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楽器を買うのも一苦労だと思います

「うーん、窓から見える海、きれいだなぁ。ネプテュヌスも良かったけど、ここも賑やかでいいですね」



カノンが翌朝目覚めたときには、昨晩自分に出題した謎掛けは後で分かればいいやという具合になっていた。といっても自分の立場がどうでもよくなったわけではなく、判断する材料が乏しいためいったん保留にしておこうと思ったのであった。



(考えてみれば、悪魔っていうのがこの世界だとどんなものなのか、ミケさんにちゃんと聞いてなかったなあ。今度会ったら色々聞こうっと)



首のミサンガのようなものもまだまだ切れるような気配はなく、これから死神になるというような実感もあまりなかった。カノンはいつものようにパーティーメンバーと談笑しながら朝食を取り、港に向かってクロッシュと合流した。



「おお来たかね。今朝ここを出るための便なんだがね、どうにも何かしらトラブルがあったようでな。しばらくは船を出せんようなんだ」



港に向かうと、あたりが騒がしくなっていた。港の案内所は人でごった返し、これからの予定が妨げられることに対する苛立ちの”音”がそこかしこからカノンの鼓膜に襲いかかった。



「なにかあったんですかね、ちょっと”聞い”てみます。はい、はい……」



カノンは雑音をかき分け、受付の職員や冒険者、商人などから情報を聞き分けていく。

カノンはその中から、何十年かに一度出現する、災害級の大型魔物が航路を阻んでいるらしいことを認識する。



「みんなの話を”聞く”限りだと、でっかいクジラさんが海でものすごい勢いで暴れまわってて、それのせいで船が出せないっていうことみたいです」

「この辺じゃ野郎共の罵声しか聞こえないてぇのによくわかるなぁ、カノンよ」

「ありがとう、カノンちゃん。となると、その魔物をなんとかしない限りは航路が絶たれているわけだけど」

ルーティはデイジーに目線をやる。

「あ~んなにハチャメチャな魔物をおとなしくしたカノンの魔法があれば、ひょっとしたらそのクジラとも仲良くなれるかもしれないの!」

「そういうことね。カノンちゃん、お願いできるかしら」

ルーティは以前カノンがギリアムという周囲一帯を破壊し尽くす魔物を鎮静化することに成功するところを見て、こういった類のことにカノンは失敗しないだろうという信頼があった。

「任せてください!たぶん、ギリアムさんよりは楽なんじゃないかなって思うので」



カノンは海の方から確かに大きな”音”が聞こえてくるのを感じたが、ギリアムのように破壊的な音を撒き散らしているようには"聞こえ"ず、むしろ楽しく遊んでいるような様子に思えた。これをおとなしくさせるのには、ギリアムの時のように感情に寄り添いながら丁寧に演奏するまでもないだろうと踏んでいた。



「それじゃあ早速、ギルドから船を出してもらいましょうか。この騒ぎなら、既に緊急クエストとして発注されているだろうし……おそらく、この規模だとクエストの報酬もはずむんじゃないかしら」

「あたし達、またまたいっぱいお金もらえちゃいますねぇ。この調子でいけばぁ、ちょっとした豪邸とか建てられちゃうかもしれませんねぇ」

「どこかに家を建てたら、冒険ができなくなっちゃうの。そういうのは、おばあちゃんになったら考えることなの」



デイジーが孤児院に居た時はその施設から出ることは許されなかったため、このような偏見があるのだが、パーティ内の金銭を管理しているルーティとしてはそろそろ持ち家も勘定に入れていい頃合いだと思っていた。



「おばあちゃんって、そんなぁ」

「でもでも、お金をもらって何ができるかって考えるのは、楽しいですよね!昨日のシルダムって楽器とか、いくらくらいで買えるのかなあ」

「そういえば楽器を専門に売っている場所というのは、ネプテュヌスでもゼノビアでも見たことがないわね。露天でたまに見るくらいだけど、あれもどこから入荷しているのかしら」

「うーん、お金で買えないものもあるっていうことですかね」

カノンはスーパーマーケットで日用品は一通り買える地球とこことを比較し、魔法があっても不便なものは不便だなと感じていた。

「ちょっと違うかしら……お金よりも情報の方が、物を手に入れる障害になるパターンもあるということね」

「あー、ここだとネットで注文、とかも出来ませんしね」

「うん……?ねっと、という便利な仲介業者が居るのかしら」

「そんな感じですね!……あ、あれがギルド、ですかね」



蛇が描かれた盾の紋章があしらわれた扉を開けて冒険者ギルドに入ると、そこは人でごった返していた。



「すみません、そのクエストに向かう船はもう全て出払っていまして……」



「緊急:レヴィアタン撃退」というクエストを受注できたところまではよかったのだが、観光がてらレヴィアタンを見てみたいというような冒険者が後を絶たなかったようで、一行がギルドで依頼を受注する頃には船が全て出てしまっていた。



「そこをなんとか出来ないでしょうか。うちのパーティには悪魔王をも鎮静化させることのできる吟遊詩人に、ネプテュヌス共和国の格付けポイントランキング8位の魔法使いも居ますので、戦力としては申し分ない筈なのですが」


デイジーは先日の勇者撃退の戦果で、ネプテュヌス共和国ギルド内で8位のトップランカー冒険者となっていた。ルーティはこれを武器に交渉を進めていこうとする。


「ギルドカードを見るにおっしゃる通りなのですが、何分ギルドから出る船は先着順となっておりまして。後日お越し頂くか、民間の船をお探し頂くのをお勧めします。規模が規模なので、討伐は長期化するかと」

「そう……ですか。民間から出る船を案内しては頂けないでしょか」

「はい、少々お待ち下さい……こちらと、こちらと、こちらに船着き場がありますので、お好きな所からお選び下さい」

ギルドの受付嬢は地図を取り出し、早口でそう言った。事務的に自分達を追い返そうとしているようにカノンは”聞こえ”た。

「お好きな所と言われても……」



三つの船着き場はここからほぼ等間隔にあり、ルーティはどこを選べばいいのかの判断材料が全くなかった。


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