7 決着
なんか強くね。
死にかけのセボトンヌ君、なんかめっちゃ強かった。
正直最初は手加減していたのだが、だんだんセボトンヌくんの表情から余裕が消えていって剣の鋭さもどんどん上がっていった。
途中からは僕も余裕がなくなって、攻撃を受けるのだけで必死になっていた。
隣で戦ってるのをチラチラ見ながらセボトンヌくんにとどめを刺すタイミングを見計らっていたのだが、そんな余裕もだんだんなくなっていった。パワーウェイトセットがあと二十キロ重かったら、セボトンヌ君の攻撃についていけなかっただろう。
これ以上スピード上がったらどうしようと、途中で冷や汗が止まらなかった。
というか本当に死にかけだったんだろうか、セボトンヌ君。
僕は魔剣コロシアムというものをなめすぎていたのかもしれない。
僕くらいの実力であれば、パワーウェイトセットをつけていても余裕で勝ち進めると思っていたのだ。
でももしセボトンヌ君より強い人が出てきたら、苦戦は免れないだろう。
セボトンヌ君の最後の技、あれなんていう技なんだろうか。
急に後ろに引いたと思ったら、物凄い勢いで体が燃え始めた。
もうその時点で絶対やばい技だと確信したね。
実際、僕を殺す目だった。
本気で僕を殺そうとしているのがわかった。
威力もスピードも、今までとは比べ物にならないくらい跳ね上がった。
もし剣で受けていたら、確実に折られていただろう。
素手で攻撃を受け止めたのは、余裕だったからじゃない、それでしか受け止めることができないと判断したからだ。
うまく電磁気を右手の表面に纏わせ、火槍を包むように掴んだ。
少しでもズレていたら、僕の心臓は今頃貫かれていただろう。
ギリギリの判断だった。
攻撃が受け止められたのを見てセボトンヌ君はかなり驚いた顔をしていたけど、本当に驚いたのは僕だ。
刃の表面は千度を軽く超えていて、超濃度で高められた魔力は見事としか言いようがない。
少なくとも、生半可な修行で出せる技ではなかった。
だからセボトンヌ君には、次の技を出す前に気絶してもらうことにした。
流石にあの技を二回受けるだけの魔力も体力も残っていない。
今でさえ、足がプルプルの状態なのだ。
さて。
セボトンヌ君は倒したが、まだ残っている大仕事がある。
「おいおい、あの火槍使いはガキにやられちまったのかよ。情けねえなあ」
そう言ってこちらに近づいてきたのは竜巻のウィズだ。
その足元に、胸部を貫かれたカロス君が呻きながら転がっている。
どうやら目を離しているすきに竜巻のウィズにやられたようだ。
「まあいい。どっちが残ってようが、俺が消してやることに変わりはねえ」
「おい……まだ終わってないぞ!」
後ろからかけられた声に、ウィズの足が止まる。
足をふらつかせながらカロス君が立ち上がった。
息も絶え絶えで、顔が青ざめている。
「うるせえんだよ! 負け犬は寝てろっ!」
ウィズがカロス君の下っ腹を蹴り上げ、鈍い音がしてカロス君は床を転がり、吐血した。
肋骨二、三本は言っただろうか。
見ると身体中の関節が変な方向に曲がっている。
見ているだけで痛々しい。
『おっとウィズ!! 圧倒的年下に対しても容赦がない!! これは流石にカロス君がかわいそうです!!』
『極悪非道!! 最低のクソ野郎ですなあ!! カロス少年、大丈夫でしょうか』
身体の痛みで、カロス君は顔を真っ赤にしている。相当辛そうだ。
切れたお腹から血が溢れ出し、全身から汗を吹き出している。
「何友達の心配してんだ? 今度はてめえの番だぞ」
僕がカロス君に視線をやっていると、それが気に入らなかったのかウィズが剣を僕に向けた。
目が合うとニヤリと下卑た笑みを浮かべてくる。
「お前もこれからこいつみたいになるんだよ」
「違うな。お前が戦うべき相手は、まだ我ではない」
ウィズはあからさまに眉を潜めた。
「はあっ、何言ってるんだ? もしかして俺様と戦うのが怖くなって現実逃避でもしてるのか? だったらとんだ笑い者だなあ」
何がおかしいのかウィズはクックックと笑い、持っていた剣を地面に突き立てた。闘技場に亀裂が入り、ウィズの周りだけ地面が隆起する。
「いいだろう、俺様も鬼じゃねえ。命乞いで許してやる。今すぐそこに頭擦り付けて泣き叫べ、殺さないでくださいってな! そしたら痛いようにはしないでやる」
なるほど、随分なお情けだ。
かけるものもかけないで何が戦士だ、といったところか。
「そうだな……いいだろう。では、本当に我と戦うことになったなら、命乞いでもなんでもしてやろう。
実際、我にはもう貴様と戦う力はほとんど残っていないのでな」
これは半分本当で半分嘘だ。
セボトンヌでだいぶ魔力と体力を削られたが、実際にはまだほんの少し残っている。それを出し切れば、なんとかウィズくらいは倒せるだろう。
それだけの力は、まだ残っている。
でも、それで終わりじゃないことを僕は知っている。
まだ目が死んでいないものの存在に、ウィズはまだ気づいてない。
「戦う時になったらだと? 馬鹿め、今が俺様とお前が戦うその時なんだよ。いいからさっさと命乞いしやがれ。しないなら殺すまでだがな!!」
「……未熟」
襲いかかってきたウィズの剣を、ギリギリで交わした。
ウィズはなおも剣撃をやめない。
僕の羽織ったマントに、切り傷が刻まれていく。
「おいおい、どうした。逃げてるばかりじゃ、俺様には勝てないぜ?」
「……我は攻撃しない。なぜなら、まだ貴様の相手は我ではないからな」
「ちっ、いつまでそんなことほざいてやがんだっ!!」
大振りに振りかぶられた剣が、僕の頭の上を通過していく。
技は荒い。だがこの段階でまだスピードが落ちないのは驚異的だ。
身体の素質は、いいものを持っている。
あくまで、身体の素質だが。
「貴様は、人が敗北するための条件を知っているか?」
「なんだ急に、謎かけか? 決まっている、死ぬことだ!」
そろそろ限界か。
ウィズの攻撃を交わす身体がへばってきた。
あと腰痛い。
「……そうだな、それも一つの十分条件だ。確かに死んだ時、人は敗北する。しかしそれでは不十分だ」
「くだらねえな、難しいことごちゃごちゃ言ってんじゃねえよ。
いいじゃねえか、殺したら勝ち、わかりやすくていい!!」
「……ふむ。では、貴様はカロスを殺したか?」
「なっ」
ウィズの剣が一瞬だけ緩み、それをすかさず僕は弾き飛ばす。
その剣が、床に金属音を響かせて転がった。
気の抜けた剣など、受けるにたやすい。
「……やっと起きたか、カロス」
僕が微笑を浮かべると、ウィズは驚いたように後ろを振り返ると、驚愕の色が浮かべた。
立つのもやっとなのだろう。
傷口から血を滴らせながら、カロス君はよろけて転びそうになる。
しかし、なんとか持ち直し、ウィズを睨んだ。
血の底から這いつくばってきたような、鋭い目だ。
思った通り、カロス君はまだ死んでいない。
カロス君の戦意はちゃんと生きている。
「なぜだ、なぜあれほどの傷を受けて立ち上がれる?」
「死んでいないからだろう」
代わりに僕が答えてあげる。
カロス君には返答する余裕はなさそうだ。
『たったっ、立ち上がったあああああ!! なぜだ、なぜ立ち上がれるんだカロス少年!!』
『すごい意志の持ち主ですなあ、彼は。久しぶりに私、熱くなっていますよ!!』
『やってくれ、カロス少年!! あの悪魔のようなウィズを君が倒しでぐれええええ!!』
なんかウィズ、すっかり悪者にされてて草。
これは僕の定義でしかないが、真の戦士とは最も諦めの悪いもののことを言う。
周りのみんながどんどん状況に絶望し、諦め、そのものが最後の一人になっても希望を持ち続ける。
そのような馬鹿のことをのことを、真の戦士というのだ。
僕が彼の中に見た戦士は、信頼に値するものだった。
その彼の輝きが、今会場を魅了しているのだろう。
えっ、僕?
もちろん、真っ先に諦めるタイプだよ。
「……ありがとう、苅野君」
聞き取れるか聞き取れないかギリギリの声でカロス君は嘆いた。
「へっ、立ち上がったと言っても所詮虫の息! 俺様の相手ではない!」
「貴様はまだそんなことを言っているのか?」
カロス君の体から、ガスのような煙が出る。
全身の血管を加速していることが合図だ。
次の瞬間カロス君の体がブレ、次の瞬間に彼はウィズの目の前にいた。
「えっ……」
ウィズの声は、轟音にかき消された。
土煙と共にウィズの体が弾け飛ぶ。
僕でさえ、一瞬カロス少年を見失うほどの速さだった。
ウィズの体はリングの外の壁にぶつかり、ひびを入れた。
そして、ウィズは完全にぐったりと動かなくなる。
会場は一瞬静まりかえる。
そして次の瞬間割れんばかりの歓声がコロシアムを包んだ。
『ばっばっ、爆裂パンチいいいいい!! きっ、決まったあああ!!』
『やってぐれまぢたなあ、カロス君!! わたぢ、涙が止ばりばぜん!!』
大きな声援に包まれ、会場にカロスコールが響いた。
カロス君はすっかり観客を虜にしてしまったようだ。
気持ちはわかる、だって僕も感動してるもん。
カロス君の最後の一撃は、もしかするとセボトンヌ君の最後の一撃にも匹敵するかもしれない。
とにかくすごい威力だった。最後の最後になって必殺技だすの流行ってるんだろうか。
あんなのを自分が受けていたかもしれないと想像するとギョッとする。
ウィズにとどめ刺さなくてよかった。
正直迷っていたのだ。
かなりムカついたし、自分でやっちゃおうかなと。
ああよかった。
「よくやった……」
僕が軽く腹パンすると、カロス君は僕の腕に沈んだ。
その瞬間、僕の一般部門優勝が決まった。
作者は未熟なので、講評、意見などをもらえると泣いて喜びます。