第一章 001 パニック
「…は?」
最初に目に入ってきたのはごつごつとした樹皮。
視界が狭く何度か瞬きをすると徐々に視界が開けてくる。
そうして自分が木々に囲まれていて、ここが森なんだとかろうじて認識してしまった。
なぜ自分がここにいるのかという様々な疑問と、目の前の現実を受け入れられず
気が付くと、脳がじんわりとしびれている感覚がして瞼が重たくなる。
今すぐにでも意識を手放して横になりたいという欲求を無理やり押さえつける。
もしかしたら人がいるかもしれない。なぜここにいるのかわかるものが、
そもそも此処はどこなんだ?様々な疑問や思いが頭の中をぐちゃぐちゃにしながら
あたりを見渡し始める。
しかし周りには自分が安心できるようなものや、
自分のことを助けてくれそうな人はどこにも見当たらなかった。
しかし諦められずにほかの何かを探そうと再度、見渡すが、
どこを見ているのか自分でもよくわかっていない。
ただ無意味に時間が過ぎていく。
いつの間にか息が荒れ、心臓がバクバクと音を鳴らし始める。
「ハッ…ハッ…!だ、誰か…」
首を左右に動かしながら、か細い声で助けを求める。
しかしその声に反応するものは誰もいなかった。
「どうすれば…」
どうすればいい。その純粋な疑問を口に出すーー…
【その瞬間自分の頭の中に一本の糸がピンッと音を立てて張られた感覚がした。】
「そうだ、まずは落ち着かないと」
そう呟くと、手を胸に当て深く呼吸を繰り返し、息を整えようとする。
呼吸を繰り返しながら、今度は今自分が置かれている現状を確認するために見渡す。
周りには木々が生い茂っており、日差しがこちらにまで届いておらず地面には落ち葉と細かい枝が一面に敷き詰められていた。
次に自分の身体と持ち物の確認を始める。
ズボンや上着のポケットの確認をするが入っているものは何一つなかった。
少し落胆しつつなぜここにいるのかを思い出そうとした瞬間違和感が生じる。
「…?」
この場所どころか、自分の名前すら思い出せない状態だった。
ただ一つはっきりとわかるのは、こういう状況ではとにかく落ち着かねばならないということだけだった。
「まずは川を探そう。運が良ければそのまま人がいるかもしれない」
まるで自分を鼓舞するように独り言を言いながら一歩、足を踏み出した。
*役に立つかわからない知識*ーーー
遭難や災害に巻き込まれた時にはまず落ち着きましょう。
パニックや恐怖はどんなに優秀な人間も殺してしまう危険な状態です。
最悪周りの人間の命をも奪ってしまうかもしれません。
落ち着くことができたら自分の置かれている状況を見極め、どう対処すればいいのか考えましょう。
当てもなく行動をするのは大変危険です。
そして今回は川、沢を目指していますがこれは間違いです。
沢は基本的に低い位置にあり周りの見通しが悪く、下った先が滝のような行き止まりの場合があります。
無理に下ろうとして命を落とすケースがかなりあり、遭難者の死傷者の多くが沢のそばで見つかっています。
ではどうすればいいか?
それは尾根を目指して登山道を探すことが最も安全です。
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