第16話 ギルドマスターに喧嘩を売ってみる
ある日、冒険者ギルドで掲示板を見ていると、管理部門の定年間近のお偉いさんであるギルドマスターに呼び出しを食らった。
本来ならこのギルドで一番偉い人の筈だけど、訳の分からない協会から天下りで来ている馬鹿のせいで思うように仕事が出来ない可哀想な人だ。
そのストレスが一気に毛根に影響を与え、今ではツルツルヘッドがトレードマーク。金属鎧とガスマスクを付けただけで、ジOン軍のモビ○スーツに見えるかも。
そんなギルマスが、
「最近、お前らの仕事量が減っているじゃないか」
と、いきなり俺にお説教だ。
お前は部下からの忠誠度が減っているじゃないかと思うが口には出さず。俺、空気読める子だ。
ギルマスの指示ではないことは知っているが、俺の仕事を他の子供に融通したのはギルド側だ。
それで俺に文句を付けるとはなかなか良い度胸じゃないか。さすがにこれにはカチンと来たので、逆に苛めてやろうと決意する。
「そんな理不尽を言うのなら、ギルドカードをお返しします。別に冒険者だけが仕事じゃないんで」
そう言うとポケットから取り出した鉄製のカードをポイっとギルドマスターの机に投げ置いた。
「そんな身勝手が通ると思うのか!」
「はい、めっちゃ通りますよ。各ギルドに終身雇用を強制する権限は無いですからね。俺がそれを知らないとでも?
奴隷契約を結んでいる訳では無いですし、俺はいつでもこのギルドを辞めることが出来ますからご心配無く」
雇用関係は自分の意思で破棄することも出来るし、逆に不当解雇された場合、証拠を用意して出るところに出れば不当解雇が認定されることもあるらしい。
転生者が労働基準法の一部を持ち込んだんじゃないかと疑いたくなる。この世界に転生者が居るのかは知らないけど、ガチャポンプがあるから居たと思う。
でもね、俺が訴えようとしても弁護士なんて雇えるお金は無いし、そもそもが弁護士なんて職業も無いから、トラブルは基本的に金銭か権力で解決しているんだろう。
まだ年齢的に見習い冒険者の俺の体には、ギルド所属のタトゥーは無い。
この国にも一応奴隷制度があり、奴隷となれば子供であってもタトゥーを刻むらしいが、幸いなことに俺にはそんなものも無い。
冒険者ギルドは見習いである俺を庇護下に置いているつもりだろうが、今の俺は自分一人なら冒険者見習いを辞めても食べていくだけならなんとかなるだろう。既にそれぐらいの地盤は出来ている。
だが、冒険者見習いを辞めないのは、部下になっている子供達が大勢居るからだ。
いずれ国を出る時に子供達は切り捨てるにしても、今の時点で面倒を見るのをやめると商業ギルドから苦情が来る。色々と援助して貰っている以上、商業ギルドとは良い関係を続けないとね。
それに残念ながら、戦闘力と言う面では俺は訓練を受けている普通の子供とそう大差は無い。だから見習いを辞められない。正しい剣の訓練は俺一人じゃ出来ないからね。
ただ、このギルドじゃ大した訓練は付けて貰えないので、よそで訓練した方が良い気がする。
戦闘力は大したことがなくても、稼ぐ力なら見習いの中でもトップを独走している。
それなのに、馬鹿みたいに一般家庭の子供を受け入れて俺の仕事を邪魔しておいて、良くもまぁそんな文句が言えたものだ。
「性格の悪い冒険者と受付嬢が屈託して、意図的に俺に流す仕事を絞っているってこと、俺が知らないとでも思ってる?
それをギルマスは知ってるの?
しかも、ソイツらが仕事をチンタラやってるとかザツだとか、そう言うクレームが来ているのも知ってるょ。でも俺の配下でもない、俺の指導も受けていないクソガキの尻拭いなんて俺がする義理も義務も無いからな。
これが俺の指導しているチビッ子組のクレームなら別だけど、そっちは評判良いんだぜ」
俺のチビッ子組を舐めるなって。
どこにでもウッカリで潜入させて情報収集が出来るくらいには仕込んであるんだよ。
サティアさんが商業ギルドに話をしてくれたみたいで、村の周囲を彷徨いていた不審者が出なくなったと思えば経済攻撃に手を変えてきたからな。
そんな暇があるなら真面目に魔物の一匹でも狩りに行けって。
「仕事を横取りされたり、制限されたこっちが損害請求したいぐらいだ」
「まったく、どこのどいつがお前に余計なことを吹き込みやがったんだょ」
「俺の周りには冒険者ギルド関係者じゃない、ちゃんとした大人も居ますからね」
「ガキのくせして相変わらずクチが立つ」
「それはそうでしょ、クチと性格の悪さはデボラに教育して貰ったお陰ですからね。もちろん嫌みですよ」
さすがに冒険者ギルドが冒険者見習いから仕事を奪ったからと言って、それを取り締まる法律は無い。立証もできないし。
それでもここで俺に何かあると、商業ギルドが黙っていないと理解するぐらいの知恵と情報収集力が無ければギルドマスターなんて勤まらない筈。
俺が内々に商業ギルドから移籍の勧誘があることは知られていないと思うが、別に知られていても問題は無い。
俺が自分からそれを言わないのは、何かの機会にカードとして切れるかも知れないって思うからだ。
それ以外の意味はないし、カードにもならない可能性は十分にあるけど。
「別に俺は冒険者見習いの立場に固執するつもりはないんでね。
さ、決断は早くね、時は金なりって昔から言うでしょ。そのカード、受け取るの? 受け取らないの?」
冒険者ギルドが子供達を冒険者見習いとして危険な作業にも就かせていることに対する批判は以前からもあったが、最近特に問題視されるようになっている。
と言うか、俺が世論操作をするようアレコレと流してきたからな。
身寄りの無い子供を養ったり面倒を見たりする余裕が無いからと、長い間見てみぬ振りをしていた幾つかの他のギルドの大人達を味方に付ける為に必死に動いた。
今では商業ギルドを筆頭に、子供達を危険な業務に就かせないように冒険者ギルドへ働きかけようってムーブメントまで起きつつある。
まぁ、その煽りを受けて俺の仕事が減っている事実は敢えて言うまい。
「そのカードは持っていてくれ」
と悔しそうな顔を見せたギルドマスターだが、それは一瞬だけだ。
「なら、俺に仕事をしてないとか、何でもかんでもクレーム押し付けようなんて考えないでくださいよ。
そっちがどう思っているのか知らないけど、俺だって人間だから嫌なことは嫌って言うよ。
それにまだ子供。アンタら大人とは違う。
イヤイヤって駄々こねたい時もあるし、気に入らないなら噛み付くこともある」
この世界だと十二歳過ぎれば奉公に出したりして仕事を覚えさせる家庭が多いと聞く。
半分子供、半分大人の扱いだ。
「そうか。実は本題は別にあったのだが、無かったことにするか。
そうだよな、子供に外に出て魔物の狩りを体験させようなどおかしな話だ」
なんだって……俺が外で魔物を狩るって?
暫く言葉の意味を考えると、
「やだなぁ、なに言ってんです、俺とギルマスの仲じゃないですか、分かってるでしょ。
で、獲物は何を?
初めはやっぱりウサギ系?」
と、自分でも笑うぐらいの胡麻すりだよ。やっぱり大人には良い印象を与えないとダメだよね。
「その掌返しはどこで覚えた?」
さぁ、どこだろ? どこかの神様の見て覚えたのかも。
「きっと前世で覚えたんですよ。でなければデボラさんの教育のお陰です。うん、全部デボラが教えたんです、彼女が俺の教育係ですから絶体多分間違いないです」
「……そうかも知れん」
おや、納得するとはあのムチ打ち女、掌返しが得意技だったのか。
そう言えばアイツの飲み物に虫を入れてやるのを忘れてたな。カミキリ虫の幼虫はサイズですぐバレるから、孵化したてのGでも仕入れるか。
「最近お前は村を作って子供達を働かせているらしいな。しかも町民達には評判が良い。
冒険者ギルドより商業ギルドや他のギルドに足を運ぶこともあるらしいが」
「当たり前でしょ。
俺への仕事を出し渋ってる冒険者ギルドだけじゃ子供達を食わせていけないんだから、アチコチ頭を下げに行ってますよ。
この歳で扶養家族が二桁なんだから、普通なら過労死コースまっしぐらだよ」
魔物を狩り出られるなら、食肉確保が段違いに楽になる。
勿論その分だけの危険は伴う。色々な意味で。
「で、最初はやっぱり日帰りハイキングコースですよね?
引率は誰が? もちろん口先だけのデボラは却下で。
もし俺が何かされたら困るから、まともな引率に来てもらわなきゃ。
で、出発はいつで?」
「待て待て待て! ハイキングとはなんだ?
何処の国王だ?」
おっとテンション上がっておかしくなったらしい。
この世界にはハイキングって名の娯楽はないのか。確かに魔物が出る丘に呑気に遊びになんて行けないか。
「王様でも安全に日帰り出来るコースって意味ですよ。深く考えない」
「そんなコースに魔物が出るか!」
「そりゃ、ごもっともでした」
魔物が出ないから安全なのに、そこに魔物狩りにいくのは矛盾だよな。うっかりだぜ。
◇
「ねぇ、次長。冒険者ギルドの大人ってまともな人は居ないんです?」
「組織として最低限の機能を果たせるだけのNPCが居るんじゃないのか?
あのギルドマスターはPCで、天下り連中はNPCだな?」
「知りたかったら課金して下さいよ……あ、課金しなくて良いです、知り合いに聞きますから」
ジロー神が課金するイコール課金額が自分の給料から天引きされると言う理不尽な契約を思い出したケント神が通信アプリを立ち上げる。
「えーと、今いいかな?
マジチュアのバリシア冒険者ギルドのギルドマスターってPCなの? ……え、あれでもNPCなんだ、知らんかった。ありがとねー、じゃあ、バイバイ
あ? 明日カニ食い放題バスツアーって?
うん、行く行くっ!
仮病使うから大丈夫! じゃあ、またね」
「あれでNPCなのか。運営、意外とやるじゃねえか。
それと明日の有給は却下だぞ」
「次長のカニーーーっ! じゃなくてオニーーーッ!」
「ギルドマスター、対応が甘すぎやしませんか?」
「アイツを商業ギルドに持っていかれたらバウンサーに出来なくなるじゃねえか。
今のところはアイツに花を持たせて、後から鼻を明かしてやればよい」
「なるほど、さすがマスターは脳筋ではなかったのですね」
「つうか、デボラよ、お前の教育したガキどもは問題ばかり起こしてるじゃねえか。
アイツが教育したやつはノークレームだぞ、お前、クビだな」
「キィィィ、許さないザマス!」
この後、こんなやり取りがあったかも。




