5,特別な夜
ドアが開き、小さな男の子が紅茶を運んできた。テーブルに焼き菓子と紅茶を並べて下がっていく。黒い小さな執事さんって感じ。
ブルーノは紅茶を飲みながら優雅に話し始めた。
「あの時、私も一緒に滅んでしまったはずでした。しかしラスが守ってくれたんです。守護魔法と転送がかかって、ここに飛ばされたんです。」
不本意だと言っているが、顔は穏やかだ。
古城と研究所とゲートを残してくれたので、古文書を読み漁っては、ラスを探していたらしい。
「滅びるくらいのできごとって…」
「聞きたいですか?」
目が笑っていない。
「いや、まだいいです。」
全力で顔を横にふる。これはまだ聞かないほうがいいな。
「あの、ライモンってよんでよ。」
「ラス、うーん。ら、ら、ライモン……呼びづらいです。」
たじたじですね。でもライモンって呼ばれると懐かしく感じる。
そういえば、ブルーノさんとラスの関係ってどんな感じなのかなー?
ブルーノさんと猫だった私はよく日向ぼっこしたなー。私から見たら完全に保護者なんだけどね。
しばらく過ごして気がついた。
この城は時間がゆっくりだなーと思っていた。
ずっと明るいんだもん。夜はたまに来るらしい。
ずっと明るい1週間がすぎたころ。あの小さい執事さんが教えてくれた。
「ライモン様、今日は夜がくる日です。
とっても珍しいので僕も楽しみです!」
10才くらいの見た目の私と、さほど変わらない身長の彼の名前はルカ。ブルーノに弟子入しているらしく魔法を勉強中だとか。
とにかく可愛い。自分に弟がいたらこんな感じなんだろうなって思う。
窓の外が夕焼けに染まり、そろそろ夜になりかける時間に、バルコニーに出た。
オレンジ色に染まる空と夜の間の僅かな時間、キレイ。
夜が多くなると星が見えてきた。
夜は長く3日ほど続くみたい。その間、流れ星がみれるか聞いてみたが、確率的にはアリらしい。
私が落ちたのも夜だったから、欠片が落ちてきたら絶対取りに行こうとルカと話した。
「この世界の夜は特別です、普段は見えない不思議な姿が浮かび上がる。
もうしばらくすると、ラスの大樹が見えてくるはず。星とともにやってくる。」
なにもない草原に大樹?
バルコニーに手をついて、はるか彼方の地平線を眺めていたら影が見えた。
たしかに遠くから見てもかなりの大きさかわかる。
「ラスの大樹は、あなたですよ。ライモン。」
振り返ったライモンは、ブルーノと向かい合う。
「あなたは、人に憧れて手を伸ばした。人を知ろうとしたんです。何度も転生しては、ここに戻ってきて、また人に憧れる。人として生を受けずとも、他の何かになってね。」
「私は、1度目の人型に生まれた時代に一緒にいたのですよ。
私があなたに名前を与えました。ラスという人の名前を。」




