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人間が面倒くさいのは事実だと思います


「そう……じゃあ、これ終わったら早速、ご飯にしよっか」

「はい!フェーベさんが選ぶ所なら、間違いないと思います」



二人がのんきな話をする中、ルーティは行列に並ぶ手間を省こうと動き出す。



「カノンちゃんが眠らせた人のおかげで、騒ぎが少し静かになっているわね……今のうちに済ませてしまいましょう。ご飯を早く食べたそうにしている、うちの子達のためにもね」



ルーティはデイジーの手を引くと、突然眠りについたウェッセンに視線が集まる民衆の横をすたすたと通り過ぎる。デイジーはルーティの意図を理解したようで、鞄から先程の魔石のレプリカを取り出す。



「すみません、私達はレヴィアタンを撃退して今帰った者です。見た所、皆さん討伐証明となる物をお持ちでないようなのだけど。今私達が持っている、レヴィアタンの魂の破片よりも確かな物を所持している人は居るかしら」



突然眠りについたウェッセンへの驚きから静まり返ったギルド内に、ルーティの声が響いた。



「貴様らのような小娘に、レヴィアタンと立ち向かう勇気などあるワケがなか……は……ぐぅ……」



ルーティの目立った行動に抗議した、大剣を背負った歴戦の傭兵らしき見た目をした男は、またもカノンの「象の子守歌」によって眠らされてしまった。ギルド内に、背負っていた大剣の落ちる音が鈍く響いた。列の先頭と、二番目が横になって眠る男になった。するとどこからともなく現れた受付嬢と同じような模様の服を着た男達が、眠った男を二人一組でえいやと持ち上げると、ギルドの外へ放り投げてしまった。



「このようにして、私達の仲間にはどんな巨大な敵でも一瞬で眠らせる魔術を使える者が居るの。レヴィアタンもこのようにして撃退したのだけど……ちなみにこの魔石は、レヴィアタンが眠っている隙に取り出したの」



一部事実を含むルーティの出まかせに、以降口を挟む者は居なかった。静かな空間に響いた大剣の音は、次に眠らされるのはお前だというような恐怖でギルド内を覆っていた。



「鑑定師の者に調べさせますので、その魔石を預からせて貰えませんか」



淡白なギルドの受付嬢は、ルーティにそう告げた。呆気にとられている民衆をスルーしながら、ルーティは受付嬢にリサが生成した魔石のレプリカを渡す。



「ご提出ありがとうございます。鑑定は今日中には済むと思いますので、また明日お越し下さい」



受付嬢がそう言うと、レヴィアタン撃退クエストは完了しましたというような具合で、先程ルーティに抗議していた冒険者を追い出した男達が、掲示板にでかでかと貼られた「緊急:レヴィアタン撃退」クエスト依頼のポスターを剥がしていく。



「ええ、皆さん。レヴィアタン撃退クエストはこの通り完了しました。参加頂けた皆様には残念ながら報酬は用意できかねますが、国の大事に積極的な受注をして頂いたこと、誠に感謝致します」



ギルドの従業員らしき男達の中の一番身長が低い、髪を七三分けにしたサラリーマン風の男が軽く頭を下げながら冒険者達にそう声をかけた。



「おい、レヴィアタンを撃退したのは俺達だって言ってるだろ!」

「何を言ってるんですか、僕たちが第一発見者ですよ。それ相応の報酬は貰えていいはずでしょう!」

「達成報酬とは別に、参加報酬をお配りしてあるはずかと。そちらでご理解いただければと──」

「テメェ黙って聞いてちゃ、ケチケチしやがって!」



無表情で弁解を述べていくギルドの従業員であったが、声は受付嬢と同じように冷淡なものであった。



「どうやら、面倒なことになったようね」



ルーティは参加報酬とやらを受け取った覚えがないことに多少疑問を覚えたが、この場に長く居ることにメリットを感じなかったので早く退散したい心持ちであった。



「あ、逃げるんですね。私もこんな所居たくないので、さっさとおいとましましょう」



そのルーティの”音”を感じ取ったカノンはすぐさま”霧”を発動させ、自分と仲間一行を周りから見えなくしてしまった。カノンとしても冒険者達の罵声が大きくなって、自分の鼓膜と感情に怒りの”音”が流れ込んで来るのが嫌だったため、今までで一番の集中をもって拒絶と断絶の意思を込めながら演奏していた。”霧”の効果を確認すると、一行は一目散に駆け出す。



「おい、あいつらいつの間にか居なくなってるぞ!もしかして、ギルドとグルなんじゃないか!?」

「あんな女どもにレヴィアタンをどうにかできるわきゃねぇ!あのちんちくりんが持ってたヤバそうな剣も、どうせハッタリだろ!」

「探せ、探せ!ぽっと出の奴らに手柄を奪われるわけにゃいかねぇ!」



冒険者としては突然報酬を横からかっさらわれたようにしか見えないため、必死でルーティを探す。しかし、彼らがこの言葉を叫んでいた頃には、一行は既にヴィスターユ船着き場に到着していたため、いくら探しても見つからなかったのであった。











「あらあら、思ったより早かったですね。よっぽど、交渉がうまくいったのでしょうかねえ」



一行は海を眺めてにこにことたたずんでいたイシュタルに出迎えられる。クロッシュとヴィスターユは仲良くソファの上で横になっており、ソファの脇には14本の酒瓶が几帳面に並べられていた。



「いいえ、その逆よ……やっぱり手柄を欲しがる冒険者には私達が納得出来なかったみたいで、ギルドが大混乱になってしまったわ」

「いきなりあたし達が悪者だとか裏切り者みたいな扱いになって、散々でしたねぇ。ネプテュヌスのギルドはお互いのことを格付けのポイントでしか見なかったのでぇ、争いも少なかったんですけどぉ。ここはいつもあんな感じなんでしょうかねぇ」

「あら、あら。ここの冒険者は海賊あがりのやくざもんが多いですからね、ええ。不満なことがあれば、まず喧嘩を売ってみることから始めるらしいんですねえ」



イシュタルはにこにこ顔を崩さないまま、怖いことを言っていた。



「わたしとこの”レーヴァテイン・ノヴァ”に喧嘩を売るなんて、いい度胸をしてるの!今からでも戻って、あいつらまとめてぶっ飛ばしてやるの」

「デイジー。これ以上面倒なことにしたくないから、おとなしくしててね」

「わかったの!」


ルーティはデイジーの頭にぽんと手を乗せると、剣を振り上げて威嚇のポーズを取っていたデイジーが手懐けられたペットのようにおとなしくなった。



「とはいえ、このまま騒ぎが落ち着かないと報酬が受け取れないわね……」



ルーティは様々な可能性を考える。あの混乱では、騒ぎは一晩で収まるとは思えなかった。明日ギルドに行って、即座に報酬が受け取れるということは限りなく可能性が低いように思われた。

だが口約束とはいえ、リサに美味しい料理を食べさせるというものを反故にするということは自分の命が危ないだろうと推測していた。



「ニンゲン、なんツゥかめんどいッスね。でもま、みんながここまでどうやって来たのか、なんとなくわかったッスわ。楽しいパーティすね」



数年前までそのニンゲンであった当のリサは、この状況を少し面白いと思っていた。





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