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装備を買い揃えたいと思います





カノンが寝ていると、8分音符が主体の、バラードのような曲がキーボードから流れる。徐々に目覚め、起き上がる体勢を整えていると、次第に打鍵音は強くなり、曲が激しくなっていった。

リスト・超絶技巧練習曲3番の優雅な旋律は、カノンをゆっくりと酔いから覚ますのに十分だった。




「ちょっとぼぉっとするけど、気分が良いなあ」

カノンは昨日あったことを振り返る。アリネスさんの助けもあってライブは大成功し、マスターは怖いけど、生前に食べていたご飯よりずうっと美味しい料理にもありつけた。

「これ…どうしよ」

カノンはポーチの中に入っているお金をどうしようか考える。所持金を数えてみたが、6320ドゥカあった。

武器、とか防具?とか揃えればいいのだろうか。こんなにお金を持っていると、急に襲われるかもしれない。お母さんに、お金はあんまりたくさん持ち歩いちゃいけませんって言われてたっけ。

腕っぷしの方はからっきしだから、身を守るために色々考えなければいけないとカノンは考えた。

カノンは体調を確認するために、「ステータス」を開く。昨日のお酒は残っているように感じなかったが、初めてお酒を飲んだので、ちょっと心配になったのだ。



カノン・ベネデッティ 



HP 15/15

MP 1500/1500

SP 10/10

"調律のイデア"


スキル

調律 LV3



体調は、万全なようだった。それよりも、カノンは伸びたステータスと、スキルというものに目を奪われる。

この世界にもスキル、あったんだ!

そういえば、昨日は途中から人と普通に会話が成り立っていた。調律LV3ってやつのおかげかな?

スキルの獲得条件はたぶん、どれくらい練習したかとか、他人にどれくらい影響を与えたかとか、そんなんだろう。一昨日はギリアムにしか使っていなかったし、なにより適当にじゃんじゃか弾いてただけな気がするので、スキルが習得できないのもうなずける…とカノンはゲーム的に分析する。

人に聴かせるつもりのピアノと手癖で弾くピアノでは、全く異なるものとなるのだ。


MPは何の影響かまあまあ伸びたが、HPは15、SPは10のままだ。相変わらず、戦闘向きじゃないなとカノンは考える。流れ弾の一発でも食らったら、たぶん即死だ。

さしあたってプリセット3に相手がびっくりしそうな曲を、プリセット4に眠くなるような曲を入れておいた。「調律」レベルが上がったからか、自分には効かなくなってしまっている。人に試したいけど、試すようなことになりたくないなあとカノンは思う。



とりあえず、武器や防具を売っている場所を探しに行こう。そう思い立ち、普段着に着替え、キーボードを抱えて出発しようとする…と、なぜかキーボードがカノンに吸い付くように動き出した。

これは便利である。カノンはよくキーボードの存在を忘れそうになって、取りに戻るということが街を歩いていて何度かあった。「調律」レベル、上げるともっと良いことありそう…とカノンは思うのであった。


「ブルネルスキの家」での朝食を済ませると、とりあえず「ベティの魔道具屋」でそれっぽいマジックアイテムを購入することにした。


入店すると、薄黄色の飲み物を飲みながら、考え事をしているおばあさんがいた。

「あぁ、おとといの嬢ちゃんか。また買い取りかい?」

「いえ、今日はなにか買っていこうかと。身を守れる道具があるといいんですけど…」

「ほぉ。嬢ちゃん喋れたのかい。それで、持ち合わせはどれくらいあるんだい」

「えー…1000ドゥカくらいで、良いものが買えたらなあと」

「おとといは貴重なクォルの穂をやーけにあっさり売ってくれたなと思ったがなんだ、金には困ってないんかえ。そしたらこいつがオススメだよ、『目眩ましの指輪』だ」

おばあさんは立ち上がりきょろきょろと見回すと、指輪コーナーみたいなところから一つの指輪を指摘する。

「嬢ちゃん、体力がないんだろう。そんなやつが魔道具に頼って体力を盛ろうとしても高が知れている。この指輪を使って、敵に気付かれないように戦うのが良いだろうよ」

おばあさんからは昨日と打って変わって、知的でメカニカルなメロディが流れる。お金を持ってる人には優しく、そうでない人からはぼったくるスタイルらしい。

カノンはおばあさんに指摘されるまで、その指輪の存在に気付かなかった。この指輪からは、全然音が聞こえてこない…というより、音が遮られている感じがある。本物だ…

「これは、おいくらくらいで?」

「最近ダンジョンが見つかったらしくてねえ、そこからこれの素材が大量に入って安くなってるぞえ。ついこの間までは1500ドゥカが相場だったんだが、900ドゥカでいかがかな?」

「買います!戦闘はなるべく、避けたいので」

「ひっひっひ。毎度ありぃ」



カノンは早速指輪をつけると、街に歩いてる人からの視線が全く感じられないのを知覚する。やっぱりこの指輪、本物だ。

指輪には装着感があまりなかった。それすらも、遮られているのかも知れない。ピアノを弾くときにこれを着けていても、問題なさそうだ。




カノンは少し歩き疲れたので、ゆっくりしようと思った。「血肉の宴」に他の料理がないか見てみたいと思ったので、今日もそちらに向かうことにした。



「こんにちは、マスター」

「なんだ、カノンといったか、お前は。金は持ってるのか?」

「はい、お陰様でぼちぼちです!」

目眩ましの指輪を着けているままだが、マスターはカノンが声を出す前にすぐこちらに気がついた。

「この時間だと菓子でも食いに来たんだろう。ステント茶とネプテュヌス風リクティのセットが9ドゥカで、どうだ」

「よくわからないけどそれでお願いします!」

言うとマスターは、後ろに引っ込み、カンカンカンカンとなにかをかき混ぜる音と、お湯を沸かす音を響かせた。

「今作るんだ…」

暇なので、キーボードを少しいじってみることにした。今回は、他人のステータスを見てみることはできないか、試してみる。





キーボードの「ステータス」を押したら、カノンのステータスが表示された。何で使ったかは分からないが、MPが1500から1450に減っていた。

この状態で、右のエフェクトつまみを回す。すると、マスターらしき人のステータスが表示された。本当にゲームみたいだ…と思っていると、そこに表示されたステータスでカノンはえぇ!?と声を出し驚くこととなる。



シリウス・サトゥルヌス


HP 90000/90000

MP 2320/2500

SP 8992/9000


"調理のイデア"

スキル

吸血 LV10

調理 LV12

火魔法 LV10

短剣 LV8



マスターを敵に回しちゃいけないな、とカノンは思った。吸血とか、怖すぎるスキル持ってるし。でも、料理は美味しいんだよなあ…と思っていると、マスターが調理を終えた"音"が聞こえてきたので、急いでキーボードの蓋を閉め、何事もなかったようにそこに佇む。



「ステント茶とネプテュヌス風リクティのセットだ。質の良い香草が手に入ったので、リクティに添えてみた。どうだ」

「わぁ~おいしそう!いただきます!」

カノンはマスターのことを昨日で理解したので、リクティにかかっているソースが見事な花のようなアートを描いているのにも動じず、フォークを手に取る。

リクティと呼ばれたそれは、ムースのようなものであるらしい。ムースの間にクッキーのような生地が20層ほど挟まれ、見事な食感を奏でている。ステント茶と呼ばれたそれは、紅茶の香りに甘いバニラのような香りが混ざった、甘さ控えめのリクティに合うお茶だった。




「ごちそうさまでした!マスター、何でも作れるんですねっ」

カノンは支払いを終えると、そそくさと退店した。それがこの店のマナーだなと、理解したからだ。


「ふむ…何か、されたような気がするんだが。気のせいか?」

マスターはきれいなアートができるだけ崩されないように食べられたリクティと、ステント茶のカップを片付けながら、そう思った。




(ダンジョン、ってベティのおばあちゃんは言ってたよなあ。ゲームみたいに冒険を楽しむのもいいけど、あいにく私じゃすぐ殺されそうで…でも、気になるなあ)

とカノンが考えていると、後ろから女子高生三人組のような集団がこちらに近づいてきた。


「うん…たぶん、あの人だと思う。変な魔道具のせいで一見わかりづらいけど、よく目を凝らしてみればわかるんじゃないかしら。デイジー、目に意識を集中してみて」

「えぇ、どこにいるの?…あぁー!あいつなの!あいつが、アグリッピナ広場ですっごく目立ってたやつなの!」

「ふえぇ、本当にあんな小さな子仲間にしちゃうんですかあ。私達、すでに魔法使い魔法使い魔法使いでバランス最悪じゃないですかぁ」



うわぁ…めんどくさいことになりそうだ、とカノンは固まってしまった。

そして、自分より20cmほど背の高い女の子三人組に、囲まれてしまったのだった…



友達に見せたら、マスターがなろう主人公だと言われました。私もそう思います。

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