気の合う仲間とのアンサンブルは最高だなと思います
「ルーティさん、もうすぐライブですよ!楽しみですね。練習の成果、出しちゃいましょうっ!」
カノンは買ったばかりのぬいぐるみを抱えてステップを踏みながら、ルーティにそう話しかける。
「大勢の前で演奏するなんて初めてだから、緊張するかもと思っていたけど。意外とそうでもないわね…カノンちゃんと一緒だからかしら。あの演奏を見た後だと、失敗するって思えないもの」
「そうなんですか?私は初めてのライブの時は、緊張したなあ…慣れたらそうでもなかったんですけど。その時は、言われたことだけをやってたらよかったので」
「『言われたことだけを』、ね……今のカノンちゃんになるまでの方向性を決める人が居たってことかしら」
「はい、歌やダンスの指示とかすっごい細かくて、大変でした!レッスンも厳しかったんですけど、やれるばやるほどうまくなってるなって思えたので、やりがいはありましたね」
「へぇ…カノンちゃん、ずっと上達を見守ってくれている人が居たのね。それって、すごく貴重なことだと思うわ。これからもそういう人を大切にしていかなくちゃ」
「……は……はい!そうですね。音楽って、聴いてくれる人が居ないと成り立たないって、よく言いますしね」
”バーチャルアイドル・カノン”を見ていた人は、カノンの上達を喜ぶ人ばかりというわけではなかったので、カノンは少し答えに詰まった。しかしカノンは歌や踊りの完成度が上がったことに対するコメントや応援するコメントがあったことを思い出した。前世ではバーチャルアイドルとしての様々なことに耐えきれず自殺してしまったが、この世界での応援の声は大切にし、心に留めておこうと改めて思った。
「クロさん、すでにセッティング終わってるみたいですね!行きましょう」
アグリッピナ広場に着いたカノンとルーティは、クロッシュが楽器を配置し終わり、チューニングをしているのを確認した。
「よ、ほう、ほう……嬢ちゃん達、その様子だと、準備はすんでいるようだな。」
チューニングを終えたクロッシュは顔を上げると、楽しみそうな様子をトトト、トン!と木材を叩くことで表現した。
「はい!ちょっとリハーサルしてきましたから」
「ええ。昨日、今日と、とても有意義な練習だったわ」
「そうか、そうか。じゃあ早速、合わせていくか。1、2、3…」
三人は昨日作曲した、テクノと民族音楽が融合したような曲を合奏していく。
クロッシュの楽しげな、テクノ調のリズム。
カノンの簡単で、整った3つのコード。
そこに、ルーティの透き通った風のような笛の音が、主旋律として曲を先導する。
「ありがとうございました!私キーボードのカノンと、ウェードのルーティさんと…」
「パーカッションのクロッシュだ。聴いてくれてありがとう」
「ワアアァァアァア!!」
「クロッシュさん、バンドとか組むのか!あの人が誰かと演奏するところなんて、見たことないぞ!」
「あそこの女の子、最近話題になってるカノンって子だよね!かわい~!」
「あっちの紫の女の人、すっげえ美人だけど……もしかしてデイジーとかいうバケモンの隣によく居る人!?楽器とかやるんだ」
「『雪解けレーヴァテイン』だったっけか、あそこのちんちくりん頭のバケモンがまともに働いてくれるのは、あのお姉さんがいるおかげだって噂だぜ……冒険者としての腕前も、かなりのものなんだろうな」
その場に居た100人ほどの歓声を受け、この時のライブは大成功に終わった。
「とっても良かったと思います!これだったら、フォレンティーナ帝国のみんなもとっても気に入ってくれると思いますよ」
「ええ、今の演奏で結構自信がついたわ…なかなか、手応えがあったもの」
「おう、おう…久しぶりに人と演奏したが、なんだ、気持ちがいいものだな、音が合わさるってのは」
「私もアンサンブルはかなり久しぶりですね!でも、今日が人生で一番楽しいアンサンブルだったなって、そう思います!」
ライブが終わると、三人は「ブルネルスキの別荘」の地下の転移魔法陣へ向かった。
「ここからフォレンティーナ帝国へ飛ぶってのか、ええ」
「そうなんですよ、これで一瞬で行けるんです!すごいですよね!飛んでるときに”聞こえ”る音がとっても気持ちよくって…あっでもルーティさん、ここ苦手なんでしたっけ…」
「ええ…大丈夫、次は慣れて、だいぶマシになってると思うわ……」
ルーティはそう言いながら、顔が青ざめていた。どうやら移転の際の衝撃が、少しトラウマになっているようだ。
「うーん…あ、あれ!気持ちが落ち着く音、あれでなんとかなるかもしれません」
カノンはプリセット3の「リスト12の練習曲 3」を調律ボタンとともに、ルーティとクロッシュを包み込むようにして再生した。
「カノンちゃん……!これ、前に聞いた時よりも、ずっと効果が上がってるような、そんな気がするわ」
「”調律”レベル、上がってますからね!じゃあ、行きますよ……!」
カノンは「ここに手をかざしてください」という”音”が聞こえてくる水晶に手をかざすと、前に”聞い”た激流を起こす龍の起こす音を感じた。
そして三人は強い風に包まれると……一同の目の前にはカノンとルーティがつい最近に見た、アテーナの住んでいる地下室の風景が広がっていた。





