酷死坊参戦、マユと戦う
(なんだこいつは)
シンの胡散臭そうな眼を感じたのか、老人らしき人物は言った。
「無惨を狙っているのか」
「ん? なぜ、分かった?」
「この杖は仕込み杖だ。しかも、仕込んでいる刀は日輪刀だ。この刀は近くに刀がくるとジンジン鳴る。君たちが背負っているリュックに刀を忍ばせているだろう」
「よく分かったなおじいさん」
「わしは老人ではない。まだ、26歳だ。名前は井黒という」
「井黒さんねぇ、でもとても26歳には見えないわね。あんた、サバ呼んでるってことないわよね」
「老けて見えるってか、大きなお世話だ」
「でもさぁ、言葉使いも老人みたいだし。あんたさぁ、嘘ついているとぶっ殺すわよ」
「それより、君たちは無惨をつけてここに来たような気になっていると思うが、本当は、ここにおびき寄せられたのだよ」
「じゃ、中で無惨が待っているというのか」
「その通りさ」
「あんたさぁ、無惨に詳しいようだけどさぁ、まさか無惨を狙っているってことはないわよね」
「わしは常に無惨を狙っている。しかし、わし一人で勝てる相手ではない」
「っていうか、君さぁ、この時間帯にサングラスをかけているってことは、目が悪いんじゃない。そんなので戦えるのかね」
「わたしがサングラスをしているのは、わたしの目がこうだからだ」と男はサングラスを外した。
「あら、左目が変ね、緑色だわ、もしかして義眼なの?」
「いや、先天性のオッドアイだ。ついでにわしの刀も見せてやろう」
男が抜いた刀は蛇行剣だった。
「あれれれ、杖に仕込んでいるときは刃がまっすぐなのに、抜くとそんなに曲がっているの」
「これで斬ると切り口が曲がるのでな、そうでなければ、無惨相手に勝ち目はない」
「そんなに、無惨って強いのか?」
「強いというより、奴は不死なんじゃ」
「不死ってなによ」
「斬られてもすぐに再生してくるってことじゃ」
「ふん、じゃあ首を斬るとどうなる」
「斬られた瞬間に再生される」
「なんだとぉう。じゃ、どうやって倒すんだ」
「毒じゃ。毒を体内に入れる」
「外からは効かないってこと?」
「経皮毒は効果がない」
「口から入れないとダメってことなのね。エイリアンを倒した時と同じだわ」
「斬った後、再生されるまでの間に、切り口に放り込めば効果はある」
「ふん、なかなか面倒くさい奴だな。で、君は毒を持ち歩いているのかね」
「そうだ」
「少し、オレにもわけてくれ」
男がカプセルを三つほど手渡した。
「なるほど、なるほど、これで勝ち目が出て来た。ハザード社の資料はまったく役に立たないが、君に出会えて、いい情報を手に入れることができた。後は、オレたちに任せておけ」
「いやいやいや、わしだって無惨に一太刀浴びせたい」
三人は寺の境内に入って行った。
見ると無惨が立っていた。
「おい、お前たち遅いな、いつまで待たせれば気が済むのだ」
「まあまあ、慌てるな。慌てる乞食は貰いが少ないっていうぜ、少しでも長生きできることに感謝しねーといけねぇんじゃないか。ところで、一つ訊いてもいいかい。寺の縁側に座っている男は何者かね」
「ふふふ、随分と目がいいな。あれは、オレの刀持ちの影法師だ」
「ほぉ、刀を使うのか、こりゃ、楽しみだぜ。ところで、お前さんは斬られてもすぐに再生できるようだが、そんな程度はお前さんの専売特許じゃねぇぜ。オレだって再生できるし、隣に立っているオンナだって再生できる」
と言っているともう一人の男が現れた。
驚くことに目が六つある。
「またまた、へんてこな野郎がでてきたな。目を六つ持っているだと? メガネをかけるときは、どーすんだよ」
「拙者にメガネは不要だ」
「拙者ときたか。着ている衣装も年代物だしな」
「拙者は武士だ。一人を相手に二人とは卑怯な。拙者が助太刀いたす」
「え? なにかっこうつけてべしゃってんだよ。どうして、見ず知らずの人間が刀を振り回す修羅に参加してくるというんだ。ウソこいてんじゃないわよ。てめぇも、このカニバリズムおっさんの仲間だろう」
「ふふ、よく分かったな」
「こんなもの誰だって分かるだろう。おめぇはアホか」
マユの罵詈雑言を無視して男は言った。
「拙者の名は酷死坊じゃ。知っておろう、稀代の剣士、酷死坊の名は」
「知らねーよ、てめぇの名前など誰が知りたいって言った? あー、この時代錯誤マンが。ふざけているとぶっ殺すよ。酷死坊じゃなく、即死亡にしちゃうよ」
「ふふふ、できるかな」
「あ? 余裕こいているとマジで切り刻むぞ」
こうして、シンと無惨、マユと酷死坊が戦うことになった。
「待て、わしも戦うぞ」と井黒が言ったが、「すっこんでろ」と言われてへこんでいた。