの名前に興味無いし」


 呆れた顔をするギルマスに、美少女がクスクス笑う。うん、可愛い!


「俺はセルバンです、十三歳」

「セルバン君は村を作って子供達の世話をしているのよね、凄いわね。

 私はミイナ。十六歳。よろしくね」


 手を差し出して来たので軽く握手を交わす。そう、軽く。がっつくと嫌われるからね。 


「ところでソナートはどうしたのだ?」

「ジェネラルが出てきて怪我人も出たと聞いて、もう冒険者は辞めるって言ってます。

 彼女も戦うのは苦手ですし、私より臆病ですから」


 それなら自分でそうと直接言えば良いのに、人に言わせるのはズルいよね。そう言う人は俺も仲間にしたくない。


「それで、セルバン君は村長なんだよね。村に家は余ってないかな?

 実は旅費がかさんで手持ちがね……宿代とか節約したいの」

「無くても家なら作れるから大丈夫!

 なんなら我が家に……はムリか。スペースの空いてる小屋もある筈だから聞いてみる」


 我が家も少しは拡張しているのだけど、日干しレンガで壁を作ったり畑を作ったりしたから広げるにも限度がある。

 女の子一人ぐらいなら、何処か適当な家に泊まらせて貰えるように誰かに頼めば良いだろう。村には女の子しか住んでいない家も何軒かあるし。

 新しく家を一軒建てるぐらいの空き地は何とかしよう。レンガは増産しているし、材木も確保しているから整地すれば建てられる。

 転生してから今日が一番テンション上がったよ。


 ……冒険者になった方がデメリットが大きかった気がするけど、ミイナさんをゲット出来たから諦める!

 でもこれ、ハニートラップじゃないかって?

 もしくはギルドのスパイの可能性もあるけど、そこはまぁ何とかするしかないか。


「セルバンは今日は狩りに行って疲れただろう。活動は少し休んでからにしろよ」

と、俺を気遣う素振りを見せるギルマスだが、ミイナさんに俺は優しいぞってアピールしたいだけだろ。


「……なら、私は明日はお使いクエストしてますね」

「それなら俺は明日から家作りするよ」

「それじゃ休みにならないわよ。休みの日に肉体労働してどうするの?」

「えっ? 普通するでしょ?」


 おかしい、ミイナさんが言うことは正しいのに、俺の常識がそれを否定する!

 どうも俺はいつの間にかこの世界の常識に毒されてしまったらしいな。



「おー、遂に次長の下僕にヒロインのお出ましですか!」

「まだヒロインかどうかは分からん。実は○△□だったと言う可能性もある…………」

「そうですねー」


 素直に刺客と言わない上司に軽く殺意を覚えるケント神だが、そこは持ち前のスルースキルであっさりといなした。


「何ならあの娘がPCかどうか聞いてみましょうか?」

「恐らくPCだろうな。少女二人で大陸の端から端まで歩いて来たとは思えん。カスタムアバターで和風アレンジしたのだろうよ。

 セルバンの護衛になるなら良いが」

「マジチュアはプレーヤーキルも普通に許容されてますからね。寝首を掻くプレーヤーも居るそうですし」

「確かにセルバンにはネック・ビーには気を付けて貰いたいものだな」

「ネックビーって何なんでしょうね?」

「……………………新種の蜂だろ。お前はつまらんことに首を突っ込むな」

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