年を取ると昔話とか楽しくなってくるのかなと思います
「さぁ、そろそろ船着き場ですよ。レヴィアタンと戦うだなんて最初聞いた時は、生きた心地がしませんでしたけどね、ええ。こうやってレヴィアタンと仲良くなってしまうとはまさか思いませんでしたので、皆さんには驚かされるばかりです」
そうしたカノンの逡巡は、港が見えたというイシュタルの声によって遮られた。行きの時はレヴィアタンとどのような曲を使って仲良くなろうか考えていたため、街で何をするかなどは考えていなかったが。だがクエストの全てを終えて街が見えてくると、見たこともない食べ物を運んだ小さな商船などの人々の流れが、カノンの好奇心と食欲を刺激していた。
「わぁっ……とりあえず、美味しいご飯を食べてから考えましょう!たぶん、またフェーベさんが良いところに案内してくれると思います」
「うーん……うん、まかせて」
突然話題を振られたフェーベは海の果てに向けていた視線をカノンの方に向け、少し目を閉じて考えると、にこりと微笑んだ。
「ン、期待して待ってるスわ」
「さて。レヴィアタン撃退の件、どうやってあの頭の堅そうなギルドに伝えようかしら……」
うちの吟遊詩人がレヴィアタンを押さえつけた上に、あろうことか仲良くなり、その力で姿を変えてこちらに来ましたとはまさか言えないため、ルーティはどうしようものかと頭を悩ませていた。頼みの綱がリサの協力であったが、彼女の破天荒な性格上どう出るかわからないとルーティは思っており、一旦考えを聞こうとリサの方をちらりと見る。
「え、ウチ?んー……や、ウチが去った後ってしばらくそのへんに波が立たなくなるらしいンで、それでわかるンじゃないスかね」
「私達がレヴィアタンを撃退したという証明が欲しいのだけど……ごめんなさい、難しかったかしら」
「へー、それっぽいの作ればいいンすよね……はい、これでどうっスか。ウチを倒した結果これがドロップした的なノリでいけないッスかね」
リサは手の平サイズの”銀輪”を生成すると、そこに荒れ狂う海のような”音”が詰め込まれた魔力を注いでいく。十秒ほどで、ヘル・ドラゴンの魔石のそれと同じ程度の魔力の塊を作り出した。
「そんな簡単に魔石のレプリカを……やっていることのスケールが違いすぎるわね」
「ホントは3ティモ程で弾けちゃうヤツを、無理やり魔力で固めてるだけなんで。中身はスッカスカっすけどね。あっでも、中のデザインはカッコよくないッスか?秒で作ったにしては」
「中に入ってる魔力はすごそうだし、あのインチキババアに売りつければ中々いい値段になりそうなの」
「ギルドの人を納得させるには十分そうね。デイジーの言う通り、鑑定師に頼んでもそこそこ良い値をつけそうだもの」
ルーティはリサが生成した魔石のレプリカを受け取ると、嵐を球体に閉じ込めたような禍々しい見た目とは裏腹に、ぽよんとした触感をしていたことにまず驚かされ、そこに秘められた魔力の量に息を飲んだ。
「確かに、芸術品としての価値もありそうですねぇ」
「へへ、そこまで褒められるとなんか照れるッス」
船はちょっと漁に行ってきましたというような具合で、何事もなく船着き場に到着した。これであとはクエストを報告するだけで10万ドゥカが貰えるらしいので、ルーティとしては半ば今日が終わったような心持ちで居た。
しかし、まだ面倒事は残っていた。運賃の精算のために案内所に向かうと、何故かクロッシュとヴィスターユが酒盛りをしており、とてもまともに話をしてくれそうにない状況であったのだ。
「はい、はい、そのへんにしておいてくださいよ。レヴィアタンの仇なら私達がちゃんと取りましたからね、はい……あぁ見て下さい、これがレヴィアタンの魂を引っこ抜いたものですよ、あなた」
イシュタルの二人をたしなめる様子を見て、長年こんなことをやっていたのかと哀れに思ったルーティは、デイジーの鞄から先程の魔石のレプリカを取り出し、ふぅと持ち上げて掲げる。
「オォ!?こいつはめでてぇ!!あのにっくきレヴィアタンをぶっ倒したとなりゃ、飲まずにはいられんな!クロ、もう一本とっておきのがあるんだ、どうだ?」
「おぉ、ありがたい!ヴィスよ、酒がこんなにうまいなんて、よく思い出させてくれたなぁあ?ネプテュヌスでは禁酒していたんだがなぁ、やはり旧友との昔話には酒がなければ始まらないぞ!」
「あぁ!レヴィアタンにされた悪行の数々を肴に、今日はとことん飲むぞ!」
酒瓶が10本に届くかというくらいあたりに散らかっていたが、二人はまだ飲むらしく、ギルドとの連絡などのまともな話し合いは出来なさそうであった。仕方なく、一行は先にクエストを報告して完了させることにした。
「ウチ、そんなに悪行とかやってたンすかね?」
メンバーに新しく増えていたビビッドカラーの少女を、クロッシュとヴィスターユは気にもとめなかった。
ギルドに向かうと、あたりが騒がしくなっていた。受付は、自分がレヴィアタンを撃退したと主張する人で長蛇の列が出来上がっていた。
「何度も言っている、俺達ウェッセン海賊団の活躍でレヴィアタンは泡を吹いて退散したんだ。だからクエストの報酬をよこせと言っているんだ!」
「ですから、討伐証明のためのアイテムの提出をお願いします」
「撃退クエストでそいつの一部を持って帰れるワケねぇだろ!何言ってんだ。おい、ギルドの監視役カミラ!俺達は確かにレヴィアタンに勇敢に立ち向かい、勝利を手にした!そうだよなぁ?」
「え、それは、その……」
バンダナを巻いたパーティのリーダーらしき男が、先程の冷たいギルド受付嬢と、気の弱そうな監視人に高圧的な態度を取っていた。
「アイツ、なんかデタラメ言ってるの。レヴィアタンはカノンと友達になるまでずっと暴れ続けていたはずだから、アイツが撃退したワケないの」
「どうしましょお、クエスト、アイツの手柄になっちゃうかもしれませんよぉ」
「普通の受付嬢だったら、あの男の圧に負けて折れてしまうかもしれないけど……あの肝の座った人なら大丈夫なはずよ。見ていましょう……あのカミラって子はちょっと心配だけれど」
ルーティはあのままやっていても受付嬢は少しも動じないだろうと思っていたので、クエストを早く報告しようと焦る雪解けレーヴァテイン一同を抑えて、静観することにした。
「討伐証明アイテムが無い場合は、お引取り願います」
「なんだとォ!?テメェ、俺が誰だかわかって……ふわ、あ……ぐぅ……」
「ウェッセン様、ギルド内での居眠りはご遠慮下さい」
男の大きな声にびっくりしてしまったカノンは、脊髄反射的に”象の子守歌”を発動させてウェッセンと言うらしい男を眠らせてしまった。
「あっ……すみません、つい」
「カノン、今の”調律”……私には全然聞こえなかった。人に全く気づかれずに眠らせちゃうなんて……ちょっと、怖くなってきたかも。ふふ」
フェーベは受付で崩れ落ちるように眠るウェッセンという男を、蚊を眺めるような目で見ながら妖しい笑顔を浮かべる。
「あは、そうですか?今の私ならフェーベさんともいい勝負できちゃうかもしれませんね、はい!」
「今度……デイジーとの稽古に、参加してみる?怪我は、させないから……」
「……ご飯を食べたら、かんがえます」





