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ショートショート9月〜5回目

森の秘密

作者: たかさば

とある村に、言い伝えられているものがあった。


六行の、謎の文章である。


ももんががすむ木から八歩

りんごの木の手前にある大きな岩

のぶしの小屋の入り口のポスト

ひくいどりの巣穴があった場所

みはらしだいのてっぺん

つきがかくれんぼをする日にあおう


頭文字を拾うと『もりのひみつ』と読めるため、村人たちは『森に関する何らかの秘密』が隠されていると考えていた。


村人であれば誰もが知っているが、どこの誰が言い始めたのかはわからない。

どの家にも先祖代々伝わっているが、いつ頃から伝えられ始めたのかはわからない。


―――昔この辺りにモモンガがいた

―――このあたりに姫りんごの木が群生していた

―――昔戦から逃れた武士が住み着いていたらしい

―――ヒクイドリをモチーフにした神輿がある

―――見晴らし台の写真が残っているが…

―――おそらく新月の事に違いない


謎を解こうと挑む者は少なくなかった。

村一番の物知り、村一番の神童、村一番の出世頭、村一番のなぞなぞ好き、村一番のひねくれもの、村一番の無鉄砲、村一番の行動派…たくさんの村人が挑んでは、何も得ずにこの世を去った。


―――モモンガという名称はいつから使われていたのか…

―――姫りんごはこのあたりで自然発生するはずがなく…

―――おそらく長篠の戦で…

―――江戸時代に献上されたヒクイドリが…

―――この辺りは高低差がない地域で…

―――満ち欠けではなく、月の位置が…


テレビや雑誌の取材を受け、識者が出てきて大々的に調査した事もあった。

しかし、結局何一つ成果を得ることのないまま、謎を残して終わった。


テレビの取材の影響なのか、村は観光名所として人気が出た。

適度に都市部から近く、交通の便が良くなったこともあり、人口が爆発的に増えた。

開発が進み、いたるところが近代化した。


そして村という名称は消え、合併して市になった。


村であった場所には木の生い茂る森がなくなり、野生生物の姿などどこにもない。

アスファルトだらけの道に、土があった時代の名残はどこにも見つからない。


『もりのひみつ』は、確かに秘密を守り続けていると言えよう。


真相は、誰も知らないのだ。

これから先もずっと…秘密はヒミツのままに違いないのだ。


そうまでして守りたかった秘密とは、いったい何だったのか?

秘密を残したものは、今頃満足しているのだろうか?


そもそも、秘密があったとは限らない。

頭文字から推測しただけで、秘密が隠されているという確証はどこにもない。


完全に、踊らされているとしか…思えない。


はた迷惑な話だと思いながら、私は分厚い調査書を閉じたのだった。










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― 新着の感想 ―
[一言] ○「ポスト」と言う単語から戦後、早くても昭和23年。  ○長篠の戦いに関わりがあるのであれば、愛知県新城市。   子供の遊びに大人が悪乗りしたんじゃないかしら?w
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