第17話 冒険者とは? (前編)
「持ち物確認っ!
ギルドカード、よし!
水袋と中の水、よし!」
「アホか! とっとと行くぞ!」
ギルドの前で持ち物を確認していると、ゴツンと頭を殴られた。
今日俺に同行してくれるのは三人組冒険者パーティー『ドリームチェイサーズ』。
そのメンバーは、何でも器用にこなすリーダーのゲーシルさん、陽気なムードメーカーのコクダイさん、男気溢れるロヒッカさん。
俺の頭を殴ったのはゲーシルさんだ。言葉より先に手が出るタイプか。全然痛くはなかったけど。
ギルドの中では話をしたことは無かったのだが、新人を外に連れて行って指導するのも先輩ロートルの役割だと言って同行してくれることになった。
腐ったギルドに所属しているのに割りとまともな人達なのは、地元のこの町に最近になって戻ってきたばかりだからだろう。
三人とも四十代半ばの超ベテランで、わりと面倒見が良い人達だと聞いている。でも一流冒険者ともなると、目力が強くて少し怖いな。
冒険者としてはとっくに引退していてもおかしくない三人で、依頼は請けずにたまに狩りをしつつ余生を過ごしていると言ってたな。
それと商業ギルドからも一人、某商会専属の冒険者を出すことにしてくれている。
その人とは現地で待ち合わせとのことで、名前も何も詳細は知らされていない。
当日に都合が付く人が来るみたいな感じなのかも。
ゲーシルさんに殴られた頭をわざとらしく両手で押さえ、
「暴力反対っ、一日一個♪ 三日で三個♪ 三個集めて一個余る~♪」
とキヨコっぽく手を突き上げ訴えるが、特に歌詞に意味はない。
初めて魔物の狩りに行くのだから、俺のテンションが異常でも正常運転と思ってくれ。
俺が一人で出ようとすると止められる城門だが、三人組のお陰ですんなり出ることが出来た。一人でも自由に出入り出来るのが普通だと思うので複雑な気分だな。
城壁の外にはボコポン狩りで出たことがあるが、あの時は幌付きの荷馬車に乗っていたし、他にも子供達が大勢居たから嬉しいのを我慢していたのだ。
ちなみに今日は馬車ではなく歩きである。
狩りに行くのだから、獲物を運ぶ荷馬車はないのかって?
あるよ。当然荷馬車の隣を歩いている。
荷馬車は乗り物ではない、断じて人間を乗せて走って良いものではない、俺がそう決めた。
だってアスファルトの上を台車に荷物を載せて運ぶ時だって手にガタガタと振動が来るでしょ。荷馬車だとそれがお尻にダイレクトアタックなんだから乗ってて痛いし気持ち悪くなるもんね。
馬が引くからと言って、荷馬車が人が走るのより速く進むことはない。
トコトコと人が歩くのと、ガラガラと荷馬車が進む速度はそれほど変わらない。荷馬車が飛ばすと恐らく御者をしているゲーシルさんのお尻が四つかそれ以上に割れるだろうし、車輪や軸が壊れるそうだ。
それはそれで面白いから別に俺個人的にはどうでも良いけど、荷馬車が故障するのはいただけない。
ちなみに狩りに成功すれば、の前提で荷馬車を出しているので、何も獲れなかった場合は赤字になる。
今日は見習いの俺まで割り勘の頭数に入れられている。赤字でも黒字でもだ。なのでボウズで帰る訳には行かないと、気合充分なゲーシルさんが安全運転している訳だ。
荷馬車のことはともかく、この日の為に弓を新調したし、ナイフと小振りの剣も用意した。
冒険者ギルドは何もくれなかったのに、商業ギルドに狩りに出ることを報告すると、わざわざ我が掘っ建て小屋まで装備品を届けてくれたのだ。マイ枕持参でサティアさんが嬉々としてね。
「前に来た時は、枕が変わると寝れないのを忘れてたわ」
と仰る彼女だが、寝れなかったのは貴女ではなく俺ですから。イビキのせいで。
今はサティアさんのことはどうでも良い。
お土産に森で捕れる山鳥を頼まれたけど、何も問題が起きなければたくさん獲れるだろう。
現場に到着するまでは暇だし、歩きながら取らぬ狸の革ジャンよっと。
「荷馬車のレンタルが一日大銀貨二枚でしょ。
冒険者ギルドから行くのが俺を入れて四人、商業ギルドから一人で合計五人。
狩りに出た時の一人当たりの稼ぎを大銀貨三枚としたら、計大銀貨十七枚が採算ラインの最低ラインかな」
これなら意外と簡単に達成出来そう。四足動物を二匹狩ればおつりが来る筈だ。
「甘い甘いっ、それじゃ全然足りないぞ。
いいか、今日の分の消耗品、食料、レンタル料、武具のメンテ費用、他にも日々の諸経費なんかの日割り分を今日一日の日当に合わせて、一人当たり大銀貨五枚は稼がないと安心して暮らしていけないぞ。
今日のメンツが五人なら、大銀貨三十枚が採算ライン、目標は四十枚から五十枚ってところだな」
とゲーシルさんが教えてくれる。
マジかよ、彼らのレベルの冒険者になったら一日の稼ぎが大銀貨五枚で最低ラインなのか。
それって見習いの俺の稼ぎの五倍から十倍だよ。
「生活がカツカツで、安宿にずっと泊まり続けるつもりの冒険者なら、大銀貨一枚、ニ枚で満足して酒場で酔いつぶれてるな」
「プロの冒険者は毎日狩りには出ないんだよ。
倒せる魔物の売値がでかいのもあるが、体調を整える為に一度出ると最低でも次の日は休む。
俺らが一ヶ月間に狩りに出るのは十回あるかどうかだ」
ゲーシルさんの言葉に先に反応したのがコクダイさん。後から付け加えたのがロヒッカさん。
「それで安定して月収大銀貨三十枚をクリア出来るようになれば、お前も一人前の冒険者だな」
とゲーシルさんが三本の指を立てて見せた。
鳩なんて一匹まるごと売っても色付けてもらって大銀貨の半分にしかならないから、鳩換算だと一人ノルマが十匹近く。
五人で五十匹なんて、とても現実的じゃない数だ。
だから今日は単価の安い魔物は相手にしないだろう。
「今日はろくな討伐依頼が出ていなかったから受けてないぞ。
依頼があればそっちで多少色が付くが、俺らの今日の仕事はセルバンのお守りだから利益は度外視だ。感謝しろよ」
あぁ、俺の馬鹿。冒険者は依頼ありきで動くんだから、単純に狩りの成果だけの利益を考えてちゃダメだった。
「そう言えば、最近この辺りは魔物の出現数が減ってるって、ギルドの飲み屋で誰か話してたっけ」
残飯みたいなぐちゃぐちゃ飯を食べてたときに、自称ベテラン勢がそんな話をしていたのを思い出した。
それに森の浅い場所に出るのは小動物系の魔物だから、日帰りだと大きな儲けの出る討伐依頼の魔物に遭遇することはないだろう。
「魔物が減るのは一般市民にゃ安心材料になるからでプラスだけどよ、俺ら冒険者からすれば大きなマイナスだ。
狩るならなるべく強くて素材が売れる魔物の方が稼ぎになるから、魔物には減ってもらうと困るんだよ。因果な商売だぜ」
「そうだよなぁ」
ゲーシルさんの言葉にコクダイさんが相槌を打つ。
まだ俺は魔物を狩るような強さを持っていないから、強い魔物を欲するゲーシルさんの言葉に納得は出来ないけど、いずれはオークぐらい一撃で倒せるようになりたいな。だってオーク肉は豚肉みたいで旨いらしいし。
「依頼が出ていない時には、いくら強い魔物を狩っても危険手当ての依頼料は付かないぞ。
それに獲物が動物でも魔物でも、肉は肉に変わらないから買い取り価格はそんなに変わらない。
なのに魔物肉の買い取り価格が安いと文句を付けるヤツに、冒険者になる資格は無い。最近の若手は特にね」
討伐依頼の報酬って危険手当で、依頼の出ていない魔物を狩っても得にはならないのか。なんか損した気分だな。狩りに行けると浮かれていた俺がなんかアホみたい。
それにしても、コクダイさんは若手冒険者に文句があったんだ。
「例えば鹿な。送料抜きで大人の鹿肉は魔物でも動物でも平均で十キロで大銀貨四枚。
一頭の中で肉として買い取ってもらえるのは三分の一あるかどうかだ。
一頭で肉が三十キロも取れれば万々歳の大銀貨十二枚の稼ぎだな。
ちなみに俺は断然猪より鹿肉が好きだ」
そう言うロヒッカさんが売却担当なのかな?
「でも鹿は皮も価値があるよね?」
俺の勝手なイメージだと鹿の革って柔らかくて上質で、財布やポーチ、キーホルダーに使うんだよね。それにセーム革にもなるし。
猪の革は山賊御用達の毛皮だね。あとは敷物か。ま、こんな片寄った意見には異論あるだろうね。
「確かに鹿の革はバッグとか色々使えるけどな、皮の処理が結構大変でコストが掛かるんで、実は売っても買い取り価格はあって無いようなもんだ。
一頭分の皮なんて見習いの一日の稼ぎとどっこいどっこいってとこだから、俺らからしたら売っても売らなくてもほとんど変わらん」
なるほど、皮は大したお金にはならないのか。
それなら今日は五人で行くから、一頭で大金貨十枚の鹿なら三頭で最低限、四頭狩ればソコソコ、五頭で満足なんだろう。
雄鹿の場合はツノがあるからその分は買い取り額がプラスになるけど、雌鹿だとツノが無いから敢えてその話はしないんだろう。
「定番の猪は?」
「あん? 何が定番なのかは知らんが、歩留まりは鹿より少しだけマシって程度か。
肉の買い取り金額も鹿とそう変わらんが、猪はでかい個体だと肉が固くなるから逆に安くなる。
危険な分だけ割には合わんし最悪だ。突進してくるからボウズみたいな子供にゃ倒すのは無理だぞ。
狙うなら鹿の方が絶体マシだ」
ロヒッカさんにボウズ扱いされたよ。まぁいいけどさ。
それにしても、意外と冒険者って割に合わないんだな……と言うか、これならやってることは猟師と変わらないよ。
それを言うと、
「冒険者に何を求めてんのか知らんが、やれることなら何でもやるのが冒険者だ。
猟師と決定的に違うのはズバリ言うが、ロマンを追うか、追わないかだっ!」
さよか。真面目な顔してバカを言うのが冒険者だな。ゲーシルさんが馬鹿なだけかも。




