エイリアンとの死闘
シンの相棒に選ばれた女囚は花車マユというあばずれだった。
凶悪犯なので女子プロレスラーみたいな体格をしているのかと思ったら、意外とおとなしめの美形でしなやかな肉体をしていた。
しかし、彼女も薬を飲まされるはずなので、何らかの変化がでてくるかもしれないが。
マユは重犯罪者だけあって、かなり無知だった。
なんたってエイリアンを知らなかったのだ。
「え? エイリアンを知らない?」
「そりゃそうよ。だって映画なんか興味ないもの。映画って作り話でしょう」
「はぁ? ほとんどの人の人生は作り話、つまり嘘でできているだろう。ガチで生きている奴なんて、ほとんどいないぜ」
「あたいはガチだよ」
「ガチだから人殺しになったのか? おかしいだろう」
「ま、いいや。人は人、あたいはあたいだからね。でも、エイリアンってガチで知らないんだけど」
「知らなけりゃ教えてやるぜ、どんな奴かを知らないと戦えないからな。エイリアンの外見はな、タルマワシという深海生物甲殻類にそっくりなんだ。ググって画像を見てみな」
「タルマワシ、タルマワシと……」
マユは看守から借りたスマホでググっていた。
「な、なんじゃこりゃ、こんな奇妙な形をしているのか!」
「ま、タルマワシはプランクトンみたいな奴だから、形は通常、目にするようなものと変わっているがな。プランクトンだから大きさは1センチメートルぐらいかな」
「1センチ? そんなに小さいの? じゃ、楽勝じゃん」
「んなわけねぇだろう。エイリアンはその300倍ぐらいはある。多分だけど3メートルはあるバケモノだ。しかも、唾液が酸になっているし、人間の体に卵を産む」
「ん? どういうこと」
「寄生蜂がイモムシの体の中に産む、あれだ」
「『あれだ』じゃ、分かんねーよ」
「つまりだ、イモムシの生きるに必要な神経だけを残して生かしておく。卵から返った幼虫は、生きたままの新鮮なイモムシの肉体を食べて成長する。それと同じ要領だ」
「生きたまま食われてゆく? それって生き地獄じゃない」
「そうだ、人間に例えると、必要な神経細胞と心臓などの必要不可欠な臓器を残して、他の肉体は生きたまま食われる」
「なんか、凄く痛そうじゃない」
「痛いかもだな。ただ、オレは食われたことがないから分からない」
「そして、どうなるのよ」
「エイリアンの幼虫は人間を食い尽くしたら繭を作り、そこでさらに成長して成体になる。そうして増殖してゆくというわけだ」
「そいつがあたいらのターゲットなのかい」
「ああ、ターゲット第一号だ。エイリアンを倒さないと話は進んでゆかない」
二人は解放され、ある洋風の大きな古城に案内された。
ハザード社の要人の一人が言った。
「この城にエイリアンが隠れている。わたしたちが確認した時点では一匹だったが、周囲の人々の何人かが行方不明になっているから、もう増殖しているかもしれない。そうなったら、絶対に勝ち目がない」
「おいおい」とシンが言った。
「それだけ早急の要件なら軍隊に任せたらどうなんだ」
「ふふふ、相変わらず脳無しだな。一万人もの軍人が死ねばどうなる。天文学的なお金を賠償金として支払わないといけなくなる」
「それで、オレたちを選んだのか」
「それ以外に何の理由がある? いいか、お前たちはハワイにゆくわけじゃない。ここでエイリアンを倒すために監獄から出されたのだ。必ず、し止めてこい。じゃあな、吉報を待ってるよ」
シンとマユは古城の中に入って行った。
二人共、なにやら体がムズムズする異変を察知していた。
(薬が作用し出しているのか。もしかしたら、オレは超人的な肉体の持ち主に変化するのか? するだろう、絶対に。そうでなければ、怪物とは戦えない。うまくゆくと超能力者になれるかもしれない。そう考えるとゾクゾクするぜ)
二人が古城で最初に見たものは生きたまま吊るされた5人の人間だった。
意識は、ほとんどないような無機質な表情をしている。
(彼らはエイリアンにさらわれた近隣の住人達に違いない。そして、それらの肉体に卵が産みつけられているのか)
さらに、少し離れたところを見ると繭が三個ほどぶらさがっていた。
「繭があるわ。あんたの言った通りだね」
「そうだ、早く繭を破壊しないとエイリアンがぞくぞく生まれだして、手がつけられなくなる」
シンは拳銃にサイレンサーを装着した。
そして、まず、吊るされた5人の人間を撃った。
(こいつらを殺しておかないと幼虫が成長しちまう)
次に繭をめがけて拳銃を乱射した。
マユも見習って乱射した。
繭は穴だらけになった。
そのとき、異変を察知したエイリアンが姿を見せた。
(ようやく来やがったか。なるほど、想像通り、とてつもなく醜い奴だな。体が甲冑のように黒光りしてやがる。これじゃ、火器が通用しないわけだ)
エイリアンは二人を見ると唾液を飛ばしてきた。
(おっと)
二人は軽々と飛び上がって唾液を回避した。
みると唾液がかかった石の壁が白い煙を吐きながら溶けだしていた。
(やはり、酸か? それにしても、凄く身軽に早く動けるようになっているな。薬の効果なのか? 戦闘力が三倍増し増しになった気分だぜ)
マユが試しに拳銃を発射した。
しかし、弾丸は軽く跳ね返されていた。
(言われた通り、拳銃はまったく役に立たないな。そうとなればこれか)
シンは腰から刀を抜いた。
エイリアンは唾液が通用しないとみると長い舌をだして二人を捕えようとした。
シンはその舌を刀でぶった斬った。
舌は豆腐を切るように、何の抵抗もなく切り離された。
(こいつは、凄い斬れ味だぜ。マジでおったまげーだ)
するとエイリアンの尻尾が凄い速さで伸びてきてシンの胸を突き刺した。
しかし、尻尾はシンの体を突き抜けたわけではない。
シンは青ざめた。
(まさか、オレの体に卵を産んだんじゃねーだろうな)