私なら大丈夫だと思います
三つの船着き場はここからほぼ等間隔にあり、ルーティはどこを選べばいいのかの判断材料が全くなかった。
「おお、ヴィス…ヴィスターユのやつはまだ港の経営をやっとるのか。あいつは気のいいやつでな、まぁ歌も演奏もヘタクソなんだが、一緒にセッションしたりして楽しんだもんだ」
クロッシュは地図を覗き込むと、楽しそうな過去を回想しながらヴィスターユという人について語った。
「他の2つはどうなの?クロッシュさん」
「ああ。規模はデカイが、観光客の足元を見るようなヤツらだな。あんなやりかたで何十年も保ってるたあ、なんともなあ」
「つまり、ほか2つはぼったくりで、ヴィスターユってこところはまともだっていうこと……?うん、おそらく……そうだと思う。いくつか、心配なところもあるけど……」
フェーベは下を向いて少し考えると、クロッシュの意見を肯定した。
「フェーベが言うなら、きっとそうなの!早速そのヴィスターユってところに行くの」
一行はクロッシュの情報とフェーベの”啓示”の結果を元に、ヴィスターユ船着き場に向かった。一行にとってフェーベの”啓示”という能力はよくわからないものであり、カノンのステータス画面にも”啓示”LV12と表記されるのみで詳細はよくわからなかった。しかしデイジーは、フェーベの勘のような能力は感覚的に頼りになるということを、何日か行動を共にすることによって理解していたのだった。
「すみません、レヴィアタン撃退クエストに向かうための船を出してほしいのですが」
高速道路の小さなサービスエリア程度の施設の中に入ると、老夫婦のような二人に出迎えられた。
「おう、今日は繁盛するなぁ!なぁなぁイシュタルよ、こいつらならにっくきレヴィアタンのやつをぎゃふんと言わせるんじゃないか?あの娘の持っている得物、ありゃただもんじゃねぇぞ」
「ヴィス、もうアレのことはいいって言ってるじゃない……ええと、6人でいいですかね」
イシュタルと呼ばれた老婆は、管理人らしきヴィスという調子のいいお爺さんに対して困ったようにしながら受け答えをする。
「この”レーヴァテイン・ノヴァ”に目を付けるとは、良い勘をしてるの!レヴィアタンってやつ、とってもでっかいみたいだしこの杖の良い的になりそうなの」
デイジーはレーヴァテイン・ノヴァを手にしてからちょうどいい相手に恵まれていないことにうっぷんが溜まっているようで、派手に魔法を撃ち放つことができる相手を求めてうずうずしていた。
「はっはぁ、そいつぁいいな。レヴィアタンの通るルートはこっちのイシュタルがまとめてあるから、こいつになんでも聞いてくれ」
ヴィスターユは細かく書き込みがされている海図をルーティに手渡した。
「ありがとうございます……これって」
「はい、はい、撃退に向かう冒険者をものともせず、まんまるな円を描いて泳いでおりますよ」
イシュタルはニコニコ顔で得意気に言った。その紙には、レヴィアタンの通ったルートと、これまでレヴィアタンを撃退しに向かった全ての船のルートが記されていた。ガラドの港から無数の線が伸び、レヴィアタンの周回ルートが描く真円とぶつかっては引き返したり、あるいは線が途切れたりしていた。
「これを…イシュタルさんが一人で?」
「ええ、ええ。海を眺めて50年、これくらい造作もありませんて」
「さすがはイシュタルだな、几帳面さは相変わらずだ」
「お前の腰のスティックは、まさか…クロか!?」
ヴィスターユは机をバンと叩き、驚いた様子で叫ぶ。
「おう、ヴィス。久しぶりだな。イシュタルさんも元気そうでなによりだ。覚えてるか?俺のこと」
「クロさんですか、ええ、ええ、覚えていますとも。貴方といえば、なんでも楽器に変えてしまうパフォーマンスで有名でしょう」
「覚えてくれていたか、ありがとうなぁ。この騒動が終わったら、久しぶりにセッションでもしよう」
「はて、楽器なんて何年ぶりですかねえ……」
イシュタルは遠い目をしながらクスクスと笑った。
「カノンちゃん、あなたの音って、どれくらい遠くまで聞こえるのかしら?」
ルーティは何かを思い立ち、カノンに声をかける。
「そうですねぇ、最大音量だとここから……あの、さっきのギルドのところ?くらいですかね。2キロくらい……かなあ」
カノンはキロメートルという単位がこちらの人に伝わらないであろうことを思い出し、自信なさげにぼやく。
「それぐらいだと……少し危ないわね。ヴィスターユさん、申し訳ないけれど、イシュタルさんを連れて行ってもいいでしょうか。レヴィアタンの周回する正確なルートが知りたいので」
「イシュタル、積年の恨みを晴らすチャンスだぞ!」
ヴィスターユはイシュタルの肩をポンと叩き、同行するように促す。
「私なんかでよければ、はい、同行させてもらいます」
「ありがとうございます。カノンちゃんには間合いギリギリから”調律”を発動してもらうことになるけど、心の準備は良い?」
「任せて下さい!リズム感には自信あるので」
カノンはルーティの方に向き、満面の笑みを浮かべる。
「心強いわね。では、船をお願いします」
「俺は足手まといになりそうだからな。ここで残って、みんなの無事を祈っているよ」
クロッシュは申し訳無さそうにうつむく。
「心配しなくても、私なら大丈夫だと思います!」
「クロよ、帰ってくるまでの間は長いこと何があったか聞かせてもらおうじゃないか、ええ」
ヴィスターユはクロッシュを元気づけるよう、カウンター越しからクロッシュの肩の上に手をポンと乗せた。
「ああ、そうしようか」
「カノンならパパっとやれるはずだから、1ティモもかからないの!」
「はは、がんばります……」
こうして一行はクロッシュを残し、イシュタルを連れて、レヴィアタン撃退に向かった。





