第21話 ゴブリン講座?
手からすっ飛んで行った短剣がゴブリンジェネラルを一撃でやっちゃったよ……なのにピロリロリーンとレベルアップのチャイムが鳴らないケチ仕様。
この世界にはステータスもレベルも無くて、強くなるには真面目に地道な訓練を重ねるしかないってことか。
持っているスキルや職業が確認出来ないから、外れスキルや不遇職のせいで家から追放される貴族が居ないのは良いことだと思う。
それは反面、折角良質のスキルを持っていても活かせていない人が居る可能性も大いにあるってことだけど。
「結局、ボウズに一番良いところ持って行かれたな」
とケチを付けながら、魔石を抜かれたゴブリンジェネラルの頭をコツンと蹴るロヒッカさん。
ゴブリンとゴブリンジェネラルの遺体には利用価値は無いが、その心臓の隣の臓器には動物と魔物を分ける証とも言うべき魔石が収められている。
そう教えてくれたローズさんがジェネラルの魔石を取り出してくれたのだ。
でも鳥の解体でグロに慣れていたつもりだったけど、さすがに俺でもその様子を直視することは出来なかったよ、グロさがレベチだからね。
暫くすると、リーダーのゲーシルさんが森の入り口で休憩していた人達を呼んで来てくれたので、担架に乗せて男性一人、女性二人を運搬してもらった。
怪我はしているけど三人とも無事で良かった。
あ……前言撤回。先に見つけた男性に後から助けた二人の女性が抱き合ってたので、お前ら一度破裂しろと呪詛の呟きを投げておいた。
しかし納得が出来ないのは、ポーションを飲んだり傷にぶっかけて治療すると思っていたら、そんな物は御伽話にしか出てこないぞ、と笑われたことだ。
うん、俺がまだ子供扱いされる年齢で良かった。
でも良く考えてみれば、飲んで切り傷が治る薬って血液を凝固させてる訳だから、そんな物を飲んだら血栓が出来まくって死ぬに決まってる。
骨の折れた部分だけを修復するとか、切れた血管だけ塞ぐとか、筋肉の断裂した箇所のみ修復するとか、そんな都合の良い話はあり得ないと言われたら『ですよね』と相槌打つしかない。
ぶっかけて外傷が治るのも不自然だ。いや、ポーションの掛かった部分だけ皮膚が治るとしたら、ポーションに皮膚細胞の増殖を超促進させるって機能があると仮定して無理矢理だが納得出来る。
だけど、筋肉、骨、はたまた内臓の細胞まであっと言う間にガンガン増殖して元通りにすると言うのは、細胞増殖とか新陳代謝が超活性したとかで説明がつくのか?
もし不都合なく傷を修復できたとしても、裏返せばそこの老化の強制促進ではなかろうか。
その点、治癒魔法はやんわり修復するので治りは遅いけどおかしな副作用は無い。
王都やバリシアの町にも治癒魔法を使える人が居るけど、発動するまでに結構長い時間が掛かるらしい。きっと、呪文を唱えている間に傷のスキャンや診断がされているのだろう。
治癒魔法を使える人の数はかなり少ないそうで、この場所には来ていない。
町に戻れば治療院があって、そこで魔法による治療が受けられる。それまで痛いのは我慢しなきゃならないのは辛いだろうけど、同情なんてしていないからね。
そこで治療費がどれぐらい掛かるかとか、どんな医学知識があるのかは知らない。
多分魔法があるせいで医学はそう進歩していないんだろう。
でも魔法がバンバン使える訳でもないみたいだから、そこそこ医学は進歩してるのかも。
出来れば俺の為にも医療関係の人とか薬剤師とか野草に詳しい人でも良いから転生してきて欲しいんですけど!
ちょっとお願いしてみようかな……って気軽に神様にコンタクト出来たら嬉しいけど、あの神様、ケチだからなぁ。
荷馬車に乗せられて町に戻る三人を見送る。
鋼級になって数年、初心者は卒業したけどベテランと呼ばれるにはまだ程遠い彼らが今度どのような人生を歩むのか……なんて、ぶっちゃけると全然興味は無い。
礼儀もろくになっていない、腕が立つ訳でもない、どうでも良いモブ雄とモブ娘だ。
俺に資金援助でもしてくれると言うなら少しは考えるが、三人の装備品も量品産のようだし期待は出来ない。
男の方は次に町で顔を見ても思い出せないだろうし、女性二人も既にあの男性のハーレムメンバーになっているみたいなのでコイツらに用はない。
ほんと腹立つなぁ。あんなモブ助のどこが良いのやら?
ストーリー的にもそろそろ俺の幼なじみキャラや訳あり美女の登場があっても良さそうなのだが。
どうやら俺は登場人物に恵まれなかったらしい。
それならさっきの三人組ではなく、モフモフな魔物を助けて懐かれる方が百倍良かったよ。
さてと、ゴブリン達のせいで今日の狩りは中止となり、森の入り口で待機していると、
「まだ他にもヤバい魔物が居るかも知れないから、そんち……セルバン君は絶体に立ち入り禁止だからね」
とローズさんに念押しされた。村長と言いかけて修正してくれる気遣いが嬉しいね。
そのローズさんの旦那さんは冒険者の中では実力者で知名度も高く、てきぱきと他の冒険者に指示を出している。
テントで寝てたからだらしない人だと思ってごめんなさい。
俺は何をすれば良いのか分からないので、取り敢えずローズさん達の邪魔をしないよう大人しく待機して時間を潰す。
そのローズさんもバタバタしていたのが落ち着いたようで、テントの前に腰を下ろしたので俺も前に座る。
「急に大事になったわね。
そうだ、ゴブリンの魔石は大した値段じゃないけど、ジェネラルのだと中々の値段になるのよ。
でもあのジェネラルはそれ程強くはなかったみたいだから、まだ新米ベイビージェネラルだったのね」
あの大きなゴブリンが赤ん坊だったとはとても思えないけど、新米ジェネラルだから俺の放った短剣でサクッと逝ったのか。
「セルバンはジェネラルとか言われて分かるかしら?」
ラノベとかで知識はあるが、こっちのが同じとも限らないから知らないことにしておこう。
「教えてください」
「じゃあ、まずゴブリンには量産型ゴブリン、言わなくとも分かるだろうが一番よく現れるやつ、次にホブゴブリンとかハイゴブリンと呼ばれる分類のやつが居る。
呼び方が違うのは、市販されている薄っぺらい物語の影響だな」
急に後ろから男性の声が聞こえた。ローズさんが説明しているのに勝手に交代するなんてズルいです。
けど、この世界にもラノベがあるみたいだね。
初代国王がドラゴン倒したとか蛮族を追い払ったとか何とか理由を作って、正当性を主張したのが始まりかも。
「ちょっとアナタ、私の役目を取らないでよ」
「お前の話はよくトロッコのように脱線するからな」
この世界にもトロッコがあるんだ。また発明のネタを横取りされちゃったよ。
「それは酷い言われようね。今夜は許さないんだから」
あ、声の主はローズさんの旦那さんでしたか。これは失礼。名前はゾルト・マグバイスさん。
しかし女豹ことローズ・マリーさんはどうやら本物の肉食系だったみたい。
ゾルトさんが寝ていたのは、恐らくローズさんのせいだろう。お末長く幸せに。
どうでも良いが、この国では貴族を除いて選択的夫婦別姓が認められている……と言うか、戸籍が無いに等しいので苗字を変えると言う発想が冒険者には無い。そもそも名前が曖昧なんだよね。
ローズさんが旧姓を名乗りたくないならローズ・マグバイスと名乗るし、旧姓に愛着があるならローズ・マリー・マグバイスと名乗っても良い。
ファミリーネームはマグバイスだが、ミドルネームとして旧姓を残すのも有りで、フルネームで名乗ると長くて面倒だからマグバイスは省略してるってことなのだ。
ちなみにこの世界の貴族階級の基本的なミドルネームは『ション』で、これを付けて名乗るかどうかは人それぞれ、相手によって対応も変わる。
よく目にする『フォン』は、『タロー・フォン・トーキョー』だと『東京出身のタロー』って意味になる前置詞だ。
ちなみにレオナルド・ダ・ビンチも、本来はビンチ村のレオナルドさんみたいな感じ。
で、この世界の大半の人達の考えは、フォンとかションを付けてわざわざ出身って言う必要ねぇだろうって訳だ。
しかし地球では時代と共に『フォン』は出身って前置詞の意味から単なる称号に変わっていったんだけど、この世界ではお金さえ出せばミドルネームを買ったり変えたりすることも可能だとか。
なので、この世界ではミドルネームに大した意味は無い訳だ。
それに、そもそも確実に個人を特定する必要がある商取引などを除くと、一般市民が苗字を使うのはギルドカードを作る時ぐらい。
なので苗字など名乗った者勝ちなのだ。
「そんなこと言って、先にへばるのはお前の方だ」
……あのぉ、人が真面目に解説してる最中にイチャイチャしながら何て会話をしてるんですか!
少し羨ましいですよ!
「ゲフン……続きはゲーシルが」
おっと、子供の教育に悪いからとドルチがローズさん達をテントに押し込み、説明役を交代する。多分暇になって手持ち無沙汰なんだろうね。
「ホブは量産型よりタフで力も強い。
鋼級がソロで戦うのは危険な敵だが、厄介なことに外見的には量産型とほぼ変わらない。
鋼級冒険者を一番殺す魔物と言っても良いだろうな」
見た目がほぼ同じって、キノコと毒キノコみたいだな。今度からゴブリンと出くわした時は気を付けなきゃね。
「その次に体格がホブより一回りデカイ、ゴブリンチーフとかゴブリンキャプテンとか呼ばれるやつが居る。
デカイだけに更に強くなって、頭も良い。
武器もそれなりに使いこなす危険な相手だ。今のセルバンじゃまともにやるとまず勝てん」
その前のホブゴブリンにも勝てない気がするけどね。
「その次にウォリアー、グラディエーター、バトラーとか呼ばれる武器に特化したクラスがある。厄介なことに個体ごとに強さはピンキリだ。弱い個体でも銀級下位では歯が立たないから、ソロで冒険者をやるなら逃げ出すべきだな。
ただ、こいつは体格では判断がつかんが装備品で分かるのが有難いな」
つまり武器持ちのゴブリンが居たら俺は逃げなきゃいけない訳ね。心に刻んでおこう。
敢えて言わないみたいだけど、さっき三人が後回しにしてた三匹、装備品から見てゴブリンウォリアーだね。しかもかなり強い個体だろう。
「武器特化型の次に、キング一歩手前のゴブリンジェネラル。セルバンがマ・グ・レで倒したヤツだ。
ゴブリンチーフより更にデカイし、本来ならタフだ。良い武器をくれたシェルド爺さんに感謝しとけよ。
それと、次にジェネラルに会った時にマグレ当たりを期待すると死ぬと思えよ」
勿論ですよ!
ついでに後で神様に御礼を言っておこう、命は助かったからね。
「最後にゴブリンキング。ゴブリン種の頂点だ。
外見はジェネラルとそう変わらないが、キングはジェネラル数匹を連れていて、軍隊を作るとんでもない魔物だ。
それに単体でも俺達だけなら逃げ出さなきゃ殺られるぐらい強い」
「キングとの戦いは、戦争と同レベルだからな」
ゲーシルさんの解説にテントの中からゾルトさんが補足する。
「ドルチェは参戦したんだよな?」
「傭兵の頃に一回だけな。その時に傭兵団は壊滅して、それで冒険者にクラスチェンジしたんだ」
そのキングのお陰で俺はこの三人と知り合えた訳だ。
「元々五人だったそうだが、他の二人は?」
「結婚して幸せに暮らすとさ」
パーティークラッシャーが居たのかな?
あまり二人のことは語りたく無さそうな雰囲気だ。
ゾルトさんがもう少し話をしたそうにしているが、ローズさんが強引に胸に引き寄せリタイアしたようだ。
ゴブリンの話はそのぐらいで良いとして、問題はこの後だな。
◇
「マジチュアにはヒールポーションが無いのか。
しょうもないことでリアルさを出さなくとも良いのに、セコい運営だ」
「あー、それは現時点では、ってことです。
プレーヤーの行動次第で物品が進化したり新たに生み出されていくシステムなので、いずれポーションが販売されるようになると思いますよ」
そう言うケント神が出しているディスプレイには、攻略情報の記事がビッシリ上から下まで並んで写し出されていた。
「研究開発はリアルタイムで行われて、他のゲームみたいに思い付いてすぐ何かがポンと作り出されることはない……そう言うところにリアルさを出さんでも良かろうに、クソ運営め」
「そうですよね……あっ! ……私のキャラのやる気レベルがゼロになったようです。
課金アイテムを使って回復するか、引退するしか無いとは……とほほです。
また別のキャラ探さなきゃ」
ゲームキャラがリアルの人間である為、プレーヤーである神の思い通りに動かないのがマジチュアの魅力の一つであるらしい。




