第9話 祭壇作りと初めてのお供え
ちょい悪ジロー神に何かをお供えするための祭壇を作ろうと思う。
だが、残念ながら俺には木工細工の経験なんて殆ど無いし、まともなノコギリもトンカチも釘も持っていない。
掘っ立て小屋は本当に廃材を寄せ集め、刃が欠け廃棄されて赤く錆び錆びになっていたノコギリと同じく捨ててあった曲がった釘、石で作ったトンカチで作ったからね。
さすがにそんな道具で祭壇を作るわけにもいかないだろうし、材料もそれなりの物を使いたい。
お供え物を載せる供物台も朱塗りの立派なものなんて使うつもりは無い。
転生神は仏教でもキリスト教でもないのだから、既存のスタイルに拘る必要は無いだろう。知らない人に見られて、邪神でも祀っているのかと勘違いされない程度の物で良いと思う。
そもそも邪神の祀り方なんて知らないけどね。
まさかジロー神が邪神だったらどうしようもなく困るけど。
冒険者ギルドに来ていた大工さんのお手伝い依頼を見つけ、チビッ子三人組を引き連れて現場に向かう。
ちょうど良い具合に古い家屋の取り壊しとその跡地への新築工事があったのは、ひょっとしたら俺が中々お供え物をしないからあのジロー神が痺れを切らして、そうなるように手を回したのかも。
アイツのことだ、自分の利益になるよう何かインチキしたに違いない。
家の解体は、鉄筋コンクリート建てのビルを重機で壊すような現代式でやる訳ではない。
かと言って、全てが便利な魔法でされる訳でもない。
解体の基本は手作業である。しかも柱や壁に使っている木材はリサイクルして何かに使用するし、リサイクル出来ない木材は薪として焚き付けに使うのだとか。
おいおい、それじゃ廃材なんて貰えないぞ、いきなり祭壇作りに暗雲が立ち込めたじゃないか。
いや、待てよ。別に木に拘らなくても良いんじゃない? 重くなるし加工も大変そうだけど、石なら無料で貰える。
石工は教会や貴族の屋敷を建てる為にこの町にも何人も居る筈だし、解体した家屋から出る石は廃棄する物があるそうだし。
でも石工さんにお願いしても、道具を貸して貰えるかは分からない。いや、俺達ストリートチルドレンに大事な商売道具を使わせるとは思えないか。
そうだな、まずは粘土で実物大の模型を作ってみるか。粘土は掘っ立て小屋のある場所を掘れば幾らでも採取出来る。割れた板の破片を芯材にすれば強度も出るだろう。
問題はどんな形にするか、だな。
神棚と言えば日本建築のお宮みたいな形を思い浮かべる人も居るだろうが、この世界の建築様式は日本のとはまるで違うし、そこまで手の込んだ物を作る気にもならない。
単なるラックを神棚だと言って売っている業者もあるが、さすがにそれでは寂しすぎる。
この町にある教会は石造りで柱に綺麗な彫刻が施されているのが特徴で、それ以外はあまり覚えていない。
カトリックとプロテスタントとかよく知らないけど、多分プロテスタントの方が地味な教会のイメージだから、適当だけどプロテスタント教会ぽい形……でラフスケッチを書いてみよう。
そう言えば、この世界の教会は十字架の代わりに三日月の中に雪の結晶をあしらったルーンを立てていたっけ。言ったら悪いが、魔法少女が持つスティックのようだ。
あっ! 紙もペンも持ってない!
仕方ない、スケッチが出来ないから設計図は頭の中だけだ。
仕事が終わってから掘っ立て小屋に戻り、晩御飯を食べてから寝る前の僅かな時間を使って少しずつペタペタと祭壇擬きを作っていく。
同居するチビッ子達は最初こそ何を作っているのか興味津々だったが、祭壇だと説明すると途端に興味を無くしてしまった。
二週間程かけて粘土製の祭壇が完成した。高さ25センチ、幅20センチ、奥行き15センチの箱だが、前面はパカッと両開きの扉になっている。
中には供物台を置く棚と、月と雪の結晶のルーンが置いてある。壁は生前の実家にあった仏壇を少し真似てそれっぽく。
あやふやな記憶で素人が作った物なので大した物ではないし、神と仏がごっちゃになっているけど気にはしない。
一応の完成は見たものの、次第に粘土にヒビが走っていく。中の板と粘土が密着していないのか、それとも乾燥を急ぎすぎたのか。
とは言え、別の粘土でヒビを補修すれば済む話なのでこちらも気にはしないことにした。こう言うのは気分の問題だ、あのケチ神に真面目に祈る訳ではないので、こんな物でもオーケーとしよう。
はっきり言って、神棚と言うか祭壇と言うかよく分からない物体が掘っ立て小屋の床にある。
計七人で六畳一間ぐらいの広さで暮らしているのだから非常に邪魔だ。かと言って小屋の外に出すとケチ神に頭を絞められそうで怖い。
奥行きを半分にするか、それとも壁に掛けるか。あぁ、成る程ね、日本の家の神棚が上にあるのは床に置くと邪魔だからか。超納得だ。
でも我が家には椅子も脚立も無いので高い場所にこの祭壇を置くことは出来ない。別のお堂を建てる余裕は無いので、暫くは皆に狭いのを我慢してもらおう。
祭壇を置く場所は南向きが良いとかあるのか知らないが、お供えする時だけ壁の中央に動かして使うようにするか。
もし小屋を作り直すことがあれば、壁の一部をくりぬいて祭壇を置く場所を確保しよう。
祭壇が完成したその日の夜、ドジョウ鍋を少し木皿によそってお供えをした。
同居するチビッ子達は何をやっているのかと不思議に思うに違いない。神様が居るなんて信じていないし、そもそもこの子達は神様って何? 美味しいの? ってレベルの知識だったからなぁ。
ちなみにお供えしたドジョウ鍋はスッと消え去るようなことは無かった。貴重な食料なので、晩御飯の後だけどお供えした後に俺が食べた。
味が薄くなるなどオカルト現象は起きなかったので、お供え物をして何かの効果があるのかどうか分からないな。
◇
「ありゃー、次長のキャラの人、粘土で祭壇を作ったんですか。
それって祭壇ランクは多分最低ランクですよ」
「ふん、こう言う物にランクを作ること自体が神への冒涜だな。何かを供えると言う気持ちと、行動を起こしたと言う事実が重要なのだ。
お前の次のキャラに何かを供えて貰えれば、お前もこの気持ちが分かるだろう」
二人の神がディスプレイ越しにセルバンが祭壇を作る様子をずっと見守ってきたのだ。
セルバンを送り込んだ世界は放置ゲームなので、ずっと見ている必要も意味も無い。
地球で暮らす人間の作る簡便化されたゲームなら数秒、数分、数時間で物が出来るし建物も建つが、それと違って神のプレイするゲームではモノ作りはリアルタイムで進行するからだ。
今のところ、錬金術師や土魔法の使い手があっという間に建物を作りあげるようなことは無い。
だが、このゲームには技術の進歩と言う要素が実装されているので、いずれ住人の中からそう言うアニメチックなスキルを持つ人物が生まれる可能性は充分にある。
「おっ! ついにお供え物をする気になったんですね! でもドジョウ鍋……って食べ物です?」
「玉子は使っていないが、ゴボウの笹掻きと三つ葉みたいな草の葉っぱが入っている。
ダシは豚骨から取った物だな。味醂も醤油も無いのでなんちゃってドジョウ鍋しか作れんが、まぁ何とか食える」
ジロー神の手にはセルバンがお供えした料理が乗っている。祭壇に供えられた食べ物は自動的に信仰の対象である神の手元に再現される便利仕様である。
それを一口で飲み込んだジロー神の頭の中に、ピコンピコンと電子音が二度なった。
「ヨシヨシ、初回供物ボーナスと供物ポイントがちゃんと貰えた。出来れば毎日続けて欲しいものだ」
と笑みを浮かべる。
「ドジョウ鍋の供物ポイントって、たった1じゃないですか?
10連ガチャ引くのに100日も掛かりますよ」
「豚骨スープでプラス1になるので50日だ。朝晩二回、何か供えれば25日だ。そうなって欲しいものだな」
「ちぇっ、次長が調子に乗ってます。次はカエンダケのスープが供えられたらいいのに。
あ、それで供物を食べたらポイントガチャが入るだけです?」
「千ポイントでステータスアップ、1万ポイントでスキル付与が可能になるそうだ。
1千ポイント貯まるのに1年とすれば、1万ポイント貯まるのに10年か。先は長いな」
1年で1千ポイント貯めるには1日3回のお供え物が必要だと暗算したケント神だが、空気を読んで敢えて細かいことを言う必要は無いと黙っていたのだった。




