デッドプールにはスパイダーマンという仲間がいた
「お、おまえ」意識が戻ったデッドプールは叫んでいた。
「俺ちゃんに手を出して、ただで済むと思うなよ」
今度は、シンは立ち上がってきた、デッドプールの腹に思い切りのよい蹴りをぶち込んでいた。
デッドプールは再びドアに叩きつけられてガッシャーンという大音響をあげていた。
「なかなか、いい響きを立てるドアだな、オレは気に入ったぜ」
「お、おまえ、俺ちゃんは怒った!」
そう言って、背中に背負った刀を抜いたが、「この偽日本刀が!」というシンの怒声と共に、一瞬で斬り飛ばされていた。
デッドプールは腰の拳銃を抜こうとしたが、その右腕もシンの刀で斬り落とされていた。
そして、切り落とされた傷口から新しい腕がもこもこと生えてくる。
シンがマユに訊いた。
「何秒かかった」
「およそ3秒ね」
「ふん、やはりだぜ。遅い。こんな程度か」と次はデッドプールの左腕を切り落とした。
その腕からも新しいのが生えてくる。
「こんどは5秒もかかってるわよ」
「情けねぇガキだな。いいか、よく見てみろ!」
そういうとシンは自分の左腕を切り落とした。
新しい肉が生まれてくる。
「何秒だ?」
「きっかり、2秒ね」
「見たか!」シンは勝ち誇っていた。
「これが再生能力というものだぜ。あれ? オレって、もしかしてピノキオになってねぇ?」
(こいつもミュータントか? それにしても俺ちゃんより再生力が優れているって、どういうこった!)と驚いているデッドプールの襟をつかんで、シンが言った。
「とりあえず、外の広場に行こう。そこでな、お前の再生力が何十回続くか試してみようじゃないか」
二人がデッドプールを外に連れ出したとたん、マユがいきなり、樹木に吊るされた。
「な、なによこれ! あたいが見えない糸に絡まれてる。おい、シン、早くなんとかせんかい」
陰ながら様子を伺っていた志熊がたまげていた。
(こ、これはスパイダーマンじゃないか。なぜ、スパイダーマンがここに?)
シンがマユを助けようと樹木を駆けのぼりかけた、そのとき、シンは濃厚な蜘蛛の糸につかまり、あっという間にぐるぐる巻きにされた。
(ヤバいぞ、ヤバイ、これはマジでヤバイ)と志熊は呟いていた。
「ふっふっふ」と軽い笑みを浮かべてスパイダーマンが姿を現した。
「なんだ、こいつは、デッドプールと同じような赤い衣装を着て。お前らは、兄弟か?」
「僕を知らないのか。僕はスパイダーマンだ。ニューヨークまで来ているのに、僕を知らないなんて、どんだけ無知な奴なんだ」
「スパイダーマン? 直訳すると蜘蛛男か! お前蜘蛛になったのか、アホじゃねぇのか」
「ま、毒づくのもそこまでだ。僕の蜘蛛の糸は、僕が意識している間はチェンソーでも切れないぞ」
「ということは、お前が意識を失うと、ただの蜘蛛の糸に戻るというのか。ううう、確かにオレが全力を出してもビクともしねぇ」
「だろう」
「こいつらはな」とデッドプールが言った。
「俺ちゃんと同じように、斬られてもすぐに再生してくる新種のミュータントだ」
「ほぉ、新種の? って、どーゆーことだ」
「俺ちゃんより再生力が優れている」
「マジか。では、金になるではないか。ファンブルー社に連れて行けば、大金が得られるぞ」
「確かに……、十万、いや、百万ドルはかたいな」
「おお、すごい。ビバリーヒルズに豪邸が建つじゃないか」
「俺ちゃんも、ビバリーヒルズパリピにデビューってわけだ」
こうして、二人は車でファンブルー社に運ばれていった。
(これは、大変なことになったぞ)と志熊がハザード本社に電話をすると、幹部連中はすでに知っていた。
なんと言っても、シンとマユの体内には盗聴器とGPSが埋め込まれているから、すべては筒抜けだ。
「ファンブルー社といえば、我々のライバル会社だ。どのようなことがあっても、シンとマユは奪回する。どんなことがあってもだ」
ハザード社の幹部はアメリカのヒットマン、デザイアーを呼び出した。
「ファンブルー社の研究室から二人の日本人を奪還せよ。ただしだ、指令は日本人を連れ出すことではない。スパイダーマンを見つけて、殺すか意識を失わせる。それだけで、日本人たちは自力で脱出できる。手段は問わない。血の雨が降り、肉片が舞い散ったとしても、構うことはない」
簡単な指令に思えるかもしれないが、そうではない。
スパイダーマンにはあのデッドプールが付き添っているからだ。
デザイアーは子分のビショップを呼んだ。
子分といっても師弟関係はない。
あるのは、金銭の関係だけだ。
つまり、ビショップは使い捨ての傭兵みたいな存在だ。