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作者: 瀬川 秀子

そこにどのくらいいるのかは分からない。もう長い、長いことそこにいるとしか。

一辺60センチほどの白と黒のチェッカータイルの床。天井には無数の蛍光灯が整然とはめ込まれており明るい。暑くも寒くもない部屋。

白い壁と天井の部屋は一面が大きなガラス窓で、見えるのは正面の緑に覆われた山の斜面と、隣の山との隙間から見えるはるか遠くの街並み。夜になると街の灯りがかすかに見える。

その街灯かりに焦がれ、出口を探しても、建物には外に通じる扉はないのだ。

窓の下は木や草の生い茂った急斜面の深い谷になっていて、底には川が流れているのがわかる。

左右はドーナツのように輪を描いている部屋だ。ちょうど広い展望台のような感じである。

部屋の中には巨大で色鮮やかな積み木のような赤や緑、青、黄などの三角錐や球、角柱のオブジェが点々と並ぶ。

その内部はバスルームであったり、ベッドであったりあったりするので、生活に必要なものは一渡りそろっている。

この部屋の真ん中に一つ扉があって、そこを開けると上下へと続く螺旋階段がある。毎日あちこち歩き回ってはいるけれど、全部で5フロアあるだけで、どこも全く同じ構造だ。どの階にも建物の外に出る扉はない。最下層と最上層はループしているようで、窓の景色がどちらかに行くと最上層、最下層で見える景色に変わる。


ここには時々骸骨が現れる。その骸骨がひどく不気味で、恐ろしいのだ。いずこかの階へと通じる奥の扉が開き、骸骨がゆらゆらとか細い腕骨を差し伸べて、こちらに向かってくる。ゆっくり、しかし確実にこちらに向かって歩いてくる…かつて目が在ったはずの、暗い眼窩でこちらを見つめながら…。

その姿を目にすると心の底からたまらない恐ろしさが湧き上がってくる。…理不尽で理屈などない恐怖を押し殺しながら必死で逃げる。

円形の部屋を一回りして、階段を駆け下りて…しばらく逃げまわっているうちに骸骨はどこへともなく消えているのだが。


ここから出るにはもう、窓から降りるしかないのだろう。

最下階の窓の下は、太いつる性の植物に覆われている。あれを伝って谷に降りるしかないのだろう。

山の向こうの、はるかな街並みにたどりつくには、ただひたすらに街が見えたほうへ歩いてゆくしかないのだろう。心の中のコンパスに従って。


今、深呼吸して私は窓を開け、窓枠に足をかけた。

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