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第24話 町に帰還して

 森の入り口で手持ち無沙汰に休んでいると、ロヒッカさんがギルド幹部一人と取り巻きを四人を連れて戻って来た。

 幹部はすぐにローズさんを呼び寄せたのだが、まさかと思う人だったのでローズさんに同情する。


 ロヒッカさんがすぐゲーシルさんとコクダイさんを手招きし、ドルチェの三人はそそくさと逃げるように森に入って行った。

 森の入り口にテントを張っていた人達も半分は町に戻るようで、テントを片付け始める。


 それからローズさんが俺の所に来ると、

「鳥をお土産にあげるから、セルバン君はバリシアに戻りなさい。これは命令よ」

と強制的に町に戻らされることになった。


 分かっていたけど残念だ、今日の現金収入は無しか。ま、今日の稼ぎでローズさんから肉を買ったと思えばトントンなのかな?

 渡された大きな革袋に入っているのは、雉に似ているけど見たことのない綺麗な鳥だ。


「ローズさん、ありが」

と、ローズさんにお礼を言いかけたところに無神経な声の邪魔が入った。

 ローズさんとゾルトさんが俺に手を振ってそそくさと森に入って行く。余程このおばさんが嫌いなようだ。ちゃんとした挨拶が出来ないじゃないか。


「ゴブリジェネラルを一人で倒したと報告を聞いたわよ!

 さすが私の教え子ね!」


 冒険者ギルドの幹部であるデボラ女史が横に大きな体を揺らしつつ俺の後ろに来て、そんな訳の分からんことを言ったのだ。

 記憶を総浚いしてみたが、俺はお前から弓も剣も習ったことは一度も無い。


「デボラさんからは体罰紛いの防御力アップの訓練しか受けた記憶が無いんですけど、おかしいですね」

「またまた冗談ばっかり! 照れてて可愛いわねっ!」


 うわ、吐きそう! コイツ、殺してもいい?

 今なら殺ってもバレないよね?

 皆、黙っててくれるよね? と本気で思う。

 

「俺にも倒せたぐらいだから、デボラさんならジェネラルの一匹や二匹、片手でチョイですよ、はい、強いところを皆に見せてやりましょう!

 レッツゴー クイーン・デボラリアンっ!」


 こう言う脳ミソ発酵ハッピー権力振り回しおばさんに否定的な言葉は厳禁だ。

 馬鹿にしてるのかと周りが思うぐらいドン引きヨイショで丁度良い塩梅になる。ただし、この技は自分のメンタルに大きなダメージを与える諸刃の剣だよ。


「そうよね、そうよねっ!

 セルバンに出来て私が出来ない訳がない。ジェネラルが強いなんて、皆は大袈裟に言うんだから」

と満面の笑みを浮かべるアホなデボラ。

 なんでこんな人が幹部に居るのか、正直に意味が分からない。きっと親が偉い人で、コネで押し込んだんだろう。


 剣を抜いて天をかざすデボラに、取り巻き達がそんなことはないです!と慌てて左右に手を振るが、当の本人が彼らをキッと睨み付ける。


「私がこの坊やより弱いとでも思って?

 そんな訳あるかっ!」


 そう怒鳴り散らすと、鬼のような形相で取り巻き達の左右の頬にリズミカルにビンタビンタ~♪ビンタビンタビンタ~ぁ~♪

 あれだけ叩くと手が痛いと思うけど、きっとこのおばさんの手は叩き慣れているから平気なんだね。

 そして頬を抑える四人の取り巻き達に正座をさせる。やりたい放題の極悪糞ババアだな。


 その糞ババアがまだ森の入り口に残っていた冒険者達を集める。


「鋼級下位は直ちにバリシアに戻りなっ!

 鋼級上位、銀級はゴブリジェネラルの捜索を開始っ!

 私も捜索に入るわよ!」


 幹部が一人しか来ていないのに、アンタまで森に入ってどうするんだ? と疑問の視線を送る冒険者達だが、無言のメッセージなど彼女には一切通じず。

 ま、こんなのが司令所に居たら逆に邪魔だからさっさと森に入らせたいのかも。


「ネフとジスは付いてきな。

 セプトとウィットはここにテントを張って情報収集とかやりな」


 四人の取り巻きの内の二人は、確かデボラの息の掛かったズボラ職員だったな。

 ネフ、ジスって冒険者は顔を知らないから、最近バリシアに移動してきたのかも。


「そっちの鋼、デーオンとエーロって言ったか? 他のやつらも腕が立つならさっさと捜索しろ。

 ほら、行くぞ」


 デーオンとエーロは中堅冒険者で、鋼級上位の何人かとパーティーを組んでいる。

 時々ギルドに併設の酒場で飲んだくれてて、機嫌の良い時にはサラダの残りとか分けてくれてたかな。単に嫌いな野菜を俺に与えて自己満足してただけなのは知ってるけど。

 

 それにしても、とんでもない無能を送り込んで来たもんだよ、冒険者ギルドは。

 本当にこれでこの現場は大丈夫か?

 ゴブリンジェネラルが複数出る可能性があるってのに、無計画に分散して森に入ってどうするんだろ。各個撃破されるリスクは考えないってか?


 しかし俺がそんなことを思っても口を出すことも出来ない。言ったところでビンタが飛んで来るだけだ。

 なので、言われた通りバリシアに戻ることにする。モブ冒険者に少々犠牲が出ようが気にはならないし、きっとローズさん達ならジェネラルが出たとしても退治してくれる。


 何故か帰りは俺が荷馬車の御者をすることになった。同行する冒険者達が皆歩いて帰ると言い張り、一番若い俺に御者を押し付けたのだ。

 でも、なんだよ、座席には衝撃吸収用にむちゃくちゃクッションを重ねてるじゃないか。お陰で揺れる度にずっこけそうになる。

 ケツが硬いとか言ったのはどこの誰だよ、平気な顔して嘘つきやがったな。

 

 荷馬車の操作はお使いクエストを受ける為に覚えていた。発進と停止の合図さえキッチリ馬に伝えてやれば、道を歩かせるぐらいなら難しくない。

 町に入って人通りが多い場所だと、慎重に動かさないと人を怪我させるかも知れないので緊張するんだよね。


 それでも無事故で冒険者ギルドに到着し、馬房を管理しているおじさんに荷馬車を引き渡す。

 掘っ建て小屋村の子供達と食べる肉を貰うために、ローズさんに貰った鳥を解体小屋に運んでから、報告をするためにギルドマスターの執務室へ。


「災難だったな?」


 何故に質問形? 笑みを浮かべて曖昧に誤魔化しておく。


「現地に送ったの、デボラで大丈夫?

 あの人、そう言うの向いていなそうだったんですけど」

「本人たっての要望だ。儂も不安しかない」


 それを何とかするのがギルドマスターの仕事じゃないのか?

 何か現場で不都合が起きたらどうするつもりだろ……まさか、本当はあのおばさんがギルドでも邪魔だから、魔物に殺られたように見せかけて後ろからバッサリ殺るつもり?


「ほぉ、ギルドマスターもなかなかの策士ですね」

と顎に手を当てながら渋い声のイメージで。

 まだ声変わりしていないから残念だけど。


「……何を間違えてそう納得しとるのか知らんが、アイツがポカをやらかすなら良い口実になるし、上手く対応出来たならば評価を上げるだけで済む話だ。どっちにせよ、損にはならん」

「で、その心は?」

「お前、本当に子供か? 悪魔に見えてきたわい」


 やだなぁ、こんな純粋な子供に向かってなんてこと言ってくれてんだろね。


「で、お前がゴブリジェネラルを倒したとタルマワ、コリエダの二人とロヒッカからも聞いておるが」


 タルマワ、コリエダってのが助けた二人の女性の名前か。アイツら名乗りもしなかったからな。モブ共なんて別に興味無いから俺も聞きもしなかったけど。


「あ、それはね。俺の実力じゃなくてビギナーズラックだとローズさんに思い知らされました。

 それに、この短剣をくれたシェルド爺さんのお陰ですし」


 敢えて見た目はショボくしてあるようだが、子供が持つにしては高性能すぎるブツであった。

 それにケチな神様が俺が死なないように何か操作したんだと思うし。


「その自覚があるなら問題は無いな。

 魔物も産まれたばかりなら本来の強さを発揮出来ん、と言われておるしな。

 たまたま産まれたタイミングに出くわしたのだろうな」

「そうなんですか。ローズさんも新米ベイビーって言ってたし。

 なら、あの森にまだジェネラルが産まれる可能性はあるってことですね」


 何かめっちゃヤバくないかな。

 魔物が産まれる理由は実は良く分かっていないけど、地下から吹き出る魔力的な物を大量に摂取すると動物が魔物になったり、魔物がより強い魔物になったりすると考えられている。

 ゴブリンは弱いけど数が多いだけに、上位個体が比較的発生しやすいのだろう。


「とは言え、危険な魔物であることには変わりはない。少ないがギルドから報償金を出す」


 そう言って裸で渡された大銀貨が五枚。冒険者の一日の稼ぎとしては十分な金額だ。勿論俺にとっては大金だ。見習いには報償金は出せないとか言って俺の機嫌を損ねるのは損だと判断したのだろう。

 これで今日は肉と現金がゲット出来た訳で、久しぶりに羽目を外したい気分になる。


「それで、だ。セルバンに話がある」


 ん? 急に真面目な顔してどうした? ヤバい話でもあるのか?



「やれやれ、セルバンのことだ、どうせ今夜のお供えもいつものドジョウ鍋だろうな。

 折角レア素材を貰ったと言うのに気が付いておらん」

「嫁剣士ローズに貰ったのはハラグロオウムですか。焼き鳥にしたらガチャポイントが24も貰えますよ! 凄いです!」

「丸焼きなら百ぐらい行くんじゃないか?」

「ペディアにも攻略ウッキッキーにも丸焼きは載ってないですよ。と言うことは、丸焼きにしてお供え物にしてくれたらたら、ゲーム内初なのでボーナスポイントゲットですよっ!」

「よしっ、セルバンの夢枕に立つか」

「今夜の食事に使うなら夢枕は間に合いませんよ」

「チッ! それならどうにかして気絶させてやるっ!

 あぁ、しまったな、夢枕チケットを前回使ってから補充出来てねぇ……」


 ギルドがセルバンを逃がすまいとしていることを伝える為に夢枕チケットを使用した後、ログインボーナスでもガチャでも入手出来ていないジロー神だ。


 下僕を気絶させて夢枕に立つなんてことを下道の所業とも思わぬ二人の神である。

神の数え方は柱ですが、敢えて人にしています。なんせ語感が悪いので。

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