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神って色々と難しいなあと思います


「無事、元の場所に転移できたみたいね……」

「やっぱり一瞬で飛べちゃうのって、便利でいいですね!」

カノンは転移の衝撃で乱れた前髪を整えながら、涼し気な表情でそう言った。

「ほう、ほう、これが転移か。思ったよりこう、あっさりしてるなぁあ」

「はい!ラクですし、びゅーって飛ばされるのがこう、楽しくていいですよね!……あ、ルーティさん、今、具合大丈夫ですか?」

「カノンちゃんの魔法がなかった前回は、おおよそ暴れ馬に振り回されたような感覚が残ったけど…今はとっても快適よ」

「それならよかったです!”調律”レベルもっと上げて、もっと強い吟遊詩人になりたいですね」

「”調律”、か。そういえばスーが魔物と相対したときにそんなことを言っていたような気がしたが、はて。もしかしたら嬢ちゃんと同じようなことができるのかもしれんなあ」

「おじいちゃんの相方さん、私の同業者なんですか?会ってみたいなあ……」

「はっは。まだ生きていれば会わせてやりたいもんじゃがな」





三人が上の階に登ると、アテーナが最初に会ったときと同じように本を読んでいた。

「アテーナさん、こんにちは!この人が、リズム感の師匠、クロさんです」

「おぉ!?この美人さんが、アテーナ様だってのかい……?初めまして、アテーナ様。俺は、クロッシュ・クォセジューと申します。ネプテュヌス共和国で、しがないストリートミュージシャンをやっております」

クロッシュはひざまずいて自己紹介をした。

「クロッシュ……頭を上げてください。あなたは高名な音楽家で、レギウスに住んでいたようですが……数十年前に行方不明になったと聞きました」

アテーナは驚いたような様子で、クロッシュに返事をする。

「行方不明……ここでは、そう伝わっているのですか。俺は、レギウスの領主に異端だッつわれて追放されて、それでネプテュヌス共和国におったんですが」

「それは……報告とは異なっていますね」

「レギウスの領主に、神として一言言ってやってくだせえな……あのボッカスとかいう伯爵、あいつぁアテーナ様の名前を使って理不尽な条例を平然と押し通してました。レギウスの話は領地を出た後もネプテュヌスでちょいちょい耳にしましたが、あいつの跡継ぎも似たようなもんらしい。あのままにしておくと、あいつの、ええ、子孫がまた何をしでかすかわかったもんじゃありませんぞ。なんとかしてくれませんかな……まだ生きてたら、スーが心配だ」

「残念ながら、それは私の神としての権限を超えています……私はここを離れることは出来ませんし、政治に対する直接的な干渉は出来ません……私の名前の権威としての利用も、残念ながら止めることは不可能です」

アテーナはあまり表情を崩さないながらも、悔しそうな感情を声に乗せていた。カノンにはそれが、深い深い沼に落ち、抜け出せないようなどろりとした”音”に”聞こえ”た。

「それは……変だと思うわ。ネプテュヌス共和国のトップの、ネプチューンさんは、神……だと思うのだけど、国の内閣のトップとして数百年君臨しているらしいわ。ゼノビア王国のデュオニュソスさんも、国をまたいで、自国に不利な条約を勝手に締結したりしていたし」

ルーティはネプテュヌス共和国の神と思われるネプチューンやゼノビア王国のデュオニュソスと比較し、アテーナがあまりにも不自由すぎることに対して疑問を抱いた。

「ネプチューンは”恋”に、デュオニュソスは”酒”に溺れ、どちらもゼウスの怒りを買い、神としての権限を失っています。私まで権限を失ってしまっては、この地を統べる神は争いの神・アレスしか存在しなくなります。やがて世界は闘争に向かい、破滅するでしょう」

そう言うとアテーナは読んでいた本に何かを書き足し、眉をひそめた。

「アテーナさん……神って、思ったより不自由で、難しい立場なのね」



ルーティがそう言うと、玄関の扉がバン!と開けられる音がした。足音の騒々しさから、デイジーのものだとカノンは確信した。



「ルーティ、カノン!帰ってきてたの。大変なの!森の方に、でっかいバルログがすごい勢いで暴れてたの!ムッキムキで、ぜーんぶバッキバキに壊して回ってて、怖かったの!」

デイジーはツインテールをばっさばっさと揺らしながら、ルーティの元に報告に来た。

「あれは……猛スピードで周りの全てを破壊して回っていた……恐ろしい生き物だった。みんなも、注意して」

駆け込んできたデイジーに続いて、フェーベも中に入ってきた。どうやら、一緒にクエストをこなしていたらしい。

「そんなのが近くに居るんですか!?えっと、気をつけます」

「デイジーとフェーベが居ながら、逃げるしかないなんて……余程の化け物に会ってきたようね」

「特徴から察するに、”悪魔王”ギリアムに会ったようですね。400年前から現在に至るまで、”破壊のイデア”という恐ろしい力による被害は留まることを知りません。フェーベの足がなければ、逃げることも難しいことでしょう……」

ギリアムという名前を聞いて、カノンははっとした。この世界に来て最初にカノンが死を覚悟した存在、そしてネプテュヌス共和国と関わりを持つきっかけとなった存在である。カノンがスキルLV0で発動した”調律”で落ち着くことの出来た時間は、そう長くなかったらしい──カノンはそう判断した。



「あの、私ならその、落ち着かせることが出来るかも知れません。その、ギリアムさん」


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